2013年08月15日

「安定した職業」のみをめざす子供たちへのアンチテーゼか ─ 風立ちぬ ─

T0016599p─ 宮崎駿監督「風立ちぬ」 ─

今年のジブリ映画の最新作「風立ちぬ」。子供ができてしばらく映画は諦めざるを得ないと思っていましたが、帰郷中にふいに自由時間ができたのでここぞとばかりに観てきました。

皆さんのブログやTwitterの書き込みを見ていても「ジブリにしてはキスシーンが多い」「子供にはわかりづらい」「庵野監督の声の感情がこもっていない」などと様々な意見があるこの作品。

私もそのあたりを気にしつつ観てきたのですが、いやー個人的には大好きですよこの作品。確かに前述のような感想は持ちますが、細かい部分を抜きにしてもやっぱり夢を与えてくれるなぁというのが全体的な感想。印象は「紅の豚」に近いかもしれません。主人公が設計図を引くシーンはピッコロ社のフィオ嬢を思い出しましたw

舞台は戦時中の話なので主人公たちも良いことをしているとは思っていませんが、彼らはただ純粋に自分の夢である「美しい飛行機を作りたい」ということを一心に考えて生きています。それはお昼ご飯に出たサバの骨の流線型を見ながら「美しいカーブだ」と感じてしまうほどに。

そしてこの作品は現実と夢がシンクロするシーンがいくつか出てきます。これがまた良い。ふと空を見上げると空想の飛行機が宙を舞っている。そんな空想を現実に換えるべく、細かい計算式や、設計図を書きまくる姿がとてもカッコイイ。そして子供向けの内容ではないにせよ、この姿を子供達が「かっこいい!」と思ってくれるなら小中学生の少年たちに夢を与えるのではないか、そんな風に感じられる作品でした。


━ サバの骨すら飛行機に見えるくらい夢にのめり込めるか

imagesさてこの作品、あらすじを追いかけても仕方ないので個人的に気になった部分を抜粋。

1つ目は、サバの骨の流線型を見るためにお昼をサバ定食を頼み続けるほど夢に没頭している部分。日常をそんな風に見られれば、仕事もほんとに楽しくなってくるんじゃないかと。取り付け金具の工夫とか、流線型のフォルムとかカッケー、みたいなww

これも子供向けではないと言われるこの作品ではありますが、ぜひ小中学生の少年たちに見て欲しい。そして、学校では単なる座学でしかない数学や物理がこんなに未来につながるカッコイイものだと感じて欲しいなと思いました。


o04500229126145532182つ目は、戦争の描き方。この作品における戦争とは飛行機を作るための技術革新のための起爆剤でしかありません。少なくとも二郎たち設計士たちにとっては戦争に勝つか負けるかなど考えず、戦闘機の開発オファーがあればそれだけ開発費用をかけて”戦争の後に役に立つ”飛行機を目指している。戦争賛美の映画などと言う声もありますが、そんな話では決してありませんでした。

また仕事が終わった後に技術屋たちが集まって最新技術について語らう自主的勉強会のシーン。これがいい。これが少し「コクリコ坂から」の論争シーンを思い出す白熱っぷり。「機関銃を搭載しなければもっとスピードがでるんだけどな。」なんて皮肉も飛び交いながら、あんな風に仕事に向き合えたらなんて幸せだろう、そんなことも考えました。


201308032135223つ目は結核をわずらう二郎の婚約者・菜穂子の存在。ジブリらしい、いや、宮崎駿の好みなのかww、活発で健気な女性像なのですが、一番良いなぁと思ったのは寝ている菜穂子ととなりで徹夜仕事をする二郎が手を繋ぎながら、二郎が「タバコ吸いたい、手、離していい?」と聞くと「だめ」と拒否するシーン。このあたりが宮崎駿流の萌えなのでしょうねww

このタバコについては禁煙団体が「未成年の喫煙を助長する」と騒いでいるらしいですが、作品中の喫煙シーンをどうのという前にすることはたくさんある。「スモーク」という映画でもありましたが、タバコってそんな悪いものじゃないように思うんです。

