ポロリのハローグッドバイ

関西を中心とした出会い体験記です。 風俗や出会い系、クラブなどの色んな女の子たちとの美しい出会いと別れについて深く追求していきます。 殆どは多くの人が体験するあるあるネタだと思います。

ダイヤモンドになれなかった人のために 第6話

前回の続きです。

     〇

「全員が同じ物を見て、全員が同じような感想しか抱きようがない」
そういったものに昔からおれはあまり興味を持てなかった。
そのうちの一つに「花火」がある。

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花火。


花火、好きですか?
もし誰かにその質問をされたら、おれはすごく悲しい気持ちになると思う。
なぜか。
二度と本当の花火を見ることができないからだ。

     〇

2017年8月下旬。
誰かが言った。人生において何かを始めるのに遅すぎることはない、と。
しかし8月下旬は何をしようと思っても遅すぎる時期なのかもしれない。
夏が終わるから。


そんな夏の終わりに彼女と花火大会に行くことになった。
毎日のラインのやり取りの流れでその約束はスムーズに取り付けられた。
夏らしいことがしたいね、夏が終わる前に、じゃあ花火を見に行こう、みたいな感じだ。


それは宿命を背負ったように自然なデートの約束の仕方だった。
生まれる前からすでにこの花火デートが予定されていたかのようだった。
あらかじめ自分の人生にプログラミングされていたイベントをシステマティックにこなす感覚でおれはその日が来るのを待つ。
でも彼女と会えること自体は最高に幸せだった。


アポイント二日前の夜。
「あと二回寝たら、ポロリくんに会える!」と彼女からラインが。
なんてカワイイんだろうと思った。
こちらも渾身の「おれも早く会いたい」を返す。


喜びを噛み締めながら、二回寝る。

     〇

デート当日の週末。
夕方に大阪駅で彼女と待ち合わせる。


彼女と合流する。
長い黒髪をシニヨンにした色白の彼女は蝶々柄の深い紺の浴衣を着ていた。


彼女の浴衣姿は泣きたくなるほど美しかった。
浴衣姿が綺麗で似合っているという次元を遥かに超越した凄絶な美の臨界点が眼前にあった。
現実世界というフレームに到底おさまらない彼女の極限の優美さは、その日すれ違った他の全ての浴衣女子の存在価値が強制的にゼロになるほど容赦なくおれを虜にした。
絵画でたとえるなら黒田清輝の代表作の一つ「湖畔」で確立された近代日本の美しい女性像を100万回アップデートした完璧な浴衣姿の超絶美女がおれの彼女として目の前で雅やかに微笑んでいた。


誰かが言った。カワイイは作れる、と。
だけどこの瞬間、おれは知ってしまった。
本当のカワイイは、作れない。
「作れる可愛さ」がどれだけ頑張っても根本的な部分で絶対に超えられない壁を余裕で超えた真の美を備えた存在が彼女だった。


挨拶を交わす。
ドキドキしながら彼女の浴衣姿をカワイイねとシンプルに褒める。
彼女は少し照れて嬉しそうに礼を言う。
そして、おれにカワイイと言ってもらうために頑張って浴衣を着て来た、と彼女は少しあざとく言い添える。


いくら褒めても褒めきれないほど彼女は可愛すぎた。
だからそれ以上の言葉が出てこなかった。
圧倒的な美しさの前に何も言わない以外の選択肢が見当たらない。
語りえないものについては、沈黙するしかないのだ。


電車に乗る。


本日おれたちが行く花火大会は、なにわ淀川花火大会でもなく、教祖祭PL花火芸術でもなく、天神祭奉納花火でもなく、びわ湖大花火大会でもなく、みなとこうべ海上花火大会でもない。
名前は伏せるが、それほど知名度のない花火大会だ。
ローカル色の濃い、だれどそれなりの規模でそれなりに多くの花火が打ち上がる花火大会だった。


ややマイナーな花火大会をチョイスすることで特別感が出る。
そして、邪魔のない二人だけの幸せな時間が作り出せる。
そんな狙いが少しあった。
だけど実際は日程的にその花火の日しか予定が合わなかった。


目的の駅に着く。
改札を出るとお祭りムード一色の賑やかな街が。
花火の観客でかなり混雑していた。
人々が向かう方向についていく。


二人とも初めて行く花火大会だった。
来場客の過半数が地元民で占められているように感じた。
そんな中を異邦人のように紛れ込む。
そうするとどこか小旅行気分を味わえた。


駅を出る前に構内の自販機でペットボトルのお茶を買う。
花火会場で飲み物を買うと異様に高くつくと予想されたから。
ペットボトルを片手に彼女と並んで歩き出す。


自分が飲む前に、彼女も喉が乾いているかと思ってお茶を差し出す。
彼女の白い手が緑のペットボトルを受け取る。
そして立ちどまってキャップを開け、淑やかにお茶を口にする。
おれは少し意表を突かれた思いで彼女に合わせて立ち止まる。


