<グローバル・ファンド・アップデート第1号掲載記事>

【インタビュー】
地域ベースのHIV/AIDS予防啓発活動と、世界基金によるサポートの現状
(特活)シェア=国際保健協力市民の会 タイ事業担当 広本充恵さん



東南アジア・タイ王国の東北部、ラオス・カンボジアとの国境地帯にあるウボン・ラーチャターニー県。この県の北部に位置するケマラート郡などでHIV/AIDS予防啓発およびケア・プロジェクトを行なっている国際保健NGO「シェア=国際保健協力市民の会」。今年シェアのタイ事務所はタイでの財団法人登記が完了し、5月にタイの新財団として「HEALTH AND SHARE FOUNDATION(HSF)」を設立しました。シェアはタイで活動を行うに当たって、世界基金の支援を受けています。そこから浮かび上がってきたメリットや問題点について、担当の広本充恵さんにお話を伺いました。

―まず、シェアではどういったHIV/AIDS支援事業を行なっているか教えてください。

シェアでは今日までタイで17年HIV/AIDS啓発活動を続けてきましたが、現在、世界基金の資金により、主に2つの事業を行なっています。1つ目は、若者・保護者対象の予防啓発事業です。タイ国ウボン・ラーチャターニー県ケマラート郡内の4つの地区で、12〜24歳の若者対象の予防啓発活動、若者の保護者対象の活動、地域リーダーが自ら活動が行えるように地域リーダー育成を目指した活動を展開しています。2つ目は、子ども対象の「チャイルド・ライフ」事業です。同県のケマラート郡を含む5つの郡から、18地区を選んで活動しています。こちらではHIV感染者以外にも、HIV/AIDSによる孤児、障がいのある子ども、貧困な家庭の児童、など弱い立場とされる子どもを支援しています。

詳細はこちら http://nposhare.sakura.ne.jp/health/act/thai/index.html

―それらのプロジェクトは、世界基金からはどういった形での資金提供を受けていますか。

世界基金の資金によるタイでのプロジェクトは、毎年10月から翌年9月までを1年度としているんですね。それで、1つ目の若者対象の事業は2001年10月から資金提供が始まり、現在は第3フェーズで、2013年9月に終了予定です。それから、チャイルド・ライフ事業は2011年10月から2016年9月までです。ステータスはどちらのプロジェクトも「サブ=サブ・レシピエントSub-Sub Recipient (SSR)」(下位資金受託団体)となっており、2012年度予算は若者対象の事業が2万2,600米ドル、子ども対象の事業が4万米ドルです。(注1)

(編集部注1)SSR(Sub-Sub Recipient):下位資金受託団体。世界基金の案件拠出資金は、各団体が直接受け取るのではなく、世界基金から、案件の「プリンシパル・レシピエント」 (Principal Recipient (PR):資金受託責任団体)に拠出され、そこから「サブ・レシピエント」(Sub Recipient (SR):副資金受託団体)、さらに「サブ=サブ・レシピエント」(Sub-Sub Recipient (SSR):下位資金受託団体)という流れで受け取ります。

―世界基金の資金を受けるメリットは何でしょうか。

まず、プロジェクトやキャンペーンを通じて、保健関係者だけでなく地域全体のネットワークの構築ができることですね。また住民自身が活動を通して予防の情報を得られるようになりました。SSR間でも、活動を実施する中で直面する課題やその解決策の経験交流をしたり、報告書作成などに関して、相談し合える状況がうまれています。あと、副次的に、世界基金の支援を受けていることで他ドナーにも信頼してもらえますよね。それと、管理費の一部も含めた資金が得られること、つまり活動を行う職員の人件費や維持費がなければ、活動自体続けられないので、それは良い点かと思います。

―いっぽうで、世界基金からの資金提供計画案について、どんな問題点を日頃感じていますか。

はい、事業内容が固定化されていて、現状に合わせて修正ができないことが、現場としては困難に感じています。こういった枠組みで行なうようにという活動の計画書が送られてくるんですが、その固定された予算や人数、活動実施時期は私たちが勝手に変更することはできません。たとえばあるキャンペーン1つを行う時、人数は120人で、多すぎても少なすぎてもダメ、枠組みに当てはまらないと減点になってしまう。また、参加者は新規でなければならないという規定がありますが、地元に残る若者は限られているので、長年やっていると参加者も重複してくることは避けられません。全て規定通りにしなければならず、もっとフレキシブルな質を求めた内容にできないのか、と思います。またタイ東北部の人びとはほとんどが農家のため、収穫期になると活動実施日は変更せざるを得ません。

(編集部注2)世界基金の案件は、これまでの世界基金の仕組みでは、世界基金が招集する「新規案件募集」(ラウンド)において、実施国の「国別調整メカニズム」(CCM)が案件提案書(プロポーザル)を提出し、これを世界基金の独立した案件審査機関である「技術審査委員会」(Technical Review Panel)が審査し、承認された案件について、主要資金受託機関(PR)と世界基金事務局が契約を結んで実施する形となっています。また、承認された事業の変更については、一定の手続きを経ないと行えない仕組みとなっています。これは法令形式上、世界基金の資金拠出の正当性が、法令形式上、あくまで技術審査委員会の案件提案書評価に基づき、また、契約に定められた事業を行うことによって保障されているからです。

