2006年07月12日

“北海道で100km歩け!”物語

突然ですが、先月の6/23〜6/26の昨日まで北海道に行ってきました。

ナニしに…?


「100kmを歩く」為です。


それはいつものようにノリで決まりました。

ある日かわけんが「オレ6月に北海道に行くんだよね」と言ったのが
発端です。
「何で?」と聞くと「小冊子制作のクライアントが100km歩け大会って
いうイベントを開催するんだ」
「なんで、それのサポートスタッフで参加するんだ」と。
「ふ〜ん、じゃぁオレも行こうかな」

こんなカンジで行く事にしたんですが当時はサポートとして参加して、
終わったら北海道を満喫しようっていう旅行気分だったんですね。

そんな会話から数ヶ月……




かわけんからイベントの詳細が送られてきました。
専用のウェブサイトが http://www.kitaguni.tv/100km/ 出来てたんです。
そこにあった過去の参加者の感想、かわけんから聞いた主催者の想い、
それらを感じた瞬間にオレは「よし!オレも歩いてみよう!」って
決めたんです。

決めたからにはカタチから入っていくオレです、色々準備を整えました。
インターネットで集められる情報を徹底的に調べ(マメが出来る仕組み
とか歩くと走るの違いとか)、専用のシューズ・サポート機能の着いた
スパッツ・マメが出来ないスプレー・アディダスのジャージ…などなど
ホントに色々買い漁りました。

それから新品のシューズを履き慣らそうと4kmほどの歩き練習をしてみたり、
(毎週やろうと思ってた練習は結局この1回だけに終わった)
そろえた各アイテムを装備して(部屋の中だけで…)気分になってみたり。


そんなこんなであっという間にイベント当日がやってきました。

しかし出発当日からその後の波乱を予感させる事件が起こったのです……



6/23金曜日、午後12時30分羽田発の飛行機を予約してました。

実は前日の夜、東京に来ていた奥もっちゃんと望月さんとオレの3人で
かわけんの主宰する勉強会に乱入してたんですね。
当然その後は飲みに行くワケで。
しかし翌日に出発のオレらを気遣ってもらい確か25時位には解散したんです。
しかしその数時間後からは日本vsブラジル戦。
もちろん寝ずにしっかり観戦しました。そして屈辱的な惨敗…。
色々な想いが溢れて興奮したオレはまったく寝れなくなりました。
実は前々日から徹夜していたので、28時間以上寝てないっていうのに。
しかし寝ないワケにはいかない、一応ベッドには入りました。
朝7時をまわったころ「あぁもう寝れないからこのまま行こうかな」なんて
思ったのが最後の記憶でした。

「ん……?」と目覚めて、何か違う空気を感じながら枕元のケータイを
手にとりました。



「!!!!!!!」
「14時過ぎてるーーーーーーーーー!!!!」



ビックリしましたね!マジで。
タイミングの悪い事にこの日は嫁さんが朝から出かけてて、家にはオレしか
いなかったんですね。
爆睡すると何も聞こえなくなるオレはぐっすり寝ていたようです…

そしてご存知のように寝起きが悪いオレはこの段階でもまだ状況をハッキリ
理解してません。

ケータイのトップ画面に「着信30件」と出てるのを見た瞬間、意識が戻り
ました。(ちなみに体はまだ起きてないので、まだベッドからは出ていない)

「か、かわけんは!!!???」

頭はパニくってるのですが、体はのっそりと動きます。
ゆらゆらリビングに行ってタバコに火をつけ、水をグイッと飲み干しました。
そして恐る恐るかわけんに電話を…

「ごめん!今起きた!」
「あー、目覚めた〜?おはよーございま〜す」
意外にのんびりした電話口に一瞬ホッとするオレ。
「羽田?待ってたの?ずっと?」
「あーっ!チケットオレが持ってんのか!!」
「とにかくダッシュでそっち向かうわ!!!」

