2021年07月01日

永沢真平氏が私に対して提起した懲戒請求について、第二東京弁護士会は6月14日付で「懲戒しない」との決定をしました。詳しくは、弁護士会の決定をご参照下さい。

plltakano at 22:22コメント(2)弁護士倫理刑事弁護全般 

2021年06月24日

このブログでも繰り返し論じた未決拘禁問題=人質司法問題について、一般読者向けに書き下ろした『人質司法』(角川新書)が全国の書店とネット通販で発売開始となりました。(税込み990円)

「まえがき」より

いかなる国・政府にも、必ず、一定の行為を犯罪として定め、犯罪を行った疑いのある人の身柄を確保して、訴追し、その罪の有無を決定し、そして、有罪の場合には刑を執行するという仕組みがあります。刑事手続は国家権力というものが存在するもっとも中核的な理由の一つです。本書は、わが国において、犯罪を行った疑いのある人(被疑者・被告人)の身柄を確保する制度(未決拘禁)がどのように行われているのかを、普通の人々に理解してもらうことを目的として書かれました。
 叙述にあたって、私は事実――何が行われているのか――に徹底的にこだわりました。私自身が40年間にわたって繰り返し体験してきたことをベースにしています。しかし、それだけでは個人的・主観的すぎますから、歴史を紐解き、海外の制度との比較を行い、そして統計を参照しました。
 本書のタイトルを「人質司法」としたのは、現在のわが国の未決拘禁制度を表す言葉として、これ以上に適切な表現を見つけることができなかったからです。「人質司法」という表現は、主として、この国で刑事弁護を生業(なりわい)としている弁護士が使っています。誰が考えたというわけではなく、私自身も弁護士になって刑事弁護をやりはじめてすぐにこの言葉が口をついて出るようになりました。われわれ弁護士は依頼人のために依頼人に代わって依頼人の権利を行使する立場にあるわけですが、依頼人の権利を確保しそれを効果的に行使しようとすればするほど、依頼人の身柄拘束が行われ、長引くことになります。依頼人の権利を放棄することによってはじめて依頼人は自由を確保し生活を維持することが可能になります。この状況を「人質」と表現するのは極めて適切だと思います。そして、この状況は、海外の仕組みと比較するとき、まさにわが国独特の仕組みであることがわかります。
 ここで自由と交換される権利は憲法がすべての市民に保障するもっとも基本的な権利です。この意味で、人質司法は犯罪者や悪人だけの問題ではなく、法律家だけが考えれば良い話でもなく、日本国に暮らしているわれわれ普通の市民全員が議論しなければならない事柄でもあるのです。本書を通じてそのことを是非理解していただきたいと思います。刑事司法は国家の土台です。その有り様を国民の多くが理解していること、そして、政府の役人たちに任せきりにするのではなく、自分たちの言葉でそれを論じ続けることは、日本国が自由で安全な国でありまた国際社会において信頼される国家であるためには必要なことだと私は考えます。

人質司法 (角川新書)
高野 隆
KADOKAWA
2021-06-10



plltakano at 20:02コメント(0)身体拘束未決勾留 

2021年06月08日

証拠開示のデジタル化を実現する会(共同代表 後藤貞人、高野隆)は、6月3日付で、東京地検と大阪地検あてに検察官手持ち証拠をPDFデータで開示することを求める申し入れを行いました。

申入書の全文は次のとおりです。

申入れ事項

貴庁における証拠開示について、謄写事業者が証拠書類のPDFを作成し、メディアに格納して弁護人に交付する運用を開始することを求める。

申入れ事項の要領

 本申入は、刑事事件における、証拠書類の証拠開示(刑訴法299条1項後段、316の15、316条の20及びいわゆる「任意開示」)に関するものである。
 現状において、弁護人が証拠書類を謄写するには、a.謄写事業者に紙のコピーの作成を依頼する、b.検察庁に設置されたコピー機で自ら謄写をおこなう、c.持参したデジタルカメラを利用して証拠書類を撮影する、という方法しかない。大阪地方検察庁においては、検察庁と謄写事業者との間の業務協定書が存在し、当該協定は PDF ファイルの作成を謄写事業者の業務の範囲に含ませておらず、東京地方検察庁においても同種の協定が存在する可能性がある。
 要するに弁護人は、書類を一枚一枚デジタルカメラで撮影するという、極端に時間のかかる方法でしか、証拠書類を電子データ化して謄写できない。これを改め、謄写事業者が複合機などで証拠書類をPDFファイルにし、これを弁護人に交付して謄写する運用を導入されたい。
 利用するメディアとしては、CD-R、 DVD-R、ポータブルハードディスク、USB メモリなどの媒体を想定する。新品のメディアを弁護人が提出する方法が考えられる。 メディアは、書留郵便など安全な方法で弁護人に交付し、弁護人はその電子データを十分なアクセス制御のなされた安全なストレージに保存して管理する。

申入れの必要性及び妥当性

(1) 紙媒体に限定された謄写作業の問題点
 現在の運用においては、a.弁護側が証拠を入手するために、ときに何百万円もの費用を要するなど、経済的負担が極めて大きい、b.証拠の入手をそもそもあきらめるケースがある、c.証拠の入手が遅れることで防御の準備が遅れる、d.紙媒体での証拠の検討作業の能率が悪い、といった重大な問題が生じており、裁判を受ける権利や防御権を損なっている。証拠書類の謄写を PDF で行うことによりこの問題は解決または軽減する。

(2) 証拠開示のデジタル化の必要性についての社会の共通認識
当会は、デジタル化されていない証拠開示手続の問題点及び証拠開示のデジタル化の必要性を整理し、『証拠開示のデジタル化を求める要望書』を政府に提出した(2021年3月12日付)。同要望書には13000筆以上の専門家および市民の署名が寄せられた。同要望書の提出は、主要メディアで複数回取り上げられており、証拠開示のデジタル化の必要性は社会的に認識されるに至った。