―そういった「数」に目標を設定した世界基金のニーズによる弊害とは。

数の規則を守ることで評価され、次の資金獲得につながるので、数だけでよいとスタッフも思うようになってきてしまうことです。シェアの「質」重視の考え方とは異なり、スタッフにも事業の仕方に影響しつつあります。

―資金供給の時期は計画に合ったものなのでしょうか。

SRから確定した活動内容と活動に合わせた資金が降りてくる時期が遅延することも少なくないので、そのたびに活動が止まってしまって計画通りに進みません。毎年PR-SR-SSR関係者間会議で共有しているのに改善されません。チャイルド・ライフも、2011年10月開始となってはいたものの、資金と最終的な活動計画が私たちのところまで届くのが遅れて、結局今年3月になってからのスタートでした。

(編集部注3)世界基金の資金は、案件契約書の範囲内で、主要資金受託団体(PR)に拠出されます。PRは計画通り資金を支出して事業を実施し、これを世界基金と契約を結んだ「現地監査機関」(Local Fund Agent (LFA))が監査し、世界基金事務局に報告をしなければなりません。資金拠出の遅延は、この循環が時間切れでうまくいかないこと、会計漏れや不透明な利用等があれば審査が止まり時間がかかること、また、PRからSRへの資金拠出が遅れること、等々、様々な理由によって起こり得ます。

−世界基金からの資金は、年々減少させる仕組みになっているとか。

年間18%ずつ予算が減らされています。これは、活動地の自治体が資金提供するだろうと仮定してのことらしいんですが、地域のお役所からの助成金はほんの僅かのものです。プロジェクトが上手くいくかどうかも、いかに自治体の協力を得るかが重要でもありますが。

(編集部注4)世界基金は、中所得国以上の国への資金拠出については、世界基金への資金依存を減少させるため、当事国の予算との「共同拠出」(co-funding)が前提となっています。この「共同拠出」は、5年間のプロジェクト期間のうち、毎年、当事国の予算からの資金を増やし、世界基金の拠出資金を減らす形で制度設計されています。ここで指摘されている問題は、特に地方において、案件に関する「共同拠出」のうち、地方政府による拠出が適切に行われていない結果、資金不足に陥っているということです。

―なぜ資金が減らされたのでしょうか。他の財団からは資金を得られないのですか。

タイ自体、「中所得国」であり、援助卒業国を自認しているため、世界基金だけでなく他外国ドナーの間でもタイ支援の優先度が落ちてきています。シェアタイ事務所は今年タイの財団法人として登録したばかりで、新財団としての事業経験が無かったため、タイ国内での資金獲得が厳しい状況にあります。

―スタッフの手は足りているのでしょうか。

若者対象の活動は活動対象者1,200名、チャイルド・ライフは2,520名が活動対象者となっており、活動に対して割り当てられている有給スタッフは各事業2名弱のため、スタッフの人件費は全く足りていません。当会では二つの事業を行えるスタッフを4〜5名つけていますが、それでも人材が足りません。さらに、事業内容と活動予算が確定し活動が開始できるのが、契約書内で謳われている活動開始日から何カ月も経った後のため、契約終了までの残り数か月間で1年分の活動をしなければならないというしわ寄せが起こっています。よって、普段は活動を終わらせることに追われて、活動後の分析・評価をした上での再計画をする時間が少ないという課題もあります。小規模NGOにとっては資金だけでなく時間をやりくりするのも大変ですね。

−最後に、今後のタイでの活動への期待やメッセージをどうぞ。

まず世界基金には、「質」の向上を評価の基準に置くようにしてほしいと思います。そして、私たち草の根で活動を行っているSSRの立場からも活動および予算計画に関われるような体制づくりを望んでいます。また世界基金は自治体が支援することを前提に事業費が毎年減少していますが、自治体が想定よりも資金提供を行っていない事実を知った上で、タイ国内での国レベルでの支援の基盤の確立から関わっていただきたいです。加えて、活動実施のみではなく、タイ国内で育ってきた現地NGOのスタッフ育成とか、能力向上、つまり人材育成に取り組んでほしいです。

(編集部より)世界基金の資金拠出の対象国は、低所得国からタイのような上層中所得国まで様々です。また、一案件の規模が大きく、その実施には多種多様な団体が関わっているため、マネジメントも非常に複雑になります。資金の不正流用を防ぎ、事業の効果を高めるために設計された様々な制度が、実際には、現場での事業の質の向上を阻害したり、事業実施に必要な手続きを増やすだけということになりかねません。さらに、制度の矛盾や混乱を解決するための改革が、現場では「朝令暮改」にしかならないといったこともよく見受けられます。形式上、民主的にできている諸制度も、当事国における権力の在り方や社会の構造によって、実質的に活用することが出来ないことも多いのです。また、特に草の根の現場で世界基金の資金に関わっている場合、世界基金の仕組みを全体的・客観的に把握することは非常に難しいと言えます。すべての関係者が満足するような制度設計が難しい中で、どこに優先順位を置くのか。世界基金の現在の改革でもっとも問われているのはそこだと思います。(稲場)

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ひろもと・みつえ
経歴:1999年タイで日本語教師、2007年サセックス大学大学院国際教育コース卒業、2009年シェアタイ事務所アドミニストレーターとして駐在、2012年〜現在シェア東京事務所・タイ事業担当。大学時代メキシコと米国の国境ティファナに行き、経済格差による貧困を目の当たりにしたことが、国際協力に携わるきっかけになった。
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