2011年06月20日
ふぅー、忘れた頃の更新。自分の備忘の為にもこういうのはさっさとやらないとダメなんだけど、本業やら個別案件やらで元気がない(^^;。でそうこうしてるうちにマーケット結構厳しくなりましたねえ。。アメリカの失速振りと中国の引き締め→ハードランディングは懸念なんだけど今のところは夏場あたりまでが中国は引き締めのピークでそこからは徐々に緩むのではというのが北京に近いところで情報取ってる人たちの見方ではないかと思う。
さてとそれはともかくスワプションの話、なんとか終わらせとこうね(^^)。前回はスワプションのボラティリティー構造を表現するのにオプションの満期t(たとえばオプション満期半年ならt=0.5になる)、t年後にスタートするフォワードスワップの長さT(たとえば5年物とか)、そしてそのATM(at-the-money-forward)水準からの行使金利の乖離Kj(ATMF金利水準からみて90%水準とか120%水準とか)の三つが必要で、仮想的にはvolatilityの構造は4次元空間に3次元のcubeとしてσ(t,T,Kj)という形で表現されることをみた。Kjの水準に応じて市場価格から逆算されるボラティリティー(市場価格に含意されているという意味のインプライド・ボラティリティーimplied volatilityという言葉が使われる)はATMFの場合の水準とは異なっており、大体のケースにおいてOTMのほうがボラティリティーは高いということが観察される。これは株などでも同じだ。これをskewness(歪み)とよんでるわけだけど、理論上の話ではなくて市場価格から逆算するとこうならざるを得ないというだけの話。
まあ抽象的な話してても仕方ないので実際の市場でのquoteを見てイメージ掴むことにしよう。ソースはいづれもBloomberg。これがどのくらいの精度なのかは正直よくわかんないけど、real dealing priceからそんなにはずれてないとおもう。
最初の絵は、円スワプションのATMF行使水準のボラティリティー一覧(の一部)
at-the-moneyなのでさきほどのσ(t,T,Kj)=σ(t,T,at-the-money-forward水準)というわけ。たとえば満期6カ月、期間5年スワップに対するATMF水準のボラティリティー、すなわちσ(0.5,5,100%)はこの表をみるとATMF金利水準が0.6169%で、年率換算σ=53%なのだとわかる。なんでもいいんだけどσ(1,7,100%金利水準=0.9681%)=45%とかいうふうに見るわけ。ちなみにここでのボラティリティーは金利の変動過程が対数正規分布に従っているブラックモデル型の過程を置いた場合のボラティリティー。
次はさっきのATMFから100bps(つまり1%ね)だけ行使金利水準を高めにしてOTMのオプションになった場合のボラティリティー一覧表。さきほどからの表記に従えば、たとえばσ(0.5,5,ATMF+100bps)=58.78%で上記のATMFのときのボラティリティー水準(53%)よりも高くなってるのがわかるよね。このように行使金利水準によって市場の価格に含意されたボラティリティー水準は実際に変わってくる。これをskew(スキュー)と呼びことはさっき説明した。一方どちらの表をみてもらってもわかるんだけど、同じ6カ月満期のオプションでもそれが3年スワップ金利に対するものか5年物に対するのか7年ものなのかなどでボラティリティーが同一でないのを見てもらえるとおもう。
さて変数が三つあるのでどうしても静的な図を描くと3次元に2次元平面しか描けないんだけど、行使金利はATMF水準でオプションの満期が1カ月から10年の間、オプションの対象となるスワップ金利が1年物から10年物までのボラティリティー水準を描いたのが左掲図。結構2次元平面が波打ってるでしょ。これがvolatility surfaceと呼ばれる。って書いたら3次元上のsurface graph表示されないな(泣)。理由は不明だけどうまくキャプチャーできないな。。右手のskewはみてもらえるとおもう。まあ仕様がない、みなさん想像力を働かせてっていっても難しいからMathematicaのPlot3Dでここで描かれてるような波打つ平面が描かれてるとおもってね。
因みにBloombergでは金利の変動過程が正規(ノーマル)分布(つまりゼロクーポン債券価格の変動過程が対数正規分布になってるって仮定を措いてるってこと)の場合も示せるのでここに掲げておく。当然確率分布の形状がちがうので、おなじ市場価格に対するインプライドボラティリティーの水準はブラック型(金利が対数正規分布)のそれとは異なる。参考までにノーマルの場合のボラティリティー表もここにあげておく。一番目の表と同じもの(市場価格)を表現しているボラティリティー。金利がゼロに近づいてくると、二つのモデルの間でデルタなどの指標に相当差が出てくる可能性があることはこの前の回に述べた。
