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            ストリートアカデミー株式会社 藤本崇 社長


「ストリートアカデミー」は、ビジネス・ITスキルから趣味・習い事まで、個人が主催する講座・教室・レッスン・ワークショップで、「教える」と「学ぶ」をつなぐ スキル共有のコミュニティ。その創立者ストリートアカデミー株式会社CEO藤本氏に起業の秘訣エピソードを語っていただきました。


“パッションを持てる×ニーズがありそう×自分の強みが活かせる“を探して

スタンフォード大学でMBA取得して以来、事業立ち上げや起業するという漠然とした憧れを抱えていました。MBA留学で借金も抱えていた上に結婚して子供も生まれていたので、当時勤めていた金融会社は給料もいいし、このままやりたいと言えず想ってやらないで終わるのかなと思っていました。しかし、34歳の時スティーブジョブスが亡くなったのをきっかけに、やっぱりやらないといけないなと思って色々なアイディアを模索することから始めたのです。


インターネットは個人的に好きで、特にネットは人の数だけその種類があるというロングテールの概念に憧れがありました。ただ、ネットを使って自分がビジネスをできるとは思っていませんでした。シリコンバレーのトレンドを追ってタイムマシーンのように日本でまだやられていないことを日本でやったら良いのではないかと考えていて、近年はネットのハードルもだいぶ下がってきたこともあり、ひょっとして誰かエンジニアをつかまえれば自分も何かビジネスを作れるのではないかと思いました。どのビジネスをしようかと半年くらいアイディア研究していたのですが、“パッションを持てる×ニーズがありそう×自分の強みが活かせる“というビジネスがなかなか見つからなくて、色々なアイディアに対し2週間くらいエキサイトしては「やっぱり毎日はやれないな」とか「自分がやっても勝てないな」と思うことの繰り返しでした。


教えたがり屋と学びたがり屋をマッチング

しかし、ある時当社のビジネスモデルの原形となる教育系のマッチングサイトSkillshareをアメリカで見た時、ふたつの原体験と重なったのです。妻がケーキの料理教室をやっていまして、アメリカでの留学中は凄く流行っていたのに日本に帰ってきたら同じことをやっても全然流行らなかったのです。顧客母数もアメリカより日本の方が多く、ニーズも高かったのですが、単純に集客導線がなかったのです。教えたい人も学びたい人もいるのに、なぜこれが結ばれないのだろうかと思いました。日本では他人から認められたいという感情から資格を取る文化があり、その資格でマネタイズしたいと思っている、特に女性の教えたがり屋がたくさんいます。これはアメリカより日本の方が流行るのではないかと感じました。


もうひとつの原体験は、私は凄く学びたがり屋でMBAの他に映画学校も料理学校も行きましたが、入学金や学費が高いので、色々やりたいことがある人がいても、怖気ついてしまい本当に必要としている人以外は学ばなくなっているのです。これをもし入学金がないようにすれば、もっと選択肢や裾野が広くなり、もっと多くの社会人が新しくやりたいことへ踏み出すのではないかと考えました。そうすれば、学びの自由度は高まり、社会経済のニーズもあるので、日本はもっと元気になるのではないかと感じました。

これはもうタイムマシーンどころではなく、日本が今必要としているビジネスモデルではないかと、素人ながら直感的に自分の使命ではないかと感じ、今すぐ始めようと決めました。


では、他の人がやりたくなさそうで、自分がやれることは何かと考えた時に浮かんだのが、オフラインの要素でした。ネットでマッチングしても、オフラインで個人と個人を同じ時間と場所で結び付けるのは色々と面倒で、ウェブ上だけで完結するようなアプリ大好きな人々はあまり入ってきません。一方で、私は前職フェデックスやユニバーサルで人のリアルな体験を作るという仕事の経験があったので、このCtoCのビジネスモデル(図1)をオペレーション化するのには自信がありました。

また、アメリカでモデルとなっていたSkillshareが日本に進出してくるのかと思っていたのですが参入して来なかったので、これはすぐにでも始めた方が良いと考えました。


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図1 ビジネスモデル


巻き込み力、発信力が人材集めの鍵

起業に際しては、チーム作りが重要です。何事をするにも、そのスキルや経験のある人材が必要ですが、その人集めが難しかったです。例えば、マーケッターを入れたいと思っても、同様サイト作っているところから引っこ抜ける訳でもなく、かといって異業種の化粧品業界のマーケッターがすぐにインターネットサービスのマーケティングができるかわかりません。外資系勤務者にもなれば年収1000万もらっている人もいますから、給与ダウンしてまで来てくれる人はなかなかいません。

