(各曲タイトル下にYouTubeリンク有り)

1. Ernie's Journey(アーニーの旅) 
2. Severity Town(厳格な町) 
3. Anywhere(どこへでも) 
4. Rockpommel's Land(御伽の国へ) 

ゲルマンの大道芸人プログレ、Grobschnittの77年発表、4枚目のアルバムじゃ。 
シンフォニックアンドファンタジー路線が推し進められ、ついにアルバム全般が少年Ernie’sの不思議な冒険についてのストーリーを描くトータルアルバムになったんじゃな。 
当時の一部プログレファンにはすっかりRoger Deanだと思われてしまったRoger Deanライクなジャケもある意味Grobschnittらしいのう。

1. Ernie's Journey(アーニーの旅) 
ゆったりとフェードインしてくるギターのアルペジオ、それに乗って張りのある声で歌が始まる冒頭曲、物語の始まりの曲じゃ。 
まずは物語の導入部が語られ、次の段からパーカッションも加わる。 
そして2段目が終わると、リズムも始まり、続いて軽やかなギターソロが始まり、キーボードも加わってファンタジックな演奏が盛り上がってくる。 
そしてリズムがエイトビートから6/8に変わると、いよいよErnieは紙飛行機に乗って旅立つ。 
歌の第2段目が終わるとGenesisのSteve Hackettよろしくスローアタックなギターソロが夢のように繰り広げられErnieの空の旅を描く。 
そして一旦リズムがブレイクしつつ第3段目の歌でErnieの幻想的な空の旅の情景が歌われる。 
再びリズムが響き始めた頃に歌は主人公の相棒たる怪鳥Marabooが登場してくる。 
ジャケットに描かれている鳥じゃね。 
歌が一旦終わるとギターのオブリガートに続いてリズムがブレイク、ピアノの伴奏に伴って語りが始まる。 
まるで無線機で通信するようなエフェクトがかけられた音声で、男の子を乗せた巨大なとりの目撃情報と、付近の飛行機に警戒を呼びかける内容じゃ。 
まあGenesisあたりに通じるシアトリカルな演出じゃな。 
再びリズムに乗ってギターソロ、そしてリズムがブレイクすると、今度はMarabooのセリフじゃ。 
ちょっと不気味な低音のリバーヴがかかった声でシンセを中心とした演奏でバックにMarabooがErnieを巣に招待し、そこから再びリズムが走り出しギターソロを中心とした演奏からクライマックスへ向かう。 
最後はMarabooの申し出を受けたErnieがMarabooの巣で安らかな休息につく様をヴォリーム奏法のギターとシンセをバックに歌い上げて終わりじゃ。 

2. Severity Town(厳格な町) 
オルゴールのようはヴィブラフォンの前奏、そしてそれを引き継ぐピアノで始まる、前曲の翌朝を舞台に始まる曲じゃ。 
Marabooの巣で目覚めるErnieを清々しい朝をあらわすフルート風シンセのトリルとギターのアルペジオで伴奏する。 
しかしここでErnieは突然、Severity Town、厳格な町とでも言うのかのう、そこで子供達と笑い、一緒に踊ったり、手を取ったりして子供と仲良くした罪で捕らえられたMr. GLEEの事を思い出す。 
ちょっと唐突感がある気もするが、一応前曲の最後の方でそれらしい描写はあるんじゃが、Ernieは助けに行こうとする。 
そしてMarabooに別れを告げ、Marabooからお守りに羽根を一本与えられ、彼の家である木から降りて旅立つ。 
ここまで歌が進んだところで三連ブギー系のリズムがテンポを変え、ギターによる間奏がシンセと絡みつつ奏でられる。 
そしてその後に歌が続くが、木を降りたところでリズムはミドルテンポのエイトビートに変わり、場面が転換する。 
そしてブルージーなギターソロを間奏にSeverity Townといういわゆるディストピア的な町が描写される。 歌を挟んで、キメで下品な笑い声、げっぷ?などが鳴り、クラクションの音や喧騒、事故のような音、そして再びブルージーなギターソロが町の様子を描写する。 
更に歌は続きErnieは町の支配層、子供達の友達になろうとしたMr. GLEEを捕らえたBlackshirts、黒シャツ軍団とでも呼ぼうかのう、からMr. GLEEを救うために町に向かう。 
歌が一旦終わり、三拍子のワルツ風のリズムでギターソロ。 
ここでリズムは勇ましいアップテンポなエイトビートへと変わり、町の門を守る黒シャツ達と対峙するErnieのやり取りを歌う。 
Ernieはピンチに陥るがそのやり取りの中で黒シャツはMarabooの羽根に触れる。 
と、ここで七拍子のエレピのリフを中心としたキメ、続いて五拍子のダルなギターソロを経て更にキメ。 
続いてナレーションの語りが、魔法の羽根に触れた黒シャツ達が石になった事を説明する。 
そしてキメを経て再びナレーション。 
とりあえず難を逃れその場を逃げたErnieはホテルのHOWARD JOHNSON's(なぜかリヴァーブが深めに紹介される)のひさしの下で疲れ切って考え込む。 
ヴォリーム奏法のギターが気怠そうにナレーションに寄り添いながら、ナレーションが終わるとフェードアウトで旧A面が終わりじゃ。 