(3) 証拠開示のデジタル化に関する政府の立場等
 2021年3月12日、参議院予算委員会において、法務省刑事局長及び法務副大臣は、現行法下においても、証拠開示のデジタル化を検討する趣旨の発言をしている。すなわち、三宅伸吾議員が複合機のスキャン機能による謄写の可否等について質問したのに対して、謄写の趣旨を全うすることになるのであればスキャン機能による謄写をさせることも謄写の機会を与えたこととなる(刑事局長)、「刑事手続のIT化を積極的に進めていくと言う視点に立って、現行法の運用に際しても、委員御指摘の点を含めて、法務省としてどのような取組ができるか、どのような利便性向上策が図れるか、検討してまいりたい」(法務副大臣、下線は引用者による)、と答弁している。
 また、自由民主党行政改革推進本部 規制改革等に関するプロジェクトチーム行政改革推進本部 規制改革等に関するPTは、「デジタル化社会からデータ利用型社会へ (中間報告)」(2021年5月11日付)において、「事案に応じて紙から電磁的記録媒体への謄写が可能となるよう、速やかに謄写環境を整備し、刑事弁護の事務合理化を進めることで、刑事司法への国民の信頼を高めるべきである。」と指摘した。

(4) 刑事手続IT化に関する動き
 2021年3月23日、法務省に『刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会』が設置された。同検討会で、証拠開示のデジタル化についても意見交換されており、その必要性が指摘されると共に、総論として証拠開示を電子データで実施することに反対する意見は無かった。
 検事総長はNHKの取材に対して、「社会全体が急激にデジタル化する中、司法の分野だけが旧態依然として、分厚い書類を持ち込んで仕事をしていることは考えられないことだ。」「できるかぎりの検討・整備を進めたい」としている(2021年5月31日報道、下線は引用者による)。

(5) 速やかに証拠書類のPDF化を開始する必要性
 前記(1)の問題は現在進行形で続いている。その弊害は大きく、解決に向けて速やかに動きを取ることが必要である。新型コロナウイルス感染症への対処という観点でも、弁護士が電子データで執務できる態勢を作る必要性は大きい。
 この申入書では、足元から可能な取り組みを提言することとした。すなわち、大規模庁において、既に設備と技術を有している謄写事業者を活用することで、速やかに証拠書類のPDF謄写を始めることができる。これは(1)の問題を完全には解決しないが、少なくとも問題を軽減するし、解決に向けた重要な第一歩を踏み出すこととなる。このような漸進的アプローチは、前記(3)の法務省の考え方とも矛盾しないであろう。

(6) 方法の妥当性
 前記の通り、この提言は足元から可能な取り組みであり、その実現に困難はない。現時点で、オンラインで証拠開示をおこなうためのWeb システムは存在しないことを踏まえ、物理メディアを安全に交付するという方法を提案している。現実の作業としても、紙コピーを作成して綴り紐で束ねるよりも、単にスキャンしてデータを交付するほうが作業量は少なく、証拠の交付に要する期間も短縮される。本申入れの内容は、現時点で可能な取り組みとして十分なバランスを保っていると考える。

結語

 デジタル化されていない証拠開示の弊害は大きく、今なお続いている。証拠書類のPDFファイルを謄写事業者が作成する枠組みは、現時点においてもすぐに実現することができる。できるところから取り組みを始めることに重要な意義がある。前記自民党PTも指摘するように、こうした取り組みが刑事司法への国民の信頼を高めるものともなるはずである。
 貴庁におかれては本申入れの趣旨を踏まえ、速やかに謄写事業者によるPDF謄写の実施を開始されたい。
以上


plltakano at 09:01コメント(2)証拠開示刑事裁判 

2020年11月22日

被告人側は検察官から開示された紙の証拠を1枚40円(白黒の場合、カラーは1枚80円)ほどを業者に支払ってコピーしてもらっています。大掛かりな事件ではコピー代だけで100万円を超えます。国選弁護の場合はこの費用が税金で賄われています。

私どもは何年も前から証拠をPDFなどのデータで開示することを要望してきましたが、検察庁からは無視されてきました。政府がデジタル庁を設置しようというこのご時勢に、この頑なな態度はいかにも時代遅れではないかと思います。

そこで、若い弁護士諸君と一緒に「証拠開示のデジタル化を実現する会」を立ち上げ、署名運動をはじめました。弁護士に限らず一般の方々の署名も受け付けています。みなさんの署名を添えて政府に要望書を提出する予定です。

署名サイトは→こちら

【付記】
2021年3月12日、「証拠開示のデジタル化を実現する会」は「証拠開示のデジタル化を求める要望書」を、規制改革担当大臣河野太郎氏、法務大臣上川陽子氏と検事総長林真氏に提出しました。同時に提出した署名は合計13,183筆、内弁護士・研究者が4,043筆、一般市民が9,140筆です。

「実現する会」では、まずこの要望書に沿って「PDFなどのデータ」による開示を全国の検察庁で実現する運動を展開する予定です。そして、さらにより本格的なデジタル証拠開示ーーたとえばクラウド上での証拠開示などーーの実現を目指します。

plltakano at 10:57コメント(0)刑事弁護の実務証拠開示 

2020年08月15日

8月10日午後に香港の民主活動家周庭氏や香港紙「アップル・デイリー」社主黎智英氏ら10人の香港市民が、中国本土政府(全国人民代表大会)が6月末に制定した「香港特別行政区における国家安全保護法」違反の罪(外国勢力との結託(同法29条))で逮捕されたが、その翌日全員保釈により釈放された。中国本土政府による香港市民の言論の自由への露骨な弾圧に対して国際世論は注目し批判している。私もそうした国際世論に同調する一人である。しかし、それと同時に、極東の「民主主義国」の一つである日本国の法律家から見ると、逮捕された被疑者がわずか1日拘禁されただけで保釈を認められて釈放されるというのは非常に意外であり、むしろこちらの方がショッキングですらある。ちょうど同じころの日本では、2か月前に公職選挙法違反(買収)の罪で逮捕された前法務大臣河井克行氏と彼の妻で参議院議員の安里氏が申し立てた2度目の保釈請求を東京の裁判官は却下した。日本では逮捕後の保釈という制度すらない。逮捕後3週間身柄を拘束されて起訴された後にしか保釈は認められない。そして、罪を争ったり黙秘している被告人が裁判開始前に保釈を認めれる確率は非常に小さい。仮に周庭さんたちが日本で逮捕されたとしたら、その翌日に釈放されることなどあり得ない。おそらく、少なくとも数ヶ月下手をすると1年以上拘禁されたままであろう。

