グローバル・ファンド・アップデート第5号2013年07月21日
<グローバル・ファンド・アップデート第5号 掲載記事>

世界基金関係ニュース
<連載第5回>ポスト「ミレニアム開発目標」時代の国際保健への資金拠出機関を目指して 第5回:エイズとの闘いはどこへ行くのか(最終回)



 世界エイズ・結核・マラリア対策基金で2011年末から進行している「大改革」。前回は、この改革が世界基金に何をもたらしたのか、また、この改革の真価はどのように問われるのかについて見てきました。今回は最終回ということで、この改革によって世界基金はどう変わるのか、また、それはポストMDGs時代にどのようにフィットしていくのかについて見て行きたいと思います。



1.TICAD Vのために半年間「グローバル・ファンド・アップデート」を出せず…

=稲場さん、「ほぼ月刊」をうたっていたこの「グローバル・ファンド・アップデート」ですが、前回、2013年1月2日に第4号を発行して以降、今号を発行するまでに半年以上かかりましたね。どうしたのですか?

稲場:そうですね、「ほぼ月刊」の建て前からすれば、この半年間で6号ほど発行しなければならなかったのですが、残念ながら力量がなく無理でした。一番の理由は、6月頭にあった第5回アフリカ開発会議(TICAD V)です。これに向けて、まず2月にはアフリカから市民社会代表3名を日本に呼んでアドボカシー・ツアーを行い、3月にはエチオピアでTICAD V準備閣僚会合、4月以降は、「市民社会」という言葉をしっかりTICAD成果文書に入れるために外務省や各政党に働きかけ、一方で、TICAD Vに関する市民社会の準備事務局として、参加者の登録作業やら、招聘するアフリカ市民社会の人選に関わる大変難しい交渉やらで、本当に大変でした。

もちろん、その時期にも、姉妹紙である「グローバル・エイズ・アップデート」は2週間に一回出していました。しかし、きちんと発行に向けた役割分担などが出来ている「グローバル・エイズ・アップデート」と違い、「グローバル・ファンド・アップデート」は、ほとんど私が書き下ろし、力技でやっているものですから…。やはり、多くの方にライターになってもらって、編集者を置いて、といった脱中央集権化が絶対に必要ですね。

=言い訳はその辺でもういいですので。で、その間、世界基金のことについては何かやっていたのですか?

稲場:ええ、もちろんです。3月にエチオピアで開催されたTICAD V準備閣僚会合には、アフリカで世界基金に向けたアドボカシーに取り組むワールド・エイズ・キャンペーンのローズマリー・ムブルさん、東アフリカ地域国家エイズ・サービス組織連合のオリーブ・ムンバさん、そして世界基金アドボカシーにリーダーシップをふるってきて、今はウガンダで頑張っているヘルス・ギャップ連合ウガンダのアジア・ラッセルさんをエチオピアにお呼びして、世界基金やGAVI、国際家族計画連盟、国連合同エイズ計画らTICAD V閣僚会合に出る国際機関と一緒にワークショップを行い、しっかりとアドボカシー活動をしました。その結果、TICAD Vの行動計画には、もともと「エイズ」という単語も入っていなかったのですが、なんとか、「エイズ」という表記や、治療だけでなく予防などについても言及するようになりました。

本会議に向けては、10年前にTICAD IIIにも参加し、その後世界基金理事会のコミュニティ代表理事を務めたナイジェリアのHIV陽性者の活動家、ロラケ・オデトインボさんを、上記のオリーブさんや、ワールド・エイズ・キャンペーンのルキア・コーネリアスさんとともに招へいし、5月31日には、「TICAD V 前夜祭」として、大きなサイド・イベントを行いました。エイズの歴史と市民社会の取り組みを総括するしっかりしたシンポジウムになったので嬉しく思っています。また、それ以外の様々なサイド・イベントなどにも参加し、世界基金の重要性を訴えました。

TICAD Vのサイド・イベントの中では、特に、パン・ギムン国連事務総長も参加した「マラリア・バンケット」で、パン事務総長が世界基金の増資会議における日本の拠出増に期待するというコメントを明確に表明しましたし、その他にも、保健やエイズ、感染症に関して多くのイベントが行われました。保健関係、特に感染症関係が本数としては一番多かったのではないかと思います。こうやって、たくさんのメッセージを発することで、必ずや、我が国ももう一度世界のエイズ・感染症対策へのコミットメントを実現してくれるのではないかと期待しています。

