都市の創造力 (ヨーロッパの中世2)
○著者: 河原 温
○出版: 岩波書店 (2009/1, 単行本 276ページ)
○定価: 2,940円
○ISBN: 978-4000263245
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およそ“ヨーロッパ”とひとくちにいっても地理的に広範で、ここ(本書)では多く北イタリア、フランス、ドイツ、フランドル、イベリア半島、イングランド、あたりの記述と史料からの論説となろうか、そしてまたさらに“中世”といった歴史的な時代区分がこれまた長大で、まだまだ不勉強なぼくには精確に語ることができないのだけれども、その長大な時間軸においてさらに変移をしつづける、よくもわるくも安定することがない、というか安定を求めて変化しつづけるのかもしれない、はたまた変化の過程において得てして思わぬ意外なと思えるような展開が、後から歴史を俯瞰するぼくたちには「ナルホドそうきたかぁ」などと妙に納得させられないものでもなかったりするんだけれども、それだって、それまでの歴史的な地域的な文化的な背景やなんかの一筋縄ではいかないような複雑なさまざまがあってのことで
都市の歴史は人間の活動の歴史にほかならない。古代地中海世界が崩壊したのち、西欧中世はローマの遺産を受け継ぎながら、キリスト教を軸に新たな都市空間をつくりだした。市壁の建設に始まる都市の歴史の中で、中世人は都市をどのようなまなざしで見つめ、共同体としていかなる人的・社会的つながりを形成していったのか。地域的に多様な姿を見せるヨーロッパ都市の特性を、近年の新たな都市史研究の展開をふまえて描く。
≪目次: ≫
序章 都市のヨーロッパへ
中世人の都市記述/都市はいかに定義されるか/本書の視覚
第一章 中世都市の誕生
1 中世における都市の原型
古代都市の崩壊/キヴィタスと司教座/中世都市の地域類型/商品と貨幣流通の出入り口――ヴィク(ヴィクス)/行政と流通の拠点――ポルトゥス/ノルマン侵攻の影響/「保護された集落」――ブルグス(ブール)/都市化の進展/都市形成の起動力
2 中心地としての都市
中世都市が体現する役割/経済的中心/政治的、行政的中心/宗教的中心/知的中心
第二章 空間システム
1 都市イメージの形成
「天上の都市」と「地上の都市」――中世初期の都市イメージ/「天上の都市」としての修道院/都市讃歌の出現/一二世紀の都市讃歌の特徴/視覚的イメージの展開/「悪徳の場」としての都市の表象
2 都市人口と都市化
中世都市の人口規模/都市化プロセスのモデルをめぐって
3 都市プランの形態学
三つの都市モデル/ランス――二つの核をもつ都市/ウイ――自生的発展の都市/リューベック――上からの計画都市
4 都市の公共空間
中世都市の象徴――市壁/社会的関係の結節点――広場
5 都市空間の分割
小教区――教会の司牧区分/行政区――市民生活の基礎/街区――地縁的結束の領域
第三章 組織と経済
1 都市の団体形成
都市共同体はどう捉えられてきたか/商人ギルド/参審人団/「神の平和運動」と誓約団体/慣習法文書/フランドルの都市――富裕市民による自治/コンシュラ都市――南フランス都市の自治機構/イタリアの都市/ドイツの都市――「都市の空気は自由にする」/イングランドの都市、イベリア半島の都市
2 権力の行使――都市貴族の形成
「市民」とは誰か/都市貴族の起源
3 商業と金融業の世界
イタリア商人とハンザ商人/ブルッヘ国際市場
4 労働の枠組み
手工業ギルド/親方、職人、徒弟――手工業ギルドの構成/相互規制と相互扶助
5 財政
税の徴収/主要な支出内容/借入による財政補填/都市の財政管理と君主
6 都市の防衛――市民軍と傭兵
軍役義務/騎士・傭兵の役割
7 記録の場としての都市
文書保存と都市の記憶/納税台帳/都市会計簿の言語
第四章 統合とアイデンティティ
1 社会的絆と空間的統合
都市の家・世帯・家族/近隣団体
2 市民的宗教のかたち
兄弟団の叢生/聖人崇敬と改悛/托鉢修道会と兄弟団/ギルドと兄弟団/兄弟団の社会的構成/兄弟団の果たした役割/慈善活動/フィレンツェの慈善兄弟団
3 祝祭とソシアビリテ
演劇的空間としての都市/暦と守護聖人の祝祭/プロセッション/君主の入市式/ブルゴーニュ公の入市式
4 時間意識の統合
鐘の役割/公共時計の出現
第五章 秩序と無秩序
1 社会的不和と政治的暴力
社会的不和の始まり/民衆蜂起の広がり/「民衆革命」の五年間――一四世紀後半の都市反乱
2 災厄の諸相――飢饉、疫病、戦争、災害
飢饉/ペスト(黒死病)の衝撃/戦争・自然災害・火災
3 環境と衛生
街路とごみ/水/建築規制と都市景観
4 モラルの浄化と社会規制
遊興の場と暴力/治安維持/暴力の抑止に向けて/若者集団の暴力/パリの犯罪記録/犯罪の要因と社会不安/社会的規制の始まり/モラル規制
5 救貧のポリティックス
都市の貧困/救貧の論理/施療院/ハンセン病施療院/施療院の専門化と医療化/兄弟団と教区貧民救済組織
6 都市とユダヤ人
中世のユダヤ人/ユダヤ人の差異化/迫害の要因
第六章 「聖なる都市」から「理想の都市」へ
1 都市の自立と従属
都市ベルト地帯/ドイツ、北イタリア、フランス/南ネーデルラント/国民国家への途/都市と国民国家
2 人文主義と都市イメージの変容
ブルーニの都市讃歌/理想都市論の出現
3 都市景観図に見る都市の視覚イメージ
初期フランドル派絵画と都市風景/自己表現としての都市景観図と都市年代記
終章 中世ヨーロッパ文明の中の都市
中心地機能とネットワーク/新たな価値体系/都市の宗教性/都市の公共性とアイデンティティ
参考文献
索引
[カバー図版] ロワール渓谷の小都市サン・ジャン・ド・パニシエールの風景。ギヨーム・ルヴェル『紋章図鑑』(15世紀)の写本挿絵より。パリ、フランス国立図書館蔵。
[編集] 池上俊一/河原 温
≪著者: ≫ 河原 温 (かわはら あつし) 1957年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科西洋史専攻博士課程中退。首都大学東京都市教養学部教授。博士(文学)。研究テーマは、中世ネーデルラントを中心とする都市史、社会史。著書に、『中世フランドルの都市と社会――慈善の社会史』(中央大学出版部)、『中世ヨーロッパの都市世界』(山川出版社)、『ブリュージュ――フランドルの輝ける宝石』(中央公論新社)。訳書に、キャロル・フィンク『マルク・ブロック――歴史の中の生涯』(平凡社)ほか。
河原温 『ブリュージュ フランドルの輝ける宝石』(中公新書、2006年) '11/12/26
佐藤彰一 『中世世界とは何か』(ヨーロッパの中世1、岩波書店、2008年) '11/12/29
《ヨーロッパの中世》 [全8巻] 編集=池上俊一、河原温
〜〜ヨーロッパ文化の根源に向けて――中世世界の斬新な全体像〜〜