■ 書籍情報

H. ミンツバーグ経営論   【H. ミンツバーグ経営論】(#839)

  ヘンリー・ミンツバーグ (著), DIAMONDハーバード・ビジネスレビュー編集部 (編集)
  価格: ¥2940 (税込)
  ダイヤモンド社(2007/1/13)

 本書は、『ハーバードビジネスレビュー』誌に掲載されたミンツバーグの10本の論文を、
(1)マネジャーの仕事の分析
(2)戦略形成
(3)組織設計
の3つのテーマに分けて収録したものです。
 第1部「マネジャーの仕事」第1章「マネジャーの職務:その神話と事実との隔たり」では、アンリ・ファヨールが1916年に紹介した、「計画し、組織し、調整し、統制する」というマネジャーの4つの仕事が、「マネジャーが実際にしていることを、ほとんど説明していない」ことを指摘し、「読者をファヨールの4つの単語から引き離し、もっと根拠のある、そしてもっと役に立つマネジャーの仕事の説明に案内する」と述べています。
 そして、マネジメント業務について、
○神話1:マネジャーは内省的で論理的な思考をする、システマティックなプランナーである。
→現実:どの研究をとってみても、マネジャーは弛みないペースで仕事をし、その行動は簡略、多様、不連続を特徴としており、さらに行動に出ようとする強い志向を持っていて、内生的活動を好まない。
○神話2:有能なマネジャーは、遂行すべき決まった職分をもたない。
→現実:例外的な事項を処理するほかに、マネジャーの仕事には儀式や式典、交渉、それに組織を周りの環境に結びつけるソフトな情報の処理など、数多くの決まった職分の遂行が含まれている。
○神話3:シニア・マネジャーが求めるものは集計的な情報であり、それを提供するのに最適な手段は、公式のMISである。
→現実:マネジャーは口頭のメディア、すなわち電話と会議を重視している。
○神話4:マネジメントは科学であり、専門的職業である。現在はそうでないとしても、少なくとも急速にそうなりつつある。
→現実:マネジャーのプログラム――時間の配分や情報の処理、意思決定など――は、マネジャーの頭脳の奥深くにしまい込まれている。
の4つの神話と現実を対比しています。
 そして、著者はマネジャーの役割を、「対人関係における役割」「情報に関わる役割」「意思決定にかかわる役割」に分けた上で、それぞれを、
○対人関係における役割
(1)看板的役割
(2)リーダー的役割
(3)リエゾン的役割
○情報に関わる役割
(1)監視者
(2)産婦者
(3)スポークスマン
○意思決定にかかわる役割
(1)企業家
(2)障害排除者
(3)資源配分者
(4)交渉者
の10の役割に再分類しています。
 第3章「プロフェッショナル組織の『見えない』リーダーシップ」では、カナダのウィニペグ交響楽団のブラムウェル・トーヴィー音楽監督兼常任指揮者の仕事振りを、典型的なマネジャー像と対比し、「オーケストラを指揮する仕事は真似委jメントとしては相当に風変わりに見えるだろう」と述べています。
 そして、プロフェッショナルに対しては、「指示や監督はほとんど要らない」、求められるのは、「保護とサポート」であり、「このためマネジャーは、外部との関係に大きな注意を払う必要がある」と述べています。
 また、ブラムウェルの、「私は自分をマネジャーとは思っていない。どちらかといえば、猛獣使いに近いだろう」という言葉を紹介しています。
 第4章「参加型リーダーのマインドセット」では、マネジメントを実践するために必要な、
(1)内省:自己のマネジメント
(2)分析:組織のマネジメント
(3)広い視野:外部環境のマネジメント
(4)コラボレーション:リレーションシップのマネジメント
(5)行動:変革のマネジメント
の5つのマインドセットについて、それぞれ解説しています。
 第5章「マネジメントに正解はない」では、「盛んに喧伝される『マネジメント』に関して、何が誤っているのか」を見るために、
(1)組織には頂点も底辺もない。
(2)経営上層部のポストを減らすべき時が訪れた。
(3)「合理的」(lean)とは「ケチ」(mean)という意味である。長い目で見ると、合理化を進めても利益を上昇させることすらできない。
(4)有効な戦略が生まれないのは、おおむねCEOが戦略家になったつもりでいるからである。
(5)分権化は中央集権を強め、エンパワーメントは人々から権限を奪う。測定は何も測定できずに終わる。
(6)偉大な組織は一度築き上げれば、偉大なリーダーを必要としない。
(7)偉大な組織には「魂」があるが、「脱」「非」「再」などを冠した言葉はその魂を台無しにする可能性が高い。
(8)従来型のMBAプログラムを廃止すべき時が訪れた。
 →「クッキー・マネジメント」は経営者の育成には適さない。
(9)組織に必要なのはたゆまぬ心配りであって、「余計な治療」ではない。
 →意思よりも看護師の仕事の方がマネジメントの参考になる。
(10)今日のマネジメントが抱える問題は、この論文の欠点に集約されている。全てを簡潔にまとめなくてはならず、深い探求ができないまま終わる。
 (→オチ)
の10の考察を行っています。
 第2部「戦略」第6章「戦略クラフティング」では、「戦略は工芸的に捜索されるというイメージこそ、実効性の高い戦略が生まれてくるプロセスを表しているのではないか」という著者の問題意識を提示しています。