立ち止まって飲むんだ、とおれはある種のカルチャーショックを受けた。
後ろを歩いていたカップルも「そこで止まるんかい」という感じでおれたちを避けて追い越す。


浴衣姿の彼女は端然と直立してペットボトルのお茶をするすると口に注ぐ。
その姿の奥ゆかしさはコマーシャルの女優みたいというレベルで済まされなかった。
飲み物を飲むという行為がこんなにも崇高な行為に昇華されるなんて信じられなかった。
神話の一場面と見まがうほどだった。


それは特別な意味のない、些細でありながらも何故かとても印象に残った場面だった。
彼女のその姿はおれの脳裏にいつまでも焼き付いている。

     〇

数分歩く。
会場の河川敷に着く。
大勢の来場客がいた。


人々が密集して座っている中でなんとか二人分のスペースを確保する。
持ってきた小さめのレジャーシートを敷く。
肩を寄せ合って座る。


花火が始まるまであれこれお喋りをする。
その途中で何となくノリでツーショット写真を撮ることに。
街コンで出会った日以来の、付き合って初めて撮るツーショットだった。
アイフォンのカメラを起動して、頬を触れ合わせながらシャッターを押す。


写真を一緒に確認する。
二人とも同じような笑い方をして写っていて、ちょっと可笑しかった。


「なんか、兄弟みたいやねっ」と彼女は笑いながら言う。


そうこうしているうちに日が沈む。
辺りが暗くなる。

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中途半端に撮影された現場の風景。
密だね。


花火が打ち上がる。
暗い空に文字通り花が咲くように明るい炎が数秒灯り、四方に弾けながら重い音が響く。
人々がそれに対して歓声をあげる。
決して捕まえることのできない一瞬の輝きが消え、微かな煙と火薬の香りが余韻のように残る。


それが延々と繰り返される。
瞬間瞬間によってその階調は目まぐるしく豊かに変化していく。
清澄な夜空を舞台に風趣に富んだ光のショーが繰り広げられる。


その場に居合わせた全員でその光景を眺める。
そしてその場に居合わせた全員が綺麗としか思いようがなかった。


ただそれだけのことだ。
ただそれだけのことなのに、おれの心は激しく揺さぶられた。
揺さぶられるはずのなかった心が揺さぶられた。
泣きそうなくらいに。


おれは今まで打ち上げ花火をただの発光する図形や記号としてしか見ていなかった。
言ってしまえば視力検査の際に表示されるランドルト環と同じ扱いだった。


だけど今日の花火は、それまで自分の中にあったどの花火のイメージとも異なった。
彼女と一緒に目にするその輝きは、二人の幸福な交際を祝福しているように綾なしていた。
二人が世界から承認される象徴みたいな煌めき方をしていた。


それはただの花火に過ぎない。
だけど全く別の世界の特別な体験をしている気分だった。
大切な彼女と一緒だったから。
彼女のことが大好きだったから。


花火は続く。


手の届かない広大な漆黒の空一面を贅沢に使用して、カラフルな輝きが舞い散っては溶けるように消える。
手の届く場所にいる大好きな彼女と二人でそれを眺め続ける。
夜空を彩る花火の光の温かみを全身で浴びるように味わう。
幸福だった。


徐々に夏の夜の祭典を満たす一切の賑わいは潮が引くように遠のいていった。
やがて聞こえる音は肩を触れ合わせて隣に座る彼女の微かな息遣いだけに収束された。


静かだった。


現実的には花火の音や人々の歓声が途絶えることはなかった。
だけど現実性を失った静けさが二人の間に横たわっていた。


真の幸福を手に入れた時に感じるのは、喜びや解放や達成感ではなく、静けさだった。
それは、あるべきものがあるべき場所におさまり、一切手を加えたり削ったりする余地がなく、昔からずっと変わらずそうであったかのような、そしてこれからも永遠にそうであり続ける確信に満ちた静けさだった。


本当の花火って、こんなにも静かで美しいんだ。


おれは何も言えなかった。
圧倒的な静けさの前に何も言わない以外の選択肢が見当たらない。
語りえないものについては、沈黙するしかないのだ。


この最高の思い出を上から塗り替えることなど一生できないだろうとおれは思った。


花火が終了する。
彼女と見つめ合う。
空のように柔らかい笑顔が目の前にあった。
花火は消えても彼女の笑顔はずっと見られた。


帰ることに。
立ち上がり、手を繋いで歩く。
花火に満足した人の群れの流れに沿って。


帰り道は「あと何度君と同じ花火を見られるかな」みたいなベタな空気が流れていた。


その答えを知っているのはおれだけだった。


駅に戻ってくる。
駅前のカフェで軽食をとる。


そして混雑した駅から電車に乗る。
途中の乗り換えで彼女と別れることに。
次に会うおおよその日程を軽く話して、サヨナラをする。


幸福な気分で家路につく。
今日は終始人混みの中にいたので、イチャイチャすることなくデートが終了した。
しかし愛を育む過程として悪くないデートだったように思う。


この夏こそ二度と還らない生涯の絶頂の夏だという感慨が日増しに濃くなっていた。
そして夏が終わっても彼女との思い出は順調に増えていきそうだった。


思い出。
思い出は人の体を内側から温めてくれる。
しかしその一方で思い出は、人の体を内側から激しく切り裂き、目に見えない血を流す危険性を秘めている。
この時点でおれはそのことに気づいていなかった。本当の意味で。