 香港の民主活動家らがわずか1日留置されただけで釈放されたのはなぜか?中国本土の刑事司法制度が、個人の無罪推定の権利を保障し、身体の自由を手厚く保護しているというわけではもちろんない。中国本土で働く刑事弁護士によれば、保釈が認められるチャンスはほとんどなく、重罪事件では無駄だから請求すらしないということである(1) 。被疑者や被告人どころか、刑事弁護士自身が突然逮捕されて何年間も拘禁されたままである(2) 。また、日本の一部のコメンテーターが言っているような「香港政府が国際世論に配慮して釈放した」というのも違う。

 そうではなく、逮捕された被疑者が1日2日の間に保釈されるというのは、香港では決して珍しいことではないのである。それは、150年以上に渡るイギリス統治の下で根付いた、コモンローに基づく自由主義的な刑事司法がいまでも機能していることを示しているのである。

 香港の返還に関する英中共同宣言(1984年)は、香港における司法の独立を認め、返還当時に行われている司法制度はその後50年間変更されないこと;コモンロー諸国の先例が裁判において適用されることなどを定めた(3) 。英中共同宣言に基づいて制定された香港基本法(1997年7月1日発効)は、香港再終審裁判所(The Court of Final Appeal)が事件に関する最終裁決権を持つこと(82条);他のコモンロー地域から判事を招聘できること(同条);裁判に際してコモンロー地域の先例法を参照できること(84条);従来行われていた陪審裁判は維持されること(86条);刑事・民事の手続法や当事者の権利はそのまま継続されること(87条);そして、刑事裁判においては公正な裁判や無罪の推定が保障されること(同条)などを定めた。

 香港の立法機関は「立法会」(Legislative Council)であり(基本法66条)、立法会が制定する法律は「条例」(Ordinance)と呼ばれる(条例の解釈と一般条項に関する条例8条)。香港人権条例(Hong Kong Bill of Rights Ordinance)はこう規定している:

5条(3):犯罪の容疑によって逮捕されまたは勾留された者は誰でも、速やかに裁判官または法によって裁判権を付与された官憲の前に連れてこられなければならず、相当な期間のうちに裁判を受けるか釈放される権利を与えられなければならない。裁判を待つ者を拘禁することを原則としてはならない。しかし、釈放は裁判その他の司法手続への出頭、または、適切な機会に裁判の執行を確保するために必要な条件を科することができる。
同条(4):逮捕または勾留によって自由を奪われた者は、遅滞することなく拘禁の適法性を審査し、拘禁が不適法なときは釈放を命じられるために、裁判所の面前における手続に付される権利を保障されなければならない。


これはコモンローにおける伝統的な身柄釈放制度である人身保護令状(The Writ of Habeas Corpus)や保釈(bail)の手続を香港市民の基本的権利として保障するものである。

 イギリス連邦諸国やアメリカの各州には2種類の保釈制度がある。一つは警察による保釈(police bail)であり、もう一つは裁判所による保釈(judicial bail)である。香港にもこの両者がある。その内容はほぼイギリスにおけるそれと同じである。香港警察隊条例(Police Force Ordinance)52条は、逮捕された被疑者を可能な限り速やかに(as soon as practicable)、遅くとも48時間以内に治安裁判官(magistrate)の前に連れて行くか、無条件で釈放するか、あるいは相当な額の保証金その他の出頭を確保するための条件をつけて釈放しなければならないと定めている。そして、裁判所に引致された被疑者は、保釈を請求することがでる。裁判所は、被疑者の出頭確保、再犯あるいは証人への妨害行為を防ぐための条件を科して被疑者を保釈しなければならない。保釈は、被疑者に対する起訴の前後を問わず行われる(刑事訴訟条例9条D(2))。出頭、再犯または証人妨害の防止を確保することができないと信じる実質的な根拠(substantial grounds)がある場合に限り裁判官は保釈を拒否することができる(同条例9条G)。

 今回の周氏や黎氏らの保釈は警察による保釈である。香港警察は彼女らを治安裁判官に送致せずに、20,000香港ドル程の保証金と出頭保証書のほかパスポートを提出させて、9月1日に出頭することを命じて釈放した(4) 。こうした保釈は被疑者にとって自由を早期に確保できるというメリットがある反面、起訴・不起訴の決定を先に伸ばす――時間を稼ぐ――という警察にとってのメリットもあると言われている (5)。実際のところ、香港警察は逮捕の際に「アップル・デイリー」のオフィスなどの関係箇所から大量の証拠を押収した。そうした証拠を時間をかけて分析したあとで起訴するかどうかの決定をするのであろう思われる。釈放後どのくらいの期間でこの決定をしなければならないのか。具体的な規定はない。しかし、香港人権条例11条(1)(c)によれば、被疑者には「不相当に遅滞することなく」(without undue delay)裁判を受ける権利が保障されており、この期間は「実務においては、3ヶ月ないし4ヶ月経過すれば、もはや起訴しないことを意味する」と理解されている(6) 。

 これもコモンロー諸国に一般的に認められることであるが、香港においては、被疑者を刑事訴追する権限を独占している公務員――日本では検察官――は存在しない。法的には私人でも刑事訴追することができる。しかし、ほとんどの場合、刑事訴追を求める文書(charge sheet)を発行するのは警察である。そして、刑事訴追を監督するのは香港司法省(Department of Justice)のトップである司法長官(Secretary for Justice)である。しかし、刑事裁判で訴追側を代理するのは公務員――日本では検察官――ではなく、司法省から雇われた法廷弁護士(Barrister)である。被告人側を法廷で弁護するのも法廷弁護士である。すべての法廷弁護士は法廷弁護士協会(Bar Association)に所属し、その倫理規範(Code of Conduct)に従い、違反があるときは協会によって懲戒されるのである。