「うん〜、まぁ次の便が16時だからだいじょぶじゃない〜?」
怒りを見せるワケでもなく、電話口のかわけんはいつものかわけんでした。

実は荷物も完全には準備できてなく、部屋に並べてある各アイテムを急いで
カバンに放りこみ、車に飛び乗りました。

走行中に着信履歴を見ていると、
川上 健太郎
川上 健太郎
川上 健太郎
川上 健太郎
岡崎  太郎
川上 健太郎
川上 健太郎

と、さりげなく別の太郎が混じってるじゃないですか!
おもむろにリダイヤルをしました。
「お〜、もう北海道かい?」
いつになく軽快な口調の太郎さんがでました。

「いや!寝坊して飛行機が行っちゃったんです!!」
「かわけんが待ってんですよ!」
「チケットって変更できるんでしたっけ!?」
思いつくまま喋り倒すオレに太郎さんは一言…
「それは土下座モンだな…」
と半笑いの顔(想像)で言いました。

ナニを話したかハッキリしないまま電話を切り、
目一杯アクセルを踏み込みます!
車は湾岸高速をまさに爆走しながら羽田を目指します!


言うまでもなくこの日のオレは、自宅〜羽田間の最速タイムを更新しました。
(なんとバイクの時よりも速い約20分!)

空港の駐車場に車を滑り込ませ、荷物をもって空港へダッシュです!
(いや、正確には小走りかな)

かわけんへ電話をします。
「とりあえずチケットの変更すっから、ANAの12番で!!!」
「りょ〜かぁ〜い」
状況を分かってないかのような余裕っぷりのかわけんに
申し訳なさを感じつつも、ニヤケてしまいます。

やはり持ち前の強運なのか、最終便の席がまだ残っていて
なんとかチケットは確保できました。
予約した分もキャンセル料を引かれて払い戻しできたし。

ここで出発時刻の約30分前。

とりあえず一安心です。

謝るオレに
「いやぁこういうのは慣れてるからさぁ〜」とやさしいかわけん。
望月さんだったらマジ切れして口聞いてくれないでしょう。

喫煙所で一服した後に、搭乗手続きへ。
しかしまたココでプチトラブルが!

北海道は知床の近くの屈斜路湖付近を歩くのが今回のコース。
ヘタすりゃ野生の熊に出くわすかもしれない!と思っていたオレは
熊との戦闘に備えて携帯ナイフを持っていってたんですね。
一応スーツケースの中のリュックの更に奥のポケットに隠して。

しかしさすが日本の空港です。
「はいー、携帯ナイフ入ってマース」
と検査官にあっさり発見されました!

ベルトや金属類が少ないかわけんはあっさりとパスしていきます…

ま、しかし到着空港まで没収で到着後に返してくれるって事だったんで
別に大丈夫だったんですが、時間はガッチリ取られました…

そんなこんなで手荷物以外のデカイスーツケースを先に預けるのも
忘れてしまい、搭乗口で急遽預かってもらうなどバタバタしながら
飛行機へ乗り込みます。


まぁしかしこの頃には、遅刻のことはスッカリ忘れ、旅気分全開で
刻一刻と迫る100km歩けスタート時間に向けドキドキしておりました。

ANA契約AIRDO運行のちっさい飛行機は電車の様に揺れまくり
ながらも無事に女満別空港へ到着しました。

送迎のバスはもちろんもういません…。

しかし到着ロビーを見ると「100m歩け」と書いたプラカードを
持った人の周りに10名位の人だかりが!
「おっ最終便の到着メンバーがいたのか!やった、バスに乗れる」
かわけんも同じことを感じたのでしょう。
預けた荷物についた札のバーコードチェックをさりげなくすり抜け
で、かわけんはその集団へ小走りで近づきます。

没収されたナイフを返してもらったりしたあと、遅れてロビーに
出たオレはかわけんを探します。
しかしかわけんは開口一番
「バスは乗せてくれないって…」
「俺達はぁ、ダレ?って感じの扱いみたいだねぇ(笑)」と。

送迎バスからシカトされたオレ達はタクシーに乗り込ました。
ホントは新型クラウンとかの個人タクシーに乗りたかったのに、
女満別空港にはそんなタクシーは一台もありません…

