人口論 Thomas Robert Malthus “An Essay on the Principle of Population”, 1798. (光文社古典新訳文庫129)
○著者: マルサス、斉藤悦則 訳
○出版: 光文社 (2011/7, 文庫 307ページ)
○価格: 940円
○ISBN: 978-4334752316
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前途多難、いちなん去ってまたいちなん、というのか、アタリマエのように人生は、生きるってことはカンタンなことではない、おもいどおりにゆかないことのほうがおおくて、もっとも、おもいどおりにいった(とそのときに思ったような)ことであっても、それがすなわち(将来にわたって不変で絶対的に)好適な結果をもたらすともかぎられない、いうなれば逆もまた真でもあったりしてみたり、おもいどおりにゆかない(とそのときには思い悩んで苦にしたような)ことでも、えてしてヒョンなところから意外な展開が生じるひらけるようなことだって、なにがどうなるものやら、よくもわるくも価値観の転倒みたいなものは
「人口は等比級数的に増加するが、食糧は等差級数的にしか増えない。そして、人の性欲はなくならない。」 シンプルな命題を提起し、人口と食糧のアンバランスが生む問題に切り込んで、19世紀の進歩思想に大きな影響を与えた本書は、現在の世界においてもますます輝きを増している。
≪目次: ≫
凡例
『人口論』 An Essay on the Principle of Population. As It affects the Future Improvement of society, with Remarks on the Speculations of Mr. Godwin, M. Condorcet, and Other Writers. London: Printed for J. Johnson, in St. Paul's Church-yard: 1798
序文
第一章 問題点――意見対立のせいで問題の解決がむずかしいこと――人間と社会の完成可能性に否定的な考え方については、ちゃんとした反論がない――人口増加がもたらす問題の性質――本書の主張の概要
第二章 人口と食糧の増加率の違い――増加率の違いの必然的な帰結――下層階級の暮らしぶりの上下運動――この上下運動がさほど注目されてこなかった理由――本書の主張全体の基礎をなす三つの命題――それに関連して検討されるべき人類の歴史の諸段階
第三章 未開段階、あるいは狩猟民族について――遊牧民族、あるいはローマ帝国を侵略した蛮族――食糧増加を上回る人口増加――北方からの民族大移動の原因
第四章 文明国の状態――現在のヨーロッパはシーザーの時代より人口が多いかもしれない――人口についての最良の規準――ヒュームが用いた人口推計の規準はおそらく誤っている――ヨーロッパの多くの国における人口の伸びの鈍さ――二つの主要な人口抑制法――そのひとつ、事前予防的な人口抑制をイングランドを例に検討する
第五章 第二の人口抑制、すなわち、積極的な抑制をイングランドで検証――イングランドで貧乏人のために徴収された巨額の金が、貧乏人の生活を改善しない真の原因――救貧法が本来の目的からそれていく強力な傾向――一時しのぎながら貧乏人の困窮を緩和する策の提言――窮乏化の圧力を下層階級から完全に除去することは、人間の本性の不変の法則により、絶対に不可能である――人口抑制の全体は、貧困と悪徳にわけられる
第六章 新しい植民地――その人口増加が速い理由――北アメリカ植民地――奥地の植民地での人口急増は異例――歴史の古い国においても、戦争、疫病、飢餓、天災による荒廃からの復興は迅速である
第七章 伝染病の原因と考えられるもの――ジュースミルヒ氏の統計表の抜粋――周期的な疫病の発生はありうること――短期間の出生と埋葬の比を、その国のじっさいの平均的な人口増加の基準とするのは不適切――長期間の人口増加の最良の基準――きわめて質素な生活が中国やインドで起こった飢饉の一原因――ピット氏が提案した救貧法案の条項の有害な傾向――人口増加を促す唯一の適正な方法――国民の幸福の諸原因――飢饉は、自然が人口過剰を抑制するもっとも恐ろしい最後の手段――確定できたと考えられる三つの命題
第八章 ウォレス氏――人口増加による困難の発生は遠い未来の話と考えるのは誤り――コンドルセ氏が描く人間精神進歩の歴史――コンドルセ氏のいう振動が人類において発生する時期
第九章 人間の身体的な完成可能性と寿命の無限ののびにかんするコンドルセ氏の説――限界が特定できないことから、部分的な改良を進歩の無限性に結びつける主張の誤り。家畜の改良と植物の栽培を例に、それを明らかにする
第十章 ゴドウィン氏の平等社会――人類の悪徳をすべて社会のせいにすることの誤り――人口増加がもたらす問題にたいするゴドウィン氏の第一次回答はまったく不十分――ゴドウィン氏が実現を予想した美しい平等社会――それは単純に人口の原理によって、わずか三十年で完全に崩壊する