 今年6月30日に中国本土政府が制定し直ちに施行された国家安全保護法は、同法違反の罪についても原則として香港の裁判所が管轄権を持つと定めている(40条)。しかし、「外国政府または外部の要因が関わるために事案が複雑となり、特別行政区がその管轄権を行使することが困難な場合」には、中国本土政府が設立した「国家安全保障事務所」(The Office for Safeguarding National Security)が同法違反の罪の捜査、訴追、そして裁判を行うことを認めている(55条)。その場合は、香港の刑事手続法ではなく、中国本土の刑事手続法が適用されるのである(56条)。

 今回逮捕された後釈放された方々にとって、国家安全保障事務所が香港刑事司法の管轄権を取り上げるのかどうかは極めて深刻な問題であろうことは、容易に想像できる。そうならないことを私は心から祈っている。

[注]
(1)Mike McConville, Criminal Justice in China (Edward Elgar,2011), pp 56-64.
(2)Sida Liu and Terence C. Halliday, Criminal Defense in China: Politics of Lawyers at Work (Cambridge University Press, 2016), pp 59, 104.
(3)Joint Declaration of the United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland and the Government of the People’s Republic of China on the Question of Hong Kong, §3(3), (12), Annex I, Article III.
(4)South China Morning Post, August 11, 2020 (https://www.scmp.com/news/hong-kong/law-and-crime/article/3096968/hong-kong-media-mogul-jimmy-lais-youngest-son-first-be).
(5)Sunny Cheung Man Kwan「香港における逮捕手続の比較法的検討」岡山大学大学院文化科学研究科紀要13-171(2002)、187〜188。
(6)Sunny Cheung前注、188頁。

plltakano at 23:46コメント(3)保釈外国の刑事司法 

2020年07月31日

 永沢真平氏が私に対して提起した著作者人格権等侵害行為差止等請求事件の第1回口頭弁論期日(2020年7月22日)において、私は被告本人として要旨以下のような口頭陳述を行いました。

裁判長並びに陪席裁判官、

 この裁判の開始にあたり、被告である私に口頭陳述の機会を与えていただき、感謝いたします。

 私は約40年間刑事弁護士として活動してきました。刑事弁護というのは犯罪者として訴追を受けた個人の依頼を受けて、その生命・自由・財産を擁護する活動をするのを生業とする職業です。刑事弁護士は、個人の権利を守るために政府と対立するのです。個人のために政府と対立するわれわれのような存在があることは、自由で民主的な国家の統治にとっても最も必要かつ基本的なしくみです。ですから、憲法はわが国に存在する全ての個人に、資格のある刑事弁護人による効果的な弁護を受ける権利を保障しています。この権利は文明国にとっての最低基準ということができます。

 ことがらの性質上、われわれ刑事弁護士は、警察官や検察官、そしてときには裁判官とも対立しなければならないことがあります。そして、われわれに対して政府や世論が攻撃的に振る舞うということがときにあります。刑事弁護の歴史をひもとくと、政府や社会が刑事弁護人を犯罪者と同一視して「共犯者」の一人であるかのように批判をするというようなことが繰り返されて来ました。

 歴史上最も悲惨な例は、フランス革命のときにルイ16世の弁護人となったマルゼルブ卿の場合です。彼はもともと司法官で、ルイ15世、16世の時代に国務大臣などの要職を歴任した人です。根っからの自由主義者でルソーやデイドロ、ヴォルテールら啓蒙思想家と親交があり、彼らの著作の出版に尽力した人です。彼は自由を擁護する姿勢を生涯貫きました。ルイ15世の時にもまた16世の時にも国務大臣に任命されはしましたが、何度も王権と対立して辞職しています。

 マルゼルブは、ルイ16世が逮捕されて革命政府の下でその裁判が行われようとするとき、誰も弁護する人がいない国王の要請に応じて、彼の弁護人となりました。国王は有罪を宣告されてギロチンで処刑されました。そして、その後ジャコバン政権の下でルイ16世の王妃マリ・アントワネットも処刑されましたが、それと共にマルゼルブも処刑されてしまいました。裁判すら受けずに、マルゼルブ本人だけではなくて彼の娘、娘婿、そして孫も処刑されています。

 これほど極端ではありませんが、私もこれまでの刑事弁護の仕事の過程で政府や世間から攻撃されたことが何度かあります。1995年春に地下鉄サリン事件が起こったとき、私は、この国に黙秘権を根付かせるための弁護活動を推進する弁護士の団体「ミランダの会」という団体の代表をしていました。ミランダの会のメンバーがオウム真理教の幹部の弁護人となり、取調べに対して弁護人の立ち会いを求め、それが容れられないために取調べを拒否することを助言しました。そのことが報道されると、私の事務所の電話がひっきりなしに鳴るようになりました。私に対して身体的攻撃を加える旨の脅迫状や私を誹謗中傷する手紙がたくさん来ました。全国紙の社説が私どもの弁護活動を国民の安全をないがしろにするものだと言って批判しました。検察庁の幹部はわれわれの弁護活動を「捜査妨害であり、違法である」と記者会見で発表しました。

 2001年には本庄保険金殺人事件という事件の裁判の過程で私が検察官側の証拠物の同一性立証が不十分であることを示すために検察官が証拠請求した証拠物と極めて似た物を作ってそれを利用して反対尋問を行ったところ、検察官が証拠の捏造だと言って私に対して懲戒請求をしてきました。