人材を集める鍵は、巻き込み力や発信をするということでした。サービスへの想いや自分の価値観、やって行きたい意欲を、facebook やイベントに出たりしてその強い想いを伝えると、周りの人がその頑張りに感心して、口コミが広がっていき、知り合いが知り合いを紹介してくれたりするのです。そして、ひとりふたり入って、輝いた顔をしているのがホームページに載ると結構な違いがあるのです。口説かれて面接に来たけど、「この会社には誰かいるのでしょうか」「この会社はどんな会社なのでしょうか」と不安に思って来るのと、カッコイイ顔が何人か載っていて私も輝いていきたいと感じさせるのは結構な違いなのです。


SAM_1173正しい形を築いてから成長させる

サービス開始後最初のハードルは、コミュニティを正しい価値観で形成し、しっかりとしたブランドを確立することでした。システムをオープンにすると、ネット上では如何わしい商材をやっている人が先に入ってきて講座を開きシステムを使われてしまいます。でもオープンにしないと、講座の種類の幅や数は広がったり増えていきません。サイトを立ち上げただけでコミュニティの育成に関して何もしないと、コンテンツが荒れてしまい、CtoCがなかなか機能しないのです。

まずは、盆栽みたいに小さいうちに綺麗に形を整えて、そこからコミュニティを育てていく必要があります。コミュニティが正しい形に整う前に、マスメディアでのプロモーションを行ってしまうと、来る人をコントロールできず荒れてしまいます。現在は、どういう人が歓迎されていてどういう人が歓迎されていないのかというコミュニティの理念が作り上げられたため、自然とそれに合う人が来るようになっています。それゆえマーケティングプロモーションによって伸ばしていけるのです。コミュニティの理念というは、何かの仕組みではないので、それを築き上げるのは努力と時間が必要でした。


モバイルでのマッチングで海外へ

現在は東京を中心にサービスを行っているのですが、こういうローカルなマッチングなので地方でのニーズが高く、まずは地方へ展開していきます。食べログみたいなサービスは教育業界にはないので、そういう口コミがローカルベースで見つかるような使われ方を目指して浸透させていきたいですね。

その後は、海外へ行きたいです。今度アプリを出す予定なのですが、モバイルでローカルの情報をマッチングしていく時代になっていくと思っています。私はどちらかというと実務に近いスキルを身につけさせるボケーショナルトレーニング(職業訓練)的なところに価値があると思っています。アジアなどの農村部では、パソコン普及率は低くても、スマホ浸透率は凄く高まっています。そこで寺子屋みたいにたくさん広まって大量生産のようにプログラマーやフォトグラファー、料理人などが続出していく、しかも、それはスクールに通わなくても村の誰かが教える、そういう世界があるのではないのかと思っています。そのようなモバイル×ローカルマッチング×スキルの事業をやってみたいと思っています。


初期コストが凄まじく下がっている今の時代、試した人が勝ち

- 最後に、これから起業または新規事業を始めようとしている方へのメッセージをお願いします。

発言発信することで巻き込み力を高めることが一番先に来ることですね。起業と新規事業は、いくらプランニングしても、実際にやってみないとどうなるかわかりません。今の時代、初期コストが凄まじく下がっていて、私もスタートした時に衝撃を受けました。サーバーも月額数千円からで始められますし、家賃も起業している若者に無料で貸し出すスペースもありますので、初期コストがほとんど無くて済みます。ということは、起業のハードルが下がっているので、試した人が勝ちなのです。プランニングや企画、アイディアは価値がどんどん下がっていて、いかに早くテストして、ユーザや顧客を掴み市場の反応を見ることを、スピード感を持って実行できる人の方が価値が高いので、始めたい人はすぐ始めるべきです。ところが、自分ひとりではできない。始めたいということを発信することによって、一緒にやってみたい仲間を募り、それを使ってみたいユーザを引き寄せるという巻き込み力を高めることが、スタートできる早道となります。


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図2 ストリートアカデミー ウェブサイト


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図3 講座風景イメージ(同社写真提供)


■会社概要

会社名:ストリートアカデミー株式会社

URL:https://www.street-academy.com/

住所:東京都文京区小石川1-4-1 住友不動産後楽園ビル18階

代表取締役社長:藤本 崇

設立:2012年7月

事業内容:Webサービスの企画、制作、運営