形ある物は姿を消す。
花火のように。
だけど思い出は消えない。
そして、彼女の存在も消えないのだ。


姿を消さなければならないのは、おれの方だった。
決して捕まえることのできないのは、おれの方だった。


酷く傷つかずに彼女との関係を消し去るには、もう遅すぎた。
全てを捨てないとおれは彼女を愛しきれないと考えた。


全てとは、本当に、全てだった。


致命的な間違いが、全く新しい人生の舞台へとおれを導く。



第7話に続く。



ブログ完結まで

あと7話


 

ダイヤモンドになれなかった人のために 第5話

前回の続きです。

     〇

見てはいけない夢を見ていた。

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だけど、見ずにはいられない夢だった。
そして、見なければならない夢だった。
二度と、見ることのできない夢だったから。

     〇

2017年8月。
彼女はおれの彼女になった。
色んな所にデートに行こう、と話したものの、二人とも仕事が極限に忙しい時期を迎えていた。
お互いが今抱えている大きな案件が片付き次第、ちゃんとデートしようということになる。


なので次の逢引きは仕事終わりの平日の夜になった。
今回は神戸のハーバーランドで会うことに。

     〇

アポイント当日。
仕事を終え、大阪駅からJRに乗る。
東海道線を新快速で西に進み、神戸駅で降りる。
改札を抜け、海側に向かう。

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中途半端に撮影された待ち合わせ場所。(後日撮影)


「ウミエ」の無印良品の前で彼女と合流する。


すらりとした彼女は今日も嘘みたいに可愛かった。
身につけた白いシルクっぽい質感のノースリーブワンピースは彼女の究極の純潔を物語っていた。
澄んだ小川のような慎ましい美しさの中に、密やかな結晶のような可愛らしさが見え隠れする佇まいだった。
それは大谷翔平に引けをとらないほどのキレイとカワイイの二刀流だった。


挨拶を交わす。
手を繋いで歩く。

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途中、ここで会えて嬉しいねのキスをした。


「ハーバーランド」。
馴染みのない読者のために少し説明すると、ザ・神戸、と言わんばかりのオシャレな景観の港に面した区画一帯を指す。
関東で言うと横浜の「みなとみらい」的な場所だと思う。たぶん。


平日夜の短時間でのデートを最大限にロマンチックなものに引き上げる圧倒的なムードがハーバーランドには備わっている。
実際に行けばその完全無欠なオシャレさを体感できるはずだ。
何よりも大阪に比べて遥かに人が少なくて落ち着いた空気が流れているところがいい。
夜にその特性は顕著に現れる。


「モザイクボックス」のレストランフロアへ。
どの店も並ばずに入れそうだった。


オイスターバーがあった。
店の名前は「ザ オイスターバー コウベ」。
そのまんまだ。


「牡蠣、好き?」とおれは尋ねる。
「好き」と彼女は言う。
ここにすることに。

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入る。
開放的な店の作りで、いい雰囲気だった。
雰囲気を悪くしようがないほど、大きな窓から見える夜の神戸港の景色が抜群に綺麗だった。


窓際の席に案内される。
牡蠣料理を色々と注文する。
ドリンクはおすすめとしてピックアップされていたサングリア。


そのサングリアは「インスタ映えします!」という内容のポップな文言で紹介されていた。
事実、綺麗な色合いのフルーツを添えたキラキラした飲み物が最初に運ばれてきた。
だけどおれも彼女もインスタグラムをやっていなかった。
インスタ映えするかどうかで物事の価値が決まる世界は何か違うというのが二人の共通認識だった。


料理が来る。
食べる。
めちゃくちゃ美味しかった。
仕事で疲れた体に牡蠣の旨みが染み渡った。


手の届きそうな所に煌びやかなネオンが一面に広がる美景を眺めながら食事をする。


「村上春樹って、カキフライが大好物なんだって」
から会話は始まり、仕事の話を経由し、最終的には「SNSは自分を見失う虚しさを内包している」といった話題に着地した。


食べ終わる。
伝票をおれがレジに持っていく。
二人で9500円だった。
美味しくて色々と注文したので、少し高くついた。


彼氏のおれが全額払おうとした。
しかしこれまでと同様に、彼女は頑なに半分払うと言って譲らなかった。


恋人になってからも彼女は支払いは絶対に割り勘というスタンスを崩さなかった。
常に口角を上げて恒久的に微笑みを絶やさない彼女だったが、唯一表情を曇らせて怒りを露わにするのが支払いの際におれが全額支払おうとした時だった。
その態度は恋人同士になってからも変わらなかった。
結局今回も半分ずつ支払う。


店を出る。
絶対に割り勘にする理由をそれとなく彼女に訊いてみる。


「自分が食べた分を自分で払うって当たり前じゃない?」と彼女は言う。
「当たり前だと思う」とおれは言う。
どうやら世の中には当たり前のことをできない女の子がものすごく多いようだ。
あるいは、当たり前のことをできない女の子がものすごく多い世の中になってしまっているようだ。