 そして、戦略を策定する行為が、
(1)プランニングの足
(2)創発の足
の「二本足で進んでいく」と述べています。
 また、NFB(カナダ国営映画協会)のような組織に「アドホクラシー」(臨機応変)というラベルを貼り、「このような組織では、プロジェクトを基本単位に、革新的アプローチによって個別の、あるいは特注の商品(またはデザイン)を製造している」と解説しています。
 第7章「戦略プランニングと戦略志向は異なる」では、プランナーの仕事を再定義し、
・戦略プランニング:いわば分析であり、目標や目的を複数のステップに分解し、これらがほぼ自動的に流れるように定型化し、各ステップで予想される成果を具体的な言葉で表現する。
・戦略思考:インテグレーションであり、直感と創造性が関係し、なんらかの意図を反映した総合的なビジョンが生まれてくる。
と対比しています。
 そして、「分析することで、総合化が図られる。したがって、戦略プランニングとは戦略を創造することである」という言葉こそ誤解につながりかねず、ここには、
(誤謬その1)予測は可能である。
(誤謬その2)戦略家は戦略課題と別世界に存在できる。
(誤謬その3)戦略策定プロセスは定型化できる。
の3つの前提が存在していることを指摘しています。
 第3部「組織」第8章「組織設計」では、組織の特徴として、「原子から天体にいたるすべての現象に似て、自然に群れをなし、いくつかのコンフィギュレーション(相対的配置)に落ち着く」と述べ、「マネジャーが効果的な組織を設計仕様と考えるなら、この適合性に注意する必要がある」として、
(1)単純構造
(2)プロフェッショナル的官僚制
(3)機械的官僚制
(4)事業部制
(5)アドホクラシー
の5つのコンフィギュレーションを紹介しています。
 このうち、アドホクラシーに関しては、その限界として、「ある意味で非効率をとおして効果をあげようとするもの」であり、「この構造にはマネジャーとコミュニケーションのための高コストのリエゾン装置が氾濫している」こと、「あいまいな点が多く、それがあらゆる種類の葛藤と政治的圧力を生む」ことから、「アドホクラシーは普通のことはうまく処理できないが、イノベーションの点では桁外れの機能を果たす」と述べています。
 第9章「オーガニグラフ:事業活動の真実を映す新しい組織図」では、著者らが、「組織の実態を表現しその理解を促すような新手法を構築しようと模索」した結果、「今日的な多様な組織のあり方を反映した『ハブ』(中枢、拠点)や『ウェブ』(網状の複雑な関係)といった概念を取り入れた」「オーガニグラフ」を生み出したことが解説されています。
 そして、「組織がハブやウェブとしての性格を持つようになっているのに、何もかもを別々の長方形に押し込んで権威という縦のチェーンでつないだような、旧態依然とした組織図をそのまま使って、はたしてよいのだろうか」と疑問を呈しています。
 第10章『政府の組織論」では、民間企業で用いられているマネジメント理論として、
(1)諸活動は縦横どちらの方向にも分割できる。
(2)業績は客観的な尺度によって的確に測れる。
(3)経営者やマネジャーに業績への責任と自律性を与えて、諸活動を任せればよい。
の3つの前提を挙げ、「以上3つの前提は、政府機関の業務内容や業務方法にはおよそ当てはまらない。政府の諸活動を、企業の活動と同じように自律的に進めるには、あいまいさを排除した明確な政策を政治の場で定め、それを行政が実行するという仕組みが欠かせない」と指摘し、これは言い換えれば、「政策は長い間一定でなくてはならず、政治家や、管轄外の行政組織は、政策の実行に関与してはならない」ことを意味し、「政府活動のうち、このとおりに行われているものはどれだけあるだろうか」と指摘しています。
 そして、政府のマネジメントのモデルとして、
(1)機構(マシン)モデル:ありとあらゆる規則、規制、標準に縛られた機構として政府を位置づける。
(2)ネットワーク・モデル:厳格ではなく緩やか、コントロールではなく放任する、縦割りではなく組織間の相互作用を重んじる、といった特徴を持つ。
(3)業績コントロール・モデル:分離、割り当て、測定をキーワードに、政府活動をビジネスに近づけることを目指す。
(4)仮想政府モデル:「政府がなくなるのが最良の状態だ」という考えが土台にあり、民営化、委託、交渉などのキーワードで特徴づけられる。
(5)標準コントロール・モデル:制度ではなく発想そのものを問題にし、コントロールは必須とされ、価値観、考え方に深く根づいている。
の5つのモデルを示たうえで、「政府は、実に様々な性格を持ち合わせており、われわれの生活と同じように多面的なのだ」と述べています。
 著者は、民間企業礼讃に疑問を呈し、
・企業が全て優れているとは限らない。政府が悪だとも限らない。
・政府が企業から学ぶことがあるとすれば、それと同じだけ、企業も政府から学ぶことがある。この両者は、共同所有組織、所有者のいない組織からも多くを学び取れるはずだ。
・現在必要とされているのは、うつむき加減の政府ではなく、誇りを持った政府である。
・何よりも、各セクターの調和が求められる。
などの点を指摘しています。
 本書は、ミンツバーグの思想のエッセンスを掴むには最適の一冊です。


