ダウン症関連論文目次はこちら

【追記】元論文のリンクを貼り直しました。(笑)
【追記2】情報を追記・修正しました。有料記事の内容が別記事6)で確認できたので計算しなおしました。


Yahoo!ニュースで見かけたこの記事。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160607-00000019-jij_afp-int

ネタにしよう!と思い(笑)、さっそく元論文をあたってみた。

↓これが元論文。(論文A)(全文は有料)
http://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(16)30034-5/fulltext

↓こちらは同グループが発表したひとつ前の論文(論文B)。全文が無料でネット上で読める。
http://www.sindromedown.net/wp-content/uploads/2016/01/2014_Epigallocatechin-3-gallate-a-DYRK1A-inhibitor-rescues.pdf

論文Aの概要は以下の通り。
84名のダウン症者(16歳〜34歳)を2グループに分け、Aグループにはカフェインを抜いた緑茶サプリ(EGCG(今回のターゲットサプリ)が45%含まれる)を飲んでもらいつつ知能訓練を12か月間行い、Bグループには同サプリと同じ見かけの偽薬を飲んでもらいつつ同じ知能訓練を12か月間行った。
3か月後、6か月後、12か月後に知能検査を行った。
その結果、ほとんどのカテゴリーでは知的能力の向上が見られなかったが、図形の形を覚えるテスト、語想起テスト(動物なら動物の名前をできるだけたくさん言って(書いて)もらうなど)、適応行動、の分野ではA群の方がB群よりも高かった。期間中両群に有害な事象の報告はなかった。また、回を追うごとに成績はよくなっていた。


<はじめは興味薄だったが・・・>


以前のダウン症治療薬の話でも出てきたように、少しばかり記憶力を向上させるだけの効果なら、個人的にはあまり興味がない。

娘は比較的記憶力のよい方だし、自閉症の子にはかなり記憶力がいい子、いや、よすぎる子がたくさんいる。

しかしそれが彼らの幸せに必ずしも結びついていない
嫌なことがあってもそれを忘れることができない。
フラッシュバックといって、過去に終わったはずの出来事が今目の前で起こっているかのようにリアルによみがえってきて苦しむこともあるのだ。

忘却というのは人間にとって恵みにもなるのである。

しかし調べていくうち、これは記憶力を少し向上するとかいう話だけではなく、ダウン症のある人たちの将来のquality of lifeにかかわる話だな、と感じるようになり、急に興味が沸いてきた。
それは、この論文のテーマからは外れるが、アルツハイマー予防につながる話だということがわかってきたからだ。

調べてわかったことを書いてみたい。

<アルツハイマー研究から浮上してきたある物質>


アルツハイマーはダウン症があってもなくても人が晩年なりやすい認知症のタイプである。
ただダウン症のある人の方が、年齢的に早くスタートしやすい。

アルツハイマーの原因がわかれば治療法も見つかる。というわけで、アルツハイマー患者と同じくらいの年齢の健常者の脳とを比較した研究などが、盛んに行われている。

その中で浮上してきたのが、DYRK1A(二重特異性チロシンリン酸化調節キナーゼ1A)という物質だ。(酵素である)

日本で行われた研究では1)、374名のアルツハイマー患者と375人のそうでない人(対照群)の脳を比較した。
すると、アルツハイマー患者の脳、特に記憶力をつかさどる脳の海馬と呼ばれる部分にはDYRK1Aという物質が非常に多くなっていることがわかったのである。このDYRK1Aが増えるとアルツハイマーの原因とされているタウタンパク質のリン酸化を招くこともわかったのだった。

要は、DYRK1Aは、アルツハイマーの原因物質(のひとつ)かもしれないということ。
(いくつか説があるので。)
ただし、DYRK1Aも本来は必要な物質で、脳の成長を制御する働きをもち、この発現が足りないと脳のサイズが小さく生まれたり(小頭症)、知的障害、言語障害を起こしたりもするそうだ。(1b)多すぎても少なすぎても知的障害って・・・難しいものである。

そして残念なことに、このDYRK1Aを発現する遺伝子は、21番染色体上にあるのだ。^^;
そこでダウン症のある人の脳を調べてみると、 DYRK1Aの発現量が通常の1.5倍になっていた。2)
ダウン症の人って、いろいろなものが1.5倍になっているのよね・・・(´・ω・`)

(追記:ちなみにアルツハイマーの原因物質とされるものにはアミロイドβたんぱくもあり、その前段階の物質、アミロイド前駆体タンパクを作る命令を出す遺伝子がこれまた21番染色体にある。(´・ω・`))

しかし不思議なことに、ダウン症のある人のほとんどが40歳までにこうしたアルツハイマー型認知症によく似た脳の状態になるけれども、認知症を発症する人は一部なのである。(脳がそのような状態になっても認知症を発症しない人たちもいる
その謎はまだ解明されていないようだ。
発症の手前で止めるようなメカニズムがあるようなのでそれがわかると予防につながりそうだ。

