ポロリのハローグッドバイ

関西を中心とした出会い体験記です。 風俗や出会い系、クラブなどの色んな女の子たちとの美しい出会いと別れについて深く追求していきます。 殆どは多くの人が体験するあるあるネタだと思います。

運命(笑)の女

婚活パーティーの女⑥ 運命(笑)の女 完全バージョン

婚活パーティーの女⑥ 運命(笑)の女

全10話になったシリーズの全文まとめ記事です。
まとめるにあたって、多少の加筆・修正をしています。
最後まで楽しんで読んで頂ければ幸いです。


クンニって、好きですか?(伏線)


申し訳ないけど、はっきり言って、おれはあんまり好きじゃない。
だって、汚くない?
正直言って。


女の子にフェラチオしてもらっておきながら言うのはおこがましい。
それは重々承知だ。
でも、あんまり好きじゃない。
正直言って。


2016年10月。


おれは心斎橋の居酒屋にいた。
盟友である、「がのたさん」と「瞬希さん」と、0次会をしていた。
このあと、誘って頂いた婚活パーティーに潜入するのだ。
潜入前に、テンションを上げるための作戦会議が開かれていた。


各々の近況報告と、今夜の展望を語り合う。
まあ、いつもの感じだ。
こういうのは「いつもの感じ」というのがメンタル的にすごく大事だ。


パーティーの開始時刻が迫る。
居酒屋を出る。
3人で会場へと向かう。


外は日が沈んでいた。
秋の訪れを感じさせる澄み渡った夜空の下に、涼やかな微風がミナミの雑多な道路を吹き通っていた。
何となく、新しい何かが起こりそうな気配があった。
そんな、新鮮な匂いがした。


徒歩数分で、会場に到着する。
ビルの地下にあるバーを貸し切っていた。


受付で参加料金を支払う。
男は一人あたり5500円だ。


会場内へと入る。
その時点で、パーティー開始時刻ピッタリだった。
だだっぴろい空間に、全部で100人程の男女が突っ立っていた。


バーカウンターで適当な酒をもらう。
受付で配布された簡単なプロフィールカードに、ニックネームなどの必要事項を記入する。
記入しているうちに、主催者からのパーティー開始の挨拶が始まる。


「最低でも3人以上の異性の方と乾杯してくださーい!」
という、お決まりの幼稚園のレクレーションみたいな前置きをしてからの乾杯の音頭がとられる。


ついにパーティースタートだ。
果たして、今夜はどんな展開が待ち受けているのだろうか。


今日は3人で来ていた。
しかし、毎度のことながら、基本的には好き勝手に行動したがる3人だった。
乾杯の合図とともに散り散りになる。
多分、ハタからみると、一緒に来る意味があるのかとツッコミたくなるほど自由な3人だった。
でもそれが、自分たちの流儀だった。


カシスソーダの入ったグラスを片手に、目ぼしい異性を探す。
運命の女は、いるかな。
とか言って。


探す。


女が一人で立っていた。
パーティー会場中央の壁際付近だった。


他の参加者とは少しスペースの空いた位置で、女はグラスを片手に手持無沙汰そうにしていた。
どうも一人で来ているようだった。


色白で茶髪のショートカットのやや丸顔で、パッチリとした大きな瞳の潤みに対応するかのように、ふっくらとした唇には綺麗なピンク色のグロスがしっかりと塗られていた。
そんなチャーミングな顔立ちをした小柄な女だった。
服装は、清潔感があって上質そうな生地の白いトップスに膝丈のタイトデニムスカート、赤いパンプス、アクセサリーは全てゴールドでそろえていた。


その女こそが、今回のシリーズの女だった。


女の至近距離まで近寄る。
女は普通に可愛かった。


AV女優の「篠田ゆう」にソックリだと思った。

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篠田ゆう。
知名度がそこまで高くないと思うので恐縮だが。
この、篠田ゆうの顔が少し歪んだ時に女は似ていた。


今回のパーティーに参加していた女の顔ぶれの中で1位、2位を争うくらいの可愛さだった。
もちろん、ひいき目が入っているかもしれない。
少なくとも、おれの好みのど真ん中の外見をしていた事は確かだった。
綺麗さと可愛さが入り混じるような、色白で小柄の女。


女の姿を見た瞬間。
おれはある衝動に駆られた。


ああ。


クンニしたい。


そう思った。
そんな出会いだった。
今まで、どの女に会った時にも起こらなかった衝動だった。
その衝動は生まれると同時にすぐさま力を増し、大きさを増し、おれはそれに包まれるようになった。


しかし、いきなり出会い頭に
「クンニさせてくれませんか?」
などと言ってくる男は余程頭のおかしい奴だというのは流石に分かっていた。


人間社会ってそういうもんだ。
「クンニ」は関係性の成熟と共に登場するワードの一つなのは間違いない。


だから、普通に
「あ、どうもお疲れ様です。かんぱーい!」
などというスタンダード過ぎる挨拶をしながら、持っていたグラスを女に近づけた。


女と乾杯を交わす。
女はにこやかな笑顔を浮かべながら、芯の通ったハッキリとした声で挨拶や受け答えをした。
ハキハキとした喋り方の中に、心に響く優しさが込められているような聞き心地のする声だった。


どんな人間から声をかけられても、女はその感じのいい立ち振る舞いを用意出来たんだろうな、というのが何となく分かった。
姿勢も良かったし、何かしらの接客を生業としている職業だと推測して女に問いかけてみる。
予想通り、女は誰もが知っている超一流企業の大阪支社の受付嬢をしているのだと言う。
年はおれと同世代のアラサーだった。


引き続き、女と会話をする。
仕事の話から休日の過ごし方や趣味や旅行の話に広げていっては所々で共通点を見つけ出し、要所要所で相手の美点をさりげなく褒め称えるという、全国どこでも行われている男女の馴れ初めのやり取りを丁寧に行った。


がのたさんや瞬希さんのように、面白い冗談をドッカンドッカン言って女の気をひくような芸当はおれにはとてもできない。
だから、とにかく誠実に接することで女との関係性を一つずつ築き上げていくしかなかった。


頑張って喋った甲斐あって、30分弱の会話でだいぶ打ち解けた感じになった。
とりあえず今度デートに行こうという曖昧な約束を取り付けた。
そのあたりでラインの交換をした。


パーティーは2時間ある。
その時点で、1時間半の時間が残されていた。
残り1時間半、ずっとこの女と喋り続けるのは正直しんどい。
かと言って二人で抜け出してどこかに行くには早すぎる。


せっかくこういう場に来たんだから、他の人とも喋った方がいいだろうと言う事になり、一旦解散する。
お互い他にいい人がいなかったら、この後二人で2軒目に行こうと、それとなく打診しておいた。


女と別れる。
改めてパーティー会場を見渡す。


瞬希さんが1対2で女と喋っているのが見えた。
それに加わる。


おれとメインで喋った女は全くおれ好みではなかった。
さっき喋った女の肌の透明感に比べたら、崩壊後の世界かと言いたくなるほど、壊滅的に荒れ果てた荒野が広がっているかのような悲惨な肌をした女だった。
それに対しておれの肌質は、まあおれのはいいか。
雪肌精雪肌精。
意味分からん。


一応ラインの交換をした。
しかし、この女と連絡を取る事はないだろうなーと思った。
事実、そうなった。


タイミングを見計らって、その場を離れる。
再び、パーティー会場を見渡す。


がのたさんがいた。
一人で椅子に座っていた。
なんか、沈没していた。


どういうこっちゃ!


パーティー荒らしのがのたさんの本来の姿はこんなんじゃないだろう。
そう思いながら彼に近づく。
奮い立たせるために声をかける。


まあ凄腕だとしても、タイミングとか次第で女と絡めない時間帯は発生するものだ。
少し喋っているうちに気を取り直したがのたさんは、たまたま近くにいた黒髪の地味系女子に声をかけだした。


おれの記憶が正しければ、のちに彼はその女の処女を奪、あ、それはおれが言っちゃう事じゃないですよねゴメンなさい。


そのあとも適当に過ごす。
パーティー開始から1時間20分ほどが経過した。
一番最初に喋った色白の女の姿を探す。


いるかな。


………………。


いた。


会場の端っこの方で、男と喋っていた。
しかし、様子を伺っていると、会話が途切れがちで、盛り上がっているようにはとても見えなかった。
男のトークスキルが低いせいだと思われる。
女のつまらなそうな表情からも、その事が分かった。


おれの脳内で素早い計算が働いた。
パーティー終了まであと約40分。
女には最後までそのトークスキルの低い男と一緒にいてもらいたい。
そうする事で、女の中で自動的におれがその日ナンバーワンになる可能性が高い。


アイツとおれの二択だったらどう考えてもおれだ。
ルックス的にも奴は大した男ではなかった。
別におれも大したことはないけど。
少なくとも着ている服のセンスで負けている気がしなかった。


ここで女が変に話し相手をチェンジして、別の良い男と巡り合ってしまったら、最初に喋ったおれの存在が一気に霞んでしまう恐れがあった。
十分に考えられることだ。
だから、イマイチそうなあの男に女を引き留め続けてもらう事が、最終的におれが女を手に入れる事に繋がる。


その希望通りに事は運びそうだった。
女がその場を辞去して新しい酒を取りに行こうとしても、金魚のフンのように男は女のあとをついていった。
会話も特にないのに。


いいぞ。
しつこいのは女が一番嫌がるパターンだ。
それに比べておれの引き際はアッサリしていたと心の中で自画自賛した。


残り時間、敢えて積極的な行動は何もしなかった。
適当な女と軽く喋ってはその場をすぐに立ち去ったり、ツイッターを見たりしながら過ごした。


そして、パーティー開始から2時間が経過した。
主催者からパーティー終了のアナウンスがなされる。


最初の女の様子を確認する。
女は先ほどのイケてない男から何とか逃れてトイレに行ったようだった。


さり気ない様子を装って、女がトイレから出てくるのを待つ。


出てきた。
偶然再会した風を装いながら、女に2軒目に行かないかと打診する。
女は承諾した。


二人でパーティー会場をあとにする。
この時点で、がのたさんと瞬希さんはストリートナンパに切り替える事に決めていたようだった。


夜の心斎橋の街を並んで歩く。
「お腹、すいてない?」とおれは言う。
「ちょっとすいてるかも」と女は言う。
「パーティーの食事、全然大したことなかったもんね」
「うん」
「中華料理、好き?」
「大好き!」
「結構オシャレな感じの中華料理屋さん、近くにあるねんけど、行かない?」
「行こ行こー」


5分ほど歩く。
地下に店を構えた、隠れ家的な創作中華の店に入る。
以前、友達に連れて行ってもらって、良い感じだったのを覚えていたのだ。
店の内装は完全にバーの造りなのに、出てくるのは本格中華料理という所が面白い店だ。


愛想がないが無駄な動きもない店員に、麻婆豆腐と酢豚、海鮮の炒めものと白ご飯を注文する。
飲み物は、女は梅酒のソーダ割りを頼んだ。
おれは、麦焼酎をロックで頼んだ。


麦焼酎の名前は「ピュアブルー」と言った。
ピュアぶってる自分にピッタシのネーミングだと思った。
「ピュアぶるー」ね。
だっせ!

