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すばらしき愚民社会 (新潮文庫)

○著者: 小谷野敦
○出版: 新潮社 (2007/1,文庫 317ページ)
○価格: 500円
○ISBN: 978-4101306711


表出する言説や表現に惑わされて、本質を見誤ることを避けたい。
聞こえのいい言説が、だからと言って、即ち正しい、ということは、、、ほとんどない。耳障りがいいことを常に言い及ぶのは、究極的には、自らの腹を痛めて産み落とした母親だけ。それ以外の他者にあっては、何らかに意図に基づく作為に満ちる。
否定して拒絶して排除するにしても、その本質であり、中身を見定めることがなくては、その判断すら採用することが憚られる。
小谷野敦にあって、展開される情報量と、その編集力に魅せられる。

私が「愚民」と呼んでいるのは、豆腐屋や靴屋やトラックの運転手や、競馬やパチンコの好きなお父さんではない。電車の中で七人がけのところに六人で座って詰めようとしない連中や、携帯メール中毒になってじっと携帯を見つめている若者は、部分的に愚民ではあるが、もし大量に愚民が存在する領域があるとしたら、それはいわゆる知識人、つまり「大学」や「学者社会」、そして大学院生や学生たちなのではないかという気が、今ではしている。月曜になると、『週刊現代』や『週刊ポスト』を、煽情的な記事やらヌード写真目当てに買う人々は、どちらかというと愛している。愚民向け雑誌といえば、『AERA』や『SPA!』ではないか。前者のお父さんたちは、自分が選良だなどとは思っていないだろうから、愚民ではない。自分らが選良だと思っている者たちのほうが愚民なのである。  (P.306)


≪目次: ≫
序 大衆論とその後
今や「大衆」は司馬遼太郎さえ読まない/「ハリポタ」をリクエストする東大生
第一章 バカが意見を言う世の中
「大衆社会」から「大衆教育社会」へ/高校と大学の数を減らすべき/ネット肯定論者の不誠実/バカはネットで物を言う/論争はネットにお任せ?
第二章 迷走する階級・格差社会論
階級・格差社会論の萌芽/遺伝というものがあるではないか/何のための三流大学なのか/戦後日本の中流・平等幻想/「西洋社会=平等社会」幻想/「階級」を認めない日本人/格差? やっとバブルが終わっただけ……/ニート論の欺瞞をめぐって/バカな若者をこれ以上甘やかすな
第三章 日本の中間階層文化
二十年前の「大衆」/バカに選挙権を与えていいのか/なぜ「名前連呼」が選挙運動か/独特な日本の中間階層文化/近代批判の流行と近世への思考停止
第四章 「近世」を忘れた日本知識人
歴史は近代から始まるわけではない/非歴史的な「日本論」/『太平記』の凋落、南北朝を巡る混乱/なぜ「歴史」が抜け落ちてしまうのか/日本知識人と近世/インチキ現代思想より、近世を!
第五章 「説得力ある説明」を疑え!―― カール・ポパー復興
通俗心理学を疑え!/「何でも説明できる」からこそいかがわしい/政治的に利用される心理学/岸田秀の場合……/「――とは何か」とは、一体何なのか?/「お手軽分析」がまかり通る世の中/「時代論」に気をつけろ!/政治と研究をごっちゃにするな/「分からない」は「分からない」で良いではないか
第六章 他人を嘲笑したがる者たち
やんちゃな文体/意見を言うようになったバカ/ネット言論の功罪/「2ちゃんねる」とマスコミと知識人/表現の自由と匿名性/「まじめ」を忌避し、「笑い」を求める/「2ちゃんねらー」と江戸町人文化/元来「笑い」とは嗜虐的かつ猥褻なものである/「笑い」の変化と強制/日本に「西洋風ジョーク」は似合わない/「笑ったもん勝ち」は許せない/「正論」なき時代の「シニシズム」/「笑われること」を恐れるな!
第七章 若者とフェミに媚びる文化人
「正しいおじさん」と「わがままな若者」/オヤジとギャルの二項対立/なぜ文化人は若者に媚びるのか/日本の新たなタブー/「中立を認めない」と「中立を目指す」の差/ポストモダニズムは「やけくそ哲学」/「事実」が言説による構築ならば……/「生物学的男女差」と「政治的男女差」/フェミニズムにおける不平等/離婚慰謝料における「男女差」
第八章 マスメディアにおける性と暴力
ポルノグラフィーは性犯罪を助長するか/検閲ではなく批判を/性・暴力表現を甘受してはいけない/「リベラル」ぶるのもいい加減にしろ!/暴力表現に寛容なのがそんなに進歩的か?/暴力が好きな映画評論家たち
第九章 アカデミズムとジャーナリズム
「新書戦争」に物申す!/新書に「世界史」が、ない/アカデミズムとジャーナリズムの溝/「国文学の三悪人」/「文学研究者」という悲しい職業/「論争」を忌避する学者たち/粗製濫造される「へなちょこ学問」/「研究」とはかくも難しいものなのである
第十章 禁煙ファシズムと戦う
反煙草運動の急速な広がり/強制力のない法律を前に自己規制/非学問的な「受動喫煙」被害/身体に悪いものなどほかにもあろうに/「禁煙医師連盟」に精神科医がいないわけ/たばこ屋の孫に生まれて/喫煙は単なるニコチン中毒か/酒はいいのか、酒は!/比較は公正にすべし/ストレス社会こそ元凶/禁煙ファシズムが隠蔽しているもの
あとがき
文庫版あとがき


*この作品は平成十六年八月に新潮社より刊行された。


≪著者: ≫ 小谷野敦 Koyano Atsushi 1962(昭和37)年生まれ。東京大学文学部英文科卒業、同大学院比較文学比較文化専攻博士課程修了。学術博士。2007年現在、東京大学非常勤講師。2002(平成14)年、『聖母のいない国』でサントリー学芸賞を受賞。著書は『〈男の恋〉の文学史』『もてない男』『バカのための読書術』『恋愛の超克』『退屈論』『中庸、ときどきラディカル』『俺も女を泣かせてみたい』『反=文藝評論』『片思いの発見』『なぜ悪人を殺してはいけないのか』『谷崎潤一郎伝』など多数。


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