3. Anywhere(どこへでも) 
旧B面は優しげなアコギのアルペジオで始まる、疲れ切ったErnieを励ますかのようなバラードじゃ。 
ストーリーの流れはここで一休みして閑話休題的な曲と言えるじゃろう。 
大きな展開はないんじゃが、サビで取り巻くようにシンセが包み込み、間奏では口笛が聞こえるのう。 
歌が終わると感動的なギターソロが鳴り響き、そのままフィニッシュじゃ。 

 4. Rockpommel's Land(御伽の国へ) 
敵であるstoney men(石男軍団とでも言おうか、黒シャツ軍団と同じと思われる)の行進の足音、そして彼らの歌う行進曲で始まる、ラストにしてタイトル曲じゃ。 
行進のメロディを引き継ぎ前奏が始まり、続いて三拍子のベースラインとマーチング風のドラムのポリリズムが面白いのう。 
で、歌は迫り来る石男軍団を描写したかと思うと、キメ。 
続いて逃げようとするErnieが追い詰められていく様を描写したかと思うと、合間に猫の鳴き声のようなヴォィス風シンセの間奏じゃ。 
そして次の段で魔法の羽根の存在を思い出したErnie、羽根に触れるとMarabooがやってきてErnieを救ってくれるわけじゃ。 
で、再び猫風のシンセの間奏からギターソロのキメ。 
歌は続き、ErnieはMarabooとともにRockpommel's LandのThe Great Gritty Grotto、Mr. GLEEが閉じ込められている場所に無事到着する。 
と、突然空から子供達の歌声が響き、1000人の子供達の影が応援に駆けつける。 
そして牢の壁を通してMr. GLEEに触れ、彼はそれだけで既に自由を感じる。 
と、ここで歌は一旦途切れ、演奏はギターのアルペジオを中心に進み、一旦ブレイクした後清々しいギターソロで再び盛り上がる。 
そしてリズムがハイハットを残してブレイクすると、再び歌が始まる。 
いよいよMr. GLEEが監禁された洞窟にErnieが近づき、不思議な力で檻が壊れ、魔法の羽根が触れた壁からは何百ものゴブリンが出現して歌い、躍る。 
続く歌はその、ゴブリン達の歌じゃ。 
高音にピッチシフトした声で解放された喜びを歌っておる。 
笑い声も上がり本当に嬉しそうな感じじゃのう。 
続いて再び、ギターソロとなり、そしていよいよ最後の段の歌じゃ。 
自由になったMr. GLEEは町に戻るわけじゃが、最後はゴブリンの歌と同じメロディでリスナーへのメッセージが伝えられる。 
「こうしてROCKPOMMEL's LANDは憎しみから解放された。 
まだ手遅れじゃない。 
あなたの心の門もROCKPOMMEL's LANDへと解放すれば。 恐れるな!」 と。 
そして、歌が終わりコーダへ向かって演奏は続く。 キメを経て一旦演奏は演奏は元気よくギターリフ、オブリガートを交えながら明るく晴れやかじゃ。 
と、一旦ストップした後、煌めくエレピとライドシンバル中心のドリーミーなパートへ。 
ついにはシンバルも消え、反復するエレピとギターのアルペジオのファンタジックな空間が演出され、そこへふわりとシンセも覆いかぶさってきて雰囲気を盛り上げる。 
いよいよ終盤になると、ギターが大団円のソロを奏で始め、リズムもゆったりと盛り上がる。 
最後はゆっくりとパイプオルガン風のシンセが引っ張りながらフィニッシュじゃ。 

