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失踪者―カフカ・コレクション (白水uブックス)
失踪者  Franz Kafka, Der Verschollene (白水uブックス153、カフカ・コレクション)

○著者: フランツ・カフカ池内紀
○出版: 白水社 (2006/4, 新書 361ページ)
○価格: 1,260円
○ISBN: 978-4560071533
おすすめ度: 5.0
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・・・さしあたり、あれこれ思い煩うことはない。自分は学生のような高い目的をもっていないのだ。故郷にいても最後まで勉強をやりとげたかどうかわからない。故郷ですらできないことを、こんな見知らぬ国でやれと、だれが要求できるだろう。自分にとってできる働き口は見つけたいし、働きぶりで認められたい。その気持ちはさらに強くなったが、さしあたりはドラマンシュの召使を引き受けて、それを足場にして機会を待つとする。この界隈には中くらいか、もっと小さな事務所がどっさりあるようだ。小さなところは人事にあたって、あまりうるさくはいわないだろう。やむをえなければ走り使いでもかまわないが、だからといって自分の事務机にすわるような、ちゃんとした地位がめぐってこないわけでもない。今朝、中庭を通っていて見かけた事務員は、開いた窓からのんびりと外をながめていたが、あのような仕事につけないものでもないのである。カールはホッとして目を閉じた。自分はまだ若いのだし、ドラマルシュもいずれ放免してくれるだろう。このままずっと縛られているわけではない。もし事務職につけたら、ひたすら仕事に専念して、あの学生のように力を分散させないことにしよう。もし必要なら夜だって仕事をする。自分のように事務のイロハも知らない者は、夜まで要求されて当然だ。与えられた勤めのことだけ考える。ほかの人なら沽券にかかわるといって断るような仕事でもかまわない。未来の主任がソファーの前に立ち、はやくもカールの顔に有望株のしるしを読みとっている。
そんなことを思いながらカールは眠りに落ちていった。・・・  (P.297)


≪目次: ≫
機_佗
供’貮
掘.縫紂璽茵璽近郊の別荘
検.薀爛璽垢悗瞭
后.曠謄襦Εクシデンタル
此.蹈咼鵐愁鷸件
(車がとまった……)
(「起きろ、起きろ!」……)
断片
(1) ブルネルダの出発
(2) (町角でカールはポスターを目にした……)
(二日二晩の旅だった……)

『失踪者』の読者のために (池内紀)


≪著者: ≫ フランツ・カフカ (Franz Kafka) 1883‐1924。チェコのプラハに生まれる(当時はオーストリア=ハンガリー帝国領)。両親ともドイツ系ユダヤ人。プラハ大学で法学を専攻。在学中に小説の習作を始める。卒業後は労働者傷害保険協会に勤めながら執筆にはげむ。若くして結核にかかり、41歳で死去。『変身』などわずかな作品をのぞき、そのほとんどは発表されることなくノートに残された。死後、友人マックス・ブロートの手により世に出され、ジョイス、プルーストとならび現代世界文学の最も重要な作家となっている。

[訳者] 池内紀 (いけうち・おさむ) 1940年、兵庫県姫路市生まれ。ドイツ文学者、エッセイスト。主な著訳書:「ウィーンの世紀末」、「二列目の人生」、ゲーテ「ファウスト」他


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