ふたりの小景。
June 07, 2004
枇杷。
「○○○さんてわるい人やわ」
「そうだろうなあ」
「でもわるい人のほうがええねんで。いい人は嫌いや」
枇杷(びわ)が丸ごと入ったゼリーを二人で食べた
日曜日の夕方近く、ふたりは三宮の路地の奥にある
こぢんまりとした雑貨店をのぞく。
「どれがすきなの?」
「もうぜんぶ。ここに住みたいくらい」
昭和40年代テイストのプチレトロな
プラスティックのバレリーナと犬のブローチ。
猫のペンダント。
プラスティックのおはじきをつなげたようなブレス。
ひよこのボタン。
オランダのマッチのラベル4枚(これは自分用)
それが今日買ったもの全部。
それらの小物を選びながら、
ぼくはついさっきの出来事を脳裏で反芻する。
彼女は痛がった。
縛られた痛々しい姿で貫かれた。
ふとんのなかで泣いた。
「なんか神々しいオーラが見えるよ」
「そんなの気のせいや、なんにもかわらへん」
彼女は弱くて、でも凛としている。
帰りの新幹線で受信したメール。
「めっちゃ、いいわって感じ。」
それを読んでふと涙がこぼれて、
ぼくはシャツの袖でそれをぬぐった。
(42歳。)
「そうだろうなあ」
「でもわるい人のほうがええねんで。いい人は嫌いや」
枇杷(びわ)が丸ごと入ったゼリーを二人で食べた
日曜日の夕方近く、ふたりは三宮の路地の奥にある
こぢんまりとした雑貨店をのぞく。
「どれがすきなの?」
「もうぜんぶ。ここに住みたいくらい」
昭和40年代テイストのプチレトロな
プラスティックのバレリーナと犬のブローチ。
猫のペンダント。
プラスティックのおはじきをつなげたようなブレス。
ひよこのボタン。
オランダのマッチのラベル4枚(これは自分用)
それが今日買ったもの全部。
それらの小物を選びながら、
ぼくはついさっきの出来事を脳裏で反芻する。
彼女は痛がった。
縛られた痛々しい姿で貫かれた。
ふとんのなかで泣いた。
「なんか神々しいオーラが見えるよ」
「そんなの気のせいや、なんにもかわらへん」
彼女は弱くて、でも凛としている。
帰りの新幹線で受信したメール。
「めっちゃ、いいわって感じ。」
それを読んでふと涙がこぼれて、
ぼくはシャツの袖でそれをぬぐった。
(42歳。)
June 03, 2004
センチメンタル。
二人の公開羞恥プレイに付き合わせてしまってすいません。
最初はひとりでこっそり始めたこのブログですが、
彼女に恥ずかしい思いをさせてあげようと
パスワードを与えてみたところ、
とても居心地がよさそうにしています。
ぼくはホンモノのSではないので、
そのことで彼女に罰を与えようという気は起きません。
今日の夕方電話をしました。
ぼくは秋葉原のザ・コンの前の路上で。
彼女は西宮のある公園のベンチで。
―センチメンタルという言葉を知っている?
「知ってるよ、昔は流行ったんでしょう?」
―そう、死語だよね。でも今ぼくはおセンチな気分
「ふーん、今は使わん言葉やねえ」
―何してたの?
「本よんどったよ。送ってくれてありがと」
ぼくは昨日、「恋風」4巻を彼女に送った。
家に送ると怪しまれるから、局留め郵便で。
「恋風」は、離れて育った28歳の兄と15歳の妹が
偶然再会し、同居し、恋に落ち、
理性と本能の狭間で苦悩するロマンス。
「蚊に噛まれたよ、六ヶ所も」
理性的な付き合いではないけれども、
少なくとも兄弟や親子でなくてよかった。
6月6日の日曜日、ぼくは彼女に会いに行く。
(42歳。)
最初はひとりでこっそり始めたこのブログですが、
彼女に恥ずかしい思いをさせてあげようと
パスワードを与えてみたところ、
とても居心地がよさそうにしています。
ぼくはホンモノのSではないので、
そのことで彼女に罰を与えようという気は起きません。
今日の夕方電話をしました。
ぼくは秋葉原のザ・コンの前の路上で。
彼女は西宮のある公園のベンチで。
―センチメンタルという言葉を知っている?
「知ってるよ、昔は流行ったんでしょう?」
―そう、死語だよね。でも今ぼくはおセンチな気分
「ふーん、今は使わん言葉やねえ」
―何してたの?