2016-10-08-21-15-47


中途半端に撮影されたテーブル。


テンポよく料理が来る。


食べながら、女と会話をする。
だいぶ打ち解けた感じになっていたので、恋愛話が中心となる。
前の恋人とは何か月間付き合って、何か月前に別れたか、といった話を皮切りに、互いの恋愛プロフィールを小出しにしていく。


「それで、どんな男が好みなん?」とおれは尋ねる。
「男らしい人!」と女は即答する。


男らしい人か………。


どちらかというと、おれの苦手な分野だった。
このブログで提唱している「シティボーイ風エロメン」=ポロリが個人的に理想としている人間像、には、残念ながら王道の「男らしさ」という方面の要素がかなり薄い事を認めざるを得ない。
どちらかというと、オシャレでフェミニンで人間的なセンスで勝負するタイプのおれとしては、女にゴリゴリのマッチョな男らしさを求められると、ちょっと怯んでしまう部分があった。


しかし、この場面でネガティブな発言をしている場合ではなかった。
男らしさと言っても、色んなニュアンスの「男らしさ」がある。
とりあえず、もし付き合うとしたら、女をビシッと引っ張っていく頼りになる男だという形で自分をプレゼンした。


なかなか巡り合う事のできないカワイイ女だった。
やり取りを失敗したくなかった。
だから、それ以降も頭をフル回転させて会話をした。
打ち解けた雰囲気に甘んじることなく、可能な限り気の利いた受け答えをして、女と波長を合わせる事に神経を集中させた。


幸い、女が話上手な事にも助けられた。
その場は大いに盛り上がった。
意気投合した感じになった。


中華料理を一通り食べ終わる。
料理は素直に美味しかった。
カワイイ女と一緒に食べたから、余計に美味しく感じた。


女がトイレに行っている間に会計を済ませた。
7000円ぐらいした。
店を出る。
地下から地上に上る階段で、前を行く女のLeeのデニムスカートが描く、程よい大きさのお尻の曲線を眺める。


ああクンニしたいな。
と、再び思った。


心斎橋駅方面へと向かう。
なんか、手を繋いで歩いた。
女の白い手はひんやりしていて、火照ったおれの手には気持ちよかった。


その時点で時刻は22時過ぎだった。
終電の時間が徐々に近づいていた。


女は一人暮らしだった。
でも、当然今日は終電までに帰る雰囲気になっていた。
おれもそれには賛成だった。


なぜなら、おれは結婚しているからだ。


終電までに帰る理由が
「今日出会ったばかりだから」
なのは女だけなのだ。
ゲスいね。


いずれにせよ、終電までにはまだ少し時間があった。
すると、夜中までやっているコーヒーショップの看板が見えた。


「コーヒー、飲みたくない?」とおれは言う。
「あ、飲みたい!」女は言う。
「お酒ばっかり飲んだもんね」
「うん」
「ここ、入ってみよっか」


店は建物の二階にあるようだった。
階段を上る。
店内に入る。
ゆったりとした音楽に淡い照明、レトロな装飾で構成された、いわゆる落ち着いた大人の静謐な空間がおれたちを迎える。


心斎橋のガヤガヤした街並みから完全に隔離されたかのような店だった。
想像以上にいい雰囲気で、良かった。
客層も、アホみたいに喧しいガキなど皆無だった。
みんな、この店で過ごす静かな時間と空間を自然に尊重している様子だった。


端っこのカウンター席に横並びで座る。
一番スタンダードな飲み口のコーヒーを二人分、カウンター越しの感じのいい店員のおじさんに注文する。


右側に座る女の顔を眺める。
そばに置いてあったレトロなランプが発するクリーム色の光が、お酒で少し赤くなった女の頬を柔らかく照らしていた。
柔らかな光を浴びた女は、文句無しに綺麗だった。


「綺麗だね。すごく」とおれは言う。
陳腐な言葉が女の頬を更に赤く染めた気がした。
「ありがとう」と女はクシャっと笑う。


コーヒーを飲みながら、女と他愛のない話をする。
もうだいぶ色んな事を喋ったので、本当に他愛のない話題だ。
とりあえず、今度デートする具体的な日取りを決めたりはした。
それ以外は、話しても話さなくてもどっちでもいいような話題だった。


どんな話題でも、なぜだか女と喋るのは楽しかった。
素直に心地の良い時間だった。


再び女の顔を見つめる。
赤みのさした女の笑顔はおれの余計な思考を奪った。


おれは思った。


ああ。


クンニしたくなくなった。


肉欲よりも勝るものがこみ上げてきたのだ。
普通に、もっと女と喋っていたくなったのだ。
一対一の人間同士として。
対等な関係の男女として。


もしも、これが嘘一つない男女の純粋な出会いだとしたら。
互いに運命的なものを感じていたのかもしれない。


でも、おれは結婚していた。


これは、多くの既婚者の男が人生において遭遇するであろう、心が揺蕩う場面だ。
シチュエーションは様々あるだろうが。
結婚している状態でイイ女と出会うと、男は必ずこういった事を考えると思う。


結婚していなかったら、この女が運命の女だったかもしれない。
でも、おれは結婚していた。
だから、あくまでも立場的に、おれにとって女は、本当に本当に申し訳ないけど、運命(笑)の女だった。


しかし。


ここに来て、クンニしたくなる、よりももっと最低な感情が顔を出した。
おれにとって女が運命(笑)の女でも、女にとっておれが運命の男だと思って欲しくなったのだ。
どう考えても最低だ。
悪意丸出しの感情だ。


最低だって思うでしょ?
そう思って頂いて、全く構わない。
死んでくれっていう声があるのも頷ける。
まあ言われなくても死ぬ時が来たら勝手に死ぬ。
だから言わなくてもいいですよわざわざ。


でも、死ぬ前にお願いだから言わせて欲しい。
言い訳ではなく、事実を。


現実の世界では、こういう事をしている最低な男が嫌という程いる。
何千人、何万人という単位で、いる。


「付き合っている人が実は別の女と結婚していた」という女の子の話はよく聞くだろう。
あれは氷山の一角だ。
相手が結婚している事すら気づかないままお別れしているケースがその100倍ある。
結婚している事がバレるのは男がマヌケな場合か、良心の呵責に耐えられなくなってカミングアウトしたかのどっちかだ。


大概の男は嘘をつき続ける。
結構、完璧に近い嘘を。
それは事実だ。
現実の世界というのは、そういう風になってしまっている。


女性の読者の方にはこのシリーズを通して、そういう男のリアルな言動の特徴を掴んで、反面教師にして頂ければと思う。


話が逸れた。


悪意丸出しの欲望を、おれは止めることができなかった。
とにかくその時点で、おれは運命の男になろうと思った。


運命の男になって、それから何がしたいのか。
その時点では分からなかった。
なってから考えようと思った。


そのスタンスが、後に自らの心を途轍もなく痛める事態となる。
しかし、出会った日には、そうなるとは思いもしなかった。


終電の時刻が迫る。
今日はそれぞれの家に帰ることに。
コーヒーの代金もおれが全部支払った。
二人で1200円。


店を出る。
2分ぐらい歩く。
心斎橋駅に到着する。


おれとは違う路線に乗る女を見送る事になる。
長堀鶴見緑地線のホームの真ん中辺りで、女が乗る電車が来るのを待つ。


あと数分でお別れだ。


最後に、キスしよう。
そう思った。


女を見つめる。


グロスのついた女のぷるぷるしたピンク色の唇が、電灯を浴びて白く煌めいていた。
女は笑顔でおれを見つめ返す。
やはり、カワイイ女だ。


キスしよう。


周りには、割とたくさんの人がいた。
でも、そんなのはお構いなしだ。


女の後頭部に手を回す。
そのまま無言で、女の唇に顔を近づける。


すると。


女は笑いながら言った。


「ダメダメダメっ」


女は素早く後ずさりした。
弾みで後ろの人にぶつかった。
ぶつかった人に女は謝った。
そのタイミングで、女が乗る電車が長堀鶴見緑地線のホームに到着する。


そのまま、サヨナラをする。
照れ臭さ混じりの、はにかんだ笑顔を二人とも浮かべながら。
電車が見えなくなるまで、ホームに突っ立って見送った。


キスをあっさりと拒否する女の立ち振る舞いもすごく良かった。
いい女ほど、キスを断られた時にグッとくるもんだと思った。
毅然としていながら、柔らかな拒否だった。
それは、こちら側に悔しさが尾を引くといった事を無くす効果があった。
すごく良かった。


御堂筋線の電車に乗る。
家に帰る。


その日から、女とラインのやり取りを交わし始めた。
やり取りは女と出会った10月上旬から、女とお別れする12月のクリスマス手前までの約2か月半の間、続いた。
1日たりとも欠かすことなく。


女は日々の出来事や、互いの趣味趣向に関した話題や、今度のデートの打ち合わせに関する用件などを理路整然とした文章にして朝昼晩、おれに送信してきた。
おれも律儀にそれに見合った気の利いた丁寧な文章を返すのを心がけた。
結果、膨大な量となったラインのやり取りの蓄積が、今もおれのアイフォンに保存されている。


その記録を紐解いて、出来事の前後関係などの事実確認をしながら、おれはこの文章を書いている。
でも、その時々の感覚的な部分はどうしても記憶を頼りに書いていくしかない。
それは薄れる事のない、心の奥に大事にしまっている記憶だ。
そして、そういった経験によって身に付いたセンスだとか人生観みたいなものは、誰の手によっても損なわれる事のない、一生の宝物だ。


