3 当裁判所の判断



 当裁判所は,控訴人らの本訴請求は理由がなく,被控訴人山口の反訴請求は,原判決認容の限度において理由があるが,その余は理由がないものと判断する。

 その理由は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。



1 原判決1922行目の「本件記者会見」の前に「献金訴訟の提起及び」を加え,同頁23行目の「(1)」の次に以下のように加える。



「まず,控訴人らは,本件記者会見における献金訴諾の内容の開披の前提として,献金訴訟の訴え提起自体が不当訴訟であると同時に,被控訴人ら両名は,訴えの提起が控訴人らの名誉を毀損するものであることを認識しながら,または,容易に認識し得たのに,敢えて献金訴訟を提起したものであると主張する。

 被控訴人らの認識の点は,後記に説示するところの事実の摘示が真実であるか否か,真実であると信ずるにつき相当の理由があるか否かと密接に関連する事項であるから,詳細な検討は後記のとおり であるが,控訴人らは,献金訴訟の提起自体をも名誉毀損行為として問題とするものとも解されるので,この点につき若干触れておく。

 まず,訴訟の提起自体により,被告とされた者の名誉が毀損されるか否かについては,この段階では,裁判所において事件が受け付けられ,訴状の内容的な審査がされても,訴状は,厳格な守秘義務 を負う書記官,裁判官の目に触れるだけで,これが流布されるおそれはないから,結論として否定的に解される。

 もっとも,審理が開始され,法定における訴訟活動が開始されることに伴い,限られた法廷の場においてではあるが,主張,立証活動を通じ相手方の名誉を毀損することが全くないとはいえないもの と判断される。しかし,弁論の全趣旨によれば,控訴人らがこの審理遂行の場において控訴人らの社会的評価が低下されて各人の名誉が毀損されたことを問題としているものとは解されないから,結局, 被控訴人らの行為が控訴人らの名誉を毀損したか否かは,本件記者会見を始めとする被控訴人らの各行為につき検討すれば足りることとなる。」



2 同2110行目から17行目までを次のとおり改める。



「(2)次に,控訴人△△及び控訴人××については,確かに,前記各報道機関の報道内容は,被害者とされる被控訴人●●に対し脅迫を行った者の名前を公表することなく,単に,控訴人幸福の科学の幹部らとするのみであったから(甲23ないし35),これらの報道が読者や視聴者に対し,幹部らとは同控訴人らを指すものであるとの特定まで可能としたものとは認められない。

 しかしながら,本件記者会見において配布された献金訴訟の被害者であるとする被控訴人●●については墨で抹消しながら,控訴人らの住所,氏名はそのまま残されていたのであるから,その配布を受けた報道関係者という不特定多数者の視聴に達することの可能な状態に置かれているものであり,報道記事に名前が出なかったとしても,同控訴人らの社会的評価は,上記状態に置かれた時点で既に低下し,各人の名誉が毀損されているとみるべきである。なお,控訴人△△及び同××の氏名が報道されなかった経緯は必ずしも明らかではないが,犯罪的事実に係るものと判断された結果,報道機関において自制したことによるものと推認され被控訴人山口のその旨の申し出によるものとも認められない(そうであるなら,献金訴訟訴状の同控訴人らの氏名も抹消された筈である。)。」                          



3 同255行目の「認められる。」の次に,「また,本件記者会見に先立ち,被控訴人山口が献金訴訟の訴状を報道関係者に配布したことは,控訴人××及び同△△に対する名誉毀損となるものと判断される。」を加える。



4 同329行目の「嫌がらせが続いていたことを」の次に「虚偽であると認識しつつ献金訴訟を提起したものであるかどうか,あるいは,これらの事実を」を加える。



5 同389行目の「勧誘が行われていること」の次に「(その日時,場所,控訴人△△の言動は,必ずしも個々具体的に特定するには至らないが,乙189ないし200の各12によれば,平成2年から3年にかけて,山梨地区における会員の拡大,伝道につき,その中心となっていた控訴人××が,被控訴人●●に対し,やってなんぼの世界であること,甘えは許されないこと,霊の世界を信じること,三宝帰依し,支部長に感謝すること,心から同控訴人に帰依すること,財に執着していると無間地獄,阿鼻叫喚地獄に落ちる(平成3324日),全生命を伝道にかけろ,献金しろ」などの指示,説法を日常的に行っていたものと認められ,研修会の席上,控訴人△△も「死ぬ気になって伝道せよ」などの指示をしていたことが認められる。)」を加える。



6 同3815行目の次に改行の上次のとおり加える。



「確かに,献金訴訟につき,平成11525日東京地方裁判所により判決の言渡しがされ,同判決は,被控訴人●●の請求を棄却したこと,その理由は,被控訴人●●が大学卒業し,神道の修行経験など を有する成人男子であり,各金員交付の平成212月から平成36月まで,大川の教えにのめり込み,養父や埋草神社の関係者に対し普及のため会員を勧誘したり,控訴人幸福の科学の職員にまでなったほか,多額の貸付金をするなど,控訴人××とも個人的に友好関係を維持していたことが認められるから,控訴人△△の地獄に堕ちるなどの言動に接することがあったとしても,金員交付につき自由意思を抑圧されて強いられた違法なものであったとは認めるに足りず,400万円については交付事実も認められない,というにあり,更に,控訴審判決(甲192)では,むしろ積極的に被控訴人●●の自由意思による献金事実が認定されているところでもある。