ま、変数が多いのでなかなか市場全体の構造を上手に(市場で取引されている価格に斉合的に)リスク管理モデルに落とし込むのはなんか大変そうだなーというのがすこしは感じてもらえるだろうか(^^;
それで実は世の中でなにが起こっていたかというと、時々流行り病のように盛り上がるんだけど日本の財政破綻はいよいよだ、こんな借金抱えて日本が保つはずはない、これは長期に保険を買ってヘッジすべきだって話が湧きあがるわけ。サブプライム危機以降この1~2年がそうだったんだけど、アメリカでもKyle Bass(サブプライムショートで大もうけしたと言われている一人)とか著名HFマネージャーが日本はもう終わりですファンドとか作って投資家募集したりして、日本のヘタれぶりをみてそりゃそうだとおもってJGBのオプションや日本のCDSを買う人が格段に増えた。JGBや円金利のオプションを買うとき、当然日本崩壊シナリオに賭けてるわけだからオプションを買う側は今のギリシャやポルトガルみたいに金利が上昇してどうにもならなくなったようなときに儲かればいい。いわばイベントに賭けているのでATM近辺ではなく行使金利4%とかもっと高い金利に上昇したときに儲かるように、というよりむしろ保険感覚で買ってる連中もいるのでOTMのところの需要がかなり出たんだよね。つまりHFを含む投資家はぺイヤーズスワプション(たとえば今から2年後に、5年ものスワップのストライク金利3%を支払う権利)を大量に買った。推測するにMUMSSを含む金融機関のディーラーはOTMのぺイヤーズスワプションを大量に売らされたわけだ。MUMSSの損失を考えるに、これをどのくらいアウトライトで抱えたか、社内のモデルがこのOTMボラティリティー構造をどのくらいきちんと評価しヘッジできていたのかがひとつの大きな焦点にはなるだろうね。しかしBloombergをちょいちょいとたたけば数字が拾えるのにそれを全く考慮してなかったというのは俄かに信じられないけどね。。。
余談だが実はぺイヤーズの歪んだ需給は日本だけではない。アメリカも今は大分後退したけど当時インフレ懸念とやはり財政膨張懸念のヘッジとしてOTMのぺイヤーズスワプション買いニーズがあって、買い需要があれば当然値段は高くなるのでOTMのインプライドボラティリティーは高止まりした。アメリカの場合はもうひとつ面白い需給があって当時FRBが1兆ドルのGSE発行のモーゲージ債を買ってる最中だったんだよね。モーゲージの詳しい話してると話が終わらなくなるのでここではしないが、relevantなポイントで言えばモーゲージ債というのは金利オプションの売りを内蔵してる商品なわけ。で、普通の投資家やHFなどのrelative value取引をしてた連中はモーゲージ債に内蔵されたオプションヴァリューと、スワプション市場やキャップ市場のボラティリティーを見ながらスワプションを買う(売りのカバー)という一定の裁定関係が働いてたんだよね。実際アメリカの長期の金利オプション市場なんてモーゲージ市場の需給を見ずしてはプライシングできない。ところがバーナンキ先生率いるFRBは当然アービトラージの為に買っているのではないのでヘッジしなかった。とするとどうなるでしょうか(^^)?ハイ、答えは簡単、1兆ドルに及ぶ債券でヘッジがされなくなっちゃった、つまり1兆ドル分の債券について、ヘッジの為にオプション買ってたひとがいなくなった状態になった。ディーラーはヤバいとおもって我先に売った。PIMCOとかもモーゲージ買う(オプションの売りが内蔵されている)より米国債+ATMスワプションの売りの方が相対的にオイシーんじゃねとおもってATMスワプション売る行動にでたので、ATM近辺のボラティリティーは下がり続ける一方、OTMのほうはアメリカ破滅シナリオ組とインフレ懸念組の買いでボラティリティーは上昇してしまい、この需給を上手にトレードした人もいたが、ヘッジで股裂きにあい、大量に血を流した人も多かったわけw。
うーむ、また話が横にそれてますな。もうちょいで終わりなんだけど、今日各の疲れたし(^^;最終回では日本でどうだったという話を簡単に書きます(はやくしような、自分!)。 (まだ要領悪く続く)
さてとそれはともかくスワプションの話、なんとか終わらせとこうね(^^)。前回はスワプションのボラティリティー構造を表現するのにオプションの満期t(たとえばオプション満期半年ならt=0.5になる)、t年後にスタートするフォワードスワップの長さT(たとえば5年物とか)、そしてそのATM(at-the-money-forward)水準からの行使金利の乖離Kj(ATMF金利水準からみて90%水準とか120%水準とか)の三つが必要で、仮想的にはvolatilityの構造は4次元空間に3次元のcubeとしてσ(t,T,Kj)という形で表現されることをみた。Kjの水準に応じて市場価格から逆算されるボラティリティー(市場価格に含意されているという意味のインプライド・ボラティリティーimplied volatilityという言葉が使われる)はATMFの場合の水準とは異なっており、大体のケースにおいてOTMのほうがボラティリティーは高いということが観察される。これは株などでも同じだ。これをskewness(歪み)とよんでるわけだけど、理論上の話ではなくて市場価格から逆算するとこうならざるを得ないというだけの話。
