323回目はコダック110テレ・エクトラ2の登場です。

スマホが一般的になる前は「折り畳み式携帯の時代」があって、その前は「折りたためなくてアンテナの付いた携帯の時代」がありました。なにかのドラマで、当時人気絶頂のキムタク(それ以前は鶴田浩二)がこの引っ込んでいるアンテナを口で引っ張り出すのを見て「カッコいいなあ」と思い、自分もマネしてやったりしてました。キムタクとponkotsutousanの違いは端末が一番安いものだっただけで、あとはもうまったく同じでした。で、そのあと長年折り畳み式パカパカ携帯を使っていたんですが、昨年春とうとうファーウェイのスマホ(302回目)に切り替えてしまいました。とはいうものの、電車内とかで乗客がスマホの画面を見ていたり音楽を聴いている姿に、少なからぬ違和感を感じるお年頃。車内でするヒマつぶしが新聞や文庫本を読むことからいまだに抜け出せず、いまでも長時間電車に乗るようなときには小説の12冊を持っていったりするので「そうかそうだったのか! わかったぞ! なるほどオレはこうやって時代からドロップアウトしていくわけだ!」とひとり納得したりなんかしてるわけです。

さて、こないだうちもコダックのAPSカメラ(313回目)を2台登場させて「コダックの本気」について語り(騙り)ましたが、今回もかつての超高級機「コダック・エクトラ」の大名跡を継いだ110カメラ、テレ・エクトラ2について語って(騙って)いきます。コダックのカメラというと「1人でも多くの客に1本でも多くフィルムを買わせるためだけに特化した、ちゃっちいカメラばっかり」と思われる方も多いと思います。じっさいそうしたカメラが多いのは確かで、ほとんどがそうだといっていいかもしれません。しかし、カメラというのはそもそも「フィルムを消費させることを目的として作られている工業製品」なので、フィルムメーカーでもあるコダックにしてみれば、当然とるべき態度であり製品であります。もちろん感材(フィルムや印画紙など)ではガリバー的な存在で、映画用フィルムの世界でもイーストマン・カラーが他社のフィルムを圧倒していました。また、エクター銘を冠するあまたの名玉を作ってきた優秀なレンズメーカーであると同時に、プロ用カメラも作るカメラメーカーでもあったわけで、わたしらコダックのカメラと聞くと、ついついイージーオペレーティングのちゃちなカメラを思い浮かべてしまいがちですけど、そんなしけたカメラばかり作ってたメーカーではなかったということです。

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このカメラは、オリンパスXAに始まるケースレス機(前蓋というかレンズバリアでレンズを覆うカメラケースを必要としない形式のカメラこと)のひとつと巷間思われているようですが、それは大きな間違いで、結果的にケースレス機となってしまったにすぎません。その設計のコンセプトからしてケースレス機でないことはたしかかで、ponkotsutousanもあやうくこのカメラのもつ本質的な部分を見落とすところでした。「言っている意味がちょっと分かんない」という人も多いと思いますが、このカメラの場合、カメラケースと思われている部分はあくまでグリップであって、結果的にカメラ全体を覆うことになったということにすぎないんです。ここが分かっていないとこのカメラの正当な評価ができないので、お越しの皆さんはこの点をふまえてここから先を読んでくださいね。んで、電池カバーがグリップになってるのはよく見かけるんですけど、グリップがカメラのケースになってしまっているのはこのテレ・エクトラ2以外にも僚機エクトラ1、エクトラライト200、エクトラCROSSなどいくつもあります。名前も大名跡を襲っていることから分かるとおり、コダックにとっては相当自信のあるシリーズだったのでしょう。ひじょうにプロフェッショナルかつダイナミックなデザインで、こうしたところにコダックの卓越したデザインセンスを見ることができます。コンパクトであることが110カメラの身上なので、レンズが傷つかないようにするためなら、レンズの前だけ何かで覆えばいいんです。ところがそんな平凡な発想では飽き足らないコダックは、レンズはもちろんカメラ全体をなにかで覆ってしまおうと考えたんでしょう。そこで思いついたのが「ケース兼用のグリップ」。ためしにこの部分を握ってカメラを構えてみたらこれがなんと、普通の羊羹型110カメラを構えるより、ほんのちょっぴりですが明らかにバランスが良い! ほんのちょっぴりくらいなら、なにもこうでなくてもいいようなもんですが、1日に何千回何万回とシャッターを切るプロカメラマンにとっては大きな問題です。ようするに「こうした小さなカメラにこそグリップが必要」ということを、コダックは真剣に考えていたんですね。まして「テレ・エクトラ2」という名前のとおり望遠レンズも搭載。ストロボも付けずに軽量化をすすめた結果、実測で205gという超軽量をも実現しています。ここまで軽いとたとえプロカメラマンであっても、手振れなく望遠撮影するためには大型のグリップが必要です。コダックはそこまで考えてこのカメラを作ったのであり、ponkotsutousanが「あやうくこのカメラのもつ本質的な部分を見落とすところだった」というのは、つまりこういうことなわけです。

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折り畳みカメラというのは、使わないときは少しでも小さくなるように折りたたまれるわけですが、この110エクトラシリーズのように折りたたむことで体積が半分になってしまうというのは他に例がなく、折り畳み縮小率では世界最大だと思います(ポラロイドSX-70が次点か?)。もちろん下の写真のように、カメラ本体とグリップを分割することも可能です。プロフェッショナル向けに「フィルムの装填の確実性・安全性を極限まで高めたインスタマチック方式」「明るくシャープな写りで評判の標準・望遠の2つのレンズ」「大型のグリップはそのままレンズカバーにもなる」というコダック独自の先進設計には、世界制覇を果たした日本のカメラメーカーでも追いつくことは能いませんでした。日米の設計思想の差もあるかもしれませんが、カメラカバーを兼ねる大型グリップについては「軽量ボディに望遠レンズを搭載する場合、どのようにすれば最適なのか?」という疑問に対するコダックの回答がこのカメラであり、こうした発想が日本人にはできなかったとこういうことなんですね。まさに、コダックおそるべし。もしこのテレ・エクトラ2を素人向けのカメラだと思っているのであれば、それはカメラの見方としてあまりにも浅い。このテレ・エクトラ2はそれほど「高度な思想をもったカメラ」なんですよ。

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いまやコダックのカメラの素晴らしさについて、再評価が必要な時代になったのではないでしょうか。あるいは「時代がコダックに追いついた」と云い換えてもよいのかもしれません。レンズは標準・望遠の2つ。標準レンズはシャッターの後ろ側にあり、前から見ると横走りメタルシャッターが丸見えですが、望遠にすると前玉が現れ、標準レンズとごっそり切り替わります。たいへん贅沢な2焦点システムで、安易にズームレンズにしなかったところも流石です。もちろん目測によるピント合わせで(ファインダー内には距離を示す人や山のピクトグラムがある)、絞りはフラッシュを使う場合のみ切り替えです。シャッタースピードも単速なので、フィルムのラチチュードに全面的に依存することになりますが、それでキチンとした写真が撮れてしまうインスタマチックフィルムっていったい…ポラロイドフィルムと並ぶ「まさに夢のフィルム」といっていいと思います。やはりアメリカ人の考えるカメラはやばい、一味も二味も違います。物事は一面からだけ見ているととんでもないことになってしまうものですから、みなさんもよくよく勉強してくださいね。以上!

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