仕方なくガスくさい普通のタクシーに乗り込み、旅館を目指しました。

ものすごい広大な北海道!ってカンジの景色が窓の外を流れます。
しかし屈斜路湖に近づくにつれ、外は濃霧に包まれていきました。
(コレがマジで濃霧!こっちだったらみんな車停めちゃうと思う)
タクシーの運ちゃんは若干スピードを落としただけで、そのミルクの
ような気体の壁に突っ込んでいきます。
かわけんはその運ちゃんと何事もないように世間話をしています。

オレは太郎さんへ電話しました。
「いやぁ、なんとか北海道上陸しましたよ!」
「おぉ〜そうかぁ〜」
「それじゃぁ、かわけんとの信頼関係を回復できるようにがんばって!」
といった100km歩くって事とは別の意味での激励を受け、
「そうだよなぁ、大丈夫だろうか…」と不安を募らせながらも
40分ほどで旅館に到着、やっとチェックインするのでした。

無事にチェックインを終わらせ、もう始まっている前夜祭会場
へ向かいます。
会場は泊ったホテルの奥にあるでっかい屋台村みたいなところでした。

遅れて登場したオレ達を「あぁ仕事終わらせてから着たんだね、お疲れ様」
とうまい具合に勘違いしてくれた皆さんがやさしく迎えてくれました。

炭火焼のバーベキューで、でかいカニ!でかいホタテ!でかいアスパラ!
などなどをもくもくと食べ、うまいビールを飲んだオレ達はすっかり
ご機嫌です。
出発前の出来事はもうすっかり飛んでいってしまう、そんな雰囲気に
包まれた前夜祭でした。オレ達の二人の仲もすっかり修復されています。
(多分ね、オレだけだったのかもしれないが…)


ここで時間は20時。スタートまで12時間を切っています。

主催者の社長さんから「このあと2次会やるから来てね!」と笑顔で
お誘いを受けたオレ達は、一旦部屋に戻ったあとに2次会会場へ向かいました。

会場へ向かう途中、町でも貴重なコンビニに立ち寄り、水やバンドエイド
など明日の備品を買い込みます。まぁコンビニって言っても店長が立ち読み
してるような店なんですけどね。そんな町の雰囲気です。

そしてまさに場末!って雰囲気のスナックへ到着。
ここが2次会の会場です。
なんと2,500円で飲み放題!
一緒に参加する面々と自己紹介をしつつ、ビールをひたすら飲み続けます。
酔っ払ったおばちゃんに絡まれているオレを笑顔で放置するかわけんを足で
突っつきつつ、夜は更けていきます。

時計を見るとすでに23時を過ぎています。
しかし時計をしていないかわけんは、過ぎ行く時間とは逆に
どんどん盛り上がっていきます。
結局0時頃終わった2次会後、かわけんから衝撃の一言が!
「じゃぁもう1件位行きますか!」

「おぉ、ノリノリのかわけんを見捨てるワケにはいかん!」と
思ったオレはもちろん「行こう!」と即答し、次の店を物色しに行きました。

しかしここは寂れた温泉街。
次の店といってもどこもやってません…。
ちらちらっとやってる店からは、大音量のさだまさしが…

オレ達はあきらめて旅館へ帰りました。

「ふぅ」と落ち着いたその時、またしてもかわけんから衝撃の一言が!
「あれ!もう0時過ぎてんの!」
「まだ9時位かと思ってたよぉ〜」

なんとそんな勘違いからの「もう1件!」だったんですね。
ホントに行ってたらどうなってたことやら…

あしたは6時集合なんで5時起きです!

そそくさと明日の準備を整え、オレ達は眠りにつきました…


またしても寝坊ネタか!と期待した皆の予想とは裏腹に
オレ達はしっかりと予定通りに目覚めました。

オレなんか4時半に起きてしまい、足の爪を切ってました。
………
……


さぁいよいよ100km歩けのスタートです。

もちろん完歩する気はマンマンです。
練習はまったくしてません。
普段もめったに歩きません。

でも大丈夫。想いは必ず実現してきたから!