まあ抽象的な話してても仕方ないので実際の市場でのquoteを見てイメージ掴むことにしよう。ソースはいづれもBloomberg。これがどのくらいの精度なのかは正直よくわかんないけど、real dealing priceからそんなにはずれてないとおもう。

at-the-moneyなのでさきほどのσ(t,T,Kj)=σ(t,T,at-the-money-forward水準)というわけ。たとえば満期6カ月、期間5年スワップに対するATMF水準のボラティリティー、すなわちσ(0.5,5,100%)はこの表をみるとATMF金利水準が0.6169%で、年率換算σ=53%なのだとわかる。なんでもいいんだけどσ(1,7,100%金利水準=0.9681%)=45%とかいうふうに見るわけ。ちなみにここでのボラティリティーは金利の変動過程が対数正規分布に従っているブラックモデル型の過程を置いた場合のボラティリティー。



ま、変数が多いのでなかなか市場全体の構造を上手に(市場で取引されている価格に斉合的に)リスク管理モデルに落とし込むのはなんか大変そうだなーというのがすこしは感じてもらえるだろうか(^^;
それで実は世の中でなにが起こっていたかというと、時々流行り病のように盛り上がるんだけど日本の財政破綻はいよいよだ、こんな借金抱えて日本が保つはずはない、これは長期に保険を買ってヘッジすべきだって話が湧きあがるわけ。サブプライム危機以降この1~2年がそうだったんだけど、アメリカでもKyle Bass(サブプライムショートで大もうけしたと言われている一人)とか著名HFマネージャーが日本はもう終わりですファンドとか作って投資家募集したりして、日本のヘタれぶりをみてそりゃそうだとおもってJGBのオプションや日本のCDSを買う人が格段に増えた。JGBや円金利のオプションを買うとき、当然日本崩壊シナリオに賭けてるわけだからオプションを買う側は今のギリシャやポルトガルみたいに金利が上昇してどうにもならなくなったようなときに儲かればいい。いわばイベントに賭けているのでATM近辺ではなく行使金利4%とかもっと高い金利に上昇したときに儲かるように、というよりむしろ保険感覚で買ってる連中もいるのでOTMのところの需要がかなり出たんだよね。つまりHFを含む投資家はぺイヤーズスワプション(たとえば今から2年後に、5年ものスワップのストライク金利3%を支払う権利)を大量に買った。推測するにMUMSSを含む金融機関のディーラーはOTMのぺイヤーズスワプションを大量に売らされたわけだ。MUMSSの損失を考えるに、これをどのくらいアウトライトで抱えたか、社内のモデルがこのOTMボラティリティー構造をどのくらいきちんと評価しヘッジできていたのかがひとつの大きな焦点にはなるだろうね。しかしBloombergをちょいちょいとたたけば数字が拾えるのにそれを全く考慮してなかったというのは俄かに信じられないけどね。。。
余談だが実はぺイヤーズの歪んだ需給は日本だけではない。アメリカも今は大分後退したけど当時インフレ懸念とやはり財政膨張懸念のヘッジとしてOTMのぺイヤーズスワプション買いニーズがあって、買い需要があれば当然値段は高くなるのでOTMのインプライドボラティリティーは高止まりした。アメリカの場合はもうひとつ面白い需給があって当時FRBが1兆ドルのGSE発行のモーゲージ債を買ってる最中だったんだよね。モーゲージの詳しい話してると話が終わらなくなるのでここではしないが、relevantなポイントで言えばモーゲージ債というのは金利オプションの売りを内蔵してる商品なわけ。で、普通の投資家やHFなどのrelative value取引をしてた連中はモーゲージ債に内蔵されたオプションヴァリューと、スワプション市場やキャップ市場のボラティリティーを見ながらスワプションを買う(売りのカバー)という一定の裁定関係が働いてたんだよね。実際アメリカの長期の金利オプション市場なんてモーゲージ市場の需給を見ずしてはプライシングできない。ところがバーナンキ先生率いるFRBは当然アービトラージの為に買っているのではないのでヘッジしなかった。とするとどうなるでしょうか(^^)?ハイ、答えは簡単、1兆ドルに及ぶ債券でヘッジがされなくなっちゃった、つまり1兆ドル分の債券について、ヘッジの為にオプション買ってたひとがいなくなった状態になった。ディーラーはヤバいとおもって我先に売った。PIMCOとかもモーゲージ買う(オプションの売りが内蔵されている)より米国債+ATMスワプションの売りの方が相対的にオイシーんじゃねとおもってATMスワプション売る行動にでたので、ATM近辺のボラティリティーは下がり続ける一方、OTMのほうはアメリカ破滅シナリオ組とインフレ懸念組の買いでボラティリティーは上昇してしまい、この需給を上手にトレードした人もいたが、ヘッジで股裂きにあい、大量に血を流した人も多かったわけw。
