花宵道中
Amazonで購入
livedoor BOOKS
書評/国内純文学




生きてゆくのは、諦めちまえばそんなに辛くないよ
”何があろうとも、見世は開き、女郎は身体を売る 何を諦める余地もない”
”目を瞑って、愛しい人を胸に思って、他の男に抱かれるんだ”


官能小説」と分類されることに違和感を感じる。
確かに、江戸吉原の小見世で生きる女郎(遊女)たちとそこを訪れる男たちによって紡がれる物語であるが故に、表現される性描写は官能的ではあるが、その描写や表現は物語の流れの中での必然に導かれ、必要に基づくものであり、その描写や表現により登場人物がより鮮明に彩られ、物語全体の奥行きがより一層深められる。
官能小説と分類されることにより人目を引き、通常の文学作品では想定し得ない種類の幅広い読者の獲得には有効であろう。一方では、官能小説に分類されることにより、手にすることを躊躇う読者が生じることによる機会損失の恐れも否定できない。それでもなお、官能小説という分類とする必然があるのであろうが。
第5回 R-18文学賞&読者賞ダブル受賞作品。
著者のブログも要チェック!

物語に流れるテーマに、”人生の悲哀と不条理”を色濃く感じる。
舞台は江戸時代の吉原
悲しいけれど、生まれながらにして自らでは抗えない事情によって、そこで生きていくことを宿命付けられた女性たち。その生い立ちから、幼くして常に痛みや心の傷を受け続け、その必然に導かれるように、売られ、時にさらわれて納まるべきところ(女郎屋!?)に落ち着く。しかもそれが、現代であれば小学生前後の幼子から”禿(かむろ)”として上級遊女に仕えて見習いをし、やがて”新造”を経て、一人前の”女郎(遊女)”として独立し、”遊郭”のある意味において閉ざされた囲いの中に、それ以外の世界を知ること無く生きていく訳で、全くもって不条理極まりないことだけど、それが現実で、本人の意思を差し込む余地の無い、圧倒的な事実なのであろう。
しかも、一度そこに足を踏み入れてしまった者は、時に前借金で縛られることにより、そこから逃れることが許されない状況に陥らされ、一切の自由も人格も人権すら否定される側面がある。基本的人権と市場資本主義が確立された現代においては、当然に認められている職業選択の自由や、個人の尊厳に関わる権利がある訳で、全く想像すらし得ない世界でもあるが。
そしてそこでは、当然に”恋愛の自由”など有り得ないし、許される筈も無い。一切の自由や権利が否定され、しかも不条理な身体的拘束すら受けている訳で、年季が明けるまでは、当然に結婚も、恋愛すら許されない。許されないというよりも、むしろ、恋愛などしてしまうと、本人が辛くてやってられなくなってしまう、客と相対することが辛くなる、気持ちが入らない、ということなのでしょうが、懲罰まであることから鑑みるに、やっぱり行き着くところ、”駆け落ちするしか無くなっちゃう”っていう圧倒的な現実があるのでしょう。本人は勿論、相手だって相当に辛い。確かに、仕事であり、本意では無い、ただの行為でしか無いとはいえ、やっぱり愛しているからこそ、有り得ない。間違いなく私には受け入れられない、残念ながら。

ところで、現代においても”吉原”は、その必要に求められて、その表面的な形のみを変えて、その本来の機能を有したままに存在し続けている。
いつの世にも男は”買淫”に勤しむ。
ある意味それは男の”本能”であり、生理的必然に基づき行われる。
それが良いも悪いも、全くもって”本能”でしかない、ある意味”悲しい性”?!

そしてまた、女性もある意味においては、そこに必要を求める。
誤解を恐れずに、ある側面だけを書いてしまう訳だけど・・・
可笑しなもので、高度資本主義自由経済下においても、江戸時代とは異なる理由において、そこで金銭を得る必然に導かれる状況がある。自らの物質的欲求を満たすための場合もあろう、中には興味や趣味嗜好に基づく必要も人によってはあるかもしれない、やっぱり不条理な事柄によって必要に求められて不本意ながら他の選択を成し得ない状況も今もってあるのかもしれない。
そこにも、それが良いも悪いも、全くもって”必然”しか感じられない。

著者が、その興味を注ぎ、徹底的な探求の末に魂を込めて紡ぎだされた物語。江戸言葉(?!)を用いることによって、気品高き趣きに溢れた作品に仕上がっている。
登場人物が複雑に絡み合って、それによって浮き彫りにされるその背景描写に感嘆し、感服した。
だからこそ、「官能小説」というカテゴリーによる先入観によって排除されること無く、多くの方に手にして欲しいと願う。
 
それがたとえば、子供であったとしても・・・?!


思うに、ある部分においては”諦める”ことが、本質的な幸せを得るために必要とされるともいえるのであろう。








白い木蓮に、高い気品と溢れる趣き・・・