ともあれ、上のように、 DYRK1Aが増えるとタウタンパク質のリン酸化が進み、脳神経線維を変質させるので、だからダウン症のある人はアルツハイマーになる年齢が早まるのでは、と考えられるのだ。3)

<DYRK1Aの働きを抑える物質とは?>


3本ある染色体を2本にできない以上、DYRK1Aの発現量を減らすことはできない。
だったらその働きを抑えれば、結果としては同じことになる。

そこで、DYRK1Aの働きを抑える物質の解明が進んでいて、候補がいろいろあがっているようだ。
そのひとつがハルミンという物質である。4)
自然界に多く存在しているらしい。

そして、今回の、緑茶に含まれるEGCG(没食子酸エピガロカテキン)もそのひとつである。

<何を、どのくらい摂ればいい?>


さて、EGCGであるが、論文にあるくらいの効果を得るには何をどのくらい摂ったらいいのだろうか。

上記論文では、EGCGの平均摂取量は一日9mg/kg、つまり体重1kgにつき9mgということになる。
体重50圓凌佑覆薜貽450mgだ。
お子さんの体重で計算すれば摂取量がわかる。

ただしこれはEGCGの摂取量であって、カテキン全体の摂取量ではない。
(カテキンにもいろいろあり、カテキン量イコールEGCG量ではないのだ)
EGCGは全カテキンの約60%だそうだ。
ということは、計算すると、100:60=x:450 x=750mg で、EGCGを450mg摂るにはカテキン自体は750mg摂取する必要があるということだ。

http://www.oralstudio.net/stepup/column/col002_007.php
こちらのサイトから算出すると一日に必要な量は

お〜いお茶なら500mlペットボトル1本にカテキン180mgだから4.16本。(笑)
伊右衛門も同じ。
生茶  500mlペットボトル3本。
「お〜いお茶濃い味」 500mlペットボトル1.6本
「伊右衛門濃いめ」500mlペットボトル2.08本
「ヘルシア緑茶」350mlペットボトルを1.38本


・・・となる。

ちなみにこのサイトによると、
・自分でいれるお茶は時間とともにEGCGが化学変化を起こして含有量が減っていくのでいれたてを飲む
・抽出時間が長いほどカテキンが出るので3分くらい抽出する
・ペットボトルのお茶は成分を安定させるためのものが入っており、時間がたってもカテキン含有量が変化しない

・・だそうなので、ペットボトルがいいのかもしれない。
だが、まあ娘がこんなに飲むのは無理である。(笑)
特に緑茶は苦みがあり、カテキン含有量がダントツに多いヘルシアなどは、私は飲んだことないけどかなり苦いものらしいし。
そんなに飲めないならサプリということになる。

あと、上記論文Bには、3か月間サプリをとって、サプリ摂取を中止したらまた効果がもとに戻ったと書いてあった。
飲んでいる間だけの効果なので、一生飲み続けないといけないわけだ。
(何か月か飲んだら、やめても認知機能が上がったまま、とかいうことはない)
また、成分を濃縮したサプリは副作用が心配である。

<緑茶カテキンの副作用>


濃縮した緑茶サプリの副作用報告の論文はいくつもある。5)
もちろん、普通にお茶を飲んでいる分には特に害はないわけだが、それだと効果も見られないわけで(笑)、成分を濃縮したサプリとなると効果が大きい分弊害も大きくなる。

最大量を摂取すると軽度から中度の毒性(消化器官、神経、心血管系)が見られたという。
大量摂取による肝障害(急性肝炎から急性肝不全まで)の報告も多い。
2008年米国薬局方協会の栄養補助食品専門委員会は緑茶サプリによる肝障害の34件の報告のうち27件は「サプリが原因かもしれない」7件については「おそらくサプリが原因」としていて、緑茶サプリが肝毒性がある可能性を示唆している

肝臓障害のリスクのほかに、今飲んでいる薬の効果を減らす危険、
他の薬草などと併用すると害が出てくるリスクなどが書かれている。

そういえば子供の頃、薬を飲むとき、お茶で飲んじゃいけないってよく言われたものだ。
お茶が薬の効き目を変えることがあるからということだった。(お茶に含まれるタンニンの効果)

また主な副作用はカフェインの過剰摂取によるもののようだ。
それならカフェイン抜きの緑茶飲料を作ればいいのではと思われるかもしれないが、どうも緑茶効果にはカフェイン成分も必要らしい。
ひとつの成分だけを抽出した濃縮サプリよりも緑茶の他の成分も一緒になった方が効果があるようなのである。
(追記:論文Aはカフェインを抜いたサプリでも効果が見られたようだ。)

