Warsan Shire『Teaching My Mother How to Give Birth (Mouthmark)』より
オールドスパイス ワーザン・シャイア 訳:山口勲
 
 
 
 
毎週日曜の昼過ぎに古い陸軍の制服に着替えた彼は
殺した男の名前を一人ずつ教えてくれる。
彼の拳は石のない墓地だ。

火曜日に行けば
守れなかった女の体を一人ずつ教えてくれるはず。
あなたのお母さんに似ていたと言われるたびに
嵐があなたのおなかのなかで吹きあれるだろう。

あなたのおじいさんは違う時代からやってきた――
ロシアの学位と校庭でのキューバ国歌、
共産主義と信条。いまは音楽だけが彼に涙を流させる。

はじめての恋で結婚した彼、その相手は長い巻き毛を
小さな背中まで垂らしていた。彼がたまに
彼女を引きよせると、その手を髪がおおって
縄を結ったようになった。

いまは一人で住んでいる彼。崩れやすい、一つの生きている記憶が
椅子に横たわり、部屋が彼のまわりを廻る。
あなたは訪れはするが彼に話すことがあったためしがない。
彼はあなたの歳には一人の男だった。
あなたは彼があなたの名前を口にするたびに後ずさる。

あなたのお母さんのお父さんは、
殉教者と呼んでもいい人で、
水の中でも四秒あれば
銃に弾丸をこめられる。

初夜すらも戦場になった。
アーミーナイフ、若い花嫁、
彼女の足のあいだのイタリアンリネンをつかみながらむせぶ彼の涙。

日にさらされた写真に写る彼の顔は、
赤茶けた顎髭と銀の眉
使い古しのハンカチとクフィ帽子そして杖。

あなたのおじいさんに死期が迫る。
「国に帰しておくれ、ヤケイ
最期に一目見たいだけなんだ」と彼がせがんでも
あなたに伝える術はない、それについては
彼がこれまでやってきたようにはいかないと。

原註:
ヤケイ・ソマリ語で会話中で感情を強くあらわすときに使われる表現。
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