     〇

モザイクボックスをぶらぶらする。
白いワンピースを着た優艶な彼女が、潮風を受けて長い黒髪をゆるく靡かせながら、オリエンタルな雰囲気の夜のハーバーランドを歩く。
靡く黒い髪は夜の闇に溶けるようにしなやかな揺れ方をしていた。
映画のワンシーンを生で見ているような気分だった。


そんな彼女とおれは手を繋いで歩く。
同じ歩幅で、同じ目線で。
ゆっくりと流れる二人のかけがえのない時間を噛み締めるように。

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外国人観光客がそこら中を歩いていた。
若いカップルや家族連れもオシャレな街並みを行き交っていた。
しかし港街の美観を損ねるほどの混雑はなかった。


少し歩く。


すると。


観覧車があった。

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観覧車に乗らないかと彼女を誘う。
彼女は承諾する。


チケットを購入する。
階段を上り、乗り場へ。
聖域に足を踏み入れるような気分で係員にチケットを渡す。


ゴンドラの中へ。
係員が扉を閉める。
外の世界と断絶された密室が出来上がる。
密室の中、彼女と向かい合って座る。


前回に引き続き、2回連続で観覧車に乗ることになった。
この人どんだけ観覧車が好きやねん、と普通ならドン引きされるのかもしれない。
だけど優しい彼女はおれと一緒にいられたらなんでもいい、といった感じで微笑んでくれた。


ゴンドラがおもむろに高度をあげていく。
いわゆる「1000万ドルの夜景」の一部が徐々に見渡せるようになる。
夏の夜の港の光に汚れなど一欠片も見当たらなかった。
なぜだか分からないけど、それがものすごく苦しい出来事に思えた。


ポートタワーの華やかな赤、神戸海洋博物館のクールなペールブルー、オリエンタルホテルやホテルオークラの柔らかなクリーム色の窓の光、その他もろもろの光が和音を構成するように見事な調和をもって視界に入る。


その一方で目の前に座る彼女は、港町の夜景が嫉妬しそうなほどの超絶優美な輝きを自然と放っていた。
神秘の薔薇を天国から摘んできたように綺麗な白いワンピース。
滑らかな白い肌と長い黒い髪。
モノトーンで構成された彼女の佇まいは、外の世界の様々な色で構成された夜景と対立するようでありながらそれを制圧するような完璧さがあった。


彼女自身の煌めきがネオンを差し置いて夏の夜の港を明るく照らす最大の光だった。
1000万ドルの夜景の1000万倍、彼女は綺麗だった。
綺麗すぎて死にたくなった。
死にたくなるほど綺麗だった。

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ゴンドラの中から中途半端に撮影した神戸の夜景。
背後に建っていたアンパンマンミュージアムの照明が映り込んでいる。


途中から例によっておれは彼女の隣に移動していた。
窓の外の夜景を眺める彼女が振り返る。
目が合う。


彼女はおれの目を見て笑う。
おれは笑い返そうと思った。
だけどうまくいかなかった。
彼女のことが好き過ぎたから。


キスをする。
そして彼女を抱きしめる。


両腕におさまりきらないほどの、とても大きな宝石箱を抱いたような感触だった。
その箱には感情の宝石がほとんど全種類揃っていた。
人が生まれて老いて死んでゆく輪廻の中の、喜び、悲しみ、怒り、嫉妬、絶望、おかしさ、せつなさ、あるいははっきり名前のついていない微妙な感情。
それらが二人の間の深い沈黙の潮流の中で踊るように渦巻いていた。
その一つ一つをいつまでも慈しんで過ごしていたかった。
だけど観覧車の一周する時間は無情なほど正確に定められていた。


ゴンドラが地上付近まで戻ってくる。
降りる。
夜の神戸のオシャレな街並みが静かに二人を迎える。


再びモザイクボックスをゆっくりと歩く。


すると。


スタバがあった。
入ることに。

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スタバなう。


注文する。
おれはショートサイズのアイスのソイラテ、彼女はショートサイズのアイスのキャラメルマキアート。
夜の港を臨む窓際のカウンター席に並んで座る。
コーヒーを飲みながら会話をする。


「スタバの創業者は朝4時半に起きて散歩するらしいよ」
から会話は始まり、時事ネタを経由して、付き合いたてのカップル特有の甘い甘いイチャイチャトークのキュンキュンタイムで自分たちだけの世界にはまりこもうとした。


しかしそのタイミングで店員の若い女の子が申し訳なさそうにおれたちに近づいてくる。
どうやら閉店の時刻が来たようだ。
気がついたら22時になっていた。


スタバを後にする。


「メリケンパーク」を歩く。
人影はまばらだった。
幽寂な広場を独占するようにゆったりと歩く。

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どれだけ適当に写真を撮ってもそれなりにオシャレに写るスポットだと思う。


「ポートタワー」の前を通りがかる。
すると若い男に呼び止められる。
どうやら今、ポートタワーの展望台で新発売のビールのプロモーションイベントをしているらしい。
ぜひ立ち寄らないかと男に誘われる。