2.「改革」後、前進を続ける世界基金

=その間に世界基金は「改革」フェーズを終え、実施フェーズへと移行していますね。現状ではどうなっているのでしょうか。

稲場:2011年からの「改革」で大ナタを振るった世界基金のジェネラル・マネジャー、ガブリエル・ハラミージョ氏は、1月18日でその任期を終え、新しく選出された事務局長のマーク・ダイブル氏にその立場を引き継ぎました。ハラミージョ氏は、最終日に発表した所感において、改革の発端を為した「包括的移行プラン」(Consolidated Transformation Plan)に記述された事項の89%を完了させたと述べました。

この改革の最重要事項の一つとして、案件形成・資金拠出の方法の変革がありました。「新規資金拠出モデル」(New Funding Model)です。これについては、昨年11月の理事会でほぼ内容が確定し、すでに、同モデルによる案件形成の最初のフェーズの対象国となったミャンマー、ジンバブウェ、エル=サルバドルの3か国に関して、世界基金の事務局や国別チームなどが関与し、参加型のプロセスを経てコンセプト・ペーパーがまとめられ、これらは理事会に新しく設けられた「案件承認委員会」(Grant Approvals Committee)および技術審査パネル(Technical Review Panel)の審査を経て、6月半ばまでに理事会で承認されました。

この3か国でのコンセプト・ペーパー作りについては、最初ということでそのプロセスに注目が集まっており、例えば市民社会の参加がきちんと行われたかどうか、また、政府や国際機関など、他のステークホルダーがどのように参画したかなどについて、いくつか調査なども行われています。オープン・ソサエティ財団が行ったインタビュー調査では、ジンバブウェの案件について、セックスワーカーや、男性とセックスをする男性(MSM)への対策にを強化するために、世界基金の事務局や国別チームが相当の努力をしたこと、また、ミャンマーの案件については、言語的な障壁の問題があり、エイズに取り組む市民社会がみんな参加できるような体制が取れなかったことなどが明らかになっています。一方、資金的な配分については、表示的資金枠(indicative funding)と需要誘導的資金枠(incentive funding)の双方が認められ、また、表示的資金枠については、世界基金事務局が最初に示した標準額よりも多く承認される形となりました。

このように、新規資金拠出モデルに向けては、現在のところ、懸念された問題も一定クリアされ、順調に動いているように見えますが、問題は今後、世界基金の第4回増資会議に向けて、しっかりと資金が集まるかどうかです。

3.資金の集まり具合が「改革」の成否を左右

=世界基金は本年中に、2014-16年の資金を集めるための「第4回増資会議」を開催しますが、それに向けた動きはどうなっているでしょうか?

稲場:もともと、同増資会議は、今年の9月に開催されると言われていました。しかし、現状でも、いつ開催されるかはまだ公表されていません。おそらく、年末が近くなった頃に開催されるものと思われます。大規模な改革を行い、新たな事務局長と体制、新たな仕組みで将来に向けて漕ぎ出そうとしている世界基金に対して、世界がどう応えるのか、それはこの増資会議にかかっていると言えます。

世界基金への世界第2位の拠出国であるフランスは、この増資会議に向け、2014-16年の3年間で14億ドルを拠出することを表明しました。これは前回の増資期間向けのフランスの資金誓約と同額です。フランスが資金を減らすのではないかという懸念がありましたが、それは払しょくされました。

日本については、もともと、世界基金への資金は補正予算から拠出していたところ、ここ数年間は、補正予算と通常の一般会計予算の二つのチャンネルを使うことで年間2億~3億ドルの資金を出し、2012年(暦年)については、3.4億ドルという、我が国としての史上最高額を拠出しました。ところが、本年、2013年については、補正予算で世界基金への資金拠出を計上しませんでしたので、2013年度の一般会計予算につけられた1億ドル強が、本年の拠出ということになります。これは日本の拠出額が昨年の3分の1以下になることを意味します。世界基金への拠出額で世界第3位~第5位ということで大きな役割を果たしてきた我が国の貢献がこれで十分なのか、大きな疑問符が付きます。

一方、ポジティブな要素もあります。これまで、世界基金には日本人の幹部級職員がいませんでした。しかし、マーク・ダイブル事務局長率いる新たな体制において、国井修さんが戦略・投資・インパクト局長に就任し、世界基金の運営に大きな役割を果たすことになったのです。国井さんは2000年代前半に外務省で沖縄感染症対策イニシアティブの実施に辣腕をふるい、その後はユニセフで活躍してきました。国井さんを戦略局長に得たことによって、世界基金がよりイノベーティブな歩みを進めていくことは間違いありません。私たちも、日本が世界基金への支援をより拡大していくように、市民社会として取り組んでいくことが必要だと思いを新たにしています。

4.ポストMDGsに向けて:エイズとの闘いはどこへ?