2016年10月中旬。


週末。
昼間から女と会うことになった。


具体的な日取りは初めて会った時に決めていた。
決まっていないのは、行き先だった。


ラインでやり取りを交わし、無難に映画を観に行く事になった。
付き合っていない人と2回目に会って、純粋に初デートをする時の行き先としてはかなりベタな行き先だ。


「観たい映画とか、ある?てゆうか、どんなジャンルが好き?」とおれはラインで尋ねる。
「アクションとかサスペンスが好き。ポロリくんは?」と女は返す。


アクションとかサスペンスか…。
残念ながら全くおれの興味のないジャンルだ。
しかし、ここは女に合わせることにした。


「おれもアクションとかサスペンス、好き!」とおれは言う。
「ほんとー?ちょうど、観に行こうと思ってた映画があるねん」と女は言う。
「なんて映画?」
「ジェイソン・ボーンっていう映画。知ってる?」
「知らないなー。でも君が面白そうって言うなら、それを観よう」
「観よう。楽しみ!」


興味のないジャンルの上に、内容もまったく分からない映画だった。
敢えて下調べ無しに鑑賞しようと考えた。
無理に予備知識を詰め込んでもしんどいだけだ。
女が楽しめたらそれでいいだろう。


デート当日の土曜日が来る。


昼過ぎまで仕事をする。
その足で大阪駅へと向かう。
暑くも寒くもない気温だったが、天気は曇りだった。


待ち合わせ場所の中央改札前に着く。
女を待つ。


女は待ち合わせ時間ピッタシに来た。
女の格好は、薄いピンクのカーディガンに白いトップス、それらと同じような色合いの膝丈のスカートで、バッグとストールとパンプスは赤、アクセサリーは前回と同じようにゴールドで揃えていた。
淡くて上品な色合いの服は、女の色白で透明感のある肌によく似合っていた。


夜見た時に綺麗な肌をしていた女は、昼に見ても綺麗な肌だった。
それに対しておれの肌は、まあおれのはいいか。
マイナス5歳肌マイナス5歳肌。
嘘。


ラインのやり取りで、芸能人で誰似と言われるか、女に尋ねてみた事があった。
すると、女は言った。


「一番言われるのは、小林麻耶かな」


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小林麻耶。
確かに笑う時の口元が似ていた。


そんな自称小林麻耶似の女と笑顔で挨拶を交わす。
並んで歩きだす。
薄日が籠った雲が一面に棚引く秋の空の下、週末の都会は相変わらず多くの人々でごった返していた。


「大阪ステーションシティシネマ」へと向かう。
大阪駅直結のビルの最上階にある映画館だ。
「ジェイソンボーン」はそこで上映していた。
大阪市内に住んでおきながら、意外にもおれはこの映画館に初めて行った。


早く会えたら観ようと言っていた回に間に合わなかった。
次の回は2時間ほどあとだ。
とりあえずその回のチケットを購入しておく。
チケット代はおれが払った。
1800円×二人分。


映画の時間まで、街をブラブラして過ごすことに。


女が気に入っていると言うカフェがあった。
入る。


ケーキセットを注文する。
おれはモンブランとブレンドコーヒー、女はイチゴのショートケーキにカフェオレを頼んだ。
料金はおれが払った。
全部で2000円ぐらい。


テーブルを挟んで向かい合って座る。
正面から女を見ると、女の潤いに富んだ瞳のクリッとした丸みがより強調されて見えた。
窓から差し込む昼間の都会の自然光と、オシャレなカフェの蛍光灯の光を浴びた色白の女のやや童顔寄りの顔立ちを、今日も素直にカワイイと思った。


ケーキを食べながら、特に中身のない適当な会話をする。
女は礼節を心得た言葉遣いと朗々ととおる声の中に、少女みたいな甘さが見え隠れする喋り方をした。
30歳という年齢や、大企業の社員である事とはキャップのある、無邪気で子供っぽい部分がチラリと見える時、なんだか安心感を覚えた。


そんな女と会話をしながら、おれは今日のデートのどの辺りにテンションのピークを持っていけばいいか、大まかな流れを改めて考えていた。


一応、本日のメインイベントは映画鑑賞だ。
それを中心に流れを組み立てていけばいいのは明白だ。
しかし、映画というのはある意味ではちょっと特殊なデートイベントだ。
なぜなら、上映中は互いに無言になるため、基本的には「映画」と「自分」の相互関係のみが作用する時間が過ぎていくからだ。
暗闇の中で手を繋ぐといった行為を試みるのも何となく無意味な気がした。


二人の関係性の進展は、上映時間の間は一時停止せざるを得ない。
それが、恋人同士ではない関係の男女二人で映画を鑑賞するという行為だという考えがおれの中であった。
むしろ、インパクトが非常に強い映画だったりした場合、これまでの二人のやり取りによる流れがリセットされてしまう可能性すらある。


以上の事を考慮してみる。
今、このカフェでは、核心に迫った男女の際どい話題は口にしない方がいい。
そういうのは映画のあとの時間帯にとっておくのが得策だという判断に至った。


映画を観終わってから徐々にボルテージを上げていき、最終的には晩ごはんを食べ終わるぐらいの時間に、一気に距離を縮めてエロ行為またはそれに準ずる行為まで繋いでいく、あるいは女の奥に秘めていたドロドロでギットギトの人間的な部分が剥き出しになる、みたいなシティボーイ風エロメンにとって一番テンションの上がるコースになるのが理想だった。


キッチリとした立ち振る舞いをする理性的な女だから、その流れが遅くなる事はあっても早くなる事はないと予測された。
だから、根気強く女の様子を伺いながら細かな対応の修正をしつつ、デートを進めていくことになる。



一通り当たり障りのない会話をして、カフェを出る。
適当に街をブラブラする。
そして、再び映画館に戻る。


ソファに座って少し待つ。
ついに開場となる。
指定されたスクリーンの指定された席に座る。
シネコンに必ずある鬱陶しい宣伝映像のオンパレードを一通り目にしたあと、いよいよ本編となる。


ジェイソンボーン。
いちいちストーリーを記述しないが、マット・デイモンというハリウッドの俳優が主演のアクション映画だ。


約2時間の映画を観た感想。


ああ。
「ジェイソンボーン」や。
それ以上でもそれ以下でもなかった。


ただそこに一つの映画があった。
それ以外に何も思わなかった。
興味を引くような内容がなかった。
ただの一欠片も。


これは好みの問題だ。
好きな人は好きなんだろう。
ああいうのが。


でもおれの個人的な主観としては、何一つ心を動かされる部分はなかった。
全くなかった。
ビックリする程なかった。
エンドロールが流れだした時、本当に映画を観ていたんだっけ、と言いたくなるぐらい、なかった。


映画の出来が悪かった訳ではないと思う。
どちらかといえば、猫に小判とか、豚に真珠といった言葉が当てはまるんだろう。


映画が終わり、照明がつく。
おう、お疲れ、みたいな感じで女と目を合わせる。
他の観客と一緒にゾロゾロとスクリーンを出て行く。


人々に紛れて歩きながら、先ほどの映画の感想を述べ合う。
「すごい、迫力あったね、最後の方」
などという低脳でクソみたいな感想を言うしかなかった。
女はそれに対して肯定の意味合いの適当な相槌をうった。


本音で言うと、
「死ぬほど頭の悪い猿みたいな人間でも視覚的に楽しめるように、とりあえず最後の方は派手にしたんだろうね。わざわざ何百万何千万もの金をかけて」
をオブラートに包んだ結果、先のコメントとなる。


女はこういったハリウッド映画を普段から見慣れているんだろう。
そういった人からしたら、この映画はド定番の構成をしていたんだと思う。
ただ単に、おれの趣味趣向がそれに絶望的なほどフィットしていなかっただけの話だ。
前もってハッキリと好みを伝えておかなかったおれに非がある。


この女と出会わなければ一生見る事のなかったタイプの映画だった。
女ともし恋人同士だったら、一緒に観る映画を決めるたびに気を使って苦痛なんだろうな、と思った。
申し訳ないけど、この女が運命の女じゃなくて、運命(笑)の女で良かったと思える場面の一つだった。


しかし、気を取り直さなければならない。
これからがデート本番だ。
盛り上がっていくぜ。


映画館をあとにする。
街では、相変わらず大勢の人々がそれぞれの週末を過ごしていた。


時刻は18時を過ぎていた。
「お腹すいた?」とおれは言う。
「結構すいたかも。ポロリくんは?」と女は言う。
「おれも。ご飯食べよっか」


ルクアダイニングと呼ばれるレストランフロアを見て回る。
週末のピークタイムに差し掛かっていたので、どの店もそれなりに混んでいた。
店の前に並べられた椅子に順番待ちの客が座っていない店は皆無だった。


女は特別食べたいものはなく、何でも食べると言う。
待ち時間の少なそうな店を意識して探す。
すると、天ぷら屋の看板が目に入る。
創業50年の実力店が大阪の中心部分に出店しましたみたいな店だ。


「天ぷら、食べたくない?」とおれは言う。
「いいね。和食、好きだよ」と女は言う。
「何人待ちかな」


店頭にある順番待ちの名前を書くボードを見る。
5組程の名前が消されずに残っていた。


長くても30分ほど待てば店内に入れるだろう。
他のどの店でも同じような状況になるのは目に見えていた。
なので、その天ぷら屋の前の椅子に座って待つことにした。
週末のショッピングモールのレストランフロアにおけるシチュエーションとしては、どう考えても一般的なものだった。


その時だった。
おれは衝撃を受けた。


順番待ちの椅子に座ろうとする女の表情。


それを見た。

………………。


ブ、ブチャイクや!


一瞬だけ見せた、お腹すいてるけど30分ぐらい待たなあかんな、まあでもしゃあないな、はよご飯食べたいな、みたいな、若干の憂鬱を含んだほんの少しだけ曇った女の顔が、めっちゃくちゃブチャイクだった。


「ブサイク」なのではない。
ブチャイクだった。


ああ。


この子、ブチャイクや!!!


