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【追記】 DYRK1Aという遺伝子、例の緑茶のニュースで出てきたのと同じことを思い出しました。(笑)
つまり緑茶に含まれるEGCG(没食子酸エピガロカテキン)も今回のアルジャーノンと同じ働きということになりますね。
でも緑茶に含まれるカテキンは葉酸の働きを邪魔するようなので、妊婦さんは積極的に摂らない方がいいようです。(二分脊椎などの障害のリスクが高まる)


例の「アルジャーノン」のニュース、ブログ村のみなさんの記事で知った。
メッセージ経由でこの記事のリクエストをいただいたので(笑)どんなものなのかちょっと調べてみた。

↓この論文ですね。1)
Prenatal neurogenesis induction therapy normalizes brain structure and function in Down syndrome mice
http://www.pnas.org/content/early/2017/08/29/1704143114.short?rss=1

有料なので全文は読めないが。

<新しい物質の働く仕組み>


まず、ダウン症は21番染色体が3本ある。

その余分な1本の染色体の中にはたくさんの遺伝子がつまっていて、それぞれの遺伝子が1.5倍の働きをもっていることにより、いろいろな症状が出てくるのである。

algernon05


低緊張を引き起こす遺伝子、特徴的な顔貌の遺伝子、心疾患を引き起こす遺伝子、などいろいろな遺伝子があるのだろう。

その中でも、知的障害を引き起こす遺伝子はどれだろうという研究が行われていた。

たぶんひとつではないだろうとは思うのだが、2013年、東大のふたりの日本人の先生が発表した論文によると2)、どうやら、21番染色体上にのっかっている DYRK1AとDSCR1 というふたつの遺伝子が同時に1.5倍になると、大脳新皮質を作る脳神経細胞のモト(前駆体)が成長して神経細胞になるのを妨げるというのである。

具体的には、このふたつの遺伝子が両方ありすぎる(過剰発現する)ことで、 NFATcという、遺伝子の転写を媒介する因子を邪魔するのである。
遺伝子というのはご存知のようにもとの遺伝子をコピーしながら増えていくので、これが邪魔されると脳神経細胞が増えていかないのである。

つまり、
脳神経細胞を育ててくれるNFATcという因子があり、
algernon01


余分にありすぎるDYRK1AとDSCR1がタッグを組んでNFATcの邪魔をするのである。
algernon03


このDYRK1AとDSCR1というふたつの(この場合悪者の)遺伝子は、どちらか片方だけでは悪さはできない。
相方と組んで初めて神経細胞が増える邪魔をするのである。

それはつまり、、どちらか一方の働きが抑えられるだけでも、脳神経の発達が邪魔されなくなるということだ。

そこで今回の論文である。

今回の論文は、ふたつのうちDYRK1Aという遺伝子の方の働きを強力に邪魔する物質を発見しました、という話なのであった。
それが ALGERNON (altered generation of neurons)である。

algernon04

(またアンパンマンかよ!)

ネットでこのネーミングについていろいろ言われているが、論文中にも上のように書かれているので、altered generation of neuronsという単語を縮めた表現であることは間違いないようだ。
ただ、「アルジャーノン」という名前にかけたことも間違いないと私は思う。
だって普通に縮めたら「アルジェロン」とか「アルジェネロン」とかになるはずだもの。(笑)

全文を読んでいないのでどのように発見されたのか、自然界に存在する物質なのかどうなのかもわからないが、実用化までかなりかかることも確かだし、生まれる前の胎児を治療しないと意味がないので成長した我が子にはあまり関係ないかも。(笑)

<脳神経細胞の成長が邪魔されない方法は他にあるのか>


これは素人考えだが、上の理屈からすると、脳神経細胞の成長が邪魔されない方法はいくつかあることになる。
すなわち、
(1)DYRK1Aという遺伝子の邪魔をするか、
(2)もう一方のDSCR1という遺伝子の邪魔をするか、あるいは
(3)邪魔されている側の NFATcの働きをもっと活性化するか、

である。
アルジャーノンの働きは上の(1)なわけだが、他にも方法はあるのかも。

そこでNFATcについてもちょっと調べてみると、NFATcは免疫細胞であるT細胞を活性化したり、破骨細胞の分化を促したりという働きもあるみたいだ。

他にもNFATcを活性化する物質としてPIM-1なんてものもネット上で見つかったけれど、PIM-1は癌原遺伝子と書いてあるからそれを投与するのは悪性腫瘍を誘発することもあり危険ぽい。(笑)

