AMEDとはJapan Agency for Medical Research and Developmentの略であり、内閣府所管の国立研究開発法人である。ウィキペディアには、その設立経緯から事業内容まで詳しく述べられているので参照されたい(https://ja.wikipedia.org/wiki/日本医療研究開発機構)。以下はその概要である。

 

 医療分野の研究開発の基礎から実用化までの一貫した推進体制の構築、成果の円滑な実用化に向けた体制の充実、研究開発の環境整備を総合的に行うことを目的としている。また、これまで進んでいなかった産学など各機関の連携や治験や創薬などの実用化に力を入れるとされる。本部は東京都千代田区に存在し、理事長は末松誠が勤める。

 

 この機構は「日本再興戦略」で検討が開始された。「日本再興戦略」とは2013614日に閣議決定された経済政策で、いわゆる「安倍ノミクス」の3本の矢のうちの「第三の矢」すなわち「成長戦略」に該当する(https://www.mizuho-ri.co.jp/publication/research/pdf/insight/pl130704.pdf#search=%27日本再興戦略+2013%27)。AMEDは安倍総理の肝いりで作られた組織で、その設立式典には安倍総理自ら出席している(ちなみに加計学園で一躍有名になった和泉洋人総理補佐官も出席)。

 

 2016年度のAMEDの予算額は1,265億円であり、採択課題は公示されている(http://www.amed.go.jp/content/files/jp/program/top/kadaiichiran_201612.pdf#search=%27AMED+201612+課題一覧%27)。何人の人が研究費をもらっているかは正確には計算していないが、延べ人数で2,300人くらいと思われる。機構の職員もいるので、予算からその分は差し引かなければならないが、大雑把に計算すると一人当たり年間平均5,000万円程度の研究費が配分されていると推定される。ただし、小さなプロジェクトで数百万円という人もいるので、「大物」は1課題当り1億円くらいもらっている可能性がある。一方、医療も含めてすべての分野を対象にした研究費配分組織である日本学術振興会の「科研費」の2016年度総額は2,273億円であり、採択者数は75,300人である。つまり平均すると300万円(https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/27_kdata/)。その差はなんと約17倍である。この差を研究者の皆さんはどう考えますか?

 

 AMEDの発足に先立ち、バイオ系の多くの学会は「基礎研究予算の縮小につながる恐れがある」との懸念を表明した。しかしながら、AMEDの課題採択者を見ると、主だったバイオ系学会の理事の人は皆、研究費をもらっている。その中には「先生、そんな研究本当にやっているのですか」とおもわず突っ込みたくなるような方も多々おられる。つまり、最初は基礎研究費の縮小を懸念し、実際にそうなりつつあるのだが、巨大予算配分機構ができてしまえば「私も一口のせて」ということなのだろう。データの捏造、改ざん、盗作、ギフトオーサーは研究不正となるが、真面目に取り組んでいない研究で大型研究費を申請するのは不正に当たらないという理由が私にはよくわからない。

 

 AMEDについて、後2点指摘したい。第一は、不正には該当しないと判定された東京大学医学部の5教授関連である。不正には該当しないと判定されたが、そのデータ処理は杜撰であり、「オリジナルデータが正しく図示されたものではなかった」(詳細は詫摩雅子氏が論考を書かれているので参照されたい:https://news.yahoo.co.jp/byline/takumamasako/20170814-00074077/)。Ordinary Researchersに告発された5教授は、門脇孝氏が4プロジェクト(部下の山内敏正氏も1プロジェクト採択)、小室一成氏が2プロジェクト、藤田敏郎氏1プロジェクト、辻省次氏が4プロジェクト、高柳広氏1プロジェクト採択されている。勿論、これらの方々は科研費も別途獲得しており、門脇氏は特別推進で毎年1億円程度、小室氏は基盤研究(A)で4,000万円程度、藤田氏は基盤研究(S)で4,000万円程度、高柳氏は特別推進で毎年1億円程度である(辻氏は昨年度で基盤研究(A)が一端終了しているようだ)。小室氏は「ディオパン事件」(ノバルティス社による臨床データ改ざん事件)に関与し、「2014年春に千葉大学から論文撤回の勧告を受けたが、これに同意せず、同年7月に同大学は、小室らが虚偽の説明をして調査を混乱させたとする最終報告書を公表」https://ja.wikipedia.org/wiki/小室一成)された人物である。こういう人物が未だに大型の研究費を得ているのである。