そう思った。
このブチャイクさを、どう表現すればいいのだろう。


ブサイクなわけではない。
どちらかと言うと、女はめっちゃカワイイ。
でも、その瞬間だけは違った。


その瞬間に女が見せた、口角が極端に下がって、鼻の穴が大きく広がって、若干けだるさを含んだ濁った目をした顔が、もっのすごくブチャイクだった。
そんな女のブチャイクな表情を見られて、おれは本当に嬉しくなった。


女の本来の顔を見た思いだった。
一流企業の受付嬢として働くパリッとした顔でもなく、出会ったばかりの男に少しでもいい女に見せようとする綺麗さと可愛らしさの混ざった顔でもなく、このやさぐれた不満げなブチャイクな顔こそが、女の真実の顔だと漠然と伝わって来た。


わがままで勝手で、自分の幸せに貪欲な女の女らしいブチャイクな素顔だった。
女の素の部分が垣間見えた気分だった。
すごく良かった。


それこそが、おれが手に入れて踏みにじりたくて堪らなくなる最高の結晶だった。


最低だ。


もし仮に女と真剣に交際するとしたら、徐々にこんな互いの素の部分が顔を出すようになる。
それが表面化した時に、喧嘩になったり、すれ違いが起こったりするはずだ。
そういった様々な出来事を乗り越えた先に、結婚という名のゴールが見えてくるんだろう。
それが、婚活パーティーで出会った男女が正しく健全に進んでいくべき道なのは分かっていた。


でも、おれは結婚していた。
それらは既に経験済みの事だった。
周回プレイ状態だった。
リアル版「強くてニューゲーム」だった。


おれにとっては、女は運命の女じゃなくて、運命(笑)の女だった。
絶対に揺るぎない事実だった。
この女と最終的に結ばれる運命にはないのだ。


そんな一連の考えに浸らせるほどのブチャイクな顔を女が意図せず見せたのは、ほんの一瞬だった。
おれに盗み見されていたとは夢にも思っていなかっただろう。
てゆうか、自分がそんな顔をしていたとすら思っていなかっただろう。
しかし、その一瞬の映像は、いつまでもおれの記憶に鮮明に刻み込まれている。


店の前の椅子に座りながら、元通りニコニコと笑う女と会話を交わす。
さっきの映画の話や、次のデートの行き先についてだ。
当初の予定通りにここからテンションを徐々に上げていくモードで、あれこれと喋る。


そうこうしているうちに、名前を呼ばれる。


意外と早く、店に入れた。
店内は黒を基調とした内装で、割と落ち着いた高級な雰囲気を演出した店構えをしていた。
しかし満席のため、窮屈な感じは否めなかった。
一番奥のカウンター席に通される。


女に壁際に座ってもらう。
その左側におれが座る。
おれのすぐ左には先客のおばさんが座っていた。


メニューを見る。
一番スタンダートなものでいいという事になる。
2500円ぐらいのおすすめコースを二人とも選択した。


注文を終える。
店員によって運ばれてきた温かいお茶を一口飲む。


「意外と待たずに済んだね」とおれは言う。
「そうだね。良かった」と女は言う。


店内は多くの客の話し声で騒がしかった。


おしぼりで手を拭く。
それを綺麗にたたんで、テーブルに置く。
もう一度、お茶を一口飲む。


右に座る女の顔を見る。
女もこちら側を向く。


女は微笑みを浮かべていた。
やはり綺麗な顔だった。
さっきのブチャイクな顔はどこかへ消えてしまっていた。


3秒ほど、視線を交錯させる。


………………。


そして、おれは口を開いた。



「ねえ、おれと付き合ってよ」



突然告白された女は、嬉しそうに白い歯を見せてニッコリと笑った。
告白をしたおれは、多分、中途半端な笑みを浮かべていたんだろうと思う。
しかし、内心では穏やかではなかった。
心の中でおれは叫んでいた。


「うおおおおおおおー!!!
なんか、言ってもたー!!!
そんなつもりちゃうかったのに、つい告白してもたー!!!」



自分の唐突な告白の言葉に対する戸惑いと動揺と混乱が、嵐のようにおれの理性的な部分をかき乱していた。
自らの意思で発した言葉ではなく、どこか他動的な力による、思いがけない偶発事と言ってもいい告白の仕方だった。
シティボーイ風エロメンの魂だとかDNAといった、本能的な何かがおれの大脳皮質における言語中枢を差し置いて、告白の言葉を女に浴びせかけてしまった感じだった。


出来ることなら今すぐ、物凄いスピードで姿を消して、また現れて、
「今おれが君に告白しなかったか?
バカヤロー、そいつがルパンだ!追えー!!」
などと言って、告白を無かった事にしたい所だった。


でもそれは現実的ではなかった。
告白した事を認めざるを得なかった。
状況的に。
とりあえず、女の返事を聞く事にした。


女は5秒ほどおれを見つめる。
「ここで言うんかい」というツッコミが顔に書いているかのような笑顔で。
白い肌に浮かぶ、白桃色の頬が少しずつ赤みを増していく。


そして。


女の形の良い、少し大きめの口が開く。
しっとりとした甘い声が囁かれる。


「私で良ければ、よろしくお願いします」


うおおおおーーーっ!!
なんか、ガチでオッケーしてもらっちゃったぞ!
どうするどうするどうする?


………………。


まあいいや、付き合っちゃおう。


あっさりと心を定めた。
こうして、この瞬間、おれは女と恋人同士になった。
天ぷら屋で。
最低だ。


若干しどろもどろになりながら会話をする。
天ぷらが来る。
食べる。


付き合いたての恋人同士で食べる揚げたての天ぷらは、ホヤホヤ×ホヤホヤで、すっげー美味しかったっていうかマジでサムい事書いてるなおれ。
まあ、付き合いたての浮かれた気分ってそんなもんやろ。


浮かれた雰囲気が漂う一方で、一つのカップルが誕生した事による甘酸っぱさを噛みしめている様子の女が余りにも眩しすぎて、とてもそれを直視出来ない自分がいた。
告白する事によって、二人の根本的な立場が実は全く違うという事実が浮き彫りになっていた。
それに気づいているのはもちろんおれの方だけだった。


食べ終わる。
天ぷらの味は正直なところ、よく覚えていない。
普通に美味しかったとは思う。
二人分の会計を彼氏のおれが払う。


天ぷら屋を出る。
その後も適当に街をブラブラしているうちに遅い時間になってきた。
最後にもう一杯だけ酒を飲もうということになった。


「グランフロント大阪」へと向かう。
北館にある、カフェ&バーみたいな店に入る。
都会的でスタイリッシュな空間に、たくさんの明るい白い照明が惜しげもなく店内を隅々まで照らしていた。


週末の夜というだけあって、大勢の利用客で賑わっていた。
十人掛けぐらいの大きなテーブル席にギリギリ二人分の席があいていた。
そこに鞄を置いて確保して、カウンターで注文する。


おれははちみつレモンのブランデースピリッツァー、女はカンパリグレープフルーツ。
二人分の会計を彼氏のおれが払った。
1000円ちょっと。


image

中途半端に撮影されたテーブル。


女と並んで座りながら、再び会話をする。


お互いがこれまでにどんな人と付き合ったか、という話題になった。
付き合う相手の過去の恋愛遍歴が気になるというのは、至って自然な事のように思えた。


おれは「パフューム」のメンバーの一人の幼馴染みだとか、超絶ストイックなバレリーナといった、表の世界で過去に付き合った女の話をしながら、ちょっとしたきっかけで子持ちの人妻と一瞬だけ付き合ったという、ポロリとしての話を織り交ぜた。
ディープすぎず、かといって平凡過ぎない過去の交際経験をピックアップして語ったつもりだった。


女はそこそこ感心して聞いてくれた。
30過ぎの男がこれまで経験してきた内容としては全然有り得るだろう、みたいな信憑性のある話だと捉えてくれたようだった。
てゆうか全部事実やしな。
言わなかった交際経験がその何倍かあるだけで。


それに対して、女は過去に一番長く付き合ったけど、結局結婚には至らずに別れてしまった男の話をしだした。


「野球、やっとって。その人」と女は言う。
「おー、野球選手ってこと?すごいやん」とおれは言う。
「社会人野球のね」
「社会人野球」
「うん」
「ってことは、普段は普通の仕事をしてて、プラスアルファの活動で野球をやってる、みたいな感じ?」
「てゆうか、その人は野球でスカウトされてその企業に入って。
もう、仕事よりも野球が優先みたいな生活やってん」
「そうなんや。すごいやん。かっこいいやん」
「野球に打ち込んでる姿はめっちゃ応援したくなるねんけど、でも、それで一生食っていける訳がないねんやんか」
「まあそらそうやな。プロにはなれそうになかったん?」
「無理無理。そんなレベルじゃなかったもん明らかに。
それで、いつか見切りを付けて、普通の仕事をしないといけなくなる時が来るねん。
でもその人は、まだ夢を追い続けたい、みたいな事をいつまでも言ってはって。
無理やのに。今まで野球ばっかに打ち込んできたから、今から普通の仕事をするってなっても、全然使い物にならないらしいねん。
野球ばっかりしてた分、他の同年代の社員と差がついてしまってるっていうか。
それで、その人との将来を考えられないってなって。
別れた」
「そうなんや」
「それが今年の1月」
「次に付き合うとしたら、ちゃんとした仕事に就いている人がいい、みたいな?」
「まあできれば。てゆうか、今までもそういう、『ちゃんとした人』と付き合う機会がなかって。
すぐキレて暴力振るう人とか、鬱の人とか、酒癖悪い人とか、そういうのが多くて。
なんてゆうか、普通に、ほんまに普通の人が良いかな、みたいな所はある」
「そっか」
「うん」
「悪いけど、おれ、」
「………」
「普通にちゃんとしてるで」
「あはははは」
「マジで」


女の話を聞いて、要するに、女は付き合う男に対して社会的な「典型さ」を求めたがる時期に来ているのが分かった。
最終的には、そういった男と結婚して、典型的な安定した幸せな生活を送りたいのだ。
結婚を見据えた真剣な交際相手を見つけるという観点だと、
「いかにマイナス要素が少ない男かどうか」
が大事になってくる、と今の女は考えていそうだった。


カッコよさとか、身長とか、価値観の一致などというのは後回しの事項として、長年一緒に暮らすにあたって実際的に弊害のない男なのかどうか。
そこらへんを視野に入れて女が相手を探そうとしている事が何となく伝わってきた。



比較的安定した職に就いていて、収入も最低限あって、両親は健在で当面は介護の必要もなく、家事も一通りでき、持病もなく、障害もなく、借金もなく、ギャンブルもせず、暴力も振るわず、酒癖も悪くなく、タバコも吸わず、マザコンでもなく、オタクでもない。
そういった典型的な普通の男と出会う事を望んでいる時期に、女はおれと出会ったのだ。
そして、自分で言うのもアレやけど、おれは上記の条件に全て当てはまっていた。


その程度の事なら大体の男が当てはまるやろと言う人もいるだろう。
はっきし言って、当たり前の事柄だ。


でも、「当たり前の事柄が当たり前に備わっている人間って、いざ探すとなかなか見つからない」というのも一つの事実だと思う。
矛盾しているかもしれないが。


どれだけハイスペックな男に見えても、どこかに致命的なダメ要素を持っていたりする。
そういうもんだ。
その点では、ほんまに自分で言うなって感じやけど、おれは比較的問題のない方だと思う。
言い換えれば、平凡な男だとも言える。


比較的安定した職に就いていて、収入も最低限あって、両親は健在で当面は介護の必要もなく、家事も一通りでき、持病もなく、障害もなく、借金もなく、ギャンブルもせず、暴力も振るわず、酒癖も悪くなく、タバコも吸わず、マザコンでもなく、オタクでもない。


ただ、結婚しているだけだ。
ほんで、こんなエロブログを書いているだけだ。


分かってる。
それが大問題じゃ!
論外や!