朝7時、気楽なノリでオレの100kmはスタートしました。
「100kmっていうと、横浜の自宅から神田までの往復位だから、
昔通勤してたあの距離を歩くと思えばイイんだな」
「こりゃ楽勝だな!」
と張り切って出発したオレは、先頭を行くトップグループに
ピッタリと付いていきました。
歩いた距離も計測できる万歩計も順調に距離を刻んでいきます。

しかし前々日からの寝不足の為に段々襲ってくる眠気、
いきなり朝から歩くことでの空腹、ただただ歩くだけの単調な時間、
3kmを過ぎたあたりから「あーチェックポイントはまだかなぁ」
「着いたらなんか食べよー」なんて考えつつも黙々と歩き続けます。

そして万歩計が6kmを過ぎたあたりで、いきなり10kmの第1ポイントが
目の前に現れました。
どうも運営上、場所を確保する為にぴったりの距離でチェックポイント
があるわけではないみたいでした。

しかしこれがすごく嬉しかった!
「あと4km!」って思っているときでの第1ポイントだったんで、
拍手して「お疲れ様ー!」って言ってるサポートスタッフにも笑顔で答えます。
撮影隊のかわけんにも「いやぁ眠いよ!」なんて余裕で話しかけます。

水分補給をしてカロリーメイト(チョコ味)を口に入れ、5分ほどの休憩
で次のポイントへ向けてスタートしました。

次は20km地点。まだまだ足取りは軽く、トップ集団にやや遅れの位置を
キープしていました。



この100km歩け大会、オレにはテーマがあったんです。
実はここ最近気持ちがヘコミ気味で…
それを払拭して自分を見つめなおす!っていうテーマです。
100kmの道のりを歩きながらゆっくり考えようって思ってました。



しかしそれは20km地点を目指すなかで早くも崩れていきました…

歩く場所は屈斜路湖の湖畔、普段なら素晴らしい景色と
マイナスイオンに囲まれたとても気持ちのイイ森林地帯です。
普段なら…

時間は午前10時、スタートしてからもう3時間も経っています。
つまり3時間歩き続けているんです。こんな経験は生まれてから
一度もありません。

体がどんどん疲れていくんです。

顔を上げることもできず、ひたすら地面を見つめながら
ただただ第2チェックポイントの20km地点を目指します。

色々考えようと思っていた事なんて、まったく考える事ができません。
頭の中に何も思い浮かびません。まさに無心で足を動かすことだけに
集中していきます。

途中、サポートで動き回っているかわけんが車で追い抜いていきます。
「たけだっち、大丈夫!」「がんばって!」と。

「いや、ちょっと疲れた…」
自分でも意外な言葉が出てきました。

楽天家で、負けず嫌いで、弱みを見せるのが人一倍キライがオレが、
素直にネガティブな言葉を言っているんです。

去っていくかわけんの車を見つめながら、20km地点で待っているであろう
かわけんに早く会いたい!みたいな不思議な感情がありました。

「ま、20kmまでいったら5分の1が終了なんだから…」と自分を奮い立たせ、
「弱気になっちゃいかん!」と自分に言い聞かせ、黙々と20km地点を
目指しました。


そして到着した20kmの第2チェックポイント。
サポートのマッサージの先生がいました。
早くもマッサージを受けてる人もいます。
「こんなところでマッサージ受けてるようじゃゴールできないよな」と
思ったオレは、ホントは受けたかったマッサージを無視しました。

気持ちの拠り所にしてたかわけんもそこには居ず、タバコを吸って水飲んで
休憩もそこそこに出発しました。

次の30km地点を目指して。

1kmを歩くのに思ったより時間が掛かる、気が付くと時間や距離
ばかりを気にするようになっていました。

「参加した自分のテーマを思い出せ!」と腕時計を外しました。

しかし疲労はどんどん溜まっていきます。
なぜか眠気はなくなっていました。
とにかく疲れだけが体と気持ちを襲います。

「抜かれたくない」っていう気持ちだけで休憩せずに歩き続けたのに、
体が言う事を聞きません。

この頃からコース途中で休憩をするようになりました。
その度に後続に追い抜かれていきます。
他の皆は「お先に〜♪」なんてカンジでまだまだ余裕です。

見栄っ張りなオレは、いかにも「景色を眺めています!」
「タバコ吸いたいだけです!」風な感じを装って休憩を何度もしました。
ホントは座って「はぁ〜」ってやりたいのに。