 しかし,前記認定の事実経過のとおり,平成212月から平成55月まで,相当回数に亘り,本件金員1ないし3以外にも多額の金員が貸し付けられたのは,控訴人幸福の科学からの相応の働きかけの結果と推認されるし,その貸付金が一度は返還されたものの,控訴人幸福の科学の職員から,再度献金すべき旨慫慂されたり,それを前提とする確認がされている事実が認められるのであり,被控訴人●●とすれば,いわれのない他の宗教団体のスパイ嫌疑をかけられ,控訴人幸福の科学によるものとしか考えられない嫌がらせ電話や監視などが引き続いたため,同控訴人や大川の教義に対する疑念を抱き,控訴人幸福の科学との関わりを冷静に見つめるうちに,信仰心の証明として,「与える愛の実践」という口実で貸金や献金を強制し,「天の倉に冨を積む」とか「仏陀への報恩」などの美名のもとに献金を強要され,あるいは「執着すれば地獄に堕ちる」,「和合僧破壊」など,教義又は教団を除名することへの恐怖心を煽って巧みに献金を強要されたに過ぎないと思い至り,献金訴訟の提起を決意したものと認められる(乙122)。

 献金訴訟判決の判断は前記のとおりであるが,一般に,入信後間もない信者に対し,多額の献金をさせて教団との関係を密にさせるとともに,教義を盲信する当該信者に対し,教団との関係断絶や教義上の不利益が躍ることをほのめかせて更にその後の献金を求めたりする方法が違法性の強い献金慫慂手段であることは疑いを容れず(乙204),事後的に冷静な判断をしてみれば,被控訴人●●の献金がこのような類のものであったとする同被控訴人の認識も,一方当事者の評価,主張として全く成り立ち得ないではないのであるから,献金訴訟においてその主張が容れられなかったというのみで,被控訴人●●が虚偽の事実をねつ造するなどし,献金訴訟の提起により控訴人らの名誉が毀損されることを認識しながらその訴え提起をしたものとは認められない。



7 同493行目の次に,改行の上,以下のとおり加える。



「控訴人は,上記判断は,その指摘する最高裁第3小法廷昭和63126日判決・民集4211頁の「訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限り,訴の提起が相手方に対する違法行為となる」旨の判示と相反する不当なものであると主張し,その根拠として,前記のとおり,献金訴訟における被控訴人●●の主張は排斥され,真実ではなかったことが確定されていること,訴額が過大であるのは,控訴人幸福の科学の宗教法人としての名誉侵害が大きく,その回復に膨大な費用を要することに思いを致すべきであること,そもそも,献金訴訟において,控訴人らは勝訴しているのであり,敗訴に終わった提訴行為の違法が問題とされる事案ではないことなどを主張し,仮に,訴えの提起自体が問題とされるとしても,本訴は,献金訴訟の記者会見等における名誉毀損行為に対し,動揺している一般信者及び視聴者に対し,名誉を回復するための正当防衛的なものであり,この法理により,少なくとも違法性はなく,損害賠償の責任を負うことはないというべきであるとも主張する。

 しかしながら,本訴提起の経過,その背後に推課される目的,その意思決定過程における大川の関与程度,同人の本件訴訟に対する認識と意図した利用目的などは前示認定のとおりであり,仮に,控訴人幸福の科学の主張する上記防衛的目的があったとしても,主たる目的が前記のものであると判断されることも前示のとおりである。

 裁判制度の利用は国民の権利行使の側面から,その不当性を認定するについては,極めて慎重であることを要するが,この点を考慮しても,本訴提起には優に不当性を認めることができる。

 なお,被控訴人山口は,前記のとおり主張して,慰頼料500万円及び訴訟遂行のための膨大な費用のうち300万円の請求は,いずれも極めて控えめなものであり,同被控訴人が現実に出指した160万円は相当因果関係のある損害であって,訴訟代理人への委任を余儀なくされたことにより,本来支払われるべき弁護士費用額をも考慮すると,800万円の請求は当然に認容されるべきであるとして,原審敗訴部分にてき附帯控訴を提起している。

 しかしながら,上記のとおり,本訴請求の請求額が全額認容される可能性の少ないものであること,被控訴人山口は,この種事件の訴訟活動を長年遂行してきた経験もあること,献金訴訟の帰趨が被控訴人●●の主張を排斥し,結果的に控訴人らの主張を酌んでいること等の本件に現れた諸般の事情に照らせば,被控訴人山口に対する認容額は上記の限度で相当であって,同被控訴人に対し,更に認容額を増額すべき事情は見あたらない。」



7 小括

 以上によれば,控訴人らの原審本訴請求は,いずれも理由がなく,被控訴人山口の原審反訴請求は,上記の限度で理由があるが,その余は理由がない。



4 結語



 よってこれと同旨の原判決は相当であり,本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。


東京高等裁判所第12民事部

 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 

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