「自然主義」と呼ばれた作品群は、「言えない」を主題とする小説として生まれ、いつしか赤裸々な「自分のこと」を告白する私小説へと変貌する。いま最も読まれなくなった文豪の代表作――島崎藤村『破戒』が達成したものと、国木田独歩『武蔵野』によって開かれた地平とは何か? 「自然主義」との関わりから近代文学の核心に迫る第二部「「自然主義」と呼ばれたもの達」。そして、明治の始まる前年に生まれた夏目漱石、尾崎紅葉、幸田露伴、正岡子規、一つ年下の北村透谷らの作品を読み解く第三部では、明治を生きた第一世代の群像を「近代」と「前近代」の相克として活写する。西洋由来の「近代」を受け入れた日本人が何を求めたのか、その一方で「近代」によって失われたものとは何か、その謎と実相に迫る「明治二十年代の作家達」。橋本治による「近代」「文学」論の完結編。
≪目次: ≫
第二部 「自然主義」と呼ばれたもの達(承前)
第三章 「秘密」を抱える男達
六 どうして『破戒』は「自然主義の小説」なのか?
七 そういうことかもしれない
八 「言えない」という主題 PART2――瀬川丑松も場合
九 瀬川丑松の不思議な苦悩
十 言えない言えない、ただ言えない
第四章 国木田独歩と「自然主義」
一 最も読まれない文豪
二 国木田独歩と自然主義
三 《白粉沢山》ではない文章
四 「自然主義」と錯覚されたもの
五 『武蔵野』が開いた地平
第五章 とめどなく「我が身」を語る島崎藤村
一 『春』――「岸本捨吉」の場合
二 「始まり」がない
三 岸本捨吉を書く島崎藤村
四 岸本捨吉の見出したもの
五 父を葬る
第三部 明治二十年代の作家達
第一章 青年と少年(こども)の断絶
一 それは一体なんだったんだろう?
二 『坊っちゃん』と前近代青年
三 「近代」というへんな時代
四 「猫」に文学は担えない
五 近代を受け入れてしまった「青年」
第二章 北村透谷と浪漫主義
一 二つしかない「主義」
二 失われた「甘っちょろさ」
三 「浪漫主義」から「自然主義」へ
四 浪漫主義は《やは肌》にしか宿らない
五 『厭世詩家と女性』を書く北村透谷
六 最も浪漫主義的なもの
七 挫折した少年
八 北村透谷の初心
九 なぜ彼は詩を書くのか
十 囚われの人の浪漫主義
第三章 北村透谷のジレンマ
一 北村透谷のつまづき
二 北村透谷の怒り
三 北村透谷の変質
四 北村透谷の《個人的生命(ライフ)》
五 《処女の純潔》を論ずる北村透谷
第四章 紅露(こうろ)時代
一 明治生まれの第一世代
二 なんにも知らない正岡子規
三 正岡子規と紅露時代
四 井原西鶴がやって来る
五 北村透谷と紅露時代
六 《粋》と恋愛の関係
七 尾崎紅葉の書く女性像に本気になる北村透谷
八 いたって浪漫主義的な《侠》
九 天才幸田露伴
十 幸田露伴はどういう書き手か?
終章 近代が来てどんないいことがあると思っていたのだろうか?
一 『五重塔』はどういう小説か
二 「人を描く」とはどういうことか
三 のっそり十兵衛はなぜ嵐の五重塔に上るのか
四 明治文学きっての名文
五 近代が来てどんないいことがあると思っていたのだろうか?
六 小説を書く夏目漱石
あとがき (二〇一四年九月 橋本 治)
※本書は、2010年4月、2013年3月、2014年10月に小社より刊行された『失われた近代を求めて』全三巻の構成を二分冊にしたものです。
≪著者: ≫ 橋本 治 (はしもと おさむ) 1948年東京都生まれ。東京大学文学部国文科卒業後、1977年『桃尻娘』で小説現代新人賞佳作を受賞しデビュー。1996年『宗教なんかこわくない!』で新潮学芸賞、2002年『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』で小林秀雄賞、2005年『蝶のゆくえ』で柴田錬三郎賞、2008年『双調平家物語』で毎日出版文化賞、2018年『草薙の剣』で野間文芸賞を受賞。近著に『父権制の崩壊 あるいは指導者はもう来ない』『思いつきで世界は進む』がある。2019年1月に逝去。
橋本治 『失われた近代を求めて 上 』(朝日選書、2019年) '19/08/24
橋本治 『「自然主義」と呼ばれたもの達 (失われた近代を求めて II)』(朝日新聞出版、2013年) '13/04/21
橋本治 『言文一致体の誕生 (失われた近代を求めて I)』(朝日新聞出版、2010年) '10/06/25