■ 書籍情報

段落論 日本語の「わかりやすさ」の決め手   【段落論 日本語の「わかりやすさ」の決め手】(#3179)

  石黒 圭
  価格: ¥902 (税込)
  光文社(2020/2/18)

 本書は、「文章を書くことは、書き手の頭のなかにある情報を、文章をつうじて読み手の頭のなかに移動させる、いわば情報の引っ越し」だとして、「文もまた段落という箱に入れて読み手の頭に積み込む」という段落の仕組みを伝えるとともに、読み手に優しい段落づくりのコツを伝えることを目的としたものです。
 第1章「箱としての段落」では、段落の一般的定義として、「段落とは、形態的には、改行一字下げで表される複数の文の集まりであり、意味的には、一つの話題について書かれた内容のまとまりである。こうした段落という単位があることで、読み手は文章構成を的確に理解できるようになる」と述べています。
 第2章「まとまりとしての段落」では、「段落の内部構造は、核となる話題を示す小主題文とそれを支える支持文の二部構造、あるいは、その2つにまとめを示す小結論文を加えた三部構造が基本」としながらも、「統括機能を持つ中心文」が、うまく見つからない場合がある理由として、「トピック・センテンスによる段落構成という考え方が英語圏のパラグラフ・ライティングに由来するものであり、日本の作文教育のなかに十分浸透していないから」だとして、「日本の作文教育には、生活のなかで経験したことやそこで感じたことを自分の言葉で表現することを重んじる生活綴方教育の影響が見られ」、「論理に基づく文章の型が先行するパラグラフ・ライティングは受け入れられにくい面があった」と述べています。
 第3章「切れ目としての段落」では、「切れ目としての段落を見ていく場合、段落は開始部と終了部で意識され」、「段落の終了部が強く意識されるのは小結論文がある場合であり」、「その表情は文末に表れ」、
(1)解釈:思う類、だろう類、ではないか類、のだ類、明らか類、こうした類
(2)評価:形容詞類、べきだ類、ほしい類
(3)予告:疑問類、したい類
の3つがあると述べています。
 第4章「つながりとしての段落」では、「文章という竹に段落という節ができたことで、その節に当たる部分、すなわち小主題文をポンポンと飛んでいければ、理解速度ははるかに早ま」ると述べています。
 第5章「フォルダとしての段落」では、段落の作成方法として、
(1)ボトムアップ式:複数の文をまとめて組み上げて作っていく。
(2)トップダウン式:全体のアウトラインをあらかじめ設計し、そのアウトラインを細かく分割しながら個々の文を収めていく。
の2つを挙げています。
 第6章「形式段落と意味段落」では、「改行一字下げで表される構造体」である「形式段落」と、「内容のまとまり」である「意味段落」について、「『段』というものを設定し、『段落』から切り離すことで、複数の文からなる内容上のまとまりを正確に捉えられるよう」になると述べています。
 第7章「絶対段落と相対段落」では、「紙の書籍の見開き2ページの紙面で読む段落は、文章をじっくり目で追える静的な段落です。段落本来の構造が重視されていることから、これを『構造段落』と呼ぶこと」にするとして、「スマートデバイスの小さい画面で読む段落は、読み手が積極的に取捨選択を行える動的な段落です。スワイプしたくなるように次に続く内容を期待する展開になっていることから、これを『展開段落』と呼ぶこと」にすると述べています。
 第8章「伝統的段落と先進的段落」では、「インターネットの世界では、余白の白い部分が増えても資源の無駄にはなりませんので、読みやすさを優先して余白が増える傾向」があるとして、web小説の傾向として、
(1)場面の転換のさいに空白行が出現する。
(2)会話の前後に空白行が出現する。
(3)ここぞと思う文の前後に空白行が出現する。
の3点を挙げています。
 第9章「読むための段落」では、「現代では、細切れの段落からなる文章が増えてきています。細切れの段落は一文一文の内容が取りやすくなる反面、文章の流れが取りにくくなります。そこで、こうした文章を読むさいには、文段というより大きな内容のまとまりを意識して、小さな段落を複合して話題を追っていくと、内容がより記憶に残りやすくなる」と述べています。
 第10章「書くための段落」では、「段落は、先頭の小主題文によって示された枠のなかを、支持文が埋めることによってできる箱」だと述べ、小主題分の内容を深める方法として、
(1)説明:小主題文で書き手の言いたいことを先に示し、それに続けて説明や解説を埋めていく。
(2)例示:小主題文で書き手の言いたいことを先に示し、それに続けて具体的な例を埋めていく。
(3)理由:小主題文で書き手の言いたいことを先に示し、それに続けて理由や根拠を埋めていく。
(4)経緯:一連の出来事を時間的な順序によって示していく。
(5)場面:一連の出来事を時間的な順序によって並べていく点で、経緯とつながるが、小主題分は状況設定文であるという点で、これまで見てきた4つのものとはかなり異質と見ることができる。
の5点を挙げています。
 そして、「パラグラフ・ライティングをすると、小主題文、すなわちトピック・センテンスは文脈の二重性を帯び」、「トピック・センテンス自体をつなげていくと、自然な流れで一つの文章ができあがり、それはそのまま、この文章の要約」になると述べています。
 第11章「開くための段落」では、「日本語は『何を言うか』よりも『どう言うか』が大事な言語だと言われ」るとして、「数ある一人称のなかからどれを選ぶかで、その人自身のキャラクタを示し、その場の空気に影響を与え、さらには社会の空気を生みだ」すと述べています。
 第12章「話すための段落」では、「段落は、書かれた文章のなかに埋め込まれたものと考えられがち」だが、「言葉を使う人の頭のなかにあるもので、私たちの思考の整理を助けてくれる便利な道具」だとして、「原稿を見ないで長い話をしなければならないときにとくに役立ちます」と述べています。
 第13章「段落の未来」では、「従来の紙から、パソコンの画面やタッチパッド、スマホなどの電子媒体に変わることで、段落の姿は大きく変わってきて」いるとして、
(1)紙で見られる改行一字下げから、一字下げのない一行空けに変わっている。
(2)段落が数文からなる「小さな段落」と、数段落からなり、見出しや一行空けを伴う「大きな段落」の二種類を併用するようになってきている。
(3)段落がそれ自体完結することを嫌い、続きを読んでもらえるようにあえて中途半端なところできるという手法も確立されている。
の3点を挙げています。
 本書は、日本語の文章の重要な要素である段落をさまざまな面から解説した一冊です。


■ 個人的な視点から

 多くの日本人は小学生の時から「段落」という言葉に慣れ親しんでいますが、「段落」がどのような機能を持っていうのかをきちんと考える機会はなかなかないのではないかと思います。


■ どんな人にオススメ?

・段落を使いこなしたい人。