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 Tenno in Japanese History


激動する世界。国家・歴史の「動力」となりゆく天皇。
――天皇と日本史を問い直す――『天皇の歴史 08巻』

二十世紀幕開け、明治天皇の初皇孫として誕生した迪宮裕仁。生涯に三度焦土に立つことになる近代立憲制下の天皇は、激動の時代にあっていかなる役割を担うことになったのか。伊藤博文が制度化に尽力した君主の無答責性は、大正デモクラシーや軍の政治化により変容を迫られる。動揺する国際情勢のなか七千万同胞の中心として歴史の「動力」となった昭和天皇と時代の特質を究明する。

■三度焦土に立った昭和天皇
1901年に生まれた迪宮裕仁(後の昭和天皇)は、生涯に三度焦土に立つ運命にあった。最初は皇太子時代のヨーロッパ訪問で視察したヴェルダンなど第一次大戦の激戦地で、この時、皇太子は側近に「戦争というものは実にひどいものだ」とつぶやいたという。二度目は大正天皇の摂政として経験した関東大震災後の焦土であり、三度目は天皇として体験した東京大空襲後の焼け野原だった。湯島を視察中に天皇は「これで東京も焦土になったね」と侍従長に語りかけた。悲惨な総力戦の実態を熟知していた天皇が、20年を経てなぜ戦争への「不本意な歴史」を歩むことになったか、追究する。

■予測されていた「日米決戦」
1905年、セオドア・ルーズヴェルト大統領は日露戦争に勝利した日本をみて、ロシア駆逐後に中国東北部の門戸開放を踏みにじるのは日本ではないかと疑念を深めた。日本でも翻訳刊行された『日米決戦』では、太平洋の優越権をめぐって戦争をなしえる国は、日本とアメリカしかないと分析。十数年後の1923年、帝国国防方針でも中国で日本と最も対立する可能性が高い国はアメリカとされた。1924年、対日作戦計画「オレンジ・プラン」を米大統領が承認。それは日本の攻撃によって始まる第一段階、アメリカが日本近海へと反撃する第二段階、戦争を続けようとする日本をアメリカが空海の軍事力で包囲して降伏させる第三段階という、後の歴史を想起させるものだった。

■即位大礼の年から戦争への道を
1928年11月、京都御所紫宸殿で昭和天皇の即位の大礼が挙行された。即位式終了後には田中義一首相が万歳を三唱、その声はラジオを通じて帝国全土に響きわたった。田中首相は同年6月の関東軍参謀・河本大作による張作霖爆殺事件について、関与の軍人は軍法会議で厳罰に処したいと上奏したにもかかわらず、陸軍の強硬姿勢と閣僚の意向で河本を停職とする行政処分の方針を翌年6月に上奏。天皇は立腹し、「それでは前と話が違うではないか、辞表を出してはどうか」と強い語気で叱責した。翌日、田中内閣は総辞職し、田中本人も3ヵ月後に亡くなる。「以来、内閣の上奏するものは自分が反対の意見でも裁可を与えることに決心した」と天皇は語ったが、果たしてどうか。満州事変、日中戦争、真珠湾奇襲に至る重要局面での天皇の言動を徹底分析する。


講談社創業100周年記念企画
特集ページ http://bookclub.kodansha.co.jp/books/tennou/


≪目次: ≫
カラー口絵・写真
天皇の巡幸を迎える広島の人々/第一次世界大戦の激戦地にも立ったヨーロッパ訪問/戦争の時代の天皇と国民/敗戦から平和と繁栄の時代を経て


はじめに
ヴェーバーのいう政治的人間とは/武田泰淳のいう政治的人間とは/無答責の伝統と帝室論/伝統への挑戦者/独立した個人

序章 昭和天皇とその時代
  1 焦土に立つ人
即位二〇周年の記者会見から/ヨーロッパの荒野に立つ/大震災後の焼け野原に立つ/三度、焦土に立つ/避難場所としての皇居の森
  2 大陸の東
国家と戦争/大陸・朝鮮と日本の関係/維新と革命
  3 太平洋の西
北大西洋を横断する航路の開発/太平洋の優越権をめぐる二国/拡張される太平洋概念

第一章 大正期の政治と宮中の活性化
  1 明治という時代に育てられて
誕生/木戸孝正の心配/原敬の史料/迪宮の皇統理解/請願令の意図したもの
  2 大正期の宮中
内大臣と天皇/山県と原の接近/宮中は元老の責任、皇室は恩賞等の府/山県の落日/宮中某重大事件/山県攻撃の怪文書
  3 国民と直結する皇太子像
怪文書の論理/陸相田中義一の憂鬱/間島出兵とコミンテルン執行委員会極東書記局/皇太子の可視化/宮内省若手の登場
  4 原敬時代の終焉
「宮中非政治化」構想の挫折/牧野と関屋の時代/原敬暗殺/大杉事件と亀戸事件の不可分な関係/実行を伴った大逆事件