また、NFATcは破骨細胞の分化を促すというから活性化しすぎると骨がもろくなることもありそう。
また、NFATcによる転写は細胞内カルシウム濃度があがると活性化するとあるから、牛乳や小魚を食べると活性化するかも。(笑)

あくまで素人考えですが。

いずれにせよ、カルシウム不足にならぬよう牛乳を飲むくらいなら害がないが、NFATcはいろんな働きをもっているようなので、活性化しすぎると不都合も出てくるかもしれない。実用化するにはいろいろクリアしなければならないだろう。

<個人的な感想>


ブログでさまざまな意見があったのを拝見した。

まあこれから脳神経が発達していく子は別としてうちの子にはあまり関係ないこともあるけれど、気楽な感想としては、これまでも書いたことだけど
(1)うちの子の困り度はIQじゃない
(2)単純なマウスの脳と違い、知的能力のどの部分が伸びるのかがわからない
(3)IQだけあがっても発音は不明瞭だし低緊張は変わらないしで、手帳や年金がもらえなくなったけど就職はできない、みたいな「支援のはざま」になる可能性もある

そして何より
(4)そういう薬があるとして、飲むかどうかを決めるのは本人だよなあ


というところだ。

(1)うちの子の困り度はIQじゃない
うちの子は自閉症スペクトラムを合併しており、お話やコミュニケーションが苦手。
感覚過敏もある。
ある程度計算ができたり本を読めたりもするけれど、本人の困り度はそこじゃないんだよなあ。
「ダウン症だけ」のお子さんを見ると「知的障害があるだけの普通の子ども」という印象だ。
(2)単純なマウスの脳と違い、知的能力のどの部分が伸びるのかがわからない
うちの子は文字を読むことは得意だけれどお話やコミュニケーションが苦手。
逆のお子さんもいる。(お話は上手だけれど文字が苦手とか)
算数が得意で国語が苦手な子もいるし、国語の中でも空間認知が弱くて書くことだけが苦手な子もいる。
ということは、人間の高度な脳は、それぞれの能力に脳の別々の場所が割り当てられているということ。

だから、上の薬で伸びるのは果たしてどんな力なのかは、やってみないとわからないなあと思う。
それで次のことにつながるのだけど
(3)知的能力だけがあがっても、他の遺伝子の過剰発現は変わらないわけで、おそらくIQと発音の明瞭さは別ものなので、発音不明瞭や低緊張その他変わらない部分もある。
でも社会的な支援は知能テストによって分けられるから、IQだけが上がると手帳や年金がもらえなくなり、いわゆるグレーゾーンのお子さんのように、普通にもなれないけれど支援も厚くない、みたいな、今より困った状況になるかもしれない。

そして
(4)そういう薬があるとして、飲むかどうかを決めるのは本人だよなあ
たとえば、私が自分の顔が嫌で整形するのは、まあいいでしょう。
でもうちの旦那に「今はいい技術があるみたいよ。整形したら?」とすすめられたら
「なんだと〜(怒)」ってことにならないだろうか。(笑)

同様に「頭のよくなる薬」「落ち着いた性格になる薬」「お片付けが得意になる薬」どれも、自分から欲して飲むならいいけど、配偶者や親からすすめられたら、「今のあんたじゃダメなんだ」というメッセージにもなりうる。

お腹の中にいる赤ちゃんならまだしも、10歳にもなる今の娘に、自分の何かを(未来を)決定的に変えるような重要な治療を施すとしたら、「インフォームドコンセント」は不可欠だと思う。
まあ、聴覚過敏を軽減するための漢方は飲ませてますけどね・・・。

*      *         *

ところで全然話は変わるが
(上の話があまりうちの子には関係なさそうなので、笑)
アルツハイマー予防の話を。

上の論文が載っていたサイト(アメリカ科学アカデミー紀要:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、略称:PNAS)を眺めていたら、トップページに「アルツハイマー」の文字があった。

http://edition.cnn.com/2017/09/04/health/alzheimers-blood-test-study/index.html?utm_source=hootsuite&utm_medium=social&utm_campaign=general%20social%20media