終電までまだ少し時間があった。
せっかくなので行ってみることに。


ポートタワーの中へ。
展望台へのチケットを購入し、エレベーターに乗る。


降りる。
薄暗い中をクラブミュージックが流れる賑やかな空間が。
若い男女が密集していた。


ちょうど司会の案内で本日のゲストの俳優が紹介されていた。
俳優の名前は「中村蒼」。
その時点でおれも彼女も彼のことをよく知らなかった。
あとで調べると全国区で有名な俳優のようだった。

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中途半端に撮影された中村蒼。
問題があるようなら消します。


中村蒼が数分間、新発売のビールのPRトークをする。
二人でそれをボーッと聞いた。
一通り喋り終わると彼は役目を終えたと言わんばかりにあっさりとどこかへ消えた。
そして司会者がマイクで各自ご歓談を、みたいな感じのことを言う。


クラブミュージックが流れる展望台を二人でウロウロする。
バーカウンターで追加料金を支払えばビールを購入して飲めるらしい。
しかし二人とも今夜は既に結構飲み食いしていたので満腹だった。


そうこうしているうちに終電の時間が近づいていた。
帰ることに。


帰りのエレベータに乗ろうとしたら、先ほどの「中村蒼」と正面からバッタリ遭遇した。
彼はいささか疲れている様子だった。
どこか絶望的な表情をしていた。
彼には彼なりの地獄を抱えて生きているのだろう。知らんけど。


ポートタワーの外へ。
開放的な港の景色が再び目に入る。
その時、急におれは彼女とセックスしたくなった。


近くの物影に移動する。
風に吹かれた彼女の冷たい頬に触れてみる。
じっくりとキスをする。
しかし当然ここで服を脱がせるわけにはいかない。


手を繋いで駅方面に歩く。


このままどこかへ連れ込んでセックスしたい。
だけど時間的にも物理的にも事実上不可能だった。
それに今日セックスをすると、現在の二人の関係性の瑞々しさが失われてしまうような気がした。
そんなセックスなど要らなかった。


などと考えているうちに神戸駅に戻ってきていた。
次に会う約束をして、別れの挨拶をする。


別れ際に、彼女は言う。


「会えない時も、私のこと、忘れないでいてくれる?」
「忘れないに決まってるやん」とおれは言う。
「よかった」と言いながら彼女はにっこりと笑う。
「忘れられるわけがないよ」


本当に忘れられなくなるなんて、その時は夢にも思わなかった。




第6話に続く。



ブログ完結まで

あと8話

ダイヤモンドになれなかった人のために 第4話

前回の続きです。

     〇

「ポロリ君と話してると、自然体でいられる」


はっきし言って、月並みな言葉だ。
しかしその裏側には逆説的な事実が隠されていた。
たぶん彼女は彼氏の前では自然体でいられないのだ。
だけど自然体ってなんだ?


2017年7月下旬。
海の日を含む三連休が終わった。
連休中は二人とも都合がつかず、会えなかった。


彼女とのラインのやりとりは一定のペースで続いた。
朝に1往復、夜に2、3往復といったところだった。
互いに思慮深く丁寧でありながら重くないメッセージを送り合った。
思いやりのある言葉を往復させるだけで彼女の体温に少し触れたような気がした。


ある夜、彼女からメッセージが。


「三連休、色々あったけど、その前の週にポロリ君とパスタ食べに行った日が一番楽しかった」


その点ではおれも一緒だった。


おれは彼女に恋をしている。
たぶん、そうだと思う。


たぶん彼女に恋をしているのか。
彼女にたぶん恋をしているのか。


分からない。
うまく説明できない。
説明しても正しく伝わらないだろう。
説明しないと伝わらないということは、説明しても伝わらないということだ。


いずれにせよ、自分の気持ちが整理整頓されないまま日々が過ぎ去る。
そうこうしているうちに次のデートの日程が決まった。
土曜日の昼下がりに梅田で彼女と会うことになった。

     〇

アポイント当日。
昼過ぎに仕事を終える。
電車に乗り、梅田で降りる。
夏ど真ん中のご機嫌な日差しが、惜しげもなく街に降り注いでいた。


彼女は先に梅田に来ているようだ。
「グランフロントのスタバで待ってる」と彼女からラインが。
暑苦しい人混みをすり抜けて彼女のもとへと向かう。


グランフロント大阪。
エスカレーターに乗って6階へ。
紀伊国屋書店と併設する形でスターバックスグランフロント大阪店はある。

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スタバなう。(後日撮影)


彼女を見つけるのはとても簡単だった。
太陽よりも遥かに眩しい光が放たれているスポットに引き寄せられればいいだけだった。


彼女は中央付近の席に背筋をピンと伸ばして座っていた。
服装は黒いノースリーブにキャメルのロングスカート。
長いはっきりとした睫毛に覆われた大きな深い瞳は丸テーブルの上のiPadに向けられていた。
傍らには空になりかけたドリンクが。


言うまでもなく今日も彼女は死にたくなるほど綺麗で温雅な佇まいだった。
他のどの利用客とも隔絶した美しさを宿していた。
100メートル離れた所から見ても無条件で崇めたくなる衝動に駆られるほどの神聖さすら感じた。


スタバのオシャレな雰囲気にピッタシ、などという形容で彼女が収まるわけがなかった。
スタバの方が全力で背伸びしないと彼女の素敵さと全く釣り合わなかった。
そのくらい彼女の可愛さは次元が違った。
おれはそんな彼女といい感じになりつつあった。