 こうした攻撃によって私が怪我をしたり命を失うなどということはありませんでした。しかし、世の中がふっ騰している時には、刑事弁護士は攻撃される可能性があるということを私は身をもって体験しました。これは決してわが国だけの現象でありません。政府や世論は、ときに刑事弁護士に対して「なんであんな奴らの弁護をするんだ」と言って攻撃をするのです。個人の生命自由財産を擁護する、そのために個人に代わって政府と戦うという仕事に対する世の中の理解は決して十分ではありません。

 永沢真平氏の私に対する懲戒請求も、こうした刑事弁護士に対する攻撃の一環であると私は理解しています。私の依頼人であったカルロス・ゴーン氏は昨年末に、保釈条件に違反してこの国を密出国してレバノンに逃亡してしまいました。彼の行為が犯罪であり刑事司法の適正な運営を危うくするものであることは確かです。しかし、彼を極悪人のように言い募り、日本国民全体の敵であると言うのは、違うと私は考えます。昨年の春から年末まで私は彼と身近に接していました。彼が保釈条件を一生懸命守ろうとしていたことは間違いありません。しかし裁判所は彼が奥さんと会うことをなかなか認めようとしませんでした。公判前整理手続が検察官側の要求によって次々と空転し、いつになったら裁判が始まるかわからない、いつまで日本に幽閉され続けるのか分からないという状況でした。自分は公正な裁判を受けられるのだろうか。彼は何度も私に尋ねました。こうした事情を知っている私として、その事情を世間に公表することは、この国の刑事司法を正当に評価するために、また私の依頼人であるカルロス・ゴーン氏に対する評価を正当なものにするためには必要なことだと私は考えました。そこでその経緯をブログに書きました。

 永沢真平さんは私に対して懲戒請求をしてきました。私の発言は、犯罪を容認するものであり、弁護士としての品位を辱める行為だと言いました。それだけではなく、懲戒請求書をマスメディアに提示して彼の言い分に沿った報道をさせました。私は永沢氏の懲戒請求はこの国の刑事弁護全体に対する不当な攻撃であると考えます。私自身がこれに対してきちんとした反論、防御をすることは、私自身の職業生活のためにも必要なことでしょうが、それだけではなく刑事弁護全体のために、日本の刑事司法の健全な発展のためにも必要なことだと私は考えます。

 刑事弁護士を犯罪者と同視するような世間の攻撃は、これまでの歴史において繰り返されたことです。これ対して弁護士は正当な反論をすべきです。自己防衛をするべきです。そうした攻撃に対して手をこまねいて何の反論も反撃もしない、何の防御もしないということは宜しくありません。それは結局のところ刑事弁護を萎縮させることにつながります。この国の刑事司法に対する信頼性を損なうことになります。すべての個人が最善の弁護活動を受ける権利を保障されなければならない;そのための職業倫理のあり方についてわれわれは市民に語り続ける必要があります。刑事弁護に対する正しい理解というものがなければ司法の権威は地に落ちてしまいます。

 ですから私は、私に対する不当な攻撃に対して正当な反論をしようと考えました。そのために最も正しい方法として、永沢真平氏の懲戒請求書の全文を明らかにした上でその主張に対する私の反論の全文を世間に公表しました。このことは正しい行いだと私は思います。この国の刑事司法を守るために必要な行動だったと考えます。

 本件の文脈において、私と永沢氏とは対等の関係にあります。私も彼も法は平等に扱わなければなりません。彼が市民であるのと同時に私も市民です。私は権力者ではありません。私の権利と彼の権利との間に差異があっていいはずはありません。永沢氏が私の実名を公表してメディアに晒した上で私を懲戒請求することができるのと同じように、私の反論においても私は彼の実名を掲げる権利があります。それはまさに表現の自由であり私の職業上の信用と権利を守るために必要なことです。

 私の両親は共働きでした。夏休みになると私はまるまる1ヶ月間母の実家に預けられました。夏休みはとても楽しい日々でした。私はよく祖父の自転車に乗せられて彼が耕していたスイカ畑とかとうもろこし畑に連れて行かれました。祖父からはいろいろな遊びを教えてもらいましたが、何度か叱られたことがあります。今でも印象に残ってるのは私がいじめられて近所の友達やその家族の悪口などを言った時に祖父から言われた言葉です。

「隆よ、影に廻って人の悪口を言うもんではない。悪口を言うならば堂々と本人の前で言うんだ」。

 この祖父の教えはとても重要なことだと私は思います。この教えを守らなければ人間の社会は成り立たないと考えています。影に回って人の悪口を言ってはいけないというのは人間として最低限のモラルであると同時に、すべての社会人が自分の言動に責任を持つための基盤だと思います。自分だけ匿名の仮面を被ったまま他人の悪口を言い募るというようなことを許す社会は間違っていると思います。

 マルゼルブ卿は『出版自由論』という本を書いています。その中で彼はこう言いました−−「諸見解の公的討論は真理を開く確実な道であり、おそらくその唯一の道である。かくして、政府は、なんらの留保もなしにすべての人に討論を許すこと、すなわち『出版の自由』と呼ばれているものを樹立すること以外にとるべき方策はない」 *。民衆がバスティーユ牢獄を襲撃する1年前のことです。

ありがとうございました。

[注]
*木崎喜代治『マルゼルブ――フランス18世紀の一貴族の肖像』(岩波書店1986)より。

plltakano at 11:29コメント(2)刑事弁護全般 

2020年04月28日

 東京謄写センターからの回答を踏まえて、4月22日付で東京地検あてに以下の申入れを行いました。

申 入 書

 
 私は、東京都内の法律事務所に所属して刑事弁護を担う弁護士有志を代表して、次の通り申し入れます。


1 「東京謄写センター」が次の方法を取るために必要な方策を速やかに講じる。
 ⑴ 謄写申請については、窓口だけではなく、電話や郵送、ファックス、Eメールで受け付ける。
 ⑵ 謄写費用の支払いについて、銀行振り込みや電子納付による支払いを受け 付ける。
 ⑶ 上記支払い(入金)を確認後、申請者の希望に応じて、郵送により謄写記録を交付する。
2 紙媒体だけではなく、電子データによる謄写を可能にするシステムを構築する。