=一方で、ポストMDGs策定に向けた取り組みが進んでいますが、HIV/AIDSに対する取り組みはどうなっていくのでしょうか?ポストMDGsに向けた議論の中で、エイズはしっかりと位置付けられているのでしょうか。

稲場:ことエイズに関して言えば、私はポストMDGsに向けた流れについて強い懸念を持っています。昨年7月に国連事務総長が発足させた「ポスト2015開発アジェンダに関するハイレベル・パネル」は、英国、リベリア、インドネシアで開催したパネル会議を踏まえて、5月31日に報告書を提出しました。報告書を見ると、そもそも、保健の位置づけは大きく低下しており、保健に関する目標案においても、現行MDGsが「普遍的アクセス」の実現を明記しているところ、こちらの目標案では「疾病負荷を減少させる」という消極的な記述に終始しています。また、保健に留まらない、エイズの社会的な側面に関する認識も十分ではないように見えます。

もちろん、ポストMDGsにおいては、高齢化や若年失業などの問題に配慮して、包摂的な経済の在り方、消費と生産の関係の在り方などについても大きく取り扱う必要がありますし、持続可能な開発の枠組みの中で絶対的貧困の根絶を追求しなければならない、という難しいバランスがあります。その中で、エイズのみならず、旧来のMDGs課題については全体的に扱いが小さくなる側面があることは事実です。しかし、エイズに関しては、その後退の仕方がかなり大きいように思います。

これには、エイズに関わる市民社会や、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のポストMDGsへの取り組みが遅く、また、十分でなかったということが響いています。UNAIDSは、エイズ対策の将来に向けて「3つのゼロ」を掲げ、米国政府のエイズ政策などを踏まえて「エイズを終わらせる」「エイズ・フリー世代の実現」などを唱えていますが、残念ながら、これらの中長期ポリシーをポストMDGsに反映させることに失敗しているように思います。また、エイズに関わる市民社会も、米国オバマ政権への働きかけにより、米国において、エイズへのより大きなコミットメントを生み出すことには成功していますが、他の先進国では十分なコミットメントを引き出していません。日本においても同様で、我々の力不足を痛感しているところです。

エイズとの闘いは、MDGsが終わっても、世界全体で担わなければなりません。アメリカ合衆国だけが担えばよいということではないのです。そうなれば、エイズ対策はゆがんだものとなってしまいます。実際、米国は一方で「エイズを終わらせる」といいながら、TPP交渉をはじめとする貿易交渉などでは、医薬品への知的財産権の保護の強化に固執しています。これでは、第2世代・第3世代の治療薬へのアクセスは進みません。

ポストMDGsの検討は、ハイレベル・パネルの議論が終わったことにより、今後、昨年のリオ+20サミットで決定された「持続可能な開発目標」(SDGs)の制定プロセスに移ることになります。このプロセスでは、焦点は環境問題に、また、交渉の当事者は政府間に移行することが予想されます。これも懸念材料の一つです。保健、さらにはHIV/AIDSが、このプロセスの中でどの程度きちんと扱われるのか、懸念は強まるばかりです。

=その中で、世界基金の「改革」をどう評価すればよいのでしょうか。

稲場:世界基金の改革には、当初、欧州経済危機を背景に、「需要主導」「全員参加型」といった世界基金の設立当時の原則を実質上大きく変え、「ポストMDGs」の厳しい現実に対応しようという強い意志がありました。だからこそ、すでに決定されていた第11次新規案件募集を停止し、事務局長を指導力不足というレッテルで引きずりおろし、最高職としてジェネラル・マネジャーという役職を新設するなど、殆ど戒厳令状態といってもいいような厳しい状況が作り出されたわけです。他の国際機関で、このような厳しい状況で改革を強いられた機関は未だありません。

市民社会は、こうした状況の中でも、しかしなんとか耐え、くらいついて「新規資金拠出モデル」などに関してイノベーティブな提案を出して、「需要主導」原則を何とか守り、「全員参加型」の意義についても再認識させることに成功しました。一方で、感染症対策における途上国や新興国の責任についても、新たな形で再定義され、ルール化されました。この改革プロセスによって、世界基金は、ポストMDGsに向けて、エイズという地球規模課題に向けた「責任の共有」の在り方を作り出す上で、他に一歩先んじたということが出来ます。

しかし、油断できないのは資金面です。年末に向けて予定される第4回増資会議で資金が十分集まる必要があります。世界基金のこの「大改革」を真の意味で成功させることは、世界全体でエイズを克服していく上で不可欠です。そのためには、資金をしっかりと確保する必要があります。増資会議を皮切りに、感染症対策への途上国側の資金拠出を強く促しつつ、途上国の徴税能力強化や租税回避規制などによりそれが可能な政策的・経済的環境を作り出すことが大事です。さらに、より長期的に、国際連帯税のような形で、地球規模の課題に地球規模で対処するための仕組みを作っていく必要があります。

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