確かに身体に害がないとは言いませんが、男同士が話をする場として必要なテイストだったりもする。結核者のとなりで吸うのをよしとはしませんが、タバコを吸う間も離れたくないという気持ちを表現するには批判覚悟であの描き方をしたのではないかとも思えます。


━ 「安定した職業」のみをめざす子供たちへのアンチテーゼか

img058そして、私が一番印象に残ったのは憧れの設計士カプローニ氏と夢の中で語りあうシーン。これは劇中で何度も出てきます。カプローニも自分の理想の飛行機を作るために前を進んでいて、常に二郎に対して「戦争や経済の道具として使われている飛行機だが、これは美しい夢だ。風はまだ吹いているか?」と問いかけます。

自分の夢を実現させるだけの意欲はまだあるか?聞く彼の言葉は二郎だけじゃなく、見ている我々の心にも響く言葉です。今の子供達に将来の夢を聞くと「公務員」「安定した職業ならなんでも」みたいな答えが帰ってくる現代へのアンチテーゼともとれるような気がしました。


全体的には、震災の描き方、戦争の描き方、喫煙についての描き方、ジブリにしては多いキスシーンなど、いろんな挑戦(タブー?)を含めているこの作品ですが、1つ思ったのは宮崎駿自身もこの堀越二郎という主人公に自分を投影して、カプローニの言葉「10年を全力で自分の夢に費やせたか」を問う作品なんじゃないだろうかということ。

だからこそ、多少何かを言われそうな部分があってもすべて自分の思ったとおりにしたい、それが主人公の声に感情がこもってなかろうがww、自分が演技演技したものは作りたくないと決めたらそうする、そういう夢の集大成でもあるのかもしれません。

今までのジブリアニメとは一線を画すこの作品で、人によって好みが分かれる作品だと思いますが、個人的にはかなり好きな作品でした。そして、作品中のいろんなタブーについて、しっかり子供に説明できる大人になりたいなと、改めて思った次第です。





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この記事へのコメント

1. Posted by Ageha   2013年08月15日 15:33
この次に公開されるかぐや姫の物語も墨絵みたいなタッチのちょっと今までとは違った映像になりそうですね。

一緒に仕事をしてきたひとが引退したり
ジブリを退社したりで環境が変わり
自分も年老いていく
今まで自分の作品に携わってきたひとを
も一回集めて、
大好きな飛行機の映画を作る、
宮崎監督にとって「風が吹いているうちに」
なんかそんな気がして仕方なかったです。

子供向け路線ばっかでもダメだろうし
ティーンが主人公のは
なかなかナウシカやラピュタを越えられないだろうし
コクリコ坂あたりから少し路線が変わったというか
新しいものに挑戦し続けてるんだと思います。

と、同時にビッグネームになったからこそ
作れるようになった実話ものも戦争ものも
懐かしのとある時代の物語も作れるようになった・・・とも言えますが。
踊らされてたアイドルが自分で作詞作曲して
自分にしか歌えない歌を歌えるようになるみたいに
もしかしたら「やっと」
自分の「ホントに作りたいアニメ」ができるようになったのかもしれませんね。
2. Posted by GAKU   2013年08月15日 20:37
>Agehaさん、こんばんは。
『かぐや姫の物語』の予告やってましたねー。
あの墨絵を描きなぐった感じのタッチはとても実験的だなと。
ジブリというより大友監督のアニメ『ショート・ピース』に近い印象でした。

ナウシカ、ラピュタが予想以上にヒットしてしまっただけに
夏と言えばジブリ、子供向け、ファンタジーという路線が定着してしまい、
かつての東映まんが祭やドラえもんのび太と●●みたいな、お決まりの
集客パターンになってしまったのが宮崎監督としては納得できなかったのかもね。

踊らされてたアイドルがやっと自分がしたいことをできるようになった、
という例えはわかる気がします。
鈴木プロデューサーが「もうわかった!なんも言わない!
批判もいっぱいあるだろうけど、今回、宮さんの好きなようにやっていいよ」
と宮崎駿という人間を解放した現在のジブリの集大成なんでしょうね。
3. Posted by にゃむばなな   2013年08月15日 23:11
この作品を子供向けとか喫煙シーンが云々とか言われているのは、ある意味ジブリブランドガファミリー向けの作品を多く作ってきたことへの反動でしょうね。