うーむ、また話が横にそれてますな。もうちょいで終わりなんだけど、今日各の疲れたし(^^;最終回では日本でどうだったという話を簡単に書きます(はやくしような、自分!)。 (まだ要領悪く続く)
2011年05月08日
さてと、前回の続き。
まずスワップション(swaption)はその名の通りスワップ金利(普通のスワップ取引は固定金利と変動金利を交換する取引なんだけど、それがどんな取引かやどうやってプライシングされるかまでは解説書く元気がないので、知らない人は各自ググられたし。キーコンセプトは現在価値の等価交換)に対するオプションのことで、いろいろなオプションにコールとプットがあるようにスワップのオプションにもある。金利の変化によって価格が変動するリスク資産にはもうひとつ債券があるわけだけど、債券価格があがると儲かるような権利(数理ファイナンス業界用語では条件付き請求権contingent claimと呼んだりもする)をコール、債券価格が下落すると儲かるような権利のことをプットと呼んでるよね。つまり金利のオプションにおいて、債券価格変動との双対性(っていうほど大袈裟なものでもないがw)から、金利が下がると儲かるような権利をコールと呼び金利が上昇すると儲かるようなものをプットと呼べばいい。
具体的にはどんな権利かっていうと、ある行使金利水準で金利を受け取る権利(right to receive)がまあ対応的にはコールで(なぜならばその定められた金利を受け取る権利には金利が低下すれば価値が出てくる)、逆に金利を定められた水準で支払う金利(right to pay)が対応上プット(なぜならばその金利を支払う権利の価値は、金利が上昇すればするほど出てくる)ってことになるわけだけど、金利と債券価格は動き方が反対だし(片方があがれば片方は下がる、しかも線形じゃないことに注意)、どっちがどっちだか分けわかんなくなっちゃうので、もっとストレートな名前にしようぜということになって、結局スワップ金利を受け取る方の権利をレシーバーズ・スワップション、スワップ金利を支払う方の権利をぺイヤーズ・スワップションというベタな名前で呼ぶことが通例化した。
金利が株のオプションと少し話がちがうのはイールドカーブの形状がその価格(っていうかフォワードの水準)に決定的に影響してるってこと。なんのこっちゃだとおもうので、世の中で時々見かけるコーラブルボンド(発行体が満期の前に元本の100%で期限前償還できる権利の付いた債券。発行体が途中でリファイナンスする権利を持っているので通常の普通社債よりも金利が高くなっている。投資家は金利オプションを売っている。)で説明してみよう。
ほんとは普通の社債は当然にクレジットリスクを考えなきゃいけないんだけど、デフォルトカーブの話を足すと話がこんがらがるのでここではデフォルトしない社債だとおもいましょう(^^)。それでたとえば10年債なんだが3年目に発行体がコールできるような債券というのは裏のヘッジに2種類のやり方があるんだよね。ここではみんな銀行のスワップディーラーになった気持ちで考えてみてほしい。発行体が10年債だけど3年目にコールできる権利の付いたコーラブル債を発行してヘッジしたいと言ってきたときにどうするかって話だ。ちょっと考えればわかるが、ひとつは普通に3年のスワップ固定金利を払っておいて、期間3年の3年後の7年金利(フォワード金利)に対するぺイヤーズ・スワプション(金利が上昇すると行使)を買い持ちするやりかたがひとつ。もうひとつは期間10年の固定金利をまず払っておいて、期間3年の3年後の7年金利のレシーバーズ・スワプション(金利が低下すると行使)を買い持ちにするというやり方がある。つまり3年固定金利の払い+期間3年の7年固定金利に対するぺイヤーズの買い持ち=10年固定金利の支払い+期間3年の7年固定金利に対するレシーバーズの買い持ちという等式が成り立つわけ。イールドカーブの形状によって3年金利のほうが10年金利より高いか低いか等は変わってくるが、この等式が成立するようなパリティ水準金利が必ず存在する。マルチコーラブルになるとバミューダンオプションをプライシングするためのモデルの話から始めないといけないのでそういうの好きなひとはとりあえず有名なHullの教科書でも読んでね(英語難しくないから、英語の方が多分分かりやすいとおもう)。ただこちらでもパリティ関係を構成することはできる。言葉で説明しても何のこっちゃだろうから興味ある人は図を書いてみてくださいな。