(理由)
1 これまでの経緯―東京謄写センターに対する申入れ
 本年4月7日、安倍晋三内閣総理大臣は東京を初めとする7都府県に対し緊急事態宣言を発令し、7都府県の知事は住民に対し不要不急の外出や移動を控えることを要請しました。この要請にしたがって、弁護士会や多くの法律事務所は、職員の在宅勤務体制を実現しています。職員や関係者のウイルス感染を防ぎ、その生命と健康を守るためには、すべての事業者がこうした努力をすべきです。

 そこで、私たち弁護士有志は、2020年4月11日、貴庁内で、検察官開示証拠及び確定記録等の謄写事業を行っている「東京謄写センター」に対し次の措置を速やかに講じるよう申し入れました(参考に、申入書を添付します)。

 ⑴ 謄写申請については、窓口だけではなく、電話や郵送、ファックス、Eメールで受け付ける。
 ⑵ 謄写費用の支払いについて、銀行振り込みや電子納付による支払いを受け 付ける。
 ⑶ 上記支払い(入金)を確認後、申請者の希望に応じて、郵送により謄写記録を交付する。
 ⑷ 紙媒体だけではなく、電子データによる謄写を可能にするシステムの構築を検討する。

 これに対し、東京謄写センター代表新井文男氏から、要旨、口頭で次の回答がありました。

 ⑴ 申入事項1(電話、FAX、メール等による謄写申請)について、当センターは東京地検・東京高検からの委託に基づいて謄写業務を請け負っているに過ぎない。庁舎内窓口での受付以外の方法で謄写申請を受け付けるかどうかは検察庁の判断なので、そちらに申し入れてほしい。
 ⑵ 申入事項2(費用の銀行振込等)及び同3(郵送による謄写物の交付)については、現在の人員では対応不可能である。現在職員は代表を含め7人しかいない。そのうち5名は謄写作業に専従している。非常事態宣言後も連日7人がフル稼働している。弁護士やその職員の皆さんのご負担を極力軽減したいと考えて、東京23区以外の事務所からの要請がある場合は、現金書留による支払いと郵送による謄写物の送付を行うようにした。また、立川支部の弁護士のために、当センターの職員が謄写物を立川まで運ぶサービスも開始した。しかし、現在の陣容ではこれ以上のサービスは残念ながら不可能である。サービス向上のために謄写料金を改定することも検討すべきと思うが、謄写料金の値上げについては検察庁の了解が得られない。また、値上げについて弁護士さんらの了解が簡単に得られるとも思えない。
 ⑶ 申入事項4(電子データによる謄写物の交付)についても、原本が電子データでないものについて、紙媒体以外の方法での謄写を行うことは検察庁から禁じられているので、当センターとして対応することはできない。

 回答によれば、東京謄写センターとしても、弁護士や事務所職員、さらには東京謄写センターの負担を軽減するために、郵便などを利用して業務を効率化、円滑化したいと考えているものの、彼らは貴庁から業務委託を受けているに過ぎず、自分たちの判断では何もできないことが分かりました。

2 現在の運用によって生じる新型コロナウイルス感染の危険
 現在、貴庁及び東京謄写センターは、東京都23区に事務所を構える弁護士らからの郵送による謄写申請・受取を受け付けていません。そのため、私たち弁護士が依頼人のためにその職務を行うためには、貴庁の庁舎に出向き、貴庁の窓口等で検察官開示証拠等の謄写を申請し、謄写が終わった後、再度東京謄写センターの窓口に赴いて費用を支払い、その上で、謄写した記録を受け取らなければなりません。そのために、公共交通機関を乗り継ぎ、貴庁の窓口等に出向き、費用を支払い、記録を持ち帰らなければなりません。そのたびに私たちは外出を余儀なくされ、感染の危険を負わされています。また、貴庁及び東京謄写センターの職員は、謄写申請や受け取りのたびに、多数人と窓口で対応しなければなりません。同センターの職員らもまた、感染の危険にさらされています。
 
3 各申入事項について
 そこで、先に述べた通り、貴庁が、謄写申請については、窓口だけではなく、電話や郵送、ファックス、Eメールで受け付けるとともに、東京謄写センターが、謄写費用の支払いについて、銀行振り込みや電子納付による支払いを受け付け、さらに、上記支払い(入金)を確認後、申請者の希望に応じて、郵送により謄写記録を交付する方法が可能になるよう、貴庁において速やかに方策を講じられるよう求めます(申入事項1)。
 申入事項2(電子データによる謄写物の交付)は、東京謄写センターの業務の効率化、大幅な負担の軽減につながるのみならず、迅速な証拠開示と公判準備にも資するものです。ご承知の通り、稲田伸夫検事総長は、証拠書類そのものをデータにすることにより、検察官の業務を効率化するのみならず、証拠開示が簡略化され、謄写や閲覧の負担を大きく減らすことができると述べておられます(稲田伸夫「検察とこれからの時代」(研修第859号2頁(2020年1月)3-4頁)。

4 今後の協議について
 新型コロナウイルス感染症の拡大は衰えるどころか、世界中で感染者、死者数が増加する一方であり、いまだ収束の兆しがありません。人命を守るため、そして医療体制の崩壊を防ぐために、国民一人一人が、外出をできるだけ控え、人との接触を避けようと懸命に知恵を絞り、多大な犠牲を払いながら努力しているところです。
 法曹もまた、共に知恵を絞り、これまでの実務を柔軟に変えていくことが求められています。申入れ事項について、前向きに検討いただくよう、お願いいたします。本件について、協議の機会を設けていただきたく、貴庁において謄写業務を担当している方より私宛にご連絡いただくよう、合わせてお願い申し上げます。
 