最初は立ったまんまでタバコをプカー。次は柵に片足だけのっけて湖を眺め…
しかし最後はとうとう座り込んでしまいました。


もうね、立ってられなかったんです。


そんな時にケータイが鳴りました。かわけんからです。
「たけだっち、どう?」
「いまどの辺なの?」

森林に囲まれた湖畔で「どの辺?」と聞かれても答えようがありません(笑)。
「う〜ん、坂を上った頂上あたり」と答えました。
実はフラフラなのに、まだまだいけるよって感じの声を出してたつもりでした。
かわけんにはどう聞こえたんだろう?

でもね、仲間の声をケータイ越しに聞いただけだったんだけど、
確かに元気が出たんです。少しだけ。
そしてなんとか気を振り絞ってまた歩きだしました。

ちらっと見た時計はもう昼を過ぎています。
歩き出してから5時間を経過していました。

ほどなくすると30kmのチェックポイントが見えてきました。
この時の嬉しさったら、久々に心から嬉しさが溢れるカンジでした。

到着してすぐにイスへもたれ掛かりました。
サポートの皆さんがおにぎりやお茶を持ってきてくれます。
たぶん表情は疲れきっていたのでしょう。
皆が「大丈夫?」と声を掛けてくれます。

普段だったら「ダイジョブっすよ!」なんて言うはずなのに、
出てきた言葉は「えぇなんとか…」でした。
どうしたんだオレ!

またこの時のおにぎりが旨いのなんのって。
コンビニの普通のおにぎりなのに本当に旨いんです。

マッサージの先生が心配そうな顔でオレに近づきます。
「うわぁ、張ってるねぇ」
「うん、よく頑張った!」
「すごいよ!」
心に響いてくる言葉に対して、何の返答もできません…
足の痛みが他の全ての行動をさえぎるのです。

本当にやさしくすこーしの力だけでさするようにマッサージをしてくれました。
シートに寝かせてもらって関節を伸ばしてくれました。

本当に弱気になっていたのなら、ここでリタイアしてたかもしれません。

しかしオレはホントに人一倍負けず嫌いなんで、
自分から「もうだめだ、リタイアする」なんて絶対に言いません。
この頃は本気で100kmを完歩するつもりでした。体はボロボロでも。

そんな性格が幸いしてマッサージが終了したオレは、
ゴールへ向かってまた歩きだしました。

次のチェックポイントは40km地点です。

さっきしてもらったマッサージのおかげで足が軽くなりました。
「よし!これならいける!」
と思ってられたのは、ほんの1km位の間だけでした…

いままで体験したことのない痛みが両足全体を襲います。

普段「あー足が痛い」なんて言ってたのは、まったく痛いうちに
入りません。

ふともものオモテもウラもふくらはぎも股関節も、更には腹筋と
背筋まで、とにかく全てが痛いんです!強烈な筋肉痛みたいな
痛みがずーっと襲い掛かってきます。

ずっと使うのをガマンしてた杖をとうとう取り出しました。
(トレッキング用のダンパー付の本格的なヤツをしっかり準備していた)

なにかに寄りかからないと自分の力では進まなくなってきたんです。

気にしてた順位もどんどん下がっていき、もうビリから2番手位でした。


そしてこの辺りからが、
今までの人生で味わったことのない苦しみを体験する区間となったんです。


もう頭の中は空っぽ、というか「痛い…痛い…」しか考えられません。
気力だけで前へ進んでいきます。
時計はすでに14時を過ぎています。スタートしてから7時間が経過です。

