施設に移ったので家を片付けたいのに、本人が嫌がっている。
ある日、そんな電話がかかってきました。
依頼者は、ご本人の親戚とのこと。
引越し先の施設の部屋は狭いので荷物が少ししか入れられないのに
あれもこれも持っていくと言い張って困っているんです、とのこと。
一度他の業者さんに見積してもらった時には、
対応が気に入らないと、最後は怒ってしまったとのこと。
「家は賃貸住宅です。
いつまでも借りておくわけにはいかないんです。」
引越しからもう数か月が経っていて、依頼者の女性は、本当に困り果てている様子でした。
いろいろとお話を伺いながら検討し、本人も来てもらった上で
一緒に家財整理の仕分けをやってみよう、という事で話がまとまりました。
当日、待ち合わせ場所にご本人がタクシーでやってきました。
体が不自由とのことで、仕分けたりの作業は全てこちらが行います。
怖い方なんだろうか。お会いする前はそんな心配をしていましたが
思ったより気難しくも、怖そうでもありません。
仕分けを一緒に行うのは、女性スタッフ3人。
「これはいりますか?」と一つ一つ尋ねながら家財を分けていきます。
最初はかなり吟味して「…これはとっておく」ということの方が多かったお客様も、
だんだん慣れてくると「これだけ取って、あとはいらない」と捨てるモードに。
私達も「これは新品だから勿体ない」とか茶々を入れながら、
意外にも最後は和やかムードで仕分け作業は終わりました。
もしかしたら、女性ばかりだったのが功を奏したのかもしれません。
「大事なものがいっぱいあるから、こうやって一つ一つ見たかったんだよ」
作業の途中で、お客様がポツリとそうおっしゃいました。
確かに、家財は分類されて段ボールに入れられ、きちんと整頓されていました。
自分の持ち物に、愛着があったからだと思います。
具合が悪くなったからと言って、簡単にみんな捨ててしまいたくない。
そういう気持ちがあったんだろうな、と感じました。
そして、その思いをうまく表現することができなかったんだろうな、ということも。
また、自分で動けるうちにそんな整頓ができる生前整理っていいな、とも思いました。
とっておくと決めた荷物を施設までお届けして、作業は終了。
ご納得いただけたかどうか、それはわかりません。
やっぱり、心残りもあったのだろうと思います。
当事者でなければわからない、複雑な気持ちがあるのだろう、と。
私達は、思い遣るばかりです。
住み慣れた我が家を出て、施設へ入居される方は年々増えています。
これからも、そういう方のお役に立てたらいいなと思います。