1ボルトの電位差があるときに電子が電気エネルギーとは別に獲得する運動エネルギー、それがエレクトロンボルトです。それで、メガエレクトロンボルトというのは100万倍の単位です。だから、14.1メガエレクトロンボルトの中性子というのは、1410万エレクトロンボルトを持ってる。そんな大きな運動エネルギーを持ってる中性子です。

 その中性子の生物効果は、普通のガンマ線とかエックス線と比べて、せいぜい3倍とか4倍ぐらいしかないんです。場合によっては、2倍しか生物効果を示さないことがあります。ところが、その中性子の出し方を変えることによって、もっと小さなエネルギーにして、14.1メガエレクトロンボルトからどんどん下げていって、僕らが実験したなかで一番低いのでは0.43メガエレクトロンボルトまで実験しました。そしたら、14.1メガエレクトロンボルトの中性子の生物効果、それもムラサキツユクサの突然変異で調べていったわけですが、それに比べて0.43メガエレクトロンボルトの中性子の生物効果、突然変異を起こす能力は、100倍以上の突然変異を起こすということがわかりました。
 中性子もまた、ガンマ線からコンプトン効果で出る散乱放射線と同じように、エネルギーが小さいほど大きな生物効果を与えるということがわかりました。ということは、ここで起こったことを想定しますと、まず少しでも中性子が外へ行くのを防ぐためにバリアをいろんな形で置きました。例えば土のうの中に鉛とか重い鉄を入れたのもありましたし、コンクリートのブロックを積み上げたのもありました。そして中性子がぶつかってエネルギーを失い、運動エネルギーを失っていくほど生物効果は大きくなっていたんです。もちろん、事故初期に出ていた中性子よりは、バリアによりずっと減っていましたが。


中性子による体内の集中被曝

 そして、エネルギーが落ちた中性子が我々の体の中に入ってきますと、すぐさま近くにあります水素の原子核とぶつかって陽子を追い出す。しかし、運動エネルギーが弱くなってきてますから、陽子を飛ばす力も弱いし、自分もまたぶつかって飛ぶ距離も短くなる。陽子も弱いエネルギーしかもらってませんから、ほとんど動かずにその周りで陽子線としてエネルギーを放出する。それから、中性子の方もほとんど動かなくなって、そこで何度も何度も、そばに水素はいくらでもあるわけですから、生物の体の中には、ごく短い距離範囲内でどんどん吸収されて、そこに大きなエネルギーを与える。
 だから、我々の体の中では、細胞単位でも組織の一部でもどこであれ、その組織が神経組織であれ、皮膚組織であれ、内蔵であれ、呼吸器官であれ、循環器官であれ、そういうどこであっても、その一部で集中的な被曝を受けることになります。しかも中性子を高い密度で受けますと、つまり大きな線量の中性子を受ければ、体のいたるところで集中被曝が局所的に起こるという現象が起こってしまうことになります。それが、さっきも話したように、中性子被曝の生物学的に一番危険な点なんです。
 ですから、ガンマ線に比べてエネルギーが大きい速中性子、速い速度を持ってる中性子は、速ければ速いほど強いエネルギーを持ってるから、高速中性子とも言うんですが、それはガンマ線の3倍前後の生物効果しか持ってなくても、さっき言った0.43メガエレクトロンボルトになると、ガンマ線の100何十倍かの生物効果を持ってることになります。そういうことも証明されています。

ムラサキツユクサの長所

 それから最後に、私が一昨年の3月の末でもって65歳で埼玉大学を定年になって名誉教授という形になってしまったんですけど、最後の8年間、僕がめざした放射線と化学物質とか、化学物質どうしの間の相乗効果というのをムラサキツユクサを使って証明しようとしました。というのは、いろんな化学物質であれ、放射線であれ、みんな単品の効果だけで、しかも十分な動植物実験もやらないで規制基準が決められているからです。