以上


【付記】
 東京地検は、2020年6月8日付で、在京三弁護士会あてに「郵送またはファクシミリによる申請を受付ける」という回答をしました。
 メールなどによる謄写申請、謄写物の郵送、電子データによる開示などについては、特に応答はありません。検討状況についても不明です。(2020年6月9日)


plltakano at 20:18コメント(1)証拠開示刑事弁護の実務 

2020年04月17日

 私ども在京弁護士の申入について、昨日(2020年4月16日)、東京謄写センター代表新井文男氏から口頭で回答がありました。その要旨は次のとおりです。

1)申入事項1(電話、FAX、メール等による謄写申請)について、当センターは東京地検・東京高検からの委託に基づいて謄写業務を請け負っているに過ぎない。庁舎内窓口での受付以外の方法で謄写申請を受け付けるかどうかは検察庁の判断なので、そちらに申し入れてほしい。

2)申入事項2(費用の銀行振込等)及び同3(郵送による謄写物の交付)については、現在の人員では対応不可能である。現在職員は代表を含め7人しかいない。そのうち5名は謄写作業に専従している。非常事態宣言後も連日7人がフル稼働している。弁護士やその職員の皆さんのご負担を極力軽減したいと考えて、東京23区以外の事務所からの要請がある場合は、現金書留による支払いと郵送による謄写物の送付を行うようにした。また、立川支部の弁護士のために、当センターの職員が謄写物を立川まで運ぶサービスも開始した。しかし、現在の陣容ではこれ以上のサービスは残念ながら不可能である。サービス向上のために謄写料金を改定することも検討すべきと思うが、謄写料金の値上げについては検察庁の了解が得られない。また、値上げについて弁護士さんらの了解が簡単に得られるとも思えない。

3)申入事項4(電子データによる謄写物の交付)についても、原本が電子データでないものについて、紙媒体以外の方法での謄写を行うことは検察庁から禁じられているので、当センターとして対応することはできない。



plltakano at 11:12コメント(3)証拠開示刑事弁護の実務 

2020年04月11日

 私を含む在京の弁護士60名は、本日、東京地検謄写センター宛に下記の申入書を送りました。
 東京地検謄写センターは東京地検がわれわれ弁護士に開示する証拠の謄写業務を独占的に行っている団体です。これまで同センターは郵便、FAX、メールなどによる謄写申請を受け付けず、法律事務所の職員は、直接東京地検内の受付窓口まで赴き、申請を行い、謄写が完了すると、やはり窓口まで行って現金で代金を支払って謄写物の交付を受けるということを強いられてきました。政府が非常事態宣言を発した後もこの事情に変化はありません。
 私どもは職員の健康と生命を守るために同センターに一刻も早い改善を求めるためにこの申入を行いました。また、これまで検察庁は電子データによる証拠開示を否定してきましたが、この点についても早急に実現されなければならないと考えております。

申 入 書


 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の世界的な大流行(パンデミック)に伴い、私たち弁護士有志は、弁護士や法律事務所職員並びにすべての法曹関係者の命と健康を守るため、また、これ以上の感染拡大を防ぎ国民全体の社会生活の一刻も早い正常化を願って、貴団体に対し次の措置を速やかに講じるよう申し入れます。



1 謄写申請については、窓口だけではなく、電話や郵送、ファックス、Eメールで受け付ける。
2 謄写費用の支払いについて、銀行振り込みや電子納付による支払いを受け 付ける。
3 上記支払い(入金)を確認後、申請者の希望に応じて、郵送により謄写記録を交付する。
4 紙媒体だけではなく、電子データによる謄写を可能にするシステムの構築を検討する。

(理由)
 本年4月7日、安倍晋三内閣総理大臣は東京を初めとする7都府県に対し緊急事態宣言を発令し、7都府県の知事は住民に対し不要不急の外出や移動を控えることを要請しました。この要請にしたがって、弁護士会や多くの法律事務所は、職員の在宅勤務体制を実現しています。職員や関係者のウイルス感染を防ぎ、その生命と健康を守るためには、すべての事業者がこうした努力をすべきです。

 貴団体は、検察官開示証拠及び確定記録等の謄写事業を独占的に行っています。私ども弁護士が依頼人のためにその職務を行うためには、貴団体に裁判記録等の謄写業務を委託せざるを得ません。私どもの職員が検察庁で記録を謄写するためには、貴団体の窓口等で検察官開示証拠等の謄写を申請し、謄写が終わった後、再度窓口に赴いて費用を支払い、その上で、謄写した記録を受け取らなければなりません。そのために、公共交通機関を乗り継ぎ、貴団体の窓口等に出向き、費用を支払い、記録を持ち帰らなければなりません。そのたびに私たちは外出を余儀なくされ、感染の危険を負わされています。また、貴団体の職員の皆様も、感染の危険と常に隣り合わせです。

 新型コロナウイルス感染症の拡大は衰えるどころか、世界中で感染者、死者数が増加する一方であり、いまだ収束の兆しがありません。人命を守るため、そして医療体制の崩壊を防ぐために、国民一人一人が、外出をできるだけ控え、人との接触を避けようと懸命に知恵を絞り、多大な犠牲を払いながら努力しているところです。

 上記の措置は、いずれもすぐに対応できるものです。速やかに対応されるよう、本書面をもって申し入れます。
以上


(別紙)
申入人一覧
赤木竜太郎(東京) 井桁大介(第二東京)石橋有悟(第一東京)石村信雄(第二東京)植木亮(第二東京)上野仁平(第二東京)鵜飼裕未(東京)大薗昌平(第二東京)大谷恭子(東京)岡田浩志(東京)川崎公司(東京)河崎健一郎(東京)河津博史(第二東京)久保有希子(第二東京)小泉恒平(東京)児玉晃一(東京)小林英晃(東京)小松圭介(第二東京)坂根真也(東京)坂本一誠(東京)酒田芳人(東京)佐々木美智(宮崎)佐々木良太(函館)四宮啓(東京)下村大気( 東京)須友里(東京)高野傑(第二東京)高野隆(第二東京)盒興喇А陛豕)盒興仝磧並萋鹽豕)竹内明美(東京)橘真理夫(第一東京)田中翔(東京)趙誠峰(第二東京)寺岡俊(東京)寺林智栄(東京)徳永裕文(東京)戸塚史也(東京)贄田健二郎(東京)西野優花(東京)布川佳正(東京)藤原大吾(東京)船戸暖(東京)古橋将(東京)前田領(東京)牧田史(東京)前原潤(東京)松坂拓也(第二東京)馬淵未来(東京)水橋孝徳(第二東京)三宅千晶(第二東京)宮野絢子(東京)宮村啓太(第二東京)諸橋仁智(東京)山口祥太(第二東京)山田恵太(東京)山本彰宏(東京)山本衛(東京)吉田京子(第二東京)和田恵(東京)
以上60名