1歩1歩を踏みしめながら歩いていると、森林コースが終了し
アスファルトの車も走っている舗装路コースになりました。

さっきまではダレもいない静かな林道をひたすら歩いてきました。
しかしここからは普段見慣れた光景です。
排気ガスの匂い。
車道を走る車からの視線。

歩道を這うように歩くロン毛のお兄ちゃんを見て、さぞかし「何だアレは?」
と思ったことでしょう。
倒れてくる危険みたいのを感じたのか、車は大きくオレを避けていきます。
そして道は勾配を増していきます。

普段はまったく感じることのない、道路の距離が異常に長く感じます。
さほど急ではない勾配がものすごい急な坂に感じます。

「もうダメかも…」
初めて弱気になっていきました。

あれだけあった自信が木っ端微塵に砕かれて、弱い自分がどんどん出てきます。

自信家なオレが、負けず嫌いで見栄っ張りなオレが、1人きりではない場所で、
皆に弱気な姿をさらけだしている…
自分でも初めて見た自分の姿でした。

それだけ体が弱っていたんでしょう。
もう気力だけではどうやってもカバーできませんでした。

それでもなんとか坂を登り終え、今度は当然下り坂です。
これがまた意外。
ラクかと思ってた下りがまた異常にキツいんです。
さっきまでとは違う筋肉が痛みはじめました。

とはいえ今度は倒れるように歩くというコツを習得し、なんとか坂を下って
いきます。
(今考えると「坂」っていうほどの坂ではなかったな)


そうこうしてると、遠くに手を振ってる人が見えました。


そう、かわけんです。

40km地点の5km手前で歩道への誘導をしていたんです。
不思議とさっきまでの弱気なオレが消え、一生懸命に杖を振っていました。

「急いであそこまで行きたい」
「グチをこぼしたい」
と思いながら必死で進むのですが、なかなかその距離が縮まりません。
力と気力を振り絞ってやっとかわけんが立っている場所までたどり着きました。

ふにゃ〜と座り込みたいところでしたが、足がいうことを聞きません。
ヒザが曲がってくれないんです。
テーブルの足を折りたたむように、手を使ってゆーっくりと自分の足を
折りたたみます。
そしてやっと座ってでた一言が、
「もうダメだ……」

かわけんは「大丈夫だよ」とも「がんばれ」とも言いませんでした。
ただただオレのグチを聞いてうなずいています。
見たことのないオレの姿を見て、掛ける言葉が見つからなかったのでしょう。
安易に「がんばれ」とは言えなかったのでしょう。

さんざんグチをこぼし、仲間の顔を見て、少し気分がラクになったオレは
リュックの荷物を減らす為に中身をかわけんに預けて、40kmポイントまでの
残り5kmを歩きだしました。
(そんなに量は入ってなかったんですが、少しの重みがホントにキツイんです)


もう順位はビリ2です。
後ろから迫る最後尾の人たちが目視できます。

「あの人らに抜かれちゃダメだ!」
「ビリになっちゃう!」

オレはホントに負けるのがイヤなんです。

しかしそんな気持ちも下半身が許してくれませんでした。

…また座ってしまったんです。

すぐにケータイを取り出し、メールしてるフリをしてプライドを
保ちました(笑)。

そんなオレをしっかりと見透かしていたようで、
「リュック持って行ってあげましょうか?」
なんてやさしい言葉を掛けてくれました。

そして最後に「この速度で歩いても時間は間に合うからがんばって!」
と言いながらオレを抜いていきました。


「あぁとうとうビリになった…」

しかしこうなると逆に開き直れるものでした。
とにかく40kmポイントを目指し、ゆっくりゆっくりと進んでいきます。

車で最後尾を伴走しているサポートの方がオレに話しかけます。
「杖をもう一本もってきましょうか?」

別の車班に頼んで、杖を持ってきてくれました。
もう「ありがとうございます…」しか言えません。

松葉杖をつくように両手に杖をつき、とんでもなくゆっくりな速度で
前に進んでいきます。

もうホントに下しか見れません。首すらも上げられないんです。
地面を見ていると北海道特有のデカいアリがうろちょろしてました。
普段なら気にしないものがどんどん見えてきます。
踏まないように気を付けながら歩いていきます。

しかし…
なんとそのアリにも抜かれていくんです……

アリにすら抜かれる速度で、両手に杖をついて、
いまにも倒れそうにフラフラしてるロン毛のあんちゃん。
その後ろからハザードを点けつつ、極低速で伴走する車。

幼稚園児を乗せたバスがオレを抜き去るときに
「がんばれー!」と超笑顔で手を振る園児と若い先生が見えました…

お笑い芸人とかの罰ゲームにでも見えたのか?
それとも本当に応援してくれたのか?