第十一章 ゴドウィン氏の推測によれば、男女間の性欲はやがて消えてなくなる――その推測には根拠がない――愛の情念は、理性にも道徳にも反するものではない
第十二章 人間の寿命は無限にのびるとするゴドウィン氏の憶測――精神への刺激が肉体におよぼす影響についての誤った考え方とその諸例――過去にもとづかない憶測は非学問的――人間は地上での不死に接近しているというゴドウィン氏とコンドルセ氏の憶測は、懐疑論の不整合性の奇妙な実例
第十三章 人間をたんに理性のみの存在と考えるゴドウィン氏の誤り――人間は複雑な存在であり、肉体的な欲望が知的な決断を乱す力として働く――強制についてのゴドウィン氏の考え方――人から人へ伝達しえない真理もある
第十四章 政治的真理にかんするゴドウィン氏の五つの命題。それは、彼のすべての基礎であるが、しかし確たるものではない――人口の原理による貧窮のために、人間の悪徳と道徳的な弱さは撲滅できない。それはなぜかという理由を明らかにする――ゴドウィン氏がいう意味での完成可能性は、人間にはあてはまらない――人間がほんとうに完全なものになりうるかどうかの例証
第十五章 あまりにも完全なモデルは、改善にとって有益というより、しばしば有害――ゴドウィン氏の論文「吝嗇と浪費」――社会にとっての必要労働を公平に分割することの不可能――労働批判は現実の弊害を増すだけで、将来の改善にはほとんど、あるいはまったく役立たない――農業労働の量を増やすことはかならず労働者に益をもたらす
第十六章 アダム・スミス博士は、社会の収入やストックの増加をすべて、労働の賃金にあてられる資金の増加とみなす点で誤っているのではなかろうか――国が豊かになっても、貧しい労働者の生活が良くならない実例――イングランドでは富が増大したが、労働者の賃金にあてられる資金はそれに比例して増加しなかった――中国の貧民の生活は、工業で国を豊かにしても改善されない
第十七章 国の豊かさに正しい定義について――製造業の労働はすべて不生産的だというフランスのエコノミストの理屈と、その誤り――職人および製造業者の労働は個人にとっては生産的だが、国家にとってはそうではない――プライス博士の二巻本『観察記』の注目すべき一節――プライス博士は、アメリカ人の幸福と急速な人口増加を主としてその文明の特殊さに結びつけているが、それは誤っている――社会の改善の前途に横たわる困難に目をとじるのは何の益ももたらさない
第十八章 人口の原理は人間をつねに苦しめるので、そのために人は未来に希望を託すようになる――人性を試練と見なすのは、神の先見性という観念と矛盾する――この世は物質を目覚めさせ、それに精神を与える力強いプロセスであろう――精神の成長の理論――肉体的な欲求による刺激――一般法則の働きによる刺激――人口の原理がもたらす人生の厳しさによる刺激
第十九章 人生の悲しみは、人の心にやさしさと人間味をもたらすために不可欠――社会的な共感能力への刺激は、たんなる才人よりも、もっと上等な人間をつくりだす――道徳的にすぐれたものが生まれるためには、道徳的に悪いものが必要――自然の無限の変化と、形而上の問題のむずかしさが、知的な欲求による刺激をたえずかきたてる――神の啓示にまつわる難点は、この原理によって説明される――聖書で示される程度の神のあかしが、人間の能力を向上させ、人間の道徳心を改善するためには、適度である――精神は刺激によってつくられるという考えで、自然と社会における悪の存在理由は説明されるように思われる
解説/的場昭弘(神奈川大学経済学部教授) 自然と理性の相克/マルサスと「人口法則」/社会主義者、共産主義者の批判/なぜマルサス主義はつねに議論になるのか
マルサス年譜 (1766年〜1834年)
訳者あとがき (二〇一一年四月 斉藤悦則)
≪著者: ≫ マルサス Thomas Robert Malthus [1766-1834] 古典派経済学を代表するイギリスの経済学者。父はルソー、ヒュームと親交があり、その影響を受けて育つ。ケンブリッジ大学を卒業後研究員になり、のち牧師となる。32才の時に匿名で出した本書『人口論』(初版)は当時のイギリス社会に大きな衝撃を与えた。その後名前を明かしたうえで第2版を出し、約30年をかけて第6版までを刊行した。39才で新設の東インド会社付属学院の教授に就任、歴史、経済を教える。穀物の輸入自由化をめぐりリカードウとの論争が有名である。著書に『経済学原理』『経済学における諸定義』『価値尺度論』など。
[訳者] 斉藤悦則 Saito Yoshinori 1947年生まれ。鹿児島県立短期大学教授。共編著に『ブルデュー社会学への挑戦』。訳書に『プルードンの社会学』(アンサール)。共訳書に『出る杭は打たれる』(レノレ)、『構成的権力』(ネグリ)、『システムの解体』(シャバンス)、『逆転の思考』(コリア)など。