で理屈上は債券の価格(まあお約束でゼロクーポン債で大体話がされる)に株の時と同じように価格に対数正規(log-normal)分布を適用してうんたらかーたらという話があるわけだが(利付き債券に対するオプション評価式をclosedで提出したのはF.JamshidianというひとでJFに乗った短い論文はその名もずばりAn Exact Bond Option Formulaだったwと記憶する。確か日系の会社で働いてたことあったよね)、まあ細かいこと気にしないでいうと利率r%、満期t年の債券の価格PはP=Exp(-r*t)であらわせるので、Pの価格変動が対数正規(log-normal)分布に従っていると、その対数を取ったものつまり−r*tは正規分布(normal)に従ってしまうことになって(tは満期までの期間で確率変数ではないので、ふらふら正規分布に従って動くのはr)、そうすると金利がマイナスの可能性が出てきてしまってどーたらこーたらという議論がこの四半世紀されてきた。世の中的にはHull-White model とかHeath-Jarrow-Morton (HJM) modelとか正規分布系のモデルも出てきたが、一般的には単純なBlack model (あるいはBlack-Derman-Toy型のモデル)、やLIBOR Market Modelと呼ばれるBrace-Gatarek-Musiela(BGM)系の対数正規系モデルが各社で実装されたんじゃないかとおもう。これらのモデルは市場で実際に観察される豊かな金利のタームストラクチャー構造と、ボラティリティ構造(高級なやつだと各期間同士の金利の動きの相関構造を含む)を、アービトラージフリーの制約の中で、矛盾なく表現しようとする試みだったんだよね。基本的な思想は市場で観察される価格に完全に合わせようということだったんだけど、金利が正規分布系の会社と対数正規系分布モデルを使ってる会社では実は決定的な差が出るところがひとつあって、それはストライク金利0%のレシーバーズ(つまり金利が0%以下になって初めて儲かるプロファイルのスワプション)に価値があるのかないのかという点だったんだよね。今をさることかれこれ15年近く前に日本のゼロ金利環境下流行った仕組みの一つがこれだった。ようはOTMオプションなわけだけど対数正規だと0%未満にはならないんだから、どんなボラティリティをいれても価値は零。一方正規系のモデル使ってる会社はOTMでもボラが高ければそれなりにバリューあるし、金利ヘッジデルタも一応あるからなんかよくわかんないけどヘッジできてしまうというなんだかよくわかんない話が罷り通っていた(欧州系も米系もアグレッシブな人たちはいましたねえ)。で対数正規系モデルのディーラーが売って、正規系モデルの連中が買って、両方ともMTMで儲かっちゃうというおかしな話が罷り通ってしまい、途中から各社ともそれ相応の市場マークに対する調整をするようになって行ったとおもう。この辺の話は多分今回の話にも通ずるところがあるとおもうんだよね。
ちょっと話が飛ぶけど、金利の非負制約の話はなかなか奥深い話があって、確かに名目金利はゼロ以下にはなれないのだけれど、需給が全てを支配する世の中にあってはマイナス金利は実は結構観察されるんだよね。それが一番実現されるのは?はい為替のフォワードマーケットです。先渡しのディスカウント(プレミアム)スプレッドというのはご存じの通り市場で実際に取引されていてスポット価格も市場で取引されている。あとはたとえばドル円フォワードだとドル金利と円金利でもって決まるわけだけどスポット、フォワード(ディスカウント)、ドル金利、円金利の全てが自由に動くことはできない。均衡式F=S*(1+Rd x days/360)/(1+Rf x days/360)で、F−S(直先スプレッドという)は市場で観察というか取引されてるから金利の片方を決めれば(4つの変数のうち3つを決めれば)もう一方(最後のひとつの変数である金利水準)は自動的に計算されるのだ。たとえばドル金利をLIBORとかユーロドル先物とかで決めてしまうと含意された円金利(implied JPY rate)は名目の絶対値がほとんどゼロなので、理論値からのズレを差し引いた金利水準を計算すると結構マイナスになってたんだよね。リーマンショックの後とかひどかったが、恒常的に輸出企業のヘッジ圧力が強いドル円などにおいては平時においてもドルフォワードが理論値よりも売られている状態はしばしば出現する。スプレッドが理論値よりも広がってるということは国内金利(運用レート)が理論値よりも低いか、外国金利(調達レート)が理論値よりも高いことをimplyするわけ。取引したことない人にはピンと来ないかもしれないが、まあそんなもんだとおもっててほしい。この調達手段を利用して、昔々短国を0%で入札して儲けたり、預金保険機構に法外な金利で貸し付けて大儲けしたことのあるひと、こっそり手をあげなさい(笑)!