そう。


ちゃんとしてる奴って大体、既に相手がいるものなんですよ。
だから、ある程度妥協して付き合ってみた男が変な男だったパターンが後を絶たないんだろう。
これ以上言うと嫌味過ぎるのでやめておくが。
まあ、本当の本当にちゃんとしてる奴はこんなエロブログなんか書かないですよね。


とりあえず、縁あって出会って、今日付き合う事になったおれという人間は、君が望むだけのスペックを備えている(一点を除いて)事をアピールする形で話を進めた。
もちろん、甘い言葉をそのまま間に受けるほど女は単純ではないと思いながら。


そして、それと同時におれは心の中で女に問いかけていた。
それって恋愛なん? と。


女の求める「典型さ」に当てはまる人間が、そのまま自動的に運命の男になるでも言うのだろうか。
運命って、もっと、ドラマチックでロマンチックな要素が盛り込まれているものだと思うんだけどな。
「典型さ」を求めるがあまり、女の考えに「運命」という重要なキーワードが欠落しているように見受けられた。
それだと、出会った日におれが抱いた欲望、女にとっておれという存在が運命の男であって欲しいという条件が満たされなくなる。


おれたち二人の関係は、女が抱く「運命」によって最高潮に達するものだという願望に近い認識があった。
そのことによって、
「まさに人類の宝ってやつさ。
おれのポケットには大きすぎらぁ」
と言わんばかりの、目には見えない壮絶な結晶みたいなものが出来上がるはずだった。


しかし、そのあたりはこれからの女との関係性の構築において、どうとでもなると考え直した。
それが叶わないなら、多分、女と別れたくなるだろう。


酒を飲み終わる。
良い時間になった。
今日は帰ることに。
店を出る。


手を繋いでグランフロントの中を歩く。
駅方面へ向かう。
駅への連絡通路には建物の2階から行ける。


今は1階にいた。
エスカレーターを見つける。
乗る。
女が前で、おれが後ろだった。


「ねえねえ」とおれは前にいる女に言う。
「なに?」と言いながら女はこっちを向く。


キスをした。


唇同士がほんの一瞬、火花が散るほどの短い時間だけ触れ合った超絶ソフトなキスだった。
女は恥ずかしがって、キスをしてすぐに顔を背けた。
短い時間の中でも、グロスがしっかりと塗られた女の艶やかな唇のプルンとした感触が鮮烈に印象に残った。


刹那的なシャープなキスだった。
「今宵の斬鉄剣は一味違うぞ」と言わんばかりの切れ味だった。
てゆうかそのセリフ使いたいだけやろみたいな。


エスカレーターを上りきる。
建物の外に出る。
駅への渡り廊下を手を繋いでゆっくりと歩く。
恋人同士の二人が。


「今度会う時、結局どこに行こっか」とおれは言う。
デート最中の会話で、行き先候補がたくさん挙がったものの、次回どこに行くかが最終決定していなかった。


「どこ行こっか」と女は言う。
「うーん」とおれは言う。
「うーん」
「野球」
「え?」
「野球、見に行こうよ」


すると。


女は言った。


「…ちょうど、社会人野球の日本選手権、今度あるよ。京セラドームで」


銭形「くそぉ、一足遅かったか。ポロリめ、まんまと盗みおって」
女「いえ、あの方は何も盗らなかったわ。私のために告白してくださったんです」
銭形「いえ、奴はとんでもないものを盗んでいきました」
女「…?」
銭形「あなたのブログネタです」


的な展開を、おれは想像した。





数週間後。
2016年11月。


女からのラインは一気に恋人ムード全開になっていた。
全力投球の長文メッセージが毎日朝昼晩とおれのアイフォンに送信され続けた。
おれは女の恋人ムードに合わせる形で、負けじとラブラブな感じのメッセージを女に送り返していた。
まるで、女にとっての運命の男の人物像を作り上げて、それを演じているかのように。


いや、演じていた、じゃないかもな。


その時は演技じゃなくて、結構本気だったかもしれない。
少なくとも、女とのラブラブなやり取りで、素直に嬉しい気持ちになった。
仕事の励みになった。
女と次に会う日が来るのを楽しみにしていた。
それは間違いない。


舞い上がっていた、と言っても良いかもしれない。


いずれにしろ、この記事を書いている現在、絶対的な事実がある。


今はもう、女はおれの知らない誰かと腰を振っている。 


ここでCoccoの「強く儚い者たち」のプロモーションビデオを貼り付けたい所だったが、ちょうどいい動画がアップされていなかったので割愛する。


さて、休日に、社会人野球の日本選手権を一緒に観に行く事になった。
開催地は京セラドームだった。


小さい頃は、ちょくちょく親に連れられて、ここで近鉄バッファローズの試合を観たものだ。
近鉄の「いてまえ打線」を知っている方が、このブログの読者にどのくらいいるだろうか。
ローズ・クラーク・中村紀洋が頭おかしいぐらいホームランを打ちまくる、アレだ。
ちなみに、当時はこのドームの呼称は「大阪ドーム」だった。


そんな事はどうでもいい。


待ち合わせ場所は球場前のイオンモールだった。
再び、昼間からのデートだ。


「いよいよ明日だね。ポロリくんとのデートのために、今日仕事帰りにマツエクしてきたよ」
などというあざといメッセージを前日の夜に女からもらっていた。
そういうのって、ちょっと、痛かった。
知らんがなって感じだった。


てゆうかそういうのって、ぶっ壊したくならない?
ならないか。
じゃあいいや。


デート当日。
思っていたよりも早く着いた。
目印となるスタバ前で女を待つ。


向こう側には本日の会場である京セラドームが見えていた。




元大阪ドームね。


澄んだ空の下、爽やかな風の中に少しばかり硬質な陽光が、曲線を描く建物のメタリックな外観を眩く照らし出していた。
空は高く、晴れ渡っていたが気温が幾分低かった。
もうすぐ冬がやってきそうな気配があった。


待ち合わせ時間になる。
女が来る。
相変わらずカワイかった。
サラサラとしたキャラメルブラウンのショートヘアが太陽の光に照らされて煌いているのが綺麗だった。
女の服装はグレーの厚手のニットワンピースにアディダスの白いスニーカーだった。


「おはよう」とおれは言う。
「…おはよう」と女は言う。


挨拶を交わした時に気づいた。
この日の女は、これまで二回会った時とは決定的な違いがあった。


なんか、今日は女はご機嫌斜めだったのだ。
表情や声色や目線からすぐに分かった。
全身が暗いオーラに包まれているかのような佇まいだった。
言うなれば、はじめっからブチャイクだった。


ほぼ常ににこやかな態度でおれに接していた女が、その日会った初っ端からこんなにも不機嫌を表面に晒した状態でいるのは意外だった。


とりあえず、並んで歩く。
京セラドームへと向かう。
2分ほど歩いたらチケット売り場にたどり着く。


思っていたよりも沢山の来場客がチケット売り場に並んでいた。
列に並ぶ。
10分ほど待てばチケットを買えるだろう。


女の顔を改めて見る。


うーん、不機嫌や。
ほんで、ブチャイクや。
どないなっとんねん今日は。
こちらからの褒め言葉やちょっとした冗談なんかに対しては一応笑顔を見せるものの、基本的には低空飛行の女のテンションに少しおれはたじろいた。


言葉少なで、若干白けたムードの中で10分ほど待つ。
自分たちがチケットを買う番となる。
二人分のチケット代を彼氏のおれが払う。
1200円×二人分。


ご機嫌斜めな女にチケットを一枚手渡す。
テンション低めの歪んだ笑顔で女はそれを受け取る。
ここで、女の不機嫌な理由を物怖じせずにさり気なく上手いこと尋ねてみる事ができないおれは、アカン奴なんだろうか。


球場内に入る。


社会人野球の試合って、観客がめっちゃ少ないイメージを浮かべていた。
しかし、入ってみると、意外にも多くの人が座席に座っていた。
全日本選手権だからだろうか。
もちろんプロ野球の客の入りには程遠いものの、かなり賑やかな雰囲気ではあった。


開放されているのは内野席だけだったが、半分以上の席が試合開始30分前の時点で埋まっていた。
休日だからか、家族連れが多かった。
前の方の席は殆ど埋まっていた。
後方の座席に女と並んで座る。


グラウンドでは、このあと試合が控えている自動車会社と電気会社のチームの選手たちがそれぞれウォーミングアップを行っていた。


その日は3試合が予定されていた。
プロ野球と違って、1日に何試合も組み込まれているのだ。
甲子園の高校野球のシステムと同じだと思う。


これから観ようとしているのは3試合のうちの2試合目だった。
ちなみに、先日女が語っていた女の元カレが在籍するチームは今日は出場しないらしい。


社会人野球を観に来るのは初めての経験だった。
なので、割と新鮮な気持ちで試合前の練習をする選手たちの様子を眺めた。
それに対して女のテンションは相変わらず低いままだった。
その事がいつまでも気がかりだった。


アップの時間が終わり、選手たちが引き上げていく。


「食べ物と飲み物、買ってくるよ」とおれは言う。
「ありがとう」と女は言う。
女の希望を聞き、売店へと向かう。


金髪ギャルの店員からフランクフルトとポテト、そして飲み物を買う。
おれはビール、女はホットコーヒー。
全部で1800円ぐらいだった。


席に戻る。
ホットコーヒーを女に手渡す。
女はクラッシックのコンサート会場にいるのかというくらい控えめな音量でお礼の言葉を述べる。


第一試合が始まる。
観戦する。


スタジアムライトを浴びた選手たちが生き生きとボールを追いかける。
それをそれぞれのチームの応援団が応援席から盛り上げていた。
吹奏楽団が威勢のいい音楽を演奏し、チアガールがキレのいいダンスを踊った。
他の人々は応援幕を掲げ、スティックバルーンを叩いたり、その他応援グッズを振りかざしながら声援や拍手を惜しみなく送っていた。
特定のチームを応援している訳ではない人々は、一緒に来ている仲間や家族と飲食しながら談笑してはダラダラと試合を観戦していた。