彼女に声をかける。
挨拶を交わす。


目が合った時に気づいた。
彼女の目が心なしか腫れている。


「もしかして、泣いた?」とおれは言う。
「なんで?」と彼女は言う。
「ちょっとだけ、目、腫れてる気がする」


彼女は4秒ほど間を置く。
そして少し恥ずかしそうに呟く。


「今朝、泣いた」


何のために流された涙なのか。
彼女は説明しなかった。
だからそれ以上は訊かなかった。
言いたくないことは言わなくていいと思った。


話を変えるためにiPadで何を見ていたのか尋ねる。
彼女はおれを待つ間に、とある資格取得の勉強をしていたらしい。
向上心のある彼女は休日も寸暇を惜しんで自己研鑽に励んでいるのだ。
すごいね。


彼女はタブレットを鞄にしまい、立ち上がる。
スタバを後にする。

     〇

今日はかき氷を食べに行くことになっていた。
「アイスモンスター」という台湾発祥のかき氷屋さんがグランフロントにあるのだ。


以前、ポロリは台湾に旅行した時に本場のアイスモンスターでかき氷を食べたことがある。
この世にこんなにも美味しいかき氷が存在するのかと感動した。
その美味しさを日本で彼女と分かち合えるのだ。
やったぜ。


エスカレーターに乗り、7階へ。
フードコートっぽいオープンなエリアが広がる。
店はすぐに分かった。
でも恐ろしいほどの行列だった。


1時間ほど並ばなければならないと思われた。
何となく昼下がりの今が一番混んでそうだった。
だから時間をずらして後で改めて訪れることに。


グランフロントを出る。
梅田の街を二人でブラブラする。
よく晴れた土曜日の午後の都会の華やぎの中、誰もがみんな生き生きと幸せそうな顔をして歩いていた。
彼女とおれも、そんな人々とごく自然に同化するようにして歩く。


夏の風がそよぐ。
彼女の長い黒髪が柳の枝のように音もなく揺れる。
時折、髪の先端がおれの腕にふわりと掠める。
そのくらいの距離感で二人は並んで歩いた。


女の子と梅田を歩くのってこんなに楽しかったっけ?というぐらい楽しかった。
あらゆる面で人工的な梅田の街との対比で見る彼女の自然美は、こちらの心を無条件に弾ませた。
都会の喧騒の中で聞く彼女のおっとりとした声は、確かな安らぎをもたらした。


彼女の人柄にはある種のマグネティズムのようなものが潜んでいた。
その奇妙な力が彼女を取り巻く様々な事物を、実際以上に輝かしく見せているように感じられた。
その結果、梅田の無機的な街並みが途轍もなく新鮮なものに見えた。


商業施設をハシゴして、服や雑貨やインテリアや本を見てまわる。
歩き疲れたらカフェに入ってお喋りして過ごす。

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途中で入ったカフェで中途半端に撮影された現場の風景。


もしも彼女と出会わないまま人生を終えていたら、こんなにも幸福な街歩きをする体験はできなかったかもしれない。

     〇

楽しい時間はあっという間に過ぎ去る。
気が付いたら日がかなり傾いていた。
かき氷を食べる時間を考慮して、少し早いけど晩ご飯を食べることに。


今日は行く店を予約していなかった。
思いつきで、何回か利用したことのあるワインバーに彼女を連れて行くことに。


新阪急ホテルの向かいのビルへ。
二階に目的の店はある。
店の名前は「ザ・ワインバー」。
そのまんまだ。


ちなみに記事を公開する時点でこの店は潰れてしまっている。
新型コロナウイルスの影響かどうかは分からない。


入る。
広々とした店の中は心地よくざわめいていた。


正方形のテーブル席に通される。
45度の位置関係で座る。
ワインと食事メニューを注文する。
たくさんの種類のワインの中からどれを選択するか迷う彼女の表情が死にたくなるほど可愛かった。


すぐに一杯目の赤ワインと前菜的な一品が来る。
乾杯する。


赤ワインが通り抜ける彼女の喉は作りたての陶器のように白かった。
そしてこちらを見つめる彼女の瞳の黒はドキリとするほど深く純粋だった。
ワインの赤と、彼女の肌の白と、髪と瞳の黒が、あまりにも芸術的なトリコロールを形成していた。
その上、彼女のほっそりとした繊細な指がワイングラスを傾けたりナイフやフォークを取り扱う様が超絶優雅で、人類史に残る偉業を目の当たりにしているようだった。


会話をする。
最初は大した話ではなかった。
しかし大した話をしなくても、彼女の語る全てが新鮮に聞こえた。
吐き出される言葉の一つ一つが、長い間使われることなく自分の肉体で眠っていた様々な種類の感情を呼び起こした。


そして恋愛の話になる。
前回保留になっていた、彼女の彼氏について。
さらには彼女とおれの関係性についてだ。
ようやく本題に入った感じの空気が流れる。


あれから数週間で、彼女は彼氏とどうなったか。
おれは彼女に問いかける。
それとなくやんわりと。


問いかけられた彼女は沈黙する。


彼女は重要なことを話す際、発言前にしっかりと間を置いて考え込む癖があった。
考え込む時間は発言の重要度に比例して長くなった。
そのたびにおれは彼女の置いた間を尊重し、急かすことなく口を開くのを待つ。
それが彼女とのコミュニケーションにおいて大事な要素だと思った。 


