2014年01月21日
022
「凛!」
「麟藤さん!」
ステージからいったん引っ込んでわたしと音々がつめ寄ると、音々は待ってましたって顔をする。
「おどろいた?」
「隠してたの?このため?」
「違うよ。3年生デビューしてみようと思ってね、髪を明るく染めてみたんだ。かわいいでしょこれ?でも先生がたに早々に見つかってねー」
中学デビューとか高校テビューとかなら聞いたことあるけど3年デビューってなに。
「うまい具合に使えたのはいいとして、あとで説教コースだよ」
本当かどうかわかったもんじゃない。
音々はふくざつな顔をしてうなずいてる。
「じゃまた後でね」
「凛!」
博士だ。
「了か。あたしの水着見に来たの?」
「違う」
「じゃあ向のかな?」
「・・違うよ」
「じゃねー」
博士を置いてさっさと行ってしまう凛。
凛に話があったらしい博士だけどわたしにだって話がある。
「博士、聞きたいことあるんだけど」
「え、何」
少しうろたえる博士。珍しい。
「凛と幼馴染なんだっけ」
「うん」
「あの女、なんなの」
向こうに行きかけた音々が会話を聞いて戻って来る。
「この前、困ったことあったら何でも言ってって言ったよね」
「あれは・・・メールくれないと」
「メールはない。しつこい。いいから教えて」
博士が考える素振りをする。
音々を見た。
「私も聞きたい」
言いよどむほどのことが凛にはある。
博士をみて確信する。
ややあって博士は
「あいつ、本沢山読むの知ってるよね」
「うん」
「ちょっと前にあいつがはまってたのが、心理学の本なんだ」
あいつはね、と博士が博士らしくない少しくだけた感じで凛を呼ぶ。
「昔から人を見るのがうまいっていうか、何考えてるのか当てるのがうまくて。『自分の思い描いたゴールがあって、物事をソウサしてその通りにさせるのが趣味』とかよく言ってたよ」
「さばさばしてる割にインシツな子ね」
音々が割とひどいことをさらっと言った。
「このミスコンもあいつにはゲームなんだと思うよ」
「あいつにはゲームでもわたしにとっちゃ人生の分岐点なんだけど」
そんな大げさな、とはだれも言わなかった。
博士は頭がいいからわたしがジョークを言ったんじゃないってわかったのかも。
音々は、言うまでもない。
音々が、言うわけない。
「万千香、そこだけはあんたとすっっっごく気が合うわ」
わたしたちはなぜか顔を見合わせて笑った。
あいつだけにはぜったい負けない。
たぶん同じことを思ってた。
「気を付けてね向さん。あいつのことだからまだ何かあるかも」
「ノーサンキュー」
だって
「わたし負けないもん。世界一になるんだから」
何気に、はじめてだった。
人に言ったのは。
世界一。
音々と博士がきょとんとしてる。
「万千香、本気?」
「幼稚園児だった頃からね」
音々が困ったようにしてから顔を自分でぱんぱんと叩いて、そしたら怖い顔して笑うっていうみょうな顔になった。
「なんでだろ?ちょっと楽しいんだけど。あんなにキンチョーしてたのに。早く、早くってなってるんだけど」
「そりゃよかったね」
「ちょっと万千香!あんたも楽しいんでしょ!」
「はいはいたのしーたのしー」
「何大人ぶってんのこの子は!」
音々がやたらからんでくる。
ああもう髪引っ張らないでよ!セットが乱れる!