人生で初めて、社会人野球を観戦した感想。


まあ、野球だった。





中途半端に撮影した試合会場。
マウンドと、目の前のオッサンの禿げ上がった後頭部とが一体化している感じを狙ったけど、いまいちだった。


   
選手たち、そしてそれを観ている観客たちは、一定の規則と秩序と調和の中で、野球という競技空間を作り上げていた。


一定の規則と秩序と調和に基づいた人々の営み。
とおれは思った。


そんな一定の規則と秩序と調和に基づいた人々の営みの中に、おれたちは含まれていなかった。
スポーツが行われているこの賑やかな空間の中で、自分たち二人が隔離されていて、その隔離された空間の中においても、おれと女の間にハッキリとした境界線が引かれているような感覚だった。
それを裏付けるような不穏な空気が、おれと女の間には横たわっていた。
実際に確実な質量が肩にのしかかるような気がするほどの、重い空気だった。


試合は中盤にさしかかっていた。
自動車会社のチームの方が序盤に広げた4点のリードを守っていた。
電気会社のチームはたびたびチャンスを得るものの、攻撃に決め手が欠けていた。
なかなかその点差を縮める気配を見せなかった。
そして、なかなか女は不機嫌な態度を改める気配を見せなかった。


二人ともほぼ無言のまま試合は続く。
何か野球に関する事を女に話しかけても、心のこもらない返事が短く返ってくるだけだった。
そしてその後には必ず深くて重い沈黙が流れる。
女の横に座っているのは別におれじゃなくて、ペッパーくんでも十分と違うか、みたいな状況だった。


この状況を打開する術が思いつかなかった。
だから、無理に会話を引き出そうとするのを一旦諦めた。
ひとまず何か考え事をすることにした。


数十メートル先で野球の試合に臨んでいる、ユニフォームを着た男たちを眺める。
かつて、女はここに、元カレが出場する試合を応援しに来ていたのだ。
おそらく何度も。



その時の元カレと女について、思いを巡らす。


試合に出場した元カレは、汗まみれになりながらグラウンドを駆け回り、バットを勢いよくスイングして、俊敏な動作でボールを放り投げる。
そんな元カレの雄姿に、女は黄色い声援を送る。
元カレが所属するチームのスティックバルーンやその他の応援グッズを携えながら。
ミーハーな感じで。
そんな絵が思い浮かんだ。


ここで、女と婚活パーティーで出会った時に聞いた、
「男らしい人が好き」
という女の発言がおれの脳裏に蘇った。
その「男らしい人」という人物像は、野球に熱中するスポーツマンの元カレの姿が
直結しているんだと思った。



バリバリの体育会系の、短髪で、よく日に焼けた、肩幅が広くて胸板の厚い、声のデカい、生命力にあふれた野生的で屈強な男の姿形を単純にイメージした。
そのイメージに基づいて、想像を続けた。


試合が終わると、球場から出てきた屈強な男と女は合流する。
女は男に向かってお疲れ様の声をかける。
どこかご飯を食べに出かけたりする。


そして、その後はどちらかの家に行く。


スポーツで疲れた体を引き摺りながらも、屈強な男は自らの有り余る性欲に任せて息を荒くしながら女の服を脱がし、発達した筋肉で強く抱く。
女はされるがままに屈強な男に身を委ねる。
色白で小柄な女が、屈強な男のパワフルで身勝手な獣みたいに激しいセックスに対して恍惚とした表情で大きな喘ぎ声を漏らしながらスケベに身を悶えさせている光景は、ものすごくしっくり来た。


「男らしい人が好き」な女と、スポーツマンの元カレの逢引の流れは、当たらずと雖も遠からずといった所だろう。


てゆうか、何を妄想しているんだおれは。
気持ち悪いな。
超気持ち悪いぜ。


でも、なんか勃起しそうになってきたぞ。
女が、屈強な男に好きなように抱かれて支配された上で快楽に溺れる様子を想像していると。


………………。


「ちょっと、お酒、もう一杯買ってくるわ」とおれは言う。
「はーい」と女は言う。
「なんか欲しいもの、ある?」
「ううん、大丈夫。ありがとう」


売店に行く。
今度はハイボールを購入する。
500円ぐらいだった。
氷が入った琥珀色の液体を受け取る。


席に戻る。
女の態度は相変わらずだった。
ボーッと試合を眺めていた。
しかしそれにも慣れてきた。
滑稽さすら感じるようになった。


買って来た、キンキンに冷えたハイボールを口に含む。


………………。


うおっ。

こ、このハイボール、めっちゃアルコールキツくない?
すっげーまわるねんけど。
なんか、テンションが不思議と上がってくるキツさだった。


そして。


なんか、今日一日のこれまでの流れがどうしようもなく笑けてきた。


一体おれは、何故こんな場所にいるんだ。
どういうこっちゃ。


本来ならば、典型的な新婚夫婦の幸せな休日をマッタリと仲良く過ごしているはずの一日だ。
それなのに、同居人を家に置いて適当な理由をつけて出てきて、誘われてノリで行った婚活パーティーで出会って思いがけず彼女化してしまった女の子と葬式みたいな雰囲気で、なんで野球観戦をしているんだ。


どないなっとんねん。
おっかしいやろ。
笑けて来た。


運命(笑)かよ。
どういうこっちゃ。


ハイボールを早いペースで半分以上を飲み干す。
最高に刺激的なハイボールだった。
どういうこっちゃ。


試合は終盤にさしかかっていた。
勝負はほぼ決まりつつあった。
大逆転劇も起こりそうな雰囲気はなかった。


てゆうか、まあ、野球だった。


そう。


まあ、野球だった、のだ。


その時、気づいた。


おれは何か勘違いしていた。
目の前で野球が行われているからといって、野球の話を女と絶対にしないといけない訳ではないのだ。
喋りたい事を喋ればいいのだ。
一定の規則と秩序と調和だなんて、馬鹿げているぜ。


そこで、おれは若干愉快になりながら言った。


「おれの友達にさあ」
「うん」と女は言う。
「がのたって奴がいるんだけどさ」
「ああー」
「彼女今いないねんけどね、彼」
「うんうんうん。それでそれでそれで?」
「君の友達とかで、彼氏探してる子とかいない?」
「いるいるー!いっつも一緒に遊んでる⚪︎⚪︎ちゃんっていう子なんだけどね!」
「あ、もしかして君のラインのトップ画で一緒に写ってる子?」
「そうそう!ちょうどその子も少し前から彼氏いなくてー、ポロリくんぐらいの年の人を探してるねん!
その、がのたくんはどんな子が好きなん?年はどのくらいがいいとかある?」


………………。


恋愛の話になると、急に食いついてきたぞー!!!


お前さっきまでの低すぎるテンションは何やってんっていうぐらい、女は生き生きとした笑顔で親友の恋愛状況を話しだした。
あまりもの変わり様に、ハイボールの残りを女の顔にぶっかけてやろうかと思った。
でも、女の機嫌が上向いてきたのならそれで良しとした。


その後も、目の前で行われている野球に関する会話は一切せずに、女の親友とがのたさんが出会ったらどうなるかみたいな話や、ダブルデート出来たら楽しそうだね、などと言った話題で大いに盛り上がった。
結果、がのたさんと女の親友を今度引き合わせる事になった。
その後、その二人がどうなったかは彼に聞いて下さい。


そうこう喋っているうちに試合は終わった。
自動車会社のチームが電気会社のチームに大差をつけて勝利していた。
どうでも良かった。


まあ、野球だった。


「出よっか」と女は言った。
おれは同意した。
この後ももう一試合が控えていたが、もはや観てもどうしようもないのは明らかだった。


京セラドームをあとにする。
外は日が沈みつつあった。
結構寒かった。


「おなかすいた?」とおれは言う。
「すいたー。そこのイオンでなんか食べよっか」と女は言う。


ここにきて、やっと付き合いたての恋人同士といった雰囲気が出てきた。
長かったぜ。


女はすっかり機嫌良さそうに笑顔を浮かべていた。
やっと女のナチュラルな笑顔が見れた。


女の元カレがやっている社会人野球を二人で観に行くのは間違いだったのだろうか。
別の無難な場所で遊んでいたら、前半に女とこんなにもギクシャクすることはなかったのだろうか。
分からない。
分からないけど、社会人野球を観る事で、女の元カレの人物像がなんとなく想像、というより妄想できて、結果的に女の人物像を割と深い所まで捉える事に繋がったような気がした。


そして、女のそんな過去をぶっ壊したくなる衝動に駆られた。


そこで、おれは思った。


ああ。


今日、このあと。


女とセックスしよう。





続きを読む

婚活パーティーの女⑥-10 運命(笑)の女 悲しくなるほどのハッピーエンド編

ここに一枚の写真がある。


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タイトルは「雌牛の膣に息を吹き込む少年」。
野町和嘉という写真家が撮影した。
1981年の作品だ。


やせ細った全裸の少年は、アフリカの南スーダンの遊牧民だ。
少年が雌牛の膣に息を吹き込み、性的刺激を与える事で、母乳が出るのを誘発させる。
その母乳が少年の数少ない食事となるのだ。
明日を生きるためにやっている事だ。


地球の裏側の荒れ果てた大地で、たまたまその地に生まれたからという理由で、このようなギリギリの生活を送る人間が日本の人口の何倍も存在する。
ディズニーランドも、スターバックスも、フジロックフェスティバルも、フォルクスワーゲンも、ユナイテッドアローズも、エステサロンも、ナイトプールも無縁の、牛のマンコに顔を突っ込んで息を吹き込まないと生きていけない生活が、確かに存在する。
(ちなみにこのエピソードはこのシリーズの第1話の冒頭の「クンニって、好きですか?」というフレーズに対するシニカルなリンクになっている。誰も深読みしてくれる人がいないので自ら解説する。)


で、日本。


婚活パーティーで出会った男を好きになって、セックスしたらあっさり捨てられて、男が後になって実は結婚している事を知って、その傷をいつまでも引きずっている女性が大勢いらっしゃるようだ。
本当に本当に本当に、幸せだと思う。


という事で、今日書くのは婚活パーティーで出会った運命(笑)の女の話、最終話。


前回の続きです。

婚活パーティーの女⑥-9 運命(笑)の女 ~地獄の温泉旅行 後編~



<過去記事を読むのが面倒な人のための前回のあらすじ>


女が死んだ。


享年30歳。
死因は婚活だった。


正確には女は生きている。
生きている、と言うより、何度でも生まれ変われる。
新たな婚活をすることで。
婚活は、死因でもありながら、生まれ変わる要因でもあるのだ。


死んだのは、おれの中で身勝手に作り上げた、「運命(笑)の女」としての女だ。
それは、すごくハッピーな死だ。
このシリーズは悲しくなるほどハッピーな終わり方をする。