■ 個人的な視点から

 著者は、これまでに、経営学の世界の様々な「権威」や「常識」に挑戦を挑み、数々の論争を巻き起こしたことで知られています。単にいちゃもんを吹っかけるだけの人はたくさんいるはずですが、数々の論戦において負けることなく「常識」を揺さぶり続けた功績は、単なる経営学の「グル」である以上に意味のあることではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・ミンツバーグの3つのテーマを概観したい人。


■ 関連しそうな本

 ヘンリー ミンツバーグ (著), 奥村 哲史, 須貝 栄 (翻訳) 『マネジャーの仕事』』
 ヘンリー ミンツバーグ, ジョセフ ランペル, ブルース アルストランド (著), 斎藤 嘉則, 奥沢 朋美, 木村 充, 山口 あけも(翻訳) 『戦略サファリ―戦略マネジメント・ガイドブック』 2005年02月15日
 Harvard Business Review (編集), DIAMONDハーバードビジネスレビュー編集部 (翻訳) 『リーダーシップ』 2005年12月16日
 ヘンリー ミンツバーグ (著), 中村 元一 , 黒田 哲彦, 小高 照男 (翻訳) 『戦略計画 創造的破壊の時代』 2006年01月16日
 ジョセフ・H. ボイエット, ジミー・T. ボイエット (著), 金井 壽宏, 大川 修二 (翻訳) 『経営革命大全』 2006年01月06日
 ジェームズ フープス (著), 有賀 裕子 (翻訳) 『経営理論 偽りの系譜―マネジメント思想の巨人たちの功罪』 2006年11月06日


■ 百夜百マンガ

江戸前・あ・めーりかん【江戸前・あ・めーりかん 】

 江口寿史のマンガにも「マッチョでお馬鹿なアメリカ人」が登場しますが、丸ごと全部アメリカンにするとこうなりますと言うか、キャバクラマンガでおなじみ。