父と子の思想 日本の近代を読み解く (ちくま新書790)
○著者: 小林敏明
○出版: 筑摩書房 (2009/6, 新書 264ページ)
○価格: 819円
○ISBN: 978-4480064905
クチコミを見る
どうにもぼくの考えには甘い（ぬるい）ところがあって（傾向として自覚していないものでもない）、厳しい人（自分に厳しく、真剣に厳しく生きている人!?）から見るならば、ゼッタイに許し難い（アリエナイョ）とかって感じちゃったりするんだろうなぁ、などと思うことがたびたびあって。どこかトンチンカンで、そう、オヒトヨシ（なんだろうなぁ）。父と母の愛情を庇護をタップリ受けてヌクヌクと育てられた、自分で言うのもオカシイけれど温室育ちで世間知らずの、長男坊。ぼくが聞き知っているかぎり、と言ってもほとんどなにも知らない、聞きただすことをしたことが記憶がないのだが、ぼくの父は18歳のときに父を亡くしている。一方、いま40歳のぼくは、なんだかんだと言いながら、父と母を、健在である父と母を拠りどころとして心の支えとして、さらには経済的にも頼りにしている。そのくせ、ぼくは娘の父親として適性を著しく欠いて、あぁ、、、といったような小さな個人的な話ではなく、もっと大きな、思想として、近代における、、、なんだろうけど、まずはみずからの足元を、個人的な小さな身近なところから固める（考えを体系的にまとめる）ことなくして、はたしてなにを言いえよう
父と子（特に息子）の間には、母とのそれにはない、独特な感情の交錯がある。しかし、そこにはまた、私的な関係におさまらないものも胚胎されているのではないか。本書は、近代日本における父子問題の典型を、夏目漱石、中野重治、中上健次の作品から浮きあがらせた前半部と、それらを思想的にとらえなおしたとき、何が見えてくるのかを論じた後半部からなる。父子関係がわれわれにとって持つ意味とは何か。読者は近代を貫く大きな問題系へと引き寄せられることだろう。
≪目次: ≫
序章 なぜ父子を問題にするのか 父への気おくれ／父の戦争体験／父との対決／啄木の悩み／疚しさの世代
第一部 文学に見る父子
第一章 通じあえない父子 奇妙な作品『こころ』／孤立する知識人／漱石のメランコリー／死に向かう知／智識に対する田舎／羞恥を生む場所／天皇という父
第二章 拮抗する父子 理念のための殉死／キリスト教からマルクス主義へ／『村の家』という作品／父の壁／転向とは何か／吉本隆明と丸山真男／民俗学の意味／理念の日本体験
第三章 「父殺し」の試み 中上健次という作家／疎外された父／まなざしとしての父／反転する父子／系譜の無化／中上の苦吟／挫折した父殺しの意味／父を突きぬける
第二部 父子問題の射程とその行方
第四章 知識人をめぐって 知識人とは何か／知識人韜晦の土壌／層としての学生運動とその退潮／インテリとインテリジェンス
第五章 家・田舎・辺境 家という問題／自明ではない家族制度／都市と農村／農村の崩壊／「原点」としての村
第六章 回帰の構造 回帰の原点／朔太郎の憂鬱／幻視される故郷／日本への回帰／西田幾多郎の躓き／ナショナリズムの心理
第七章 父子問題の現況について 父親崩壊の時代／本当に父は死んだのか／アンチ・オイディプス／無権力の場所はあるか／漱石・中野・中上を再論する
あとがき （二〇〇九年 春 ライプツィヒにて 著者）
参考文献
≪著者: ≫ 小林敏明 （こばやし・としあき） 1948年岐阜県生まれ。1996年ベルリン自由大学学位取得。ライプツィヒ大学教授資格取得を経て、ライプツィヒ大学東アジア研究所教授。専門は哲学・精神病理学。著書に『精神病理からみる現代思想』（講談社現代新書）、『西田幾多郎――他性の文体』（太田出版）、『西田幾多郎の憂鬱』（岩波書店）、『廣松渉――近代の超克』（講談社）、『憂鬱な国／憂鬱な暴力――精神分析的日本イデオロギー論』（以文社）ほか。
小林敏明 『〈主体〉のゆくえ 日本近代思想史への一視角』（講談社選書メチエ、2010年） '10/11/05
