3月7日(木) 18:30〜 @神保町ブックハウスカフェ

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12月から始まったJBBY国際アンデルセン賞講座の最終回、5回目は1984年に画家賞を受賞した安野光雅さんの人と作品についてでした。講師は、現絵本学会会長で、元福音館書店の編集者の澤田精一さんです。





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この日は冷たい春の雨が降りしきっていて、当日キャンセルの方も多かったようですが、会場には前絵本学会会長で、安曇野ちひろ美術館の松本猛さんもいらして、澤田さんのおはなしを楽しみにしているようでした。


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講座の資料として、安野光雅さんの受賞を知らせる1984年7月発行の「JBBY会報No.32」の「1984年度国際アンデルセン賞選考結果」という記事や、1984年10月の「JBBY会報No.33」掲載の「アンデルセンの絵と私−画家賞受賞の言葉−安野光雅」という記事のコピー、福音館書店から出されていた雑誌「子どもの館」1977年12月号の安野光雅さんの「自然は芸術を模倣するか」という論文のコピーなど、貴重な資料が配布され、これだけでも講座に参加した甲斐があったなあと思いました。


澤田さんは福音館書店の編集者だった時には、安野さんと一緒に『にほんご』という理想の国語の教科書を作る際にはじめて一緒に仕事をされたそうです。


さて、そんなご一緒にお仕事された中で澤田さんしか知らない安野光雅像が明らかにされるのだと期待していると・・・もちろんその期待に応えてくださったのですが、澤田さんの安野光雅評は意外に厳しかったのです。


澤田さんから見ると、安野光雅さんはデザイナーであり、優秀な画家かもしれないけれど絵本作家とは言えないのではというのです。

というのも、安野さんの絵本はストーリーを追って行くというよりも、ひとつひとつのページをじっくりと見ながら、読者が想像を膨らませて絵の意味を読み取っていくものだからというのです。

たとえば世界的な評価を得た『ABCの本』などは、まさにデザイナーならではのアルファベットの表現です。
ABCの本 (安野光雅の絵本)
安野 光雅
福音館書店
1974-10-01


『国際アンデルセン賞の受賞者たち1956〜2002』(さくまゆみこ、福本友美子/訳 メディアリンクス)には、『ABCの本』についてこのように書かれています。
“後に安野は、『ABCの本』のような、もっと複雑な絵本を出版する。この絵本は、アルファベットの文字が「現実にはありえない」木目の文字で描かれ、まわりの縁飾りには、その文字ではじまるものが表現されている。「ぼくは日本人なので、アルファベットを非常に身近なものと感じたことはありません。だからこそアルファベット文字を素材として客観的にとらえ、自由にデザインできるのです。アルファベットと文化的に深いつながりを持ってきたヨーロッパ人は、簡単にはぼくのような距離感をもてないでしょう。レタリング芸術は、長くて濃密なデザインの歴史の重みを背負わされているせいで、逆にアイディアがせばまってしまっているのかもしれません。」(p69)

安野光雅さんの代表作『旅の絵本』の原画を、福音館書店の編集者時代に見ていた澤田さん。緻密なタッチで中世の町が描かれ、街道沿いに同じような家々が並んでいるのですが、あれはパターン化されていて、トレーシングペーパーを使って、連続性があるように輪郭を写し取っていて、まさにデザイナー、イラストレーターの手法だったというのです。

なるほど・・・描き方の問題ってことかな???

澤田さんが、the絵本作家と思うのは、井上洋介、スズキコージ、飯野和好、大竹伸朗など情念を感じられる人で、ストーリーと絵が一体化している人で、安野光雅さんの絵本にはその情念は感じられない、スマートなデザイナーであるとおっしゃって、結構辛口なのでありました。

それに対してちひろ美術館の松本さんが反論された質疑の時間が、この回ではすごく盛り上がりました。

松本さんの反論をまとめると・・・『旅の絵本』は多視点を用いた新しい表現であった。二次元、平面の中に、歴史的な時間の経過、つまり三次元をを組み込んで描きこんでいて、安野さんのオリジナリティがそこにある。背景となる家や風景がたとえコピペ手法(といってもご自身の絵ですが)だったとしても、絵本としてワクワクできて面白いし、これも絵本の表現としてその当時新しいものであった。

わざと遠近法を崩し、多視点で描くこの情報量の多さが安野さんの絵本の特徴であったし、のちにパリで赤羽末吉・瀬川康男・安野光雅三人展の時に、安野さんの絵本がいちばん日本的だと評価されていた。たぶん安野さんの『旅の絵本』の手法が絵巻的であるという評価だったのだと思う。また『ABCの本』は、日本にもこのような絵を描ける人がいるとヨーロッパで評価が高く、欧米で受け入れられたことが国際アンデルセン賞受賞につながったのだろう。

そんな風に、松本さんが安野さんの絵本を評価し、それに対して別の方からの質問が飛んで面白かったです。

前絵本学会会長の松本さんVS.現絵本学会会長澤田さんの論議に、みなさんも注目していました。


その後の澤田さんを囲む懇親会で、安野さんの絵本はストーリー性はなく、イラストの楽しさを味わうものが多く、それは画集でしょう、厳密には絵本とは呼べないという本音も聞けて、なるほど、絵本とはなんだろと深く考えるきっかけももらいました。


次年度も続けられるJBBY国際アンデルセン賞講座、どんな風な内容になるのか、とても楽しみです♪