これは相対的な話なので円LIBORの方を固定すればドル調達が理論値(LIBOR)でできないでなにがしらスプレッドが乗ってるということになる。このように理論値から市場はしばしばずれていてそれが結構恒常化するから、それを理論値で評価して利益が出ました損が出ましたと言っても仕方がないことになり、それぞれのマーケットに応じたズレ(これをベーシスという)を加味した評価をしなければならなくなる。。。というリーマン危機以降流行りのマルチプル・カーブの話はまた後でしよう。
いかんな、昔の癖であちこと話が飛んでしまった。柳田国男じゃないんだからもっと筋道立てて書かなきゃね。スワップションの話をしておるのであった。で、ここからの話が佳境ってことになるわけだが、次回の準備の為に以下でボラティリティの表現構造を確認しておこう。
株の場合は現資産は満期の無い株という商品(たとえば日経平均という商品だったりソニーだったりするわけだ)がひとつだけであり、それに対し行使期間が短期から長期まであって、これがひとつのterm structureという軸を構成する。もうひとつは行使価格がATMなのかOTMなのかによってインプライドボラティリティの水準が異なっており、大体はOTMのほうが高いのでその形状を笑った時の口の形にみたててsmile curveとかwingなどとよんだりもするわけだけど、これがまあ横軸へのひろがりなわけだ。つまりひとつの行使年限tと、一つの行使価格水準Kjに応じたボラティリティ水準が関数σ(t、Kj)として定義されるわけで、ぶっちゃけσがぐにゃぐにゃした平面として描かれるわけ。これを評してvolatility surfaceなんていうわけだけど、3次元上に描かれるsurfaceは実際に見た方が早いよね。(→Bloomberg画像がうまくキャプチャーできないので後日やります)
これに対し、金利の場合はもうひとつ次元が不可避的に多くなってしまう。なぜならば現資産にあたる金利自体にも満期があるからだ。オプションの行使期間が1カ月からたとえば10年までとかいうのは同じ。しかし3年満期の(フォワード)5年スワップ金利に対するオプションもあれば、同じ3年満期でも10年の(フォワード)スワップ金利に対するオプション(行使された場合の最後のお尻は現在からみて3+10年で13年後になる)も存在する。更にOTMのオプションボラティリティのほうがATMFのオプションのボラティリティよりも総じて高いということも遍く市場で観察される事実だ。つまり、ひとつのボラティりティ水準は、スワップションの満期t、対象としているt年後フォワードスワップの年限T、ATMFからの乖離水準(skewness)Kjの三つの要素によってσ(t,T,Kj)という形であらわされる。株のオプションのときは2つのパラメータできてい出来たから、3次元空間に2次元のsurfaceを書くことで表現出来たんだけど、金利の場合は3つのパラメータによって4次元空間に3次元のcubeを描くことでしか表現できない。残念(^^)!あるいはATMFだけのsurfaceとか5%OTMであとは動くsurfaceとかいうのを描いてイメージを掴むしかないかもね。MathematicaだとMovingPlot3Dとかいう関数もあるからそういうの上手に使ってATM→OTMで動かしてやれば、OTMになるに従ってマーケットのボラティリティサーフィスが上に摺り上がって行くのがvisualに実感できるかもしれない。無料ソフトの優れものRにはこういう関数用意されてるのかな(多分あるよね、Rのグラフィックは一般にはチャチいけどw)。オモチャとしては楽しいよね。 これも4次元表現はできないのでATMFだけのsurfaceを掲載しておこう(これも図はあとで貼ります)。
で、やっとこさ次回はMUMSSを酒の肴にした謎解きの話になるかなとおもうんだけど、一つのキーは彼らのシステムがσ(t,T,Kj)を実際どのように表現していたかということだろうね。Kjは年限によっては情報が少ない、と少なくともミドルの人はおもってる。事実だが、トレードされればそれは存在する市場価格だ。またσ(・,T,・)だけどTがoddな年限(13年とか17年とか)だったときのボラティリティもトレード数が少ないので何を入れてたのかは問題となる。
次回は筆者の理解する限りで市場でどんな取引が構造としてスワップション市場を需給で歪めていたかを見ながら、このトレーダー氏が逝ってしまうに到ったかの勝手な推測を書いてみよう(笑)。
断っておくけど筆者としてはそれが正しいかどうかよりも、金利OTC市場の抱えてる困難についてある程度理解を共有し、意見交換ができればよいとおもって書くので、別に三菱が本当はどうであったかは刺身の褄であることに留意されたし。あーあ、要領わるいっすね、やっぱり2回じゃ終わんないじゃん。orz。。。(続く)
2011年05月02日
Zoomchakaさんに振っていただいたこともあり、もうほとんど死んで世の中からいなくなったと思われてる頃の更新です(笑)。
