2015年10月26日

日本の電力会社に必要な施策 (PF582)

5c016796.jpg日本でも電力の自由化が始まる。今年6月に電力事業法が改正された。来年(2016年)4月から電力の小売り事業が完全に自由化される。これまで日本の電力事業は地域毎の独占が続いていた。沖縄を含めて電力会社10社が各地域に存在し、発電、送配電、小売りを担っている。自分の住むところによって担当の電力会社が決まり、電力はその会社からしか購入することができない。電力料金は電力会社が決め、購入者に選択の余地はなかった。

小売りの完全自由化により、登録手続きを行えば誰でも電力を小売販売できるようになる。既に40社が電力小売り事業への参入のため登録手続きを進めている。今後さらに参入者が増える見込みである。これにより消費者も電力の購入先を選ぶことができる。携帯電話会社を選ぶように電力会社を選ぶことができる。

日本の電力小売り自由化については、最近弁護士事務所等が頻繁にセミナーを開催している。先般都内で行われた同種のセミナーに参加したら、参加者数が数百人に及んでいるのに驚いた。広い会場が満席になっている。斯界関係者の関心の高さが窺える。資源エネルギー庁の担当者が登壇するなど所管庁も制度理解の浸透に協力している。

送配電事業については2020年までに法的分離を行うことが決まっている。電力事業における送配電はインフラ中のインフラなので、この部分は引き続き規制の元に置く。送配電に要する料金つまり託送料については、中立的な機関が公正に差配する必要がある。競争を促すのは発電事業の部分と小売り事業の部分である。

さて、発電事業に注目してみると、電力自由化が進んだ暁には一体どうなるのであろうか。発電事業における競争力の確保のためには何が重要なのであろうか。電力の自由化が進んだ際に発電事業の競争力を決めるものは、間違いなく発電コストの優劣であろう。火力発電所の場合であれば発電コストの優劣を決めるものはまずは燃料費である。火力発電所の費用構成をみれば一目瞭然だが、燃料費が約50%を占める。燃料費とは具体的には石炭やLNG(液化天然ガス)の購入費用である。日本の場合現在これらのほとんど全量を海外から輸入している。

石炭もLNGも市場で価格形成されている。市場で価格形成されている石炭やLNGを他人より安く購入する方法は、普通は無い。他人より安く購入する方法がないのなら、燃料費で競争優位に立つ方法はないのであろうか。

燃料費で競争優位に立つ方法は実はある。石炭価格は約3年前から低下してきており、現在のところ過去10年でかなり低い水準にある。LNG価格とリンクする石油価格も昨年(2014年)の夏から低下し現在1バレル40米ドル台と、これも過去10年でかなり低い水準にある。このように価格が低いときに、海外の石炭鉱山や天然ガス田(および液化天然ガス事業)の権益を手に入れるのが得策である。

一旦石炭鉱山や天然ガス田の権益を手に入れれば、そこから産出される石炭や天然ガスを長期(例えば石炭なら10年超、LNGなら20年超)に亘って相対的に安価なコストで調達することができる。つまり、燃料費で競争優位に立てるのである。

日本の電力会社は過去15年余海外進出に力を入れ、特に海外での発電事業(いわゆるIPP事業)に注力してきた。しかし、自分のホームマーケットである日本でいよいよ電力の自由化が始まるのである。海外のIPP事業を止める必要はないが、ホームマーケットで競争に勝ち残る施策を早急に打っていかなければならない。それには燃料費で競争優位に立つこと、具体的には海外の石炭鉱山や天然ガス田(および液化天然ガス事業)の権益取得に本格的に取り組まなければならない。自社の石炭やLNGの需要量のうち差し当たり2割や3割を自社保有の上流権益で賄うくらいの取り組みが必要なのではないだろうか。それには石炭や石油の価格が低迷している今が絶好の機会である。
  

Posted by projectfinance at 00:53Comments(2)TrackBack(0) このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック プロジェクトファイナンス