↑この記事(CNN)ですね。
どうも、血液検査でアルツハイマーが診断できる新しい方法が開発されたようだ。。
現在行われている診断法は時間も費用もかかるが、この方法だと血液検査だけで安く、素早く、そして正確に診断できるということだ。
この検査は感度と特異度を86%くらいまで高められるという。またアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の鑑別(区別)も正確にできるらしい。(その鑑別は90%の感度と特異度だそうだ)

早く診断ができれば認知症の進行を遅くするよういろいろ手も尽くせるわけだし、非常に大きな成果になるだろうという話だった。

アルツハイマーはアメリカ人の死因の第6位だそうだが、トップ10の死因の中で唯一、治療法が見つかっていないものなんだそうだ。
ただ研究により予防によいものはいろいろ見つかっている。

上のページに貼ってある動画を見たら、アルツハイマー予防についてインタビューをしていた。
(How to prevent Alzheimer's disease 03:33)

動画のインタビュー内容は以下の通り。

アルツハイマーを引き起こす悪い物質はアミロイドベータ。
アミロイドベータはシナプス間のすき間に蓄積する。
通常はたまったアミロイドベータはお掃除されるが、何らかの理由で掃除されない場合どんどん蓄積して付着し、アミロイドプラークを形成する。
アルツハイマーは10年〜20年くらいかけて脳の中で進行するが、アミロイドプラークの蓄積量がある限度を超えるまでは症状は全くない。
しかしその限度に達すると分子レベルでいろいろなことが起こり、最終的に神経細胞が死滅するのである。

そしてアルツハイマーの予防によいのは、生活習慣の改善である。

●質のよい(深い)睡眠 
寝ている間にアミロイドベータの蓄積がお掃除されるため、質のよい睡眠がとても大事。
特に徐波睡眠(=ノンレム睡眠のうち,出現する脳波の特徴として周波数の低い成分が中心となる睡眠)が大事らしい。
グリア細胞が脳のお掃除をするが、お掃除する物質の中にアミロイドベータも含まれる。
よく眠れないと翌日アミロイドベータはお掃除されないまま持ち越され、それがたまっていく。

●高血圧 肥満 高コレステロール 糖尿病 喫煙はアルツハイマーのリスクを高める。
●心血管系疾患を持つ人の80パーセントがアルツハイマーを発症するという報告もある。

●運動 
動物実験では、運動するとアミロイドベータが除去される結果が出た。

●食事
健康的な食事が大事。特に地中海式ダイエット。
(=主食となる穀物をしっかり摂り、野菜、果物、豆類などの植物性食品と、この地方特産のオリーブオイル、チーズなどの乳製品や新鮮な魚介類などを中心に食事が構成されていること。肉類の摂取はわずか)

●脳の活性化
新しいことを学び続けること。
クロスワードパズルをすれば認知症予防できると考える人も多いが実際はそういうものではない。
クロスワードパズルはすでに脳にある情報を引き出す活動。
新しいことを学ぶことにより脳の神経細胞の新しいつながり(新しいシナプス)を作ったり強化したりする
つまり新しいことを学ぶことにより過去に蓄えた情報のバックアップをすることにもなる。

・・・ということだった。

睡眠が大事というのは、知らなかった。

娘はあまり睡眠の質がよくなかったが、抑肝散(よくかんさん)という漢方を飲むようになってから、あまり夜中に目覚めなくなったような気がする。
(以前は夜中に起きて布団の上に座ったりしていることがあったが)

また、新しいものを学び続けるというのは、大事なんだな。
就労にあまりお勉強的なものは必要ではないとしても、脳の活性化のためにも生涯学び続けられるといいと思う。

かぶる内容も多いが、アルツハイマー協会(The Alzheimer's Association)のウェブサイトには、認知症を防ぐ10の方法というのがあった。3)

<アルツハイマー協会が提案する、認知症を防ぐ10の方法>


もっている遺伝子や歳をとることは変えられないが、認知症を予防する方法はある。
アルツハイマー協会国際会議の研究では、認知症リスクのある高齢者に栄養指導、運動、認知トレーニング、社会活動を組み合わせ、心臓の健康に気をつけたところ、認知機能低下がゆるやかになったとの結果が出ている。4)