また、EGCGは摂取したとしても体の中で利用される率が低い。ゲニステイン(大豆などに含まれる)がEGCGの身体での利用効率を高めるとも書いてあったが、このふたつを併用するとガンを促進する作用もあるらしいし。(笑)
また緑茶は鉄の吸収を悪くするので貧血の人は注意である。

・・・というわけで、なかなかうまくいかないものだ。(^_^;

上記論文Bにはひとり脱落者がいて、興奮性が増したためサプリを中止したそうだ。
他は副作用はなかったが三か月だけの話なので長期の摂取となるとわからない。
(論文Aは12か月摂取しており、副作用は出なかったようだが)

ただ上に書いたようにEGCGの効果は一時的なものなので、副作用が出た場合もいずれも服用を中止したら回復したということだ。
だから服用しながら肝機能や貧血検査なども定期的に行い、数値が悪化したらとめる、ということでもいいのかもしれない。

また、論文Bには被験者は調査期間中、葉酸と生野菜を避けるように指示されていたということで、これはどういうことなのかと思いネットで調べてみたが、どうやらEGCG単独の効果をはかるためということらしく、特に葉酸と生野菜がEGCGの効果を邪魔するとかいうことはないみたいだ。

*           *          *

論文Bでは、EGCGサプリを飲むグループと、それとそっくりな見た目のプラセボ(偽薬)を飲むグループとに分け、ダウン症者本人および親には自分がどちらのグループに振り分けられたかは内緒にしていたのだが、3か月の試験後に親をインタビューしたところ、ほぼ全員が、自分がどちらのグループに分けられたのか正しく言い当てられたそうだ。
つまりそれほど、カテキンの効果は大きかったのである。

効果が大きければ副作用のリスクも大きくなる。
効果が果たして副作用のリスクをおかすだけの価値があるものなのか、またその効果がなければどうしても本人が生きにくくなってしまうのか、その辺の判断ということになるだろう。
(じゃあ一日一杯緑茶を飲ませるようにしよう、くらいでは効果がないので)

最初に書いたように、記憶力向上くらいでは個人的には娘には試さないと思う。
しかしアルツハイマー予防となると、どうかな。
少なくとも娘が大きくなって、脳機能が低下してきた!?と思われるようになったら、このときの記事を覚えておいて、医師と相談してサプリなど試してみるかもしれないと思う。

ともあれそんなわけで、もしサプリを飲ませるのであれば一日量を超えないように(子供の体重で計算)、そして一度にとるのではなく一日に何度か分散して摂取し、血中濃度が急にあがらないようにするのがいいのかもしれない。
(間は4〜6時間あける。一日500mg以上とらない。(大人の場合。子どもはもっと上限は低い)

<注>


1)Kimura R, et al. The DYRK1A gene, encoded in chromosome 21 Down syndrome critical region, bridges between β-amyloid production and tau phosphorylation in Alzheimer disease. Hum Mol Genet. 2007 Jan 1;16(1):15-23. Epub 2006 Nov 29.
http://hmg.oxfordjournals.org/content/16/1/15.long
(全文が無料で読めます)

1b)Jianling Ji, et al. DYRK1A haploinsufficiency causes a new recognizable syndrome with microcephaly, intellectual disability, speech impairment, and distinct facies. European Journal of Human Genetics 23, 1473-1481 (October 2015) | doi:10.1038/ejhg.2015.71
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25944381

2) Dowjat WK, et al. Trisomy-driven overexpression of DYRK1A kinase in the brain of subjects with Down syndrome. Neurosci Lett. 2007 Feb 8;413(1):77-81. Epub 2006 Dec 4.

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0304394006012304

3)Ryoo SR, et al. DYRK1A-mediated hyperphosphorylation of Tau. A functional link between Down syndrome and Alzheimer disease. J Biol Chem. 2007 Nov 30;282(48):34850-7. Epub 2007 Sep 28.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17906291

4)Bain J, et al. The specificities of protein kinase inhibitors: an update. Biochem J. 2003 Apr 1;371(Pt 1):199-204.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12534346

5)Schonthal AH1, et al. Adverse effects of concentrated green tea extracts. Mol Nutr Food Res. 2011 Jun;55(6):874-85. doi: 10.1002/mnfr.201000644. Epub 2011 Apr 29.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21538851

記事が有料で全文が読めなかったので、この論文内容を紹介した別記事を参照しました。

http://cms.herbalgram.org/herbclip/457/061237-457.html?ts=1465339631&signature=0305a35813775c831a6acc1cc243ce34&ts=1465398853&signature=8a23a5185d72145b8773e152ad5815cd

6)英国のThe Telegraph Newsより。
http://www.telegraph.co.uk/news/2016/06/06/downs-syndrome-can-be-treated-with-green-tea/