そんなワケわからん事を考えながら、立ち止まって杖を振り声援に
答えました。

とにかく頭はナニも考えられません。
無意識レベルで前に進んでいくだけでした。

すると伴走してた車がオレをスーッと抜いていったんです。
そのまま少し走って行くと、車はわき道に入って行きました。

また下向いたままゆっくり歩いていくと、前に人影を感じます。
車を運転してたサポートの方でした。
それから一緒に歩いてくれたんです。

気を紛らわそうと「これは全部ジャガイモなんですよ」なんて
眼下に拡がる畑を説明してくれたり、
「ちょっと止まって足をもみましょうか?」なんて言ってくれるんです。

しかしそんなやさしさに対しても、ロクに反応できないのです。
「はぃ…」とか「いぇ…」とかしか言えないんですよ!
言葉が出て来ないんですよ!

いつしか二人は無言で歩いていました。
でもね、それがどれだけ心強かったか!
不思議とさっきよりもスピードは上がってるんです。ちょっとだけ。

その人も車を停めっぱなしにはできないので、しばらく一緒に歩くと
「じゃ、車持ってきますね」
と言って、小走りに戻るんです。
それでまた車でオレを抜いて、先に停めてから歩いて戻ってきてくれるんです。

その間って1人になるじゃないですか。
そうするとやっぱり立ち止まったりしちゃうんです。

人と人の関わりを強く感じた瞬間でした。
やっぱり人は1人で生きているわけではないんだ、世の中はこうして助け合って
生きているんだって…

こうしてたった5kmの道のりを色んな人に助けられながら進んでいったんです。


そんな中、不思議な体験をしました。

無言で歩く二人だったんですが、サポートの人が
後ろを振り返り「…ダメだよ」って言ってるんです。

なんだ?と思って立ち止まり振り向くと、
そこには一匹の犬がいました。

昔飼ってた「コロ」って犬にそっくりな首輪の無い白い犬が。

こちらにじゃれる訳でもなく、ずーっと後ろをちょこちょこ
ついてくるんです。

オレが立ち止まって「う〜」と唸ってるときは一緒に立ち止まり、
こちらを見つめ、歩き出すとまた一緒についてくる。

しばらくするとその犬はオレを抜いて先を歩きだしました。

しばらく歩くと立ち止まりこちらを見つめ、オレが追いつくのを
待ってるんです。

追いつくとまたちょこちょこと先を歩いていくんです。
尻尾を振るわけでもなく、まるで先導してるかのように。
「がんばれ!」って応援してくれるかのように。

結局その犬はその先の40kmポイントまでずーっと一緒でした…


そうこうしてると、やっと40kmポイントが目に見える位置まで
進んできました。
しかしなかなかたどり着かない…
見えてるのに届かない…

もう両足は完全に意思とは別のモノになっています。
よっぽど2本の杖の方が自由に動かせます。

見るとそのポイントから数人が道路に出てきてこちらに手を振っています。
先頭から2時間以上は差がついていたと思います。
最後尾でゆっくり歩くオレを待っていてくれてるんです。

普段なら、感動して目を潤ませていたかもしれません。
嬉しさが込み上げてくる場面でしょう。

しかし!
頭の中では感謝の気持ちで一杯なのに、顔はうつむき、笑顔もつくれず、
もう手を振ることもできず、ただひたすらそこに向かって進むしか
できませんでした。
急いで行こうと思っても、両足はまったく動いてくれません。
杖を頼りにずるずる足を引きずっていきました。