ワインバーの抑えられた照明の下、深い観念的な憂愁に蝕まれたような沈黙が流れる。
少し息苦しくなるほど濃密な静寂が二人の間に発生する。


彼女はワインをひとくち飲む。
おれもワインをひとくち飲む。


ようやく彼女が口を開く。


彼女は彼氏と別れたようだ。
別れた、と言うより、音信不通になったため自然消滅した、というのが事実のようだ。
その事実の正確性を咀嚼するように彼女は言葉を繋ぐ。


「その人はたぶん結婚してたと思う」


おれはどういう反応をすればいいか分からなかった。
彼女もおれがどういう反応をすればいいか分からないよね、と気を遣ってくれる。
しかしおれがどういう反応をすればいいか分からなかったのは、どういう反応をすればいいか分からなかったからではなかった。


いずれにせよ、彼女にとって彼氏の存在は過去のものとして決着がついたと彼女は表明した。
過ぎ去った出来事に対して客観的な評価を下すような彼女の口ぶりからそれは本当だと読み取れた。


彼氏の存在が過去になった現在、斜め45度の角度で座っているおれという存在が君にかなりの好意を抱いている、という内容の仄めかしアプローチの言葉をさりげなく彼女に浴びせ続ける。

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中途半端に撮影された現場の風景。


ワインを交えながら甘いトークを交わす。
完全にいい感じのムードが漂っていた。


何度目かの長めの沈黙が訪れる。


そして。


彼女の美しい唇から、鈴のような澄んだ声が零れる。


「ポロリくんのこと、好きになっちゃったみたい」


「えーっ、両思いやん!嬉しいな」とおれは少しフザけた口調で返事をする。


しかしもう逃れられない局面に来ていた。
彼女の優美な瞳の奥には覚悟めいた意志をはっきりと感じた。


結論がボヤけまま、食事を終える。
店を出ることに。


会計をする。
12000円。
おれが全額支払おうとしたら例によって彼女が半分出すと主張した。
結局割り勘で済ませる。

     〇

ビルの外に出る。
日が沈んでいた。


近くの夜景の見えるスポットにでも行こうか、と話す。
夏の夜の街を並んで歩く。
位置的にここから行きやすいスカイビルの空中庭園に向かう。


かなりの量のワインを飲んだ。
それにも関わらず彼女の頬はわずかな紅潮の兆しすら見えなかった。
この子、お酒めっちゃ強いな、と思った。


「お酒、めっちゃ強いね」とおれは彼女に言う。
「そうかな?」と彼女は言う。
彼女はそんなことよりも言いたいことがあるといった感じでうずうずしている様子だった。


並んで歩く彼女が少し首をかしげ、こちらを向いておれの目を覗き込む。
そしてにっこりと笑って言う。


「ねぇ、私、ポロリくんの彼女になっていいの?」


「そうなってくれたら素敵だろうね」と返すべきだったのかもしれない。
だけど彼女の本気の言葉を拒絶できるわけがなかった。
なぜならおれは彼女に恋をしていたから。
だから彼女の言葉をそのまま受け入れた。


素直に承諾の言葉を返す。
きちんとした自分自身の言葉で。
そうすることがおれに割り当てられた責任のようなものだと思った。


彼女は悲しくなるほど嬉しそうな笑顔で喜びの言葉を口にする。
おれも嬉しかった。
自分の身体が裏返しになってしまいそうなほど嬉しかった。
それはこれまで知らなかった感情であり、名付けようのない衝撃であり、どこにも分類できないおののきを伴った。


こうして彼女はおれの彼女になった。


手を繋いで歩く。
御堂筋を横断する。
グランフロントを経て地下道を通る。
スカイビルに着く。


しかし空中庭園の入り口には外国人観光客の集団が死ぬほど並んでいた。
なので諦めて別の場所で夜景を見ることに。
てゆうか別に夜景にこだわらなくてよかった。
適当にブラブラできればいいかみたいな感じだった。


とりあえずもと来た道を引き返す。


少し歩く。


どこへ行こう。


あっ。



観覧車だ。

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(後日撮影)