お手本のようなトータルコンセプトアルバムじゃな。 
歌詞、演出、サウンド全てがストーリーを描くために最大限に活かされており、逆に3曲目で一旦ストーリーを止める構成も計算され尽くした感があり、完璧じゃ。 
また描かれたオリジナルストーリーも、色々な意味で示唆に富んでおって、尚且つわかりやすいのう。 
敢えて言えばキャラや地名などが余りにもそのままなネーミングだというところかのう。 
例えばMr. GLEEのGleeは、「喜び」などをあらわし、「合唱」という意味もある。 
またSeverity TownはそのままSeverity、「厳格な」という形容詞をつけただけじゃし、The Great Gritty Grottoは「大きな砂まみれのほら穴」など、あまりネーミングにひねりがないのは、やはり英語圏の人ではないからかのう。 
まあしかしそれだけに名は体を表すという事で、このアルバムのわかりやすく、優しい作風の方向付けには合致しておるとも言えるのう。 
また、ギターのトーンや展開、歌の処理などにかなりGenesisの影響が見られるんじゃが、やはり本家と比べるとギターのサウンドの処理などはかなり違うのう。 
特にHackettのギターのサウンド処理に比べるとまだ生音に近く、深みがない感じじゃ。 
メインの歌は、どちらかというとアメプロハードに近い感じで、今回のポジティブな作風にハマっておる。 
ただ、やはりどうしてもGenesisに及ばないのは作曲、アレンジ能力で、Tony BanksやMike Rutherfordの息もつかせぬようなスリリングな展開の複雑な楽曲構成と比べるとどうしてもアレンジはまったりとしておる。 
なので大筋で前奏、歌、ギターソロ、みたいな流れが決まっておるので、歌詞の意味がわからないとちょっと中だるみしそうな構成じゃ。 
その辺りも意識して今回の記事は曲の解説をしながらストーリーの方もかいつまんで同時に解説させてもらったんじゃな。 
ただ、例えば同じドイツのNovalisなども共通するんじゃが、そういったスリリングな展開に乏しい代わりに、いくつかのメロディや異なるリズムを無理なく繋いでスムーズに無理ない展開がうまいと思うのう。 
それがこの作品のテーマ、夢見ること、空想の翼を広げる楽しさ、子供達と触れ合い、歌い、踊る喜びなどとしっくりと絡み合って独自の優しい世界を紡ぎだしておるんじゃろう。 
余談じゃが、今の時点でいうとMr. GLEEはどうなんじゃろうか? 子供達と一緒に笑い、手を取って躍るような大人がいたら今の日本じゃいわゆる、最近で言うところの「事案」ってやつじゃないかのう。 
今の日本じゃ仕事でやっているか、余程の近しい関係の子供でないと通報とかありそうなんじゃが、時代が大らかだったのか、土地柄が違うのか、少し想像が難しいと言うか、Mr. GLEEみたいな人が今いたらちょっと変わった人なんじゃないかのう。 
などどつい思ってしまうわしも、いつの間にか「厳格な町」で「黒シャツ軍団」に毒されておるのかのう? 
そんなやんわりとした風刺も含めて、長い曲が多いので三倍界王拳の本作、難しいことはさておいて何も考えずに、たまには楽しい幻想に身を任せて自由に心の翼を広げ心癒される、そんな少し疲れた心に相応しい良作じゃよ。