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ユーロ再下落のタイミングを読む―春先にも「1.3ドル・130円」割り込む方向

市場動向も下落基調要因に

(林秀毅の欧州経済・金融リポート・2014.01.14)



危機対応への「楽観論」をどうみるか

年末年始、ユーロは、対円・対ドル双方で、概ね堅調な推移をみせている。
その背景としては、第1に、ユーロ圏をめぐって、比較的前向きな報道が続き、
金融市場の安心感につながったことが挙げられる。今年1月1日から、ラトビアが、
ユーロの使用を開始し、これで、ユーロ導入国は、18カ国となった。

2004年5月にEUに加盟したバルト三国のうち、最も北に位置するエストニアは、
フィンランドなど、ユーロ圏諸国との経済関係が深いことから、既に2011年1月に、
ユーロを導入している。

今回、ラトビアが、ユーロを導入した背景には、2000年代後半に深刻化した、
自国の財政危機に加え、その後、深刻化した、ユーロ危機による影響からの復活を挙げることができる。

言い換えれば、ラトビアが今回ユーロ導入を決定した最大の理由は、これらの経験を経た小国が、
再び市場が不安定化した時の備えとして、ユーロ圏に属することを選んだことにある。
このように考えると、今回ラトビアがユーロを導入したことは、ユーロに対する信認が高まったことを
示すものであるとはいえない。

第2に、ドイツのメルケル首相が、大連立政権の成立後、12月末に行った議会演説で、
ユーロ危機対応を軸とした対欧州政策の重要性を力説し、依然問題を抱える
ギリシャなどの救済への期待が高まったことを挙げることができる。

この点については、「大連立成立後もドイツの問題国対応が急に柔軟になることはないだろう」
という見方が大勢を示す中で、やや意外感をもって受け止められた面がある。
しかし、この演説でメルケル首相は、各国の財政規律を高めることなどのために、
EU各国間の「条約改正が必要である」とも述べている。
言い換えれば、ドイツが問題国の救済に前向きになるためには、
ギリシャなどの問題国は、自国の政策について、条約によってタガをはめられ、
ドイツの実質的な「属国」のような存在となることが前提となっている。
このような形で条約改正が行われることは、現実には容易でないと思われる。

ECBのデフレ対応に限界

それでは次に、ユーロ圏の景気動向についてはどうだろうか。

1月9日に開催された欧州中央銀行(ECB)政策理事会では、政策金利を0.75%に据え置くことが
発表された。
しかしその後の記者会見で、ドラギ総裁は、昨年10−12月期の実質GDP成長率が、
対前期比0.1%にとどまり、従来からの「フォワードガイダンス」による金融緩和の継続を
維持する姿勢を、“strongly emphases”という表現を用いて強調した。
さらに、昨年12月のユーロ圏CPI速報値は年率0.8%に低下したが、追加的な金融緩和を行う
可能性のある場合としては、短期的なインフレ率の低下にとどまらず、
長期的なインフレ見通しの悪化、即ちデフレ懸念が高まるケースを挙げた。

以上のように、今回の記者会見で、ECBは、ユーロ圏経済の下振れと、デフレ懸念の高まりに
対する姿勢を、前回以上に強めてきている。
この点、前回の本レポート(*)で「今後もECBに負担が掛らざるを得ない」として、
追加緩和のタイミングなどについて述べたことが早くも視野に入ってきた。
2月以降、追加緩和が現実味を帯び、その後も、マイナス金利の領域に踏み込むことが、
意識されるだろう。
(*)「欧州・2014年へ向けた展開―3つのポイント」(2013年12月)

しかし同時に、冒頭述べたように、ドイツ主導でユーロ圏内の財政規律を強化する姿勢を変えず、
ユーロ圏内の「南北格差」が解決されないままでは、ユーロ圏のデフレ懸念が高まっている
という構造的な問題に対し、以上のようなECBによる対応に、やや限界が見えてきた感がある。

一方、欧州内外からドイツに対しては、内需を拡大し、ユーロ圏内の他国との経常収支の均衡を
解決すべきであるという声が高まっている。
現状、ドイツがこのような要求に応じる様子はない。しかし、このように今後ユーロ圏のデフレ懸念が、
一段と現実化し、ECB頼みの対応に限界が見えてきた場合、ドイツとしても、最終的には
柔軟な姿勢に転じる可能性が生じるのではないか。
ユーロ圏全体におけるデフレ懸念と景気低迷は、ドイツ経済にも、内外需両面から、
悪影響を及ぼすためである。

最後に、ユーロ圏を取り巻く、世界的な経済・市場動向が問題になる。
ユーロの為替水準は、現状対ドルで1.40ドル、対円で130円台半ばの水準で、堅調に推移している。
ユーロが堅調に推移してきた背景には、冒頭述べたように、現状ユーロ危機が落ち着いてきた
という楽観論がある。さらに、今後について、ユーロ圏のデフレ懸念が高まり、
実質金利が上昇した場合、この点が、ユーロを押し上げる可能性もある。
このような展開となった場合、ユーロ圏の内需低迷と、ユーロ高によりユーロ圏からの輸出という
外需が同時に進むという、ユーロ圏にとっては最悪のシナリオとなるリスクがある。

一方、欧州外の要因に目を転じると、カギとなるのは米国要因である。
2月初め、ハト派のイエレン氏が、FRB議長に就任する前後から、
量的緩和の段階的縮小の開始後も金融緩和基調が、当面続くという思惑が高まり、
ドル高基調への期待感が落ち着く可能性がある。

この場合、第1に、ユーロ・ドルは、短期的には、現在の水準で比較的堅調に推移する
ことになるだろう。

しかしその後は、今春にかけ、景気回復が本格化する米国と、低迷が続くユーロ圏の、
景況感格差が意識され、ドル高・ユーロ安基調が本格化することになるだろう。
現在でも、世界の二大基軸通貨は、ドルとユーロであり、ユーロ・ドルレートは、
米・欧双方の要因により、大きく変化しやすい性格がある点には、注意が必要だ。


第2に、ユーロ円レートについては、短期・中期の両面で下落する要因が大きい。
ユーロ・円レートは、ユーロ・ドルレートとドル円レートを掛け合わせたものと考えることができる。
まず、短期的には、米国側で金融緩和姿勢が強調されると、ドル・円レートについて、
これまで続いてきた円安・ドル高が一旦変化し、円高・ドル安方向に振れ、
ユーロ・円レートに対する下落圧力が強まることになる。
一方、今春以降は、上に述べたような要因から、ユーロ・ドルレートの下落が、
ユーロ・円レートに、持続的な下落方向の影響を与えることになるだろう。

以上の3点―

ユーロ危機への楽観論の修正、ECBの政策対応の手詰まり感、ドルを中心とした
外的な市場要因―を考えると、今年2月以降から春先にかけ、ユーロは、
1.3ドル・130円を割り込む方向へ、下落基調が強まっていくことになるのではないか。