世界人類がセックスレスでありますように
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書評/国内純文学



本が好き!PJ”からの献本。
戯曲などの翻訳文筆を手掛けてきた、目黒条の、初小説作品。
オビに評される、
斬新な形式を駆使して現代社会を切り裂く異色の長篇小説”、
そして、
驚くべき新人女性作家が誕生した!
とまで。


彼は、烈しく恋愛したい衝動に駆られた。愛の無い生活など、生きる価値を有しない、絶対的に有り得ない。だから、恋愛しよう、誰しもが恋愛する権利を有しているハズだ、と。
彼は、かつて婚姻生活を営んでいた時期があった。かつてあった、のであって、現在は婚姻による共同生活を営んでいない、ひとりでの生活。彼は、依存心が強く、孤独に恐怖を抱き、世間体を必要以上に気にした。本能的に相手の反応を窺い、自らの確固たる意志を有することを放棄してきた。一方では、自らが確固たる意思を有しないことを悟られることを怖れ、傍若無人な態度で虚勢を張って、無意味に相手を威嚇する。だから、彼はどんなに互いの婚姻関係に破綻をきたしていても、決してそれを認めようとしなかったし、それでも関係を継続したいと強く望んだ。人間関係の構築を不得手とした彼には、会社と自宅以外に居場所は無かった。社会生活に対する順応性が低く、生活能力に劣る彼の、ある意味では、当然の成り行き。
それでも、恋愛がしたいと、烈しい衝動に駆られる彼は、ひとりの寂しさに苦痛を感じている。孤独に耐えられない。現実を逃避したい。人間関係の構築を不得手とする彼は、当然のことながら良好な友好関係を築く努力を、永年に亘り怠っている。異性の友人はおろか、同性の友人ひとりいない現実。
さて、誰が好き好んで、そんな彼との恋愛に勤しもうか?! 若かりし一時期には、何かのキッカケから、まさに運好く、恋愛関係を経て、婚姻関係まで構築することができたが、それとて相当な努力の賜物であり、費やした労力と時間は果てしなく大きかった。費やした労力と時間の結果として得られる関係。ホイホイと、気軽に手軽に築くことができる関係では無い。
であるならば、彼は何を求めているのであろう?! 人間関係の構築を不得手とし、しかも破綻させた経験を有し、自覚しているにも拘らず。また、関係を構築するには、相当の労力と時間を有することを理解してもいるハズ。
仮に、人間という動物の、オスとメスであり、生理的な本能の行為としてのセックスを求め、その相手を求めているのであるとするならば、それは適切に処理をされなければならない。生理的な本能に背いても、何の意義をも有しない。溜まったものは放出されて然るべき。対価を支払って処理すべし。太古より産業として成立している、人間の基本原理。


残念ながら、人間の心は不安定で、常に変化し続ける。ず〜っと変わらないことなど有り得ないし、変わらないことの方が不自然でもある。時間の経過とともに、年齢を重ね、状況は刻々と変化し続ける。変化に順応する必要がある。形成された人間関係だって、その関係は刻々と変わり続ける。当然に恋愛関係だって、当初の盛り上がりは、やがて関係の安定とともに落ち着きを見せる。当初の関係は、互いの状況が何も分からず、絶対的に不安定だから、互いの関係を安定させるための必死の努力を重ねる。その必死の努力が盛り上がりであり、ドキドキ感であり、理解の深まりとともに得られる安定によって、盛り上がりやドキドキ感は消え失せる。人間とは勝手な生き物で、ドキドキ感に苛まれている時には安定を求め、結果的に得られた安定に満足することなくドキドキ感を求める、圧倒的な矛盾。婚姻関係においても、何ら変わりは無い。歳月の経過とともに、関係が冷めることは避けられない。

戦後の急激な経済発展によって、コミュニティ(共同体)が失われてしまった現代の日本。核家族化であり、少子化の進行。総サラリーマン化による不在の父親。母親ひとりに委ねられる育児。学校教育の限界。
地域社会などの多くの人間関係の中から自然に身に付ける重要性。
セックスレスだって、婚姻関係だって、恋愛だって、とどのつまりは”人間関係”。


だから物語では、人間関係に苦悩する女性が、”セックスレス”という時流に乗った、分かり易い”手段”を用いて、いびつな人間関係を形成し、組織し、暴走する。
その現象としての”セックスレス”であり、形成される”組織”であり、”殺人事件”であり、登場人物の関連性が、都会の中流幼稚園に通う四〜五歳の子供を持つ母親(女性)だった。


著者のブログ”目黒 条(翻訳、文筆)の目