第二章 昭和の船出と激動する世界
  1 即位式
権威と尊厳の重視へ/摂政への御進講/牧野の回想/昭和三年十一月、即位の大礼/儀礼のナショナリズム/大礼準備段階の厳戒態勢/予防の名のもとに/大礼と神道との関係/学校教育現場への「御沙汰書」
  2 一九二〇年代の国際環境
ヴェルサイユ・ワシントン体制/新四国借款団/日本の対応/中国の反応/日中懸案/日米経済関係/帝国国防方針とオレンジ・プラン
  3 輸出される革命
軍事援助/第一次奉直戦争/第二次奉直戦争と関税会議/郭松齢とソ連/軍の二重外交/北伐とゼネスト/ソ連からアメリカへ
  4 東アジア情勢と天皇
天皇の活性化/満鉄グループと東方会議/久原と後藤による訪ソ/孤立する田中/事件の波紋

第三章 内なる戦い
  1 慣習的二大政党制を前にして
独立した政治空間、皇室と軍と/脅かされる生活権/生活の合理化と女性/脅かされる安全感(一)――不戦条約批准をめぐって/脅かされる安全感(二)――ロンドン海軍軍縮条約/「政治社会の塵埃」のなかへ
  2 軍エリートによる挑戦
二つの総力戦観と満州事変/三度の御前会議構想/統帥権の変容(一)――兵力量/統帥権の変容(二)――熱河作戦
  3 クーデターとテロの時代
西園寺の消極性の理由/社会運動としての国家改造/宮中側近の交代/運動としての公判/高橋財政による安定回復/統制派と華北占領プラン
  4 天皇機関説事件
岡田内閣の対抗者/機関説排撃論の中味/公式令による詔書と勅書の区別/天皇「無答責」の根拠/勅語に欲する勢力/天皇の鋭い洞察/御製に託された心情
  5 皇道派と二・二六事件
陸軍内部の事情/木戸幸一の対応/非公式軍事参議官会議/「朕自ら近衛師団を率いて現地に臨まん」

第四章 大陸と太平洋を敵として
  1 日中戦争とその特質
盧溝橋での衝突/中国側の戦略と経済/初期設定の失敗
  2 戦争と政治
上海作戦――昭和天皇と蒋介石/無答責を保証する機関の成立/アメリカ中立法への対応/経済危機と総動員への対応/華北と華中経済の「全収」/講和の不成立と天皇の懊悩/戦争の位置づけ/石田政子とゾレゲとガンサーの戦争
  3 太平洋戦争とその特質
どのような戦争であったのか/海軍防衛のための作文/太平洋の意味の変容/帝国経済圏の膨張/外務省、反米の潮流/外務省の南進論
  4 天皇と戦争
天皇と木戸/アメリカの対日抑止戦略/最後の攻防/負ける戦争/聖断と玉音

終章 戦いすんで
  1 過ぎ去らない「歴史」
教育/戦中派
  2 犠牲のかたち
飢餓/若者と子ども/沖縄/残留婦人とシベリア抑留
  3 天皇の戦後
無条件降伏の意味/戦争指導者と国民の分離/退位論と回想の日々

参考文献
年表 (西暦1901・明治34年〜西暦1989・昭和64/平成元年)
歴代天皇表
天皇系図
索引


カバー写真: 「南洋潜水艦木綿一つ身」/乾淑子蔵 『図説 着物柄にみる戦争』より


【編集委員】 大津 透河内祥輔藤井讓治藤田 覚
講談社創業100周年記念企画 「天皇の歴史」 全10巻


≪著者: ≫ 加藤陽子 (かとう ようこ) 1960年生まれ。東京大学大学院博士課程修了。東京大学大学院人文社会系研究科教授。専攻は日本近代史。主な著書に『模索する一九三〇年代』(山川出版社)、『戦争の日本近代史』(講談社)、『満州事変から日中戦争へ』(岩波新書)、『戦争の論理』(勁草書房)、『徴兵制と近代日本』(吉川弘文館)、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社)などがある。

加藤陽子 『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(朝日出版社、2009年) '12/03/04
加藤陽子 『満州事変から日中戦争へ』(シリーズ日本近現代史5、岩波新書、2007年) '11/09/18

坂野潤治 『昭和史の決定的瞬間』(ちくま新書、2004年) '10/02/03
古川隆久 『昭和天皇 「理性の君主」の孤独』(中公新書、2011年) '11/12/22

西川誠 『明治天皇の大日本帝国』(天皇の歴史07、講談社、2011年) '13/10/18
藤田覚 『江戸時代の天皇』(天皇の歴史06、講談社、2011年) '13/09/29
藤井讓治 『天皇と天下人』(天皇の歴史05、講談社、2011年) '13/08/25
河内祥輔/新田一郎 『天皇と中世の武家』(天皇の歴史04、講談社、2011年) '13/07/24
佐々木恵介 『天皇と摂政・関白』(天皇の歴史03、講談社、2011年) '13/04/21
吉川真司 『聖武天皇と仏都平城京』(天皇の歴史02、講談社、2010年) '13/03/24
大津透 『神話から歴史へ』(天皇の歴史01、講談社、2010年) '13/02/03



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