「本よんどったよ。送ってくれてありがと」
ぼくは昨日、「恋風」4巻を彼女に送った。
家に送ると怪しまれるから、局留め郵便で。
「恋風」は、離れて育った28歳の兄と15歳の妹が
偶然再会し、同居し、恋に落ち、
理性と本能の狭間で苦悩するロマンス。
「蚊に噛まれたよ、六ヶ所も」
理性的な付き合いではないけれども、
少なくとも兄弟や親子でなくてよかった。
6月6日の日曜日、ぼくは彼女に会いに行く。
(42歳。)
May 23, 2004
門限は午後6時半。
朝一番の「のぞみ」に乗って、10時に大阪に着く。
阪急梅田駅の改札で待ち合わせしたはずが、
彼女のほうが改札がいくつもあるのを忘れていて、
方向音痴のふたりはなかなか会えない。
電話の向こうで泣きそうな声を出している彼女をなだめて、
その場で待っているように言い聞かせて、
やっと二人は再会する。
「もう会えへんかと思った」
人目もはばからず、彼女の頭を胸に抱き寄せ、
梅田駅構内のカフェで手をつないでお互いを見つめる。
「これ、予備校のテキスト」
彼女が差し出した無機質な装丁の冊子をぱらぱらめくり、
ぼくは違うことを考えている。
「今日は何時までだいじょうぶ?」
「うーん、6時ころまでかなあ」
「夕方の?」
帰りの「のぞみ」の指定券は午後8時新大阪発。
夕方。
約8時間の逢瀬を過ごしたふたりは、再び梅田駅に。
「さみしいわあ」(※神戸イントネーションで)
「ん。」
彼女が乗る阪急梅田の改札までふたりで歩く。
時計を見ると18時15分。
「またくるから」
「わかった」
くるりと身を翻した彼女は、改札を抜け、
こちらを振り返ることなく駅の雑踏に消えていった。
(42歳。)
阪急梅田駅の改札で待ち合わせしたはずが、
彼女のほうが改札がいくつもあるのを忘れていて、
方向音痴のふたりはなかなか会えない。
電話の向こうで泣きそうな声を出している彼女をなだめて、
その場で待っているように言い聞かせて、
やっと二人は再会する。
「もう会えへんかと思った」
人目もはばからず、彼女の頭を胸に抱き寄せ、
梅田駅構内のカフェで手をつないでお互いを見つめる。
「これ、予備校のテキスト」
彼女が差し出した無機質な装丁の冊子をぱらぱらめくり、
ぼくは違うことを考えている。
「今日は何時までだいじょうぶ?」
「うーん、6時ころまでかなあ」
「夕方の?」
帰りの「のぞみ」の指定券は午後8時新大阪発。
夕方。
約8時間の逢瀬を過ごしたふたりは、再び梅田駅に。
「さみしいわあ」(※神戸イントネーションで)
「ん。」
彼女が乗る阪急梅田の改札までふたりで歩く。
時計を見ると18時15分。
「またくるから」
「わかった」
くるりと身を翻した彼女は、改札を抜け、
こちらを振り返ることなく駅の雑踏に消えていった。
(42歳。)
May 08, 2004
ぼくが彼女を好きな理由。
「仮に私が女子高生だからという理由で好きでいたとしても泣かないような
強い人になりたいと思いつつお返事をお待ち申しております」
そんな文面のメールが彼女から来た。
ぼくが彼女に、「どうしてぼくのような中年男を好いてくれるのか不思議です」
という質問に対する反問として届いたメールだ。
それを読んで、私は不覚にも涙をこぼしそうになった。
彼女は、たとえぼくがどんな理由で彼女のことを好きだとしても、
それをありのままに受け入れようとしている。
彼女はぼくが、少年時代からの悲しい恋愛遍歴のせいで、
制服の女子高生に満たされない思いを抱いていることを知っている。
その代償行為として、女子高生だったら誰でもよいという理由で、
彼女のことを好きだとしても、仕方ない、と言うのだ。
もちろんぼくが彼女のことを好きな理由はそれだけじゃない。
ぼくは、そのあと、彼女のことを好きな理由を10個書き連ねて、メールの送信ボタンを押したのだった。
強い人になりたいと思いつつお返事をお待ち申しております」
そんな文面のメールが彼女から来た。
ぼくが彼女に、「どうしてぼくのような中年男を好いてくれるのか不思議です」
という質問に対する反問として届いたメールだ。
それを読んで、私は不覚にも涙をこぼしそうになった。
彼女は、たとえぼくがどんな理由で彼女のことを好きだとしても、
それをありのままに受け入れようとしている。
彼女はぼくが、少年時代からの悲しい恋愛遍歴のせいで、
制服の女子高生に満たされない思いを抱いていることを知っている。
その代償行為として、女子高生だったら誰でもよいという理由で、
彼女のことを好きだとしても、仕方ない、と言うのだ。
もちろんぼくが彼女のことを好きな理由はそれだけじゃない。
ぼくは、そのあと、彼女のことを好きな理由を10個書き連ねて、メールの送信ボタンを押したのだった。
May 07, 2004
彼女はぼくの顔を忘れる。
「知らない人と間違えちゃったよ。似てたから」
2回目に会ったとき、待ち合わせた阪急梅田駅の改札で、
彼女はぼくの腕につかまって照れくさそうに言った。
「私、よく顔を覚えていないのかも」
そうかもしれない。
最初に会った日も、カフェで彼女は微妙に視線をぼくの顔からずらしていたし、
あとで腕を組んで歩いたときもほとんどうつむいていたから、
彼女がぼくの顔を見ていた時間というのは実はものすごく少ない。
「だって、照れくさいんだもん」
100通を超えるメ−ルを交換していたことから始まった恋愛は、
普通の恋愛のように、後姿を追いかけているうちに始まった恋と
かなり違うようなのだ。
「あなたは?」
そういわれて、ぼくも彼女の顔をとっさに思い浮かべることができない自分に愕然とした。
今日からはふたりで撮った写真を常に肌身離さず持っていよう。
ぼくはここにいるよ。
2回目に会ったとき、待ち合わせた阪急梅田駅の改札で、
彼女はぼくの腕につかまって照れくさそうに言った。
「私、よく顔を覚えていないのかも」
そうかもしれない。
最初に会った日も、カフェで彼女は微妙に視線をぼくの顔からずらしていたし、
あとで腕を組んで歩いたときもほとんどうつむいていたから、
彼女がぼくの顔を見ていた時間というのは実はものすごく少ない。
「だって、照れくさいんだもん」
100通を超えるメ−ルを交換していたことから始まった恋愛は、
普通の恋愛のように、後姿を追いかけているうちに始まった恋と
かなり違うようなのだ。
「あなたは?」
そういわれて、ぼくも彼女の顔をとっさに思い浮かべることができない自分に愕然とした。
今日からはふたりで撮った写真を常に肌身離さず持っていよう。
ぼくはここにいるよ。