でもジブリ作品の本質は「大人も楽しめる」ではなく「大人が楽しめる」映画。
それが理解されていないという表れでもあるのが淋しいものです。
4. Posted by GAKU   2013年08月17日 09:26
>にゃむばななさん
そうですねー。これが大友監督の作品なら煙草を吸おうが戦争を扱おうが対して話題にもならないのでしょうが、ジブリ=子供向けという社会的評価が暗黙のルールを作ってしまったのかもしれません。

そして宮崎監督もその暗黙のルールにどこか不自由を感じて、今回”あえて”戦争・喫煙・キス・ベッドシーンなども描いた可能性も考えられますね。

「大人が楽しめるアニメ」という意味で解放された今回の作品、個人的にはとても好きな作品でした。好き嫌いはあるでしょうけどねー。
5. Posted by たいむ   2013年08月17日 09:52
いつも思うのだけど、ジブリ=宮崎駿ではないはずなのに、どうしてもそんな風にとられてしまうのが残念です。
私はこの作品が好きかと聞かれれば、そうでもないって答えますが、良かったかと聞かれれば素直に良かったよというでしょう。
技術者たちの純粋な想いからの創作意欲とか、それでいて戦時下であることの優遇措置や部品一個の値段といった実態をきちんと自覚しているところとか、そんな時期でもふわふわした恋愛をしちゃうとか、いろんなアルアルが意図的に盛り込まれていて、伝わるもの、伝えていくべきものがたくさんあると感じました。

ただ、あまりに宮崎監督が透けて見え過ぎるというのか、彼が自分のために創っているのが判っちゃうんですよね。
本来アニメ監督なんてそういうものだろうし、それは悪くないと思うのだけど、商業としてのジブリは大きくなりすぎたと思うんです。
この先監督はますます自分の創りたいものを追究していくように思います。けれどトトロだけを望むファンは離れていくような気もします。


と、気に入らない理由をいらぬ心配にかこつけて言い訳にしてはみたものの、正直、宮崎作品(ジブリ作品)だけアニメでもOKっていう人が嫌いってことなんですよね(爆)
そんな人たちの右へ倣えの感想は聞きたくないし、見たくもないので、この作品はあまり触れたくないって気持ちが本音ですかね〜〜(笑)
6. Posted by GAKU   2013年08月18日 00:33
>たいむさん、こんばんは。
今回なかなかの辛口評価ですね(汗
宮崎監督自身の自己満足として作品を作ったという部分がジブリという会社を背負っている立場の人間の作品作りとしてはいかがなものかという部分でしょうか(解釈あってます?)

たぶん監督自身もトトロやラピュタなどの系統を引き継ぐのはもう別の担当にまかせたいと思ってるんじゃないでしょうかね。アリエッティの米林監督や、しいては、宮崎吾郎監督とかにも。

そのあたりは宮崎駿本人よりも、実際のジブリの経営を管理して鈴木プロデューサーのほうがこういった算段を立てている気もします。だから次はより”ジブリらしい”作品で、いわゆる”トトロだけを望む”ファンを離れさせない工夫をしてくると思いますよ。

「正直、宮崎作品(ジブリ作品)だけアニメでもOKっていう人が嫌い」
>そういう人が周囲にいたんですか?特定の方とバトった感じが…(大汗

まぁ世間一般にジブリ作品はオタクアニメとは一線を画している、というハクがついているので、大人が見ても、語っても変な目で見られない、いわば”ジブリ”という名前がオタク呼ばわりされない免罪符の役割を果たしているのでしょう。

実際はジブリでなくても大人が見て遜色ないアニメを日本は数々生み出しているにもかかわらず、世間の認識はそんなものです。実は海外のほうが日本のアニメの本質をもっと深く理解しているかもしれません。おっと、すいません余談が長すぎました。

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