タイトルは大昔に今は亡きwDoblogで書いた変動利付国債で大勢死人がでた時の解説記事から取りました。
なのでPart IIです。
最近はTwitterで遊んでてちっともBlogを書く気がおきないんだが(ま、もともと日常の中味が薄いんで書くことないんだけどねw)、たまたま最近の三菱UFJモルガンスタンレー証券ホールディングス(なげーナ、もうちょっとなんとかならんのか。というわけで以下三菱とかMUMSSとかテキトーに略す)がスワプションで大損こいたという話が出て、Twitterにその話題を振った手前、その顛末に絡めていくつかおもいつくところを書いておこうとおもう。
この事件については既にttoriさん(@ttori5112)がTori Box のマーケット事件簿で親会社のMUFJ(8306)の有報をもとに解説記事を書かれているが、銀行本体の巨大な金利デリバに紛れて、本当はどれがMUMSSのポジションなのかはっきりはわからない。残念ながら100%子会社であるMUMSSは四半期開示を要求されていないようで、2010年4−9月の半期報告書しかまだあがっていない(→ここにあるので参照されたし)。なのでポジションの変化などについては次の半期報告を待つしかないんだけど、もうポジション解消しちゃってると予想されるので3月末のものみても多分わかんないんだよね。既にしかし2011年3月期の半期報告書(2010年9月末)には今回の事件になったようなことは一切書いておらず、経営陣や監査法人に発覚したのが今年に入ってからであったというのはあながち嘘でないのだろう。ただ、モルスタはMMパートナーシップという持ち株会社を通じてMUMSSの株を共同保有しているわけだから、昨年5月の合併前の資産査定の段階でモルスタ側でこれに気付いてないとは直感的にはちょっと考えにくいよね(実際に2011年4月22日付の毎日新聞のこの記事ではモルスタ側から合弁発足時の資産査定時に何か言われていた(でも「一定の枠内ですべきだ」ってどういう意味?日本語になってないんっすけど(苦笑))ことが暗示されている)。
一方でそうした資産査定や会社のValuationをするのは、ちょっと高級な算数は苦手なあんぽんたんインベストメントバンカー(笑)や実際の市場で取引したことのない会計士なわけで、実際のスワプションマーケットのことがわかってるわけないから、モデルがポピュラーなものであったり、市場価格をもちいてプライシングされてると三菱側のミドルから言われれば、モルスタのミドルが仮にチェックしたとしても、ああデータベンダーは確かにxxを使ってるなー、モデルも標準的ブラックモデルだし問題ないですねーというふうに話が流れた可能性が大。
因みにMUMSSの昨年9月末半期報告書でトレーディング勘定(8ページ)に表れている資産と負債側に表れた数字を示しておく。なおこの有報によればトレーディング勘定にでてるのはMTMの数字ということであるから、実際の名目元本はこれよりもはるかに大きいだろうということは容易に想像がつく。値洗いの数値は以下の通り(数値はいづれも百万円単位。+は資産側のMTM、−は負債側のMTMの数値を示す)。
平成21年9月30日期
オプション +723,300 vs -775,243 (net -51,943)
スワップ +4,270,069 vs -3,923,310 (net +347,659)
平成22年9月30日期
オプション +1,034,497 vs -1,139,439 (net -104,492)
スワップ +6,062,837 vs -5,689,692 (net +373,145)
さて、これだけからわかることは多くはないが、まずオプションもスワップも一昨年9月から昨年9月までの1年間で結構売りも買いも増えていることが推測できる。今回の巨額損失の下地は準備されていたわけだ。
ちなみに、オプションもスワップも何を資産側に載せ、何を負債側に載せた等の情報が一切ないので以下は類推でしかないが、他の債券や株と一緒にこのオフバランス取引を時価評価価値として出ているので、オプションについては資産側に買い持ち(ロング)、負債側に売り持ち(ショート)を載せたのであり、スワップについては債券と同じように債券価格が上昇するとき(つまり金利が低下するとき)に儲かるポジション(つまりレシーブポジション)を資産側に、逆に金利低下でやられる(上昇で儲かる)ポジション(つまりペイポジション)を負債側に持ってきているのではないかとおもう(この辺バンクや証券アナリストのひとの教えを請う)。*
*knakajimaさんからコメント欄にB/Sにはオプションの買い持ちだろうと売り持ちだろうと、あるいはスワップのペイだろうとレシーブだろうと、単にMTMしてプラスになってるものの合計が資産側に、MTMしてマイナスになったものの合計が負債側にあるんじゃないの、だからポジションがロングなのかショートなのかと関係ないのではというご指摘をいただいた。その通りだとおもいます。ここに訂正して記します。ご指摘に感謝!