 

 指摘したい二点目は、今年度募集されたAMEDJICAのジョイントプロジェクト(SATREPS)についてである。このプロジェクトはAMED3,600万円程度、JICA6,000万円程度を出し、1課題当り約1億円となるプロジェクトである。その研究分野の第一にあげられるのが、「高病原性トリインフルエンザ、狂犬病などの人獣共通感染症に関する開発研究」である。偶然にしてはあまりにもよくできていないだろうか。このプロジェクトは来年度開学が予定されている今治市の加計学園獣医学部のテーマそのものである。当然、学部長予定者や赴任予定の有力教授はこの課題に応募しているだろうし、実際に有力な候補者になるだろう。新規プロジェクトが開始される時期と加計学園獣医学部の開設がほぼ同じというのは単なる偶然だろうか。

 匿名のOrdinary Researchersが昨年8月に行った東京大学医学部および分子細胞生物学研究所(分生研)からの論文不正の告発については(https://ja.wikipedia.org/wiki/Ordinary_researchers)、結局、分生研の渡邉嘉典教授および丹野悠司助教の二名だけの不正が認定され、医学部の教授陣は誰一人として不正を認定されなかった。Ordinary Researchersは「「どのよな検証が行われたのかが具体的にはほとんど公表されておらず、科学コミュニティの第三者が疑義について検証することができない」とのコメントをマスコミに送っている(https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_0808.html)。


 東大のこの認定に対して、研究関連者から結論を非難する声があがっている。研究倫理問題についてコメントしてきた榎木英介氏は「東大研究不正調査、医学部教授おとがめなしのカラクリ」という論考の中で「まったく納得がいかない結論」と述べ、「日本の研究の信頼回復は遠いと言わざるを得ない」と結んでいる(https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20170802-00074019/)。「日本の科学と技術」氏は、「東大の不正調査委員の先生方は、東大医学部論文のエラーバー使いまわしやエラーバー引き込みをした棒グラフが研究不正にならない理由をどか説明してほしい。あるいは、日本の研究者の中でこれを合理的に説明できる方が一人でもいますか?自分には東大による組織的な不正隠蔽にしかみえないのですが」とツイートし、さらにOrdinary Researchers氏の言葉を引用して「東京大学にはコンプライアンスという概念がないのか?」と批判して、Ordinary Researchersにコメントの公開(マスコミは一部のコメントしか公開していない)を呼びかけている(https://twitter.com/scitechjp)。「知識連鎖ブログ(旧・千日ブログ)」では、「東大不正渡邊嘉典教授の不正認定はとかげの尻尾切り?医学系の不正は認定されず」と題して「分生研だけがクロといのも、やや不自然なものを感じるのです」と述べている。東大の教員と思われる「バイク君 寄り添いません」氏は、「調査は分生研と医学部は別々の調査班が行っていて、双方の調査結果をまとめたのが、本部の調査委員会。医学部手抜きの黒幕は本部にいると予想」と陰謀説を流布している。

 

 多くの人が疑問を持つのに、なぜこのような調査結果になってしまったのか?それは、「不正」を「図の加工」などに絞ってしまったからだろう。Ordinary Researchersの告発の動機は以下の5つであった(Dora氏のブログより転載:https://blogs.yahoo.co.jp/nx3262p0yz057j/15055316.html)。

 

研究者のあいだでは, 再現性について以前より疑問が呈されていた.

 

雑誌上で他の研究者からcorrespondence(対応を要する質問)が出ており, そのやり取りを見るに, データの信憑性に疑いを持たざるを得ない.

