幸福とは何か――。この問いに哲学者たちはどう向き合ってきたのか。共同体の秩序と個人の衝突に直面した古代ギリシャのソクラテス、アリストテレスに始まり、道徳と幸福の対立を見据えたイギリス経験論のヒューム、アダム・スミス。さらに人類が世界大戦へと行きついた二〇世紀のアラン、ラッセルまで。ヘーゲル研究で知られる在野の哲学者が、日常の地平から西洋哲学史を捉えなおし、幸福のかたちを描き出す。
≪目次: ≫
まえがき
序章 幸福への問い
「夜色楼台図」の情景/三好達治「雪」の祈り/静けさと平穏さ/身近さ/永田弘の「友人」/一人から一人への伝言/佐野洋子『一〇〇万回生きたねこ』の物語/最終の一行が語るもの
第一章 古代ギリシャ・ローマの幸福観――共同体と個人の分裂
賢者ソロンの教え
1 ソクラテスの生きかた
死刑執行の日/哲学者としてのふるまい/共同体の意思との対立/国法遵守の主張/市民との隔たり/新しい共同体/知への信頼
2 最高善――アリストテレス
徳と幸福の関係/幸福は行動の目的か/幸福な子どもはいない/ソロンの幸福観を継ぐ/共同体の綻び/幸福は最上位のものか/テオーリア(観想)/「ゆるやかさ」の対極
3 エピクロスとセネカ
アレクサンドロス大王の死/都市国家の衰退期/エピクロスの愛用語/人間における自然への着目/「快」の行きつくところ/ストア派とエピクロス派の近さ/セネカのにがい自省/類を異にする正義・善/徳・善の対極にある快楽
第二章 西洋近代の幸福論――道徳と幸福の対立
なぜ中世を問わないのか
1 経験への執着――ヒューム
ベーコンに始まる/人間の本性を問う/「印象」と「観念」/印象から経験の総体へ/革命的な思考の転換/道徳にまつわる経験/必然性と経験/自己のとらえかた/抽象的・一般的な思考への批判/幸福論への困難な道筋
2 共感と道徳秩序――アダム・スミス
『道徳感情論』/共感とはなにか/道徳と日常の暮らし/幸福と日常の暮らし/『国富論』/分業というもの/都市と農村の商取引/社会の進歩/社会的存在としての人間
3 カントとベンサム
『実践理性批判』の課題/道徳法則はどんな形か/自由・道徳と幸福のあいだ/道徳論に幸福論はない/「最大多数の最大幸福」へ/快楽と苦痛/拡大する経済活動のなかで/功利性とは/快楽・善・幸福の三位一体/『自由論』登場の背景
第三章 二〇世紀の幸福論――大戦の時代に
世界大戦の時代
1 青い鳥の象徴するもの――メーテルリンク
「思い出の国」/「夜の御殿」/何億羽ものにせの青い鳥/時代状況の軽薄さと残酷さ/幸福の存在への疑い/幸福を求めつづけること
2 健全なる精神――アラン
心身の安定と祈り/観念過剰、感情過多への戒め/タイタニック号沈没事故/悲劇のイメージを超えて/困難な状況下での生きる力/小屋を作る石工のすがた/健全な精神/確固たる楽天主義/幸福になる義務/「プロポ」というスタイル/日常茶飯の出来事からの出発
3 常識の立場――ラッセル
楽天的な世界観を後盾に/熱意というもの/外へと向かう興味/二〇世紀の現実観/回復すべき心の平衡/大地との触れ合い/退屈のなかに身を置く
終章 幸福論の現在
室生犀星の郷愁/「人生相談」が映し出す現在/思考と論理の先にあるもの/近代世界と個人/質的変化をもたらすもの/幸福論の守備範囲
あとがき (二〇一八年二月二二日 長谷川 宏)
≪著者: ≫ 長谷川 宏 (はせがわ・ひろし) 1940年島根県生まれ。68年東京大学文学部哲学科博士課程単位取得退学。哲学者。自宅で学習塾を開くかたわら、原書でヘーゲルを読む会を主宰。一連のヘーゲルの翻訳に対し、ドイツ政府よりレッシング翻訳賞を受賞。著書、『日本精神史』(講談社、2015)、『新しいヘーゲル』(講談社現代新書、1997)、『高校生のための哲学入門』(ちくま新書、2007)、『生活を哲学する』(岩波書店、2008)ほか。訳書、『精神現象学』(ヘーゲル著、作品社、1998)、『歴史哲学講義』(ヘーゲル著、岩波文庫、1994)、『芸術の体系』(アラン著、光文社古典新訳文庫、2008)、『美術の物語』(ゴンブリッジ著、共訳、ファイドン、2007)ほか。
G.W.F.ヘーゲル 『法哲学講義 Vorlesungen uber Rechtsphilosophie 』(長谷川宏 訳、作品社、2000年) '13/11/29
ヘーゲル 『歴史哲学講義 〈下〉 Vorlesungen uber die Philosophie der Geschichte 』(長谷川宏 訳、岩波文庫、1994年) '12/11/09 , '08/12/20
ヘーゲル 『歴史哲学講義 〈上〉』(長谷川宏 訳、岩波文庫、1994年) '12/10/29 , '08/12/12
カール・マルクス 『経済学・哲学草稿 Ökonomisch-philosophisch Manuskripte, 1844 』(長谷川宏 訳、光文社古典新訳文庫、2010年) '10/07/24
ユルゲン・ハーバマス 『イデオロギーとしての技術と科学 Technik und Wissenschaft als Ideologie, 1968 』(長谷川宏 訳、平凡社ライブラリー、2000年) '09/02/20
アラン 『芸術の体系 le Systeme des beaux-arts, 1920 』(長谷川宏 訳、光文社古典新訳文庫、2008年) '08/09/17
長谷川宏 『ヘーゲルの歴史意識』(講談社学術文庫、1998年) '12/11/06
長谷川宏 『初期マルクスを読む』(岩波書店、2011年) '12/10/26
長谷川宏 『ことばへの道 言語意識の存在論』(講談社学術文庫、2012年) '12/09/18
長谷川宏 『同時代人サルトル』(講談社学術文庫、2001年) '09/03/09
長谷川宏 『丸山眞男をどう読むか』(講談社現代新書、2001年) '09/02/08
長谷川宏 『新しいヘーゲル』(講談社現代新書、1997年) '09/02/02
長谷川宏 『いまこそ読みたい哲学の名著 自分を変える思索のたのしみ』(光文社文庫、2007年) '09/01/31
長谷川宏 『ヘーゲル『精神現象学』入門』(講談社選書メチエ、1999年) '09/01/29
長谷川宏 『格闘する理性 ヘーゲル・ニーチェ・キルケゴール』(洋泉社MC新書、2008年) '09/01/27
長谷川宏 『生活を哲学する』(双書哲学塾、岩波書店、2008年) '09/01/20
長谷川宏 『高校生のための哲学入門』(ちくま新書、2007年) '09/01/12