ただグロスの名目元本が大きく膨らんだんじゃね?という下記の推測に変わりはありません。「両側の」MTMが大幅に増えるにはグロスが大きく増えないとそうならないからです。詳しくはコメント欄のやりとりを参照され度。
dv01情報がないんで断言はできないが、おそらくネットではレシーブのポジション(金利が低下すると儲かるポジション)がスワップでは積まれてるってことなんだろうね。これ以外に実際の債券とかでスワップのヘッジをしているとおもわれるのでオプションとスワップだけ見て、おお、スゲー勝ってんじゃんとか思わないように(笑)。有報みればわかるが債券部門のトータルの勝ちは21年4−9月が56,378百万円→22年4−9月期79,104百万円とあるので、22年4−9月では2000億円近くのヘッジ損が他で出ているはずである。しかしここで気付くべきはグロスの名目元本(買い持ちと売り持ちの合計)は結構とんでもない数字なんじゃね?っということ。だってオプションの評価だけで片側1兆円超えてる(22年9月期のオプションの売りMTM)って結構すごいよね。
オプションはネットでのショートがMTMで500億円以上増えているのでトータルではショートヴェガ、ネガティブガンマ(コンヴェクシティ)のポジションになっているだろうと推測される。スワップも増えてるんだろうなーってわかる。こういうのって満期(maturity)毎のバケット(bucket)情報があるともう少し何やってるかわかるんだけど、ヘタに開示すると巨額でお互いのポジションが推測出来ちゃうから敢えてわかんないようにぼやーっと出してるのかもしれないね。
日経の記事によると、経営陣がヤバいことに気付いたのは今年1月、下旬に秋草前社長がポジション解消を指示したとあるので解消の影響が出たのは1月下旬から2月あたりのはずだろうね。「再発防止に向け、取引の内容やリスクを複数の部門で相互に監視する体制を整備したと強調」とあるからこの辺に問題が存在したのかなとおもう。
朝日新聞のこの記事をみても、純損失になってるのは2011年(平成23年)1−3月期で、その前の3Qは平穏なPLになってる(記事中のグラフを参照)ので日経の記事と平仄はあっている。「保有高が大きすぎることがわかっていなかった」とかコメントしてるから、まさかトレーディング勘定に表れているオフバランス取引のMTM分だけ見てて、実際のnotional amountチェックしてなかったのか?まあそれは日本の会社だとありえるよね、別に社長がマーケット部門から出てくるとは限らないから。でもトレーディング(商品)部門の担当常務とか専務は何の報告受けてたんだってか、なんの報告させてたんだ(^^;???
しかし日経本紙に確かに出ていた840億円損失とかスワップションの名目元本が120兆円だったとかググっても出て来ないんだが、どういうことなんだろうねぇ。。。
というわけで、とりあえずマーケットで報道されたことを辿って見たけど、では幾つかのコメントから垣間見えるその問題とはなんだったのか。あくまで推測でしかないけれど次回以降検討してみよう。
とはいえスワップションてなんじゃいなという人もいるとおもうので、次回は少しその辺のおさらいと市場で観察できるものをいくつか見る予定(ほんまかいなww)。
最後に断っておくと別に筆者は今現在このマーケットを直接トレードしてるわけではないので、あくまで間接的なもの言いしかできないし、次回以降、いやそりゃ情報古くね、今はちがうんじゃねってところがあれば是非コメントしてもらえると嬉しい。
備忘の為の次回以降のキーワード(ただしそんな基礎知識はググって勝手に調べてとなる可能性も十分あり):スワップとスワップションとは、(ググり対象となる可能性[ぺイヤーズとレシーバーズ、イールドカーブの形状と金利オプションのプットコールパリティ])、株のボラティリティーサーフィスと金利のボラティリティー・キューブと実際に市場クォート、あるいは4次元の超キューブってかそれだけ組み合わせのパラメータがあるってことで、これは多分今回のミドルの評価問題につながったとおもう云々。以下はちょっとヲタ向け(コメント欄でマーケットで実際にこの問題に関わってる皆さんのコメントやりとりできたらうれしい):ボラティリティースキュー、カリブレーションとSABRモデルなどの確率ボラモデルの話(結構実装されているとおもう)、odd periodの流動性とプライシング、スワップカーブ自身の問題−ベーシススワップ、two curves one price (Bianchetti et alのダブルカーブ)問題、実際はtwo curvesどころか6−7curves問題(^^;、銀行とHedge Fundではこの問題はどっちのほうがよりシャレにならない問題なのか。うーむ全部書いてたら多分終わんないので適当に端折って今回のことに関係あることだけ、ヒマを見ながらチャラっと続編を書く予定。
ふぅー、Zoomchakaさん、昔はまあまあ書いてたんですがBlog書くのって結構大変だったんですねえ(^^;。