観覧車に乗らないかと彼女を誘う。
彼女は同意する。

     〇

HEPファイブに足を踏み入れる。
エスカレーターで7階へ。


こっちもそれなりに外国人観光客がいた。
しかしそんなに待たずに乗れそうだった。


数百円のチケットを購入する。
数分並ぶ。
割とすぐに案内される。

IMG_0447

観覧車に乗る直前の現場の風景。


おれたちの番になる。
ゴンドラに乗る。
向かい合って座る。
係員が扉を閉める。


密室ができあがる。
ゴンドラがゆっくりと高度を上げる。


夜景が見える。
街の光がダイヤモンドみたいに散りばめられていた。
彼女と一緒にそれを眺める。


「隣に座っていい?」とおれは言う。
「うん」と彼女は言う。
すぐさま彼女の隣に移動する。


ゴンドラは円を描きながら高度を上げ続ける。
段々と都会の喧騒が遠のいていく。
意味のある音はやがて沈黙だけになる。
それは現実性が失われた透明な沈黙だった。


彼女の手を握る。
柔らかい、温かい手だ。
滑らかで、細く端麗だ。


彼女を見つめる。
素直な眼差しで。


キスをする。


とろりとしたキスだった。
時間をかけて唇と唇をしっとりと絡め合う。
二人の気持ちをじっくりと交差させるように。


エッチな唇だった。
見た感じでは細くて薄い唇だと思っていた。
だけど実際に唇を重ねると彼女はかなり肉厚で濃密な唇をしていることが分かった。
ぷるんぷるんとした生々しい弾力が興奮を掻き立てた。


吸い付くような甘美な唇の感触。
まるで二人の輪郭が曖昧になって溶け合うようだった。
このような幸せの絶頂で死んでしまうぐらい弱い生き物だったらよかったのに。
そう思えるくらい幸福なキスだった。


観覧車はゆっくりと回り続ける。
密室の中、抱き合ったりキスをして過ごす。
途中から夜景なんて完全にどうでも良くなった。
そんなものの何億倍も美しい彼女が目の前にいた。


このまま二人でどこか別の世界に行ってしまいたいと思った。
誰の手も届かないところに。
時の流れのないところに。
二人でいると、そういう場所が世界のどこかにあるように思えた。


しかしそれは錯覚だった。
この世界にそんな場所はない。
心は移ろい続け、物事は損なわれ続け、時は休みなく流れ続ける。
そして観覧車は一周すると元の場所に戻るのだ。


時間は過去から未来へと流れる。
この世界はこの世界のまま存在し続ける。
時間は巻き戻らない。
別の世界に行けるわけなどない。


全ては錯覚に過ぎないのかもしれない。
でもその美しい錯覚を1秒でも長く味わっていたかった。


ゴンドラが元の場所に戻る。
係員が扉を開ける。
出る。
都会の暑苦しいざわめきが再び二人を飲み込む。


HEPファイブを後にする。
帰る時間が徐々に近づいている。
最後に当初の目的であったアイスモンスターに行くことに。

     〇

夜のグランフロント。
7階へ。


アイスモンスターは昼間ほどは並んでいなかった。
それでも30分以上待ってようやくかき氷を注文する。
二人で2200円。割り勘。


ちなみに記事を公開する時点でこのアイスモンスターは潰れてしまっている。
新型コロナウイルスの影響かどうかは分からない。


窓際の席に座る。
右側には大阪の夜景、左側には大勢の客、正面には何よりも美しい彼女。
テーブルの上にはタピオカミルクティーかき氷が二人分。
デートのシメとしてはかなり素敵なシチュエーションだった。

IMG_0449

現場の風景。


向かい合ってふわふわのかき氷を食べる。
この世にこんなにも美味しいかき氷があるのかと感動した。
ふわふわの氷の口どけにモチモチしたタピオカがプルプルとちょうどいいアクセントになった。
だけどタピオカよりも先程の彼女の唇の方が断然プルンプルンしていた。


彼女も美味しそうに食べていた。
氷のバランスを見ながら、どこからスプーンで攻めていいか考えながら慎重にかき氷を食べる彼女の顔が死にたくなるほど可愛かった。
昼下がりに会った時の僅かな目の腫れは引き、幸福に包まれた穏やかな目が正面にあった。


会話をする。
彼氏彼女となった今、二人で楽しい夏の思い出を作ろうという方向で話は進む。


一緒にどこへ行くか、話し合う。
花火大会とか美術館とか温泉とか、候補は次々とあがった。
付き合いたてのカップル特有の、未来には幸せな出来事しか待っていない予感に包まれたやり取りを交わす。


かき氷を食べ終わる。
終電の時刻が近づいていた。
帰ることに。


阪急電車の梅田駅で彼女を見送る。
キスしてサヨナラをしたかった。
でも彼女が恥ずかしがったのでそれは叶わなかった。


彼女が改札の向こう側へ。
見えなくなるまで笑顔で手を振って見送った。


おれも家路につく。


引き合う力に抗えず、付き合うべくして付き合った。
そういう手応えが実際の質量すら伴って感じられた。
二人の相性の良さは明らかだった。
二人の性格的にも、喧嘩をするような状況は全く想像できなかった。


このまま関係性を深めていけばいくほど、お互いがかけがえのない存在になるのは明白だった。
それはきっと、素敵なことだと思う。
ありがたいことで、幸せなことだと思う。




でもおれは結婚していた。





第5話に続く。



ブログ完結まで

あと9話

プロフィール
【名前】 ポロリ

【居住地】 大阪

【年齢】 30代

【職業】 サラリーマン

【趣味】 読書、映画、アート、音楽、旅行、エロ全般

【コメント】 ブログをご覧いただきありがとうございます。
男と女のギリギリのドラマが大好きで自らの体験談を記録しています。
他にも音楽や文学や映画、アートなどの話も書いてるので良かったらご覧になって下さい。
男女問わず色々なコメントをいただけると幸いです。
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