2016年12月。


付き合い始めて以来、時たま仕事の昼休みに女とランチデートをしていた。
2週間に一度ぐらいのペースだ。
女の昼休憩の時間は固定なので、それに合わせておれが仕事に折り合いをつけた。
女の職場まで迎えに行き、近くのお店で食事を共にする段取りだった。


温泉旅行の次の週も、その約束をしていた。
ラインのやり取りを見直すと、この日で5回目のランチデートの約束だった。


いつも通り女の会社のビルの前で女を待つ。
その日は大阪の街に細かい雪が降っていた。
降る雪と共に、何もかもを浄化しそうなほど綺麗な透明の太陽光がオフィス街に照り付けていた。


サラリーマン達に紛れて、女が出てくる。
12月の冷えた空気の中、女の笑顔は温かかみがあった。


女の職場近辺の食事所は女の方が詳しかった。
毎回、ラインでざっくりと食べたいものを話し合った上で、行き先は女が決めた。
その日は寿司を食べに行くことになっていた。
女が送ってきたURLを開くと、夜だと結構値段が高いが、ランチだと1000円代でおさまるタイプの店のようだった。


挨拶を交わし、雑談しながら3分ほど歩く。
4階建てのビルの2階に目的の寿司屋はあった。
特別豪華でもなく質素でもない、至って平凡な飲食店の店構えだった。
平日のオフィス街の喧騒とは隔離された静かな店だった。


予約してくれていた個室に通される。
テーブルに向かい合って座る。
1500円で寿司10貫+お吸い物のセットを注文する。


当たり障りのない会話をする。
どんな話題だったのか、記憶に残らないほど当たり障りのない会話だ。
女がいつものキラキラしたカワイイ笑顔を浮かべていた事だけは覚えている。


寿司が来る。
照明を反射して瑞々しく煌めいた生魚の肉片が、酢飯に覆いかぶさる形で陶器の皿の上にパレードのように綺麗に連なって乗っかっていた。


食べる。


女が食べる動作を何気なく眺める。


女は寿司の一つを選択し、箸で掴む。
醤油の入った小皿に少し浸す。
口元にそれを持っていく。
ゆっくりとした動作で。
優しい弓なりの赤い唇が開く。
寿司が女の口の中に運び込まれる。


女のアゴが動く。
咀嚼する。
味わう。
笑顔で。


「おいしいね」と女は目を細めて言う。
「うん、おいしいね」とおれは返す。


ああ、女と別れよう、とおれは思った。


具体的に女のどこが嫌になったとか、女に飽きたとか、そういった説明は当てはまらなかった。
しかし、別れを決意したのは、いつものように女が食べ物を咀嚼する様子を見たこの寿司屋の個室でだった。
他の哺乳動物と同じように、モグモグと咀嚼する女の口元の動きを見て、啓示みたいなものを受けたのだった。


こんな風に女は、食べ物や、見た景色や、体験した出来事や、出会った人間、すべての物事や事象を飲み込み、無差別に咀嚼し、味わって、嚥下して、吸収して、消化して、排泄物として吐き出していくのを繰り返す人生を送るのだ。
これまでも。
これからも。
当たり前の事だ。
誰もがそうだ。


婚活パーティーで出会ったおれという存在も、女は口に含み、咀嚼して、味わって、嚥下して、吸収して、消化して、排泄物として吐き出していくのだ。
おそらく、その正体を知らないまま。
その事が、ものすごく哀れな事に思えてきた。
目の前の女がウンコ製造機にしか見えなかった。
ものすごく哀れだった。


哀れで哀れで、哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れで哀れでたまらなかった。


そして、哀れなのは、女を哀れんでいる自分自身もだった。
女の哀れさに気付いた時、合わせ鏡のように自分の哀れさにも気付いた。
女の目から見たおれという存在も、同じように哀れに映っているのかもしれないのだ。
そんなランチタイムだった。


<シティボーイ風エロメンの心得>

第4条 自分は哀れな二流の人生を歩んでいるのを自覚している。



こうして、女との運命(笑)的な部分はすでに死んでいる事に気付いた。


寿司を食べ終える。
表面上は和やかに会話をしていた。


料金は二人で3000円。
最後の会計も、彼氏のおれが払った。
女は最初から最後まで、支払いの時は鞄から財布を出すだけだった。
一度たりとも、女はお金を払わなかった。
それは、おれが望んだ事でもあった。


ここで唐突だが、「客観的なお金の話」をする。
男どもがよく言っている、「素人の女と付き合うのと、風俗で遊ぶのとではどっちがコスパがいいか」というありふれた話題に直結している話だ。


全10話となった、「運命(笑)の女」との逢引きにおける出費を、おれは具体的な金額にして書き記してきた。
その総額を計算する。
そして、このシリーズの更新が一時中断していた間にスタートした風俗挑戦シリーズ、「ポロリの『まずは大地斬だーっ!!!』」において、2018年5月現在で更新済みの記事までに費やされたプレイ料金の総額も計算する。
この二つのシリーズの費用の総額を並べてみる。


あくまでも客観的なデータとして金額を提示するだけだ。
そこから何を読み取るかは読者の方に委ねる。
それをどう役立てるかは読み手次第だ。



<運命(笑)の女>

・出会った日
婚活パーティーの参加料 5500円
創作中華料理屋 7000円
コーヒーショップ 1200円
・1回目のデート
映画代 3600円
カフェ代 2000円
天ぷら屋 5000円
カフェ代 1000円
・2回目のデート
野球チケット代 2400円
軽食 2300円
しゃぶしゃぶ 7000円
・3回目のデート
バイキング 5000円
プリクラ 400円
・温泉旅行
バス代2720円
温泉旅館代 42120円
カフェ代 2500円
電車代 2680円
・ランチデート(全5回)
1回あたり平均2500円×5=12500円

総額:10万4920円



<ポロリの「まずは大地斬だーっ!!!」>


・大地斬
神戸デリヘル「クラブルキナ」の女とエロ行為をして14500円
・海破斬
飛田新地の女とセックスして16000円
・空裂斬
大阪性感エステ「アネステ」の女にマッサージしてもらって19200円
・アバンストラッシュ
大阪性感エステ「梅田回春性感マッサージ倶楽部」の女にマッサージしてもらって25500円
・ライデインストラッシュ
神戸 福原ソープ「コンパニオンクラブ」の女とセックスして28000円
・アバンストラッシュクロス
大阪高級デリヘル「メルビスロゼクラブ」の女とエロ行為をして34500円
・ギガストラッシュ
神戸 福原高級ソープ「AJITO V.I.P」の女とセックスして55000円

総額:19万2700円


以上の結果となった。
繰り返すが、この結果をどう読み取るかは、これを読んだ方々に委ねる。


一つだけ、おれから言っておくとしたら、男女が織りなすギリギリのドラマに「コスパ」なんて言葉は全くの無意味だと思う。
その証拠に、おれは6年間書き続けたブログ記事において、「コスパ」という言葉を一度も使っていない。多分。
女から原稿料をもらってオフパコ漫画を描く奴とか、立場を利用して風俗嬢と店外でタダでエロ行為をする風俗ライターとかマジで論外やぞ。


例によって話が逸れた。
支離滅裂に。


外に出る。
雪はまだチラチラと街に降り注いでいた。
その中を二人で並んで歩く。
女の職場の人に見られたら恥ずかしいという理由で、手は繋がずに。


女が手が冷たそうにしていた。
つけていたおれの手袋をあげた。


女の職場前で別れる。
午後の仕事の励ましの言葉を送り合いながら。
女がビルの中へと消える。
姿が見えなくなるまで見送った。


二度と、女に会うことはなかった。


そして。


2017年1月。
年が明けた。


女とのラインのやり取りを断ち切ってから数週間が経っていた。


盟友の「がのたさん」からラインが来た。
年始の挨拶だった。
今年もヨロシク、と決まり文句を交換する。


すると、がのたさんがスクリーンショットを送って来た。


「ペアーズで発見」との事だった。
画像を開く。
マッチングアプリのプロフィール画面だった。
見覚えのある写真が。


死んだはずの女だった。


IMG_252





2017年は将来考えれる人と出逢えますように。



2017年は将来考えれる人と出逢えますように。



2017年将来考えれる人と出逢えますように。


………………。



2016年に出逢った人(ポロリ)は将来考えれる人じゃなかったんだ…。



うん、大正解!!!




さらに時は流れる。



一年後。



2018年1月。


ほんの気まぐれで、アカウントだけ作成して何も更新していないフェイスブックを開いた。
そして、ほんの気まぐれで、女の名前を検索してみた。
ヒットした。


女の直近の更新で、写真がアップされていた。
彼氏と思しき男が女と一緒に写っていた。
悲しくなるほど誠実そうな男だった。
女は男の横で、薬指につけられた指輪をかざしていた。
婚約指輪だった。


写真の女は幸せそうな笑顔を浮かべていた。
これと全く同じ顔を、おれは生で見た事がある。
しかし、「その女」は既に死んだ。
フェイスブックの写真の女は、婚活で一回死に、また婚活で新しく生まれ変わって運命の男を見つけ出した女なのだ。


おめでとう。
お幸せに。


そして。


おれは。


おれは。


もっといい女と出会い、その女の事を悲しくなるほど好きになった。




大長編


街コンの女① ダイヤモンドになれなかった人のために


に続く。




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婚活パーティーの女⑥-9 運命(笑)の女 ~地獄の温泉旅行 後編~

こんにちは、運命に向かって祈るには、あまりにも自らを頼り過ぎたポロリです。


今日書くのは、婚活パーティーで出会った運命(笑)の女の話、第9話。


前回の続きです。

婚活パーティーの女⑥-8 運命(笑)の女 ~地獄の温泉旅行 中編~


<過去記事を読むのが面倒な人のための前回のあらすじ>

セックスした。

2016-12-04-16-51-55


中途半端に撮影された、現場の風景。


セックスが終了する。
抱き合ったまま、静かな和室に余韻が訪れる。
凡庸で卑俗な余韻だった。


女の経血が染みついたかもしれないバスタオルを処理するために、すぐに起き上がる。
二人とも再び浴衣を着る。


タオルにはうっすらとした血痕がいくつか確認できた。
淡い桃色の糸で編んだレース模様みたいに綺麗な血痕だった。
洗面所で洗って干しておいた。


温泉に入る事に。
何事もなかったかのように、部屋を出る。
エレベーターに乗る。
大浴場のある階で降りる。


広々とした待ち合いスペースの両サイドに、暖簾がぶら下がっていた。
右手に男湯、左手に女湯。
そして、少し離れた所に「貸切露天風呂」の入り口があった。
スタッフが受付として立っていた。


