2005年05月01日

三浦カズへの手紙

『三浦君へ』
(三浦知良選手への手紙)


 「俺はサッカー界の長島茂雄になりたいんですよ」と笑顔で語ってくれた君は当時18歳。その君と池袋で飲んだくれたのは、もう20年も前のことです。

 大学受験の合格発表の日、予備校で知合った静岡出身の山根が「ブラジルにいる後輩が久しぶりに帰ってくるので紹介したい」と連絡してきたので、東武百貨店の最上階にあるバーで待ち合わせたんだ。貧乏な浪人生の僕が知っていた当時唯一のお洒落な店で、夜景がきれいなショットバーだった。
 山根と一緒に現れた髪の短い男が、18歳の君、三浦カズだった。静岡学園を中退して15歳で単身ブラジルへ渡りサッカーをしていた君が、一時帰国をした際に山根へ挨拶によったのだった。「だれだかわかるか?サッカーの三浦だよ」と鼻高々に語る山根。しかし 僕は君のことを知らなかった。
 あえて言い訳をするけど、そういう時代だったんだ。当時メジャーなスポーツといえば野球。サッカーといってもまだJリーグの発想すらなかった時代。実力もないくせにジャイアンツの選手というだけでテレビに出まくれる野球と違い、当時既に日本トップレベルの技術を持っていたサッカー選手も知名度は全国区ではなかったわけだ。僕は君の名前を知らなかった。
 「どうも、はじめまして、三浦です。」ぺこりと頭を下げ、デップで立たせた髪をこちらへ向けながら笑顔で挨拶する君は、気さくで無邪気、精悍で礼儀正しく、男らしかった。「サッカーが物凄くうまいんだ?」「いやいや、大した事ないですけどね。」あの三浦カズをつかまえて「うまい」もクソもないもんだが、その当時の僕にはその程度の認識しかなかった。本当に恥ずかしいことだ。

 君の一年先輩だった山根は、君という男がいかに優れた選手で飛びぬけた技術を持っていて、これまでどれだけの実績を残し、その結果日本のサッカー界でどれほど有名であるかを、注文したビールをぐびぐび飲みながら熱く語ってくれた。というより、せっかくスター選手を紹介してるのに僕がその価値を全く理解していないので頭にきていたのかもしれない。無理もない。
 もっとも、サッカーを知らない僕にも君がとてもいい奴だという点はすぐに理解できた。いい意味で不良、冗談がうまく、なのに礼儀ただしい。僕の数々の幼稚な質問に対して、君は決して馬鹿にすることをしなかった。一つ一つ丁寧に、僕にわかるように答えてくれた姿は、現在の君の丁寧なマスコミ対応としっかりと重なる。いま思い出しても君は大人だった。15歳で志をもつ人間はやはり違うのだろう。
 「プロ契約するかどうかは、まだ迷ってるんですよね」と、その時君は言っていたので、あの時点ではまだ契約はしていなかったのだと思う。「ソクラテスみたいなスター選手なら稼げますけど、今の俺みたいなのが契約しても、はたしてあそこで食っていけるかどうかね。」これから親の金を使って大学へ行こうとしてる僕には、目の前にいる自分より若い男が、ブラジルという国でサッカーをして生計をたてるという意味がよく理解できずに、頭がくらくらした。
 「三浦くん、俺は正直サッカーをよく知らないんだけど、たとえば野球選手ならプロ入って活躍して最後は日本シリーズ勝って、みたいな目標があるでしょ。サッカーしてる人というのは、何を目標にしてるの?最終的な目標はどこにおいてるの?」これに対する君の答えを、僕は死ぬまで忘れない。君はこう答えた。

「日の丸しょってワールドカップに出る事でしょうね」

18歳の君は、既にこの頃から日本をワールドカップへ連れて行くんだと、本気で考えていたのだ。Jリーグなんて単語もない20年前のあの当時、ワールドカップへ出場するんだと真剣に考え、実際に闘っていた人間が、日本サッカー界に何人いただろうか。いや、一人でもいただろうか。
 フランス・ワールドカップの代表選考で、君が日本代表から漏れたとき、ぼくは真っ先にこの言葉を思い出して泣けた。少年時代からずっとワールドカップへ出ると信じて闘い続け、日本のサッカー界を今の地位にまで押し上げた男が、時代がやっと君に追いついたその時に既にピークを過ぎていたとは、なんと残酷な話だろう。記者会見で君は「魂みたいなもんは、むこうに置いてきた」と胸をはった。その魂とは10代の頃からずっと燃え続けていたのだということを、僕は知っている。

 君はその後もずっと闘っている。その闘う温度は昔から一度も下がっていない。君とはそれ以来会ってないから、僕のことを憶えているはずもないだろうけど、ほんの一瞬だけでも君の人生と交差できたことは、僕を生かす強い力となっている。君の魂は僕の心にも確実に勇気を残してくれた。今年は三連続ゴールを決めて絶好調。うれしい。そして君のゴールを、サッカーを知らない人も含めて多くのファンが心から喜んでいて、これもまたうれしい。君は昔も今もスーパースターだ。

 「サッカー界の長島茂雄になる」
当時の僕にはその言葉の意味がよくわからなかった。でも今ははっきりと理解できる。そうだったのか、カズ。君はなんてかっこいい男なんだ。


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Posted by ponta20032003 at 14:29│Comments(3)TrackBack(0)kazu 

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この記事へのコメント
いつも拝見しております。
Posted by poke at 2005年05月31日 18:34
なけました…
カズ、いまいち抵抗ありましたが好きになりました。
Posted by tizuru at 2005年06月04日 15:04
5
サッカー界の長嶋にもうなったよ昨日で
元気をくれてありがとうカズ
Posted by n at 2011年03月30日 20:12