認知症を防ぐ10の方法
(1)汗を流そう。
心拍数が上がり、脳や体への血流が増えるような運動を定期的にしましょう。
いくつかの研究で、運動することで認知低下のリスクが減らせることがわかっています。
(2)学び続けよう。
いくつになっても、正式に学ぶことで認知低下リスクを減らせます。
たとえば、地域の大学やコミュニティ、ネットの授業を受講するなどです。
(3)たばこはやめよう。 
研究で、喫煙は認知低下リスクを増やすことがわかっています。
たばこをやめることで、たばこを吸わない人と同じくらいのレベルまでリスクを減らすことができます。
(4)心臓を健康に。
心臓血管系の疾患や心筋梗塞などを起こすおそれのあるもの^肥満、高血圧、糖尿病ーは認知にもよくないことがわかっています。心臓の健康に気をつけることは、脳にもよいことなのです。
(5)脳への外傷は認知症のリスクを高めます。
シートベルトをしましょう。また自転車に乗るときや格闘技などのスポーツをするときははヘルメットを。また転倒しないように対策を講じましょう。
(6)よい食生活を。
健康的なバランスのとれた食事をしましょう。脂肪を減らし、野菜や果物をたくさんとることで認知低下リスクを減らせます。地中海ダイエット(高血圧予防になるような食事)はリスクを減らせます。5)
(7)十分な睡眠をとりましょう。
不眠症や眠時無呼吸などによる睡眠不足は記憶力や思考力の低下を招くことがあります。
(8)メンタル面の健康を
うつや悩み事が大きいと認知力の低下を招くことがわかっています。ストレス対策が必要です。
(9)人づきあいをしましょう。
人と交わることは脳の健康を保ちます。
自分にとって意味あると思う社会的な活動に参加しましょう。
地域の一員となり、動物が好きなら地域の動物保護のボランティアをするなど。
歌が好きなら地域の合唱団や放課後プログラムの手伝いをしたり、。
友達や家族といろいろな活動をしましょう。
(10)脳を鍛えましょう
脳を活性化することが大事です。家具を自作したり、ジグソーパズルをしたり、アート活動をしたり。ブリッジなどのトランプもいいです。これは戦略を考えさせられるからです。
脳にチャレンジを与えると短期的・長期的に脳によいのです。

ちなみに上の10項目の中で最も重要なのは、学び続けることと頭のけがを防ぐことだという。

脳は血管から栄養を得ているため、健康な血管を保つことは大事なのだそうだ。
脳のどこかで血管が破れると脳細胞に必要な栄養と酸素がいきわたらなくなり、血管性認知症になる。

健康な血管を保つには喫煙をしない、血圧・レステロール値、血糖値を適正値に保つこと、体重を増やしすぎないことが大事。
また身体を動かすことは脳に行き渡る血液量が増えるため、脳にとってよい影響があることがわかっている。



*        *         *

ダウン症のある人は晩年認知症になる確率が高いとされているが、遺伝的な問題もさることながら、肥満が多かったり血糖値が高かったり高血圧だったり運動不足だったり知的障害があるからと学ぶ機会が少なかったりと、脳によくない生活環境などが大きく影響しているかもしれない。
ダウン症があると認知症になりやすい面があるとしても、上の項目に気をつけていれば、リスクを減らすことはできるんじゃないかと思う。

今ある能力をもっと高めるための治療と、今ある能力が下がらないための治療は、私の中では別物である。

できることからしていこう。

<注>


1) Masatoshi Hagiwara,et al. Prenatal neurogenesis induction therapy normalizes brain structure and function in Down syndrome mice
doi: 10.1073/pnas.1704143114

http://www.pnas.org/content/early/2017/08/29/1704143114.short?rss=1
2) Nobuhiro Kurabayashi, et al.Increased dosage of DYRK1A and DSCR1 delays neuronal differentiation in neocortical progenitor cells.
doi: 10.1101/gad.226381.113 Genes & Dev. 2013. 27: 2708-2721

http://genesdev.cshlp.org/content/27/24/2708
3)
http://www.alz.org/news_and_events_lifestyle_changes_help_reduce_risk.asp
4)A MULTIDOMAIN, TWO-YEAR, RANDOMIZED CONTROLLED TRIAL TO PREVENT COGNITIVE IMPAIRMENT: THE FINGER STUDY
July 2014Volume 10, Issue 4, Supplement, Pages P137–P138
5)地中海ダイエットというのは地中海沿岸地方のオリーブオイルなどを使った食事法で生活習慣病の予防効果があるという。
肉は少なめの赤身、果物と野菜を多くとり、穀物もなるべく全粒タイプのものをとり、魚介類とナッツ類、オリーブオイルなど健康的な油をとるというもの。