【付記】
この申し入れに対して2020年4月16日に回答がありました。(2020年4月17日)

plltakano at 16:42コメント(3)証拠開示刑事弁護の実務 

2020年02月04日

 永沢真平氏による懲戒請求に対して私が第二東京弁護士会綱紀委員会に提出した弁明書の内容は次のとおりです。

機…┣請求の趣旨に対する答弁

 本件懲戒請求には理由がなく、懲戒すべき事由がないことは明らかであるから、懲戒不相当の決議をされたい。

供…┣請求の理由に対する答弁

1 弁護人は被告人を管理監督する者ではない
 請求人永沢真平氏はカルロス・ゴーン氏の弁護人である私が「被告人を管理監督する立場にい[る]」といい(「懲戒の理由」1頁)、この義務に違反したという(同2頁)。しかし、弁護人には保釈中であれ身柄拘束中であれ、依頼人である被告人の行動を「管理監督」する義務などないし、そうしたことを行う権限もない。

 弁護士は依頼人の親でもなく教師でもない。依頼人の善行を保証する身元引受人でもない。弁護士には依頼人を「管理監督」する権限も義務もないのである。弁護士がプロフェッショナルとして負うべき第一の職責は「依頼者の権利及び正当な利益を実現する」ことである(弁護士職務基本規程21条)。そして、この任務を遂行するために「依頼者の意思を尊重し」なければならないのである(同規程22条1項)。

 刑事事件の訴追を受けている被疑者・被告人の弁護を依頼された弁護士(弁護人)の最大の任務は、依頼人である被疑者・被告人に保障された防御権を「擁護するため、最善の弁護活動」をすることである(同規程115条)。そのために、弁護人は被告人の「身体拘束からの解放」のための努力をする義務を負っているのである(同規程47条)。こうした職責は日本国憲法が保障する基本的人権の実現にとって不可欠の活動である。わが国の憲法はすべての個人に対して、行動の自由を保障し「正当な理由」がなければ抑留拘禁されない権利を保障している(34条)。この権利を実質的に保障するために、憲法は資格のある弁護人の援助を受ける権利をすべての個人に保障しているのである(34条、37条3項)。弁護人が、依頼人のために、身体拘束の正当性がないことを主張し立証して、裁判官に依頼人を解放するように説得する活動をすることを十分に保障されていなければ、こうした憲法の保障は形骸化するであろう。

 刑事弁護人に被告人の行動を監視する義務を課し、被告人の違法行為に対する責任を負わせるとすれば、被告人の権利擁護、自由確保のための活動は著しく萎縮してしまうであろう。依頼人の自由を確保すればするほど弁護士は依頼人の生活に対する干渉、介入、監督の責任を負担することになる。むしろ、被告人に自由を与えず、拘禁状態を継続させておいたほうが、弁護人は安心して弁護士業務を行うことができることになる。これは、依頼人と弁護士とを利益相反状態におくことに他ならない。刑事被告人は、自らの自由確保のために法律専門家の援助を十分に受けることができず、一人、強大な国家権力と対峙することになる。それは正しく警察国家、全体主義国家への道にほかならない。

 わが国が自由で民主的な国家であるためには、刑事弁護人を「被告人を管理監督する立場」におくようなことを決してしてはならないのである。

2 「弁護人が被告人を逃走させないこと」という保釈条件は存在しない
 永沢氏は「保釈の条件は対象弁護士***が被告人を逃走させないこと」であったと述べている(懲戒請求の理由、1頁)。しかし、そのような条件は存在しない。カルロス・ゴーン氏の保釈条件は2019年3月5日付及び同年4月25日付保釈許可決定(乙1、2)のとおりである。弁護人が行うべきこととして求められているのは、

1)ゴーン宅に設置された監視カメラに保存された画像データを1ヶ月に1回裁判所に提出すること
2)ゴーン氏の携帯電話の通話履歴明細書及びインターネット・ログを1ヶ月に1回裁判所に提出すること
3)ゴーン氏が第三者と面会した記録を1ヶ月に1回裁判所に提出すること

である。私をはじめゴーン氏の弁護人はこの条件を厳格に遵守した。一度もこの条件に違反したことはない。

 なお、私はゴーン氏から、彼が法律上携行を義務付けられたパスポート以外のパスポート3通を預かり、厳重に保管していた。その管理を怠ったこと(懲戒請求の理由、1頁)などまったくない。

3 ブログの記載は不適切なものではない
 永沢氏は、2020年1月4日に投稿した私のブログを引用して、その内容は「違法行為を肯定する発言」「違法行為を助長する行為」であって「不適切」であるという(同前)。通常の日本語の理解力がある人がこのブログ記事を読めば、これが違法行為を肯定してもいないし、助長もしてもいないし、不適切でもないことは十分に良く理解できるはずである。

 このブログのなかで私は、ゴーン氏が密出国した事実を知って衝撃を受けたこと、その動機としてわが国の非人道的と言われても反論できない「人質司法」の現実や極限的にまで停滞し、迅速な裁判を受ける被告人の権利を著しく侵害している訴訟進行の現実があるのではないかという意見を述べた。そして、ゴーン氏が感じた絶望には共感できる部分があると告白した。こうした私の発言には十分な事実上の根拠がある。そして、これらのどこにも違法行為を肯定したり、助長したりする要素はない。
以上



plltakano at 22:20コメント(55)弁護士倫理保釈 
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