写会人日記

2019年03月23日

ある朝の出来事

白線少女 東西線北新地駅からスタジオに行くには梅新と梅新東の2つの横断歩道を渡る。その女性を見たのは1つ目、梅新の交差点西南角の横断歩道だった。その人は両足を揃えて背筋をピッと伸ばして立っていた。黒いコート、ワイドパンツにスニーカー。とりたてておしゃれというわけではないが、清潔感がある装い。ピュアで健気な印象だ。わたしはこういう後ろ姿に弱い。何故かキュンとくる。年齢は30歳前後だろうか。病弱の母親と二人暮らしで勤め先は弁護士事務所。付き合っている彼はいるが、母親の存在が結婚の機会を遠ざけている。
 もう、わたしくらいになると、後ろ姿である程度わかってしまうのである。♫ 両足揃え 靴ひもむすんで…… 流れる音楽は加川良の「靴ひもむすんで」だ。
 信号が青になって驚くことがおこった。横断歩道の白線だけを踏んで渡り始めたのだ。白線以外を踏めば谷底に落ちてしまうかのように。大股でも少し足りないので半ば飛ぶように白線を踏んで進む。まるでランドセルを背負った小学生だ。
 もう一つの梅新東の横断歩道でも、何かの掟を課しているかのように両足揃えた姿勢から白線を踏んで渡る。まったく踏み外すことなく渡り終え尼信を右に折れて歩いていった。希望が見えたような気がした。この世も捨てたものじゃないと。結局顔を見ること能わなかったが、そしてあの人が実際にいたのかどうかすらいまはさだかではないけれど、間違いないのはこの朝の小さな出来事がわたしの胸を少し暖かくしたということなのだ。

注)写真は親戚のAちゃんの協力を得て再現したものである。似ているがもう少し年齢は高かったような気がする。