欧米諸国に滞在したことのある日本人男性は、女性の問題に関心をもち理解を示す傾向が強いように思われる。

 森鴎外は、ドイツ人女性との個人的な恋愛を描いた『舞姫』の作者であるが、鴎外がこのような日本人の男性知識人のひとりであったことを下に記載する書で知ることができたのは、うれしい出来事だった。

 鴎外がドイツに留学したのは1884年から1888年にかけてのことだったが、1865年、女性の教育向上と仕事の門戸開放を推進することを目的とするドイツ初の女性団体 Allgemeiner Deutscher Frauenverein 「ドイツ婦人会」の第13回「婦人総集会」を、男性10名のうちのひとりとして傍聴している。

 鴎外が日本に帰国した1888年は、廃娼運動が各地で起こっていた。従来、衛生学や医学の立場からは存娼論が主流であった。鴎外は存娼論の論拠について欧米の例を紹介しつつ、「余は医なり余は衛生家なり而れども余は亦た人なり」と述ベ、人権尊重の立場から廃娼論を展開した。ドイツの統計を例にあげながら公娼廃止には何よりも経済的自立をするための教育が必要であることを説いた、という。

*金子幸代「鴎外の女性論」(『論集 森鴎外ー歴史に聞く』所収、2000.5 新典社)
*金子幸代 編・解説  『鴎外女性論集』
同世代の「新しい女」の動向を視野に入れて、自ら道を切り拓いていく女性を描いた鴎外。その文学的行為を女性という視点から読み直す。文壇登場前に当たる1890年代までの言説も含め、鴎外の女性に関する評論や随筆と、女性を主人公とした小説・戯曲・短歌・詩を選んで構成したアンソロジー。
A5判/並製/344頁 【本体価】 2,800円
【推薦】平岡敏夫(文学史家・筑波大学名誉教授)
【ISBN】4-8350-3497-X  2006年4月刊