青空チェリー
著者: 豊島ミホ
文庫: 232ページ
出版社: 新潮社 (2005/07)



妄想は圧倒的に”しあわせ”になれる♪

新潮社の”R-18文学賞”第1回 読者賞受賞作品「青空チェリー」を含む、3つの物語が綴り込まれています。豊島ミホの短編集。著者のブログも要チェック!

受賞作品「青空チェリー」に綴られる、ちょっとエッチに興味津津の予備校生の女の子と男の子の、妄想(なんと予備校の隣に建ったラブホテルのノゾキ!?ながらの自慰行為)の世界と現実の世界の物語。妄想の世界はひとりの世界であり、その妄想の世界をひょんなことから共有してしまう二人。妄想と現実が入り乱れ、現実の世界でのリアルな部分に突入するところで、当然に物語の幕は閉ざされる。70ページの短い物語の、軽快なテンポで妄想を駆け抜ける心地好さ!? なるほど、読者の熱い支持を受けるに値する秀作。
「誓いじゃないけど僕は思った」では、かつて13〜14歳のたった短い時間を共有しただけの、交際もしていなくて、ただただタイミングが合って”放課後の廊下”で共感する瞬間があったというだけの同級生の女の子が忘れられなくて(依存?!)、現実の今を生きることが、目の前の女性を愛することができない、22歳の大学4年生の男の子の物語。こちらも、当然に妄想の世界が全開で、妄想の世界を中心に、現実の物語が少しずつ進行していく。同級生やサークルの仲間との交わりの中から、自分自身を深く見詰める。揺れ動く心の様。ちっぽけで凡庸な自分自身。不安な気持ちや迷いや悩みを抱えながら、それでも妄想や思い出と共に生きていく現実。
圧巻は「ハニィ、空が灼けているよ。」、妄想が爆裂して暴走しています。主人公の大学生の女の子は地方から東京に出てきていて、教授と付き合っている。そして何故か、物語の中では戦争をしている。でも具体的な戦闘は、目が届く範囲では行われていない。遠い遠い世界で戦争は行われている。戦争中なのに緊張感の欠片も感じない不思議な平和な世界。しかし、その平和は実はバランスを崩しかけていて、東京は間も無く戦場と化す、という末恐ろしい情報を教授は耳にする。それでも自らは愛する国を護るため、その職務を全うするために東京に残り、愛する(?!大好きな?!)彼女を田舎(彼女の実家)に疎開させる。大好きな教授の愛を感じながら、田舎で過ごす女の子は、そのやるせない気持ちを、同級生のフリーターと過ごして心の隙間を埋める。ある日彼は、同級生の一人が戦地から帰還して入院している病院に見舞いに行く。戦地で深い心の傷を負い、心のバランスを崩し、自分を責める元兵士。しかし、そんな同級生のフリーターの下にも、赤紙が届き招集され・・・。
赤く灼けている空を見ながら、物語の幕は閉ざされる。

完全に著者は妄想の世界を駆け巡っていて、滅茶苦茶なのにやるせなく切ない思いが募る。
そもそも物語たるもの、展開される妄想の世界を楽しむものなのである!?、という圧倒的な現実。そしてその妄想を楽しめる幸せ。