そしてようやく到着したとき、7〜8人のサポートスタッフの方々が
大きな拍手と「よくがんばった!」という声で迎えてくれたんです。

今こうして書いてると泣きそうになりますが、その時はまったくそんな
感情はなく、ただただ「ありがとうございますぅ…」とつぶやくだけでした。

倒れこみそうになるオレを男4人掛かりでイスに座らせ、一人は右足、
一人は左足、一人は肩、とやさしくマッサージをしてくれました。

そこのポイントで皆に振舞われた芋団子を「食べるかい?」と
お茶と一緒に持ってきてくれたおばあちゃん。
オレはあと一歩で本気で惚れるとこでした(笑)。

精神も体も弱っている時のやさしさほど心に染みるものはないですね。
分かっていはいたけど、めちゃくちゃ心に染みました。
安らぎを感じました。


気付くと他のスタッフさんが電話で「52番の方リタイアです!」
「車でそちらへ連れてきます!」と話してるのが聞こえてきました。

負けたくないっていう気持ちと、まったく両足が動かない現状とに
挟まれたオレは、気持ち的には100km地点でゴールするつもりだったのですが、
意外と素直にそのリタイアを受け入れることができました。
でも正直なところ「あぁ終わった…」とホッとしたのもありました。

結局かわけんに出合ってからの残り5kmを、2時間以上掛けて進んだんですね。
色んな助けを受けながら。

と、ここで有無を言わさずリタイア扱いになってしまったオレは
「まぁ自分で宣言したわけじゃないからイイか」と自分を納得させ、
スタート地点まで強制送還されるのでした…。

人のやさしさや、体験したことのない体験を一気にしたこの10時間。
気力だけを頼りに歩き続けたこの10時間。

こうして落ち着いて振り返ることができるのは、終わって2日間が経過した
からだと思います。
終わった当日や翌日、そして次の日、その辺りではまったく考える事が
できませんでした。


強制送還後に速攻でホテルに帰ったためにろくにお礼も言えなかった
あの伴走してくれた白髪交じりのお兄さん、本当にありがとう。
そしてコロに似たあの犬、今もあそこで元気にしてるんだろうな。
本当にありがとう。
サポートスタッフの皆さん、本当にありがとう。

そしてかわけん、素晴らしい体験をさせてくれてありがとう、感謝してるよ。

そしてmixiの望月さんのトピックから応援してくれた皆さん、ありがとう。
ちゃんと向こうで見てましたよ。

しかしきちんと体力的な準備もせず、無謀だと言われつつも
「楽勝でしょ!」なんて言って結局100kmを完歩することができなかったって
のは、ホントに初めての体験でした。

ま、目的は100km歩くってワケじゃないし、色々な体験が出来たので良しとしよう。
Posted by postlove_takeda at 15:18│Comments(5)TrackBack(0)

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この記事へのコメント
武田っち、お疲れさま・・・・・。



これで物語が完成していたら、

感動してたんだけどなぁ。(笑)


翌日の方がハードってのが、凄い。

別の意味で感動できるよ。


っていうわけで、北海道アナザーストーリーも

記事アップしておくれ♪


武田っちーーーっ!!!

来年は、オレも参加するぞーーっ!!!




・・・どっちに??(笑)
Posted by ハカイダー at 2006年07月13日 12:11
両方でしょ ハカイダー

Posted by イベント屋@新井さゆり at 2006年07月14日 23:27
わははっ==33

バレバレかよっ!!!


腫れ腫れのさゆりめっ!!!(笑)

 
Posted by ハカイダー at 2006年07月15日 08:45
ちょっと、武田さんの
ブログ覗いてみようと
文章読んでみたら・・・

爆笑で、爆笑で、
もう出なければならないのに
結局最後まで読んじゃいました・・・
文章に、吸い込まれました。

おもろい人ですね。
相当笑いました!

違う太郎さんが・・・
あそこ、、声出して一人で
笑ってしまいました。

これから、ちょこちょこ
おじゃましまーす。。

北の者より
Posted by いるちゅ at 2006年07月20日 08:55
うお、知らぬ間にコメントが入ってた…

みんなほったらかしでゴメン!

ちょこちょこおじゃましてくれても、
まったく更新せずにゴメン!
Posted by 武田 at 2006年07月28日 03:37