2010年11月29日

リンボウ先生 (PF363)

5b3066b4.jpgリンボウ先生こと林望氏の著作を読む機会は最近まで無かった。数年前ラジオの英語番組にたまたま林望氏がゲスト出演され、筆者はその流暢な英語に感心した。作家として数々の著作を発表していたことは知らぬでもなかったので、当時は英文学を専攻された経歴を持つ方かと想像したものである。林望氏は日本古典文学を専門とされる。源氏物語の現代語訳を現在発刊中でもある。日本古典の研究者の中で、類稀な英語の熟達者ではないか。

近著「節約の王道」(日経プリミアシリーズ。2009年10月)を愉しく読んだ。節約の具体的な方法論云々というよりも、著者の生活習慣や生活信条がよく表れている。そして、その多くの部分で筆者も得心した。

「節約は、ちょこちょこチマチマしたナウハウの謂いではなくて、もっと生活全体、あるいは生き方そのものについての自省的思惟ではなくてはならぬ」(p222)とあり、本書での著者の主張を要約して余りある。そして、無駄にしてはいけないのはお金だけではなく、人生で一番大事な「時間」だ(p218)とする点も、まったく同感である。

もちろん、本書には具体的なノウハウも記載されている。
一攫千金からは遠ざかって暮らす(p52)
虚礼に金を費やすな(p64以下) 
冠婚葬祭は地味に(p70)
飲み会は極力行かない(p74)
クルマの保険では車両保険に入らない(p108)
海外旅行は思い切って2週間行く(p131)
子供の教育に投資せよ(p148)
子供が高校・大学に行ってもアルバイトさせるな(p165)
病気にならないことがなによりも節約である(p196)
たばこは無意味な浪費(p200)

これらは筆者も普段心掛けている。そういう意味では「節約の王道」によって一層勇気付けられた。「海外旅行は思い切って2週間行く」などのアドバイスは節約に反すると思う向きもあるかもしれない。著者の主旨は短期間の海外旅行が結果的に高価につくという点にあり、海外旅行に行くなら長期間少なくとも2週間程度行くべきということである。海外旅行の費用の中で往復の飛行機運賃が最も多くの割合を占める訳だから、著者の主張は合理的である。

正しい生活習慣や生活信条というものは、必ずしも多数の人が行っているわけではない。多数の人が行うことが正しいのなら、例えば生活習慣病はこんなに蔓延しない。多数をよしとする民主主義の原理や多数の支持を以って社会常識が形成される理屈とは、この点些か趣を異にする。

なお、使用するクレジットカードを1枚に集約するのは賛成だが、そのカードが著者の場合JALカード(日本航空のマイレッジが貯まる)である点(p49)、疑問なしとしなかった。なぜなら、日本航空は現在経営再建中のため、マイレッジの利用がいつ制約されたり特典の交換条件が変更になるか予断を許さないからである。筆者は経営再建が発表されてから、JALのマイレッジは貯めずに加算されても速やかに使用するように努めている。また、医療保険や生命保険については保険料を節約するなと著者は説くが(p60)、この点自営業の著者と会社員(読者の多くは会社員のはず)の場合は事情が異なる。会社員の多くは既に医療保険や生命保険を掛けすぎているはずである。

本書「節約の王道」冒頭には、橘曙覧(たちばなのあけみ)の「独楽吟」(どくらくぎん)からの引用がある。橘曙覧(1812-1868)は江戸末期福井にあって学術に携わり、富貴権勢を望まず小屋に甘んじて清貧な一生を送った。「独楽吟」は五十二首の連作和歌で橘曙覧の名を高らしめた(橘曙覧については林望著「かくもみごとな日本人」光文社。2009年2月p151に詳しい)。筆者はそのうち次の和歌が気に入った。

たのしみは 妻子むつまじく うちつどひ 頭ならべて 物をくふ時

たのしみは 三人の児ども すくすくと 大きくなれる 姿みる時

筆者にも三人の子供がある。



  

Posted by projectfinance at 00:32Comments(0)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック プロジェクトファイナンス