貸切露天風呂は客ごとに利用時間が割り振られている。
おれたち二人はこの後の食事の後の時間帯に利用できる事になっている。
なので今は別々に大浴場に入る事になる。


一旦別れる。


大浴場に足を踏み入れる。


体を洗ったあと、温泉に身を浸す。
しばらく、ぼんやりと過ごす。
目の前を行ったり来たりする裸の男達の姿を見るともなく眺めながら。


一人きりで、頭を空っぽにして純粋に温泉を楽しみたい所だった。
しかし、どうしても先ほどのセックスを振り返ってしまっていた。


射精した際に女の口からこぼれ落ちた言葉。


「好き。大好き」


女は本当っぽく言った。
その本当っぽさが、嘘っぽかった。
もっと言えば、本当っぽい口調で、嘘っぽい言葉を女は呟いた。
予定調和に満ちた、メロコアバンドのライブにおけるコールアンドレスポンスみたいにチープな「好き。大好き」だった。


女がこの上ないほど幸福そうな顔つきで言ったその言葉が、泡のように何度も蘇っては儚く消えた。
まるで偽りの表彰状のような惨めな言葉を差し出された思いだった。
それを聞いた瞬間、反射的におれは女の事を好きじゃないと思ってしまった。


しかし、落ち着いて考えてみる。


「てゆうか、好きって何だっけ?」


中二か!


とにかく、自分自身に関する事で、一つ気付いたことがあった。
おれは、相手の事が好きでも好きじゃなくても、それとは関係なく、幸せなフリをする事ができて、ある程度相手を幸せな気分にさせる事ができる。
シティボーイ風エロメンとしての経験を積んできた事で備わった技能なのか、全ての男が根本的に、潜在的にそうなのかは分からない。
そして、間違いなくそれは、この上なく優しい優しい優しい優しい優しい優しい優しい、暴力だった。


温泉から出る。
服を着て、待ち合いスペースに戻る。
女の姿は見えなかった。
備え付けられていた給水機の水を飲みながら、女を待つ。


15分ほど経つ。
ピンクの浴衣を着た女が暖簾から出てくる。
生理初日のセックスがどのくらい体に負担がかかるのか、男のおれには分からなかったが、女の顔色は良かった。
温泉に浸かって温まって、スッキリとしたキラキラの笑顔が眼前に現れた。


温泉の感想を適当に述べながら、部屋へと戻る。
時刻は17時すぎだった。
18時の夕食までにはまだ時間があった。


窓から景色を眺める。
外は陽が沈みかけていた。
梯子をつたって井戸の中を一歩一歩と下降していくように、徐々に夜の暗闇が訪れ始めていた。


温泉にも入ったし、わざわざ再び出かける感じでもなかった。
部屋でゆっくりテレビを見て過ごす事になる。
テーブルを挟んで座椅子に座り、至って平和な時間が流れる。


やがて、テレビは「笑点」が始まった。
ちょうど司会が「桂歌丸」から「春風亭昇太」に代わって間もない頃だった。
大喜利コーナーを見て二人で笑う。
笑点の中で一番好きな出演者は誰かという話になった。
女は「三遊亭円楽」と言い、おれは「山田君」と言った。


「笑点」が終わると、フジテレビに切り替えて「ちびまる子ちゃん」からの「サザエさん」を見る流れになる。
日曜日の夕方の完璧に平和な時間における超鉄板コースだ。
女は「ちびまる子ちゃん」が子供の頃から大好きだと言う。
てゆうか、女の子って大体ちびまる子ちゃん好きですよね?
ちなみに、ちびまる子ちゃんの中で一番好きなキャラクターは、女もおれも「まる子」で一致した。


ちょうど「ちびまる子ちゃん」のオープニングのところで、旅館の人が夕食を持ってきた。
昼食に負けない程、季節の食材をふんだんに使った豪華な料理だった。


食べる。


まあ、温泉旅館の豪華な食事だった。
それ以上でもそれ以下でもなかった。


食べ終わる。


そして、いよいよ最後のイベントが控えていた。
「貸切露天風呂」の利用だ。
女の子と一緒に温泉に入ってあんなことやこんなことをしてしまう、エロい男にとってはこのために温泉旅行に来たんだと言っても過言ではない、スペシャルな時間だ。


しかし、女は生理だった。
それでも先ほどセックスを一回済ませていた。
そんな状態で、最後の貸切露天風呂に臨むことになる。


部屋を出て、エレベーターに乗る。
再び大浴場のある階で降りる。


先ほど目にした貸切露天風呂の入口から、先に利用していたカップルがちょうど出てくる所だった。
二人とも歳は20代半ばといった感じだった。
男の方がいかにも「露天風呂で彼女とエロい事したった」感のあるニヤけ方をしてその場を去って行ったのが印象的だった。


入口にいたスタッフに19時半から予約しているポロリだと伝える。
すると、スタッフは「清掃が完了したら案内をする」と答える。
要するに、さっきの若いカップルが(多分)エロ行為を行った露天風呂を、可能な限り未使用な見かけに再現するために必死でスタッフが立ち動いているわけだ。
なんか、風俗みたいだった。


近くにあった、ヘルスの待合室感がなくもない椅子に並んで座って待つ。
5分ほど待つ。
名前を呼ばれる。


スタッフから軽く制限時間などの説明を受ける。
いよいよ入場となる。


狭いが清潔感のある脱衣所で浴衣を脱ぐ。
互いに全裸になり、浴場へと足を踏み入れる。
手前に小さな洗い場があり、それを通り抜けると露天風呂へと繋がっているようだ。


まずは洗い場で横並びになって、簡単に体を洗う。
食事の前に一度温泉に入っていたので、ここでまた洗う意味があるのかという雰囲気ではあった。
とりあえず形だけ適当に洗った。


そして、露天風呂へと向かう。
女が先に進んだ。


細身の女の後ろ姿を見る。
明瞭な曲線を描く女の白いお尻が見えた。
なんの欠点もない、健康な女の瑞々しいお尻だった。


引き戸を開ける。
外だ。
こじんまりとした露天風呂があった。


露天風呂とは言うものの、ほぼ一面に設置されていた木の柵のせいで、建物の外部との遮蔽具合が半端なかった。
開放感といったものとは無縁の露天風呂だった。
柵の隙間から、夜の闇に塗り込められた外の景色が広がっているのがなんとか見えた。
宵闇の中には、寂寥感のある温泉旅館がいくつか建っているだけだった。


正直言って、風情などあったものではない佇まいだった。
やはり、この露天風呂の存在意義は、エロエロカップルがエロ行為に耽るためだけにある気がした。
実際の所。


せっかくだから、おそらく例に漏れず、おれたちもエロ行為をした。
見たわけではないのでなんとも言えないが、他のカップルに比べると、至ってソフトなイチャつき方だったと思う。


ハグしたりキスしたりしてイチャイチャした後、小柄な女の白い裸体を丁寧になぞっていく。
女もそれに呼応するようにおれの肌に優しく触れる。
最終的に、女は湯船の中で勃起したおれのチンコにまたがる。
そして、お湯の中で座位でマンコの表面をおれのチンコに擦り付けて腰を振った。


温泉の熱さで桜色に染まる女の濡れた裸体が、浴槽の中で波乗りするように揺れる。
パシャパシャと音を立てながら。
一定のテンポで。
非常にメロディアスな腰の振り方だった。


射精するまで長時間頑張ってしまうと、互いに火照り切って失神してしまいかねないので、途中でやめた。
キリをつけて、温泉から上がる。


体を拭き、浴衣を着る。


出る。


入口にいたスタッフに礼を言って、立ち去ろうとする。
すると、次に利用するカップルがエレベーターから降りて、こちらに向かってきていた。
この時にすれ違った男も、
「今から露天風呂で彼女とエロい事やったるぞ」
という気概に満ちたニヤけ方をしていたのが印象的だった。


部屋に戻る。


電気をつける。


すると。


なんか、有料のはずの布団が敷かれていた。
これには焦った。
なんかのドッキリか。


フロントに電話して確認する。
手違いで宿泊客と同じ段取りで布団をセットしてしまったのだという。
女と一緒に笑った。
やっべ、布団料金払わされるんかと思った、みたいな。


そんなこんなで、チェックアウトの時間となる。


私服に着替える。
部屋を出る。
フロントでチェックアウトの手続きをする。


利用料金はあらかじめクレジットカードで全額支払っていた。
特に追加料金も発生していなかった。
布団も使わなかったし。


送迎車に乗る。
最寄りの駅まで送ってくれた。
行きはバスだったが、帰りは電車で帰ることになっていた。
夜は早い時間にバスの便がなくなっていたからだ。


大阪駅までの切符を買う。
1340円×二人分。
もちろん、彼氏のおれが全額払った。


日曜夜の神戸電鉄はガラガラだった。
1時間ほどかけて、大阪に帰る。
大好きなようで、一ミリも好きじゃない女と。
運命のようで、運命(笑)のようで、運命じゃない女と。


好きだとか、好きじゃないとか、運命だとか、運命(笑)だとか、運命じゃないとか、もはやよく分からなくなって来ていた。
白黒つけるのはこれからでもいいような気がしていた。
これからの女との関係性で、時間が許す限り、じっくりと考えていけばいいんじゃないかという気分だった。
女に会うたびに毎回思っている気もするが。


そして、時間をかけて女との仲をこれ以上深める事がどれほど残酷な事か、薄々分かってきていた。


とりあえず、今日は素直に楽しかった。
なかなかできない経験だった。


ひどく醒めていていながら深く夢見ているような仮構の時間。
それは終わりを迎えつつあった。


大阪に到着する。
乗り換えで、女と別れる事に。
次にランチデートをする約束の確認をして、笑顔で別れる。
最後の最後も、女は可愛らしい笑顔だった。


愛しい笑顔が見えなくなるまで、駅のホームで女を見送った。


こうして、地獄の温泉旅行は終わった。


かけがえのない素敵な思い出だったと思う。
女もそう思ってくれたらいいな、と思った。



一か月後、女は死んだ。





最終話に続く。







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【趣味】 読書、映画鑑賞、アート鑑賞、ファッション、旅行、街をブラブラ、エロ全般

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他にも音楽や文学やファッション、アートなどの話も書いてるので良かったらご覧になって下さい。
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