第286回目はフジ・連写カルディア・ビューンの登場です。

以前にマルマンエクスプレス(第244回目&第272回目)という高速連写のカメラをご紹介しましたが、レンズは1つで、巻き上げスピードをアップすることで高速連写を実現していました。一般的な連写の方法はマルマンエクスプレスの形式ですが、フジ・連写カルディア・ビューンの方はというと、ずらりと並んだ8個のレンズで、フィルム2コマ分の中に次々と撮影していくという方式。シャッターを押すとアルカリ単三乾電池2本のパワーサプライを受けた高出力モーターのうなりとともに「カタカタカタカタカタ…」という軽快なサウンドを響かせながら、それぞれのレンズに対応するシャッターが次々と切れていきます。このようにして一気に8枚の連続写真を撮影してしまうんですが、このカメラの後継機種カルディア・ビューン16にいたっては同じくフィルム2コマ分をさらに上下に分割し、16個のレンズでもって一気に16枚もの連続撮影を可能にしています(オクでは5000円くらいで出ているのでとても手が出ません)。一度に複数枚の写真が撮れるカメラということでは、おそらくこの連写カルディア・ビューン16が世界チャンピオンではないかと思います。これ以上はもう「動画」の世界であり、銀塩スチルカメラとしてはここらが限界だと思います。ちなみに高速連写番長のキヤノンニューF-1ハイスピードモータードライブカメラ(1984年/130万円という価格は良心的だと思う)が、秒速14コマでフルフレームの王座に君臨していますが、値段がぜんぜん違うんですから14枚ぐらい撮れてあたりまえです。そう云われてくやしいようなら「この連写ビューンみたいに2万円くらいでもやれんのか?」とも云ってやりたい。

しかしまあ、こういうカメラでいったい何を撮るのかというと、意外に適当な被写体がありません。ゴルフや野球のフォームチェックとか競馬や競輪のゴール前とか、そんなものしか思いつきません。しかもこのカメラ、単写⇔連写とかいうような切り替えもないので「普通の写真を撮りたいのなら、どのカルディアでもいいからもう1台べつに買ってね」ということになります。このようにひじょうに特殊なカメラなので、当時このカメラを買った客はそうとうな覚悟をもって購入に踏み切ったことと思います。それでも連写に適した面白い被写体がそうそうあるわけではないので、ふつうの客のもとでは「宝の持ち腐れ」状態だったと思います。このカメラにキズがほとんどないのも、使われることがほとんどなかったことを物語っています。最初に購入した人はお気の毒様でした。

さて、日頃から1本でも余計にフィルムを買ってもらいたい、客に喜んでもらいたいと頑張っている富士フイルムや小西六の熱い気持ちは、各カメラメーカーやユーザーたちの想像を絶するものだったに違いありません。しかし、職業写真家とりわけ「機材フィルム会社持ち」の報道カメラマンなんか、飯のタネのためにたいがい世話になってても、どこまで富士フイルムや小西六に感謝してたかわかりません。また、スタジオで撮ってるカメラマンだって、自腹でフィルムを買ってるとはいえ、やれ色ノリがどうの粒状性がどうのと文句ばっかり云って、両社を大いに困らせていたに違いありません。しかし、これらプロと云われるような人たちは、なにを撮ったらいいのかわからず持て余してしまう素人とちがって、このカメラを活かす技術と経験があるわけですから、こぞって両社に感謝しつつ、この「連写ビューン(8でも16でも)」を購入して、自身の表現領域の拡大につとめるとともに、その撮影データを積極的に公開し、この連写カルディアビューンの販売拡大に協力する責任があったのではないかと思います。

さてところで、カメラの名付けはコニカが上手で、フジもなかなか上手いんですが、それにしても「連写ビューン」って名前がじつにカッコイイ! キヤノンの「連写一眼」なんかと比べて段違いのスピード感があります。ほんとうはキヤノンもAE-1(第73回目)を出すとき「連写ビューン」を考えていたと思います。しかし「ビューン」とするにはあまりにお粗末なスピードだったので、あきらめたに違いありません。なにしろこちらはあっという間に8枚もしくは16枚の写真を撮ってしまうのに、AE-1は秒速2枚程度のチンタラスピードなんですから…。なので「連写一眼」にしたのは大正解でした。しかし「ホンモノの連写スピード」というのはこういうものだということを、おそらく大半のAE-1ユーザーは理解できなかったはずです。またAE-1のユーザーにかぎらず、連写ビューンのようなカメラを、「ゲテモノ」扱いするような方はけっこういらっしゃっると思います。しかしこういった特殊なカメラをきちんと評価できないようでは、みずから「底の浅い」カメラマニアや写真ファンであることを白状しているのと同じです。かりに「やっぱゲテモノだろ」と思っていても、なにか云ってくる相手に「こういうカメラが分かんないようでは、まったく浅いなあ君も」と一発かませば、じゅうぶん相手をビビらすことができます。
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