写会人日記

2020年02月12日

ポン・ジュノの名スピーチの陰に名通訳あり

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 アカデミー賞主要4部門を獲得した「パラサイト」この映画にはまあ大勢のすばらしいスタッフが関わっていて、その人達のおかげでこの栄誉を得たと言っても過言ではない。その中のひとりがこの人、通訳のシャロン・チョイさんだ。アカデミー賞監督賞の受賞スピーチでもその能力を発揮、名スピーチに仕上げて大喝采を受けたのだった。

ポン・ジュノ監督と通訳のシャロン・チョイ氏(右)
Photo by Kevin Winter/Getty Images

[映画.com ニュース] 第92回アカデミー賞の作品賞に加え、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の4冠を達成した「パラサイト 半地下の家族」。アジア映画初の快挙となり、ポン・ジュノ監督が自らの才能だけでなく、韓国映画界のパワーを世界に知らしめる結果となった。そんなポン監督の快進撃を支え続けた女性がいる。通訳のシャロン・チョイ(Sharon Choi)氏だ。
 シャロン氏は、現在25歳。ソウルで通訳として働きながら、フィルムメーカーを目指している。第72回カンヌ国際映画祭でポン監督に帯同し、英語を話すインタビュアーとの対話の“橋渡し”をスムーズに行ってみせ、第77回ゴールデングローブ賞では受賞スピーチ時の通訳も担当。「“字幕”という高さ1インチにも満たない障壁を乗り越えれば、より多くの見事な映画に出合えます」という“言語の壁”を超えていく決意を示した、ポン監督の思いを聴衆に伝えてみせた。
 シャロン氏が脚光を浴びる要因となったのは“シームレスな通訳”にある。「パラサイト 半地下の家族」が賞レースをにぎわせるたびに、シャロン氏はポン監督の隣に立ち、彼の言葉を世界に広げていくのだが、その光景に驚くはず。手にしたメモをほとんど使用せず、ポン監督が話し終わると思案する間もなく通訳を開始しているからだ。19年12月には、トーク番組「ザ・トゥナイト・ショー・スターリング・ジミー・ファロン」にポン監督とともに出席。そもそも同番組に、クリエイターが通訳を伴って出演するのはかなり珍しいこと。ここでも“シームレスな通訳”を披露してみせ、視聴者の心を鷲掴みにした。
 アカデミー賞作品賞の発表時には、キャスト、スタッフとともに喜びを爆発させていたシャロン氏。SNS上には「私が今まで見てきたなかで、最高の通訳者。『パラサイト』クルーの言葉を上手く伝えてくれてありがとう」「彼女に名誉賞を授与することはできるのだろうか? このアワードシーズンでノックアウトされた!」といった称賛コメントがあふれかえり、ジャーナリストのピアーズ・モーガン氏は「シャロン・チョイは、今宵の陰のヒーロー。世界最高の通訳者だ」と絶賛している。
アカデミー賞のバックヤード取材では「彼女(シャロン氏)とアワード・シーズン過ごしてきましたが、いかがですか?」とポン監督に質問が投げかけられるひと幕も。ポン監督は「彼女がフィルムメーカーだということは、皆さんご存知なんですよね?」と前置きしながら、「大学で長編映画を作り始めていて、その脚本にとても興味があるんです」と今後の活躍に期待を寄せていた。
(映画.com速報)

 ポン・ジュノ監督のスピーチ

Thank you. After winning best international feature, I thought I was done for the day and was ready to relax.
ありがとうございます。国際長編映画賞を受賞した後、もう今夜は終わり、リラックスできると安心していました。(会場笑う)

Thank you so much. When I was young and studying cinema, there was a saying that I carved deep into my heart, which is that "The most personal is the most creative."
ありがとうございます。まだ若くて映画の勉強をしていた頃、ある方の言葉を胸に深く刻んでいました。「最もパーソナルなことが最もクリエイティブ」。

That quote is from our great Martin Scorsese. When I was in school, I studied Martin Scorsese's films. Just to be nominated was a huge honor. I never thought I would win.
映画の巨匠、マーティン・スコセッシ監督の言葉です。(会場のスコセッシへ視線を向け、スタンディングオベーションが起きる。スコセッシはポン・ジュノ監督に何度もありがとうと合図する)私が学生だった頃、マーティン・スコセッシ監督の作品を研究しました。今日は(スコセッシと共に)ノミネートされただけでも誇りに思います。勝つなどとは想像もしていませんでした。

When people in the U.S. were not familiar with my films, Quentin [Tarantino] always put my films on his list. He's here, thank you so much. Quentin, I love you.
そして私の映画がアメリカで全く知られていなかった頃、クエンティン・タランティーノ監督がいつも「好きな映画」として紹介してくださった。今日もあちらにいらっしゃいます。クエンティン、大好きです。(客席のクエンティン・タランティーノと笑顔で挨拶を交わす)

And Todd [Phillips] and Sam [Mendes], great directors that I admire. If the Academy allows, I would like to get a Texas chainsaw, split the award into five and share it with all of you.
(同様にノミネートされた)トッド・フィリップス監督とサム・メンデス監督、大変尊敬する素晴らしい監督のおふたりです。もしアカデミーが許してくれるのであれば、テキサスチェーンソーを借りてこの賞を5つに切り裂きみなさんとシェアしたいです。

Thank you. I will drink until next morning, thank you.
ありがとうございます。明日の朝まで飲みます。(会場笑う)ありがとうございます。

* * *
ノミネート監督全員にスポットライトを当て、深い感謝を述べ、思いきり笑いをとり、最後は「I will drink until next morning」と英語で一言。わざとなのか、英語を少し間違えているところも最高、かっこいい。その瞬間、会場が監督に惚れ込んだことが伝わってきます。
アメリカで人を魅了する方法というのは、そう、完璧な英語を話すことではなく、誰もが圧倒するようなパフォーマンスを披露した後に、謙虚な姿勢をキープしながら、ユーモアを存分にプレゼントし、最後は「韓国人の自分」らしくマークを残す。
もうなんというか満点すぎるスピーチでした。
本当におめでとうございます。