 

扱っているテーマが生活習慣病やパーキンソン病といった疾患で, 創薬と深い関係があり, 直ちにではなくとも大きな社会問題に発展する可能性がある. 治療法の開発を待つ患者さんの存在を考えると, 倫理的にも問題である.

 

文科省の科学技術振興調整費・システム疾患生命科学による先端医療技術開発拠点, 橋渡し研究加速ネットワークプログラム, グローバルCOE, 厚労省の難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究事業(難病関係研究分野), JSTERATOなど, 大型の公的予算が使われた研究である.

 

論文中にPDF文書で示されたグラフがベクトルデータであり, グラフから元データの再現,真正さの検証が可能である.

 

 今回の調査はのみに絞ったわけであるが、本来はについて調査すべきなのであり、はその「表層」にしか過ぎないのだ。中味が腐っていたとしても表層はきれいなことが多い。極論すれば、「優れた捏造者」は「表層」をうまく取り繕って絶対に尻尾をつかますようなミスはしない。図の加工などから尻尾がつかまれるのは「愚鈍な捏造者」なのだ。

 

 不正の本質を調べようとしないこのような傾向は、STAP事件によって大きく助長された。一義的には、理研がSTAP事件を早く穏便に処理しようとしたことが問題であるが、それに加えてサイエンスライターや当時の分子生物学会の理事長だった東北大学の大隅氏らがミスリードした。

 

 私は小保方氏の再現実験をずっと主張してきたが、それは「研究不正の程度を明らかにするために必要」と思ったからである(2015612日の記事)(http://blog.livedoor.jp/pyridoxal_phosphate/archives/2015-06-12.html)。昨日の記事に続いて登場させて申しわけないが、サイエンスライターの片瀬氏は、研究不正問題―誠実な研究者が損をしないシステムに向けて」の中で、以下のように述べているhttp://synodos.jp/science/14270)。

 

 論文の結論に導く過程で、このように必要な実験を行わずデータを流用したり、誤魔化して加工する等の不正行為があれば、その後再現実験をして結果の再現性があったとしても正当化はされません。こうしたズルをする事によって他の研究者たちとの競争を有利にして、誠実にやっている研究者たちを押しのけて学会賞を受賞したり競争的研究資金を獲得すると、「悪貨が良貨を駆逐する」ことになってしまいます。 (中略)

 

 ここで再度持ち出しますが、ある予備調査で「加工はあるものの、結果の真正さを損なわないので不正行為には当たらない」として本調査の必要無しとした判断は、再現性があれば画像などに不適切な加工がされていても良いとしてしまうものであり、これが判定の前例とされてしまう可能性があります。日本のガイドラインで定める不正調査方法の中から再現実験を除外しないと、こうした首を傾げる判断を今後も誘発してしまう恐れがあります。

 

 上に述べたように、「優れた捏造者」は尻尾をつかませるようなミスはしない。それゆえ、このような考えを貫いていくと、「本当の捏造者」を捕らえられずに、「愚鈍な手抜き者」ばかりを不正摘発することになる。別の言い方をすると、「100円玉ネコババと強盗殺人が同じく犯罪とい議論になり、強盗殺人犯を追及できなくなる」(「日本の科学と技術」氏のツイート)のだ。同氏のこのツイートは、昨日紹介した片瀬氏の例題1について述べたものであるが、さらに「STAPの時にも思った事だが」と付け加えており、私と同様な懸念を有している。

 

 日本の研究不正の摘発は、以前は「虚構研究」を対象にしていた。「多比良・川崎事件」の時は、日本RNA学会が論文12件について疑義があるとして東京大学に調査を依頼し、東大工学系研究科が調査委員会を設置して論文4件について再現実験を要請したのだ(https://ja.wikipedia.org/wiki/多比良和誠)。しかしながら、その後、東大の加藤茂明氏の部下であった柳澤純・村山明子氏らの調査あたりから、「再現性が確認されたことから悪質性は低いが不正行為」(https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_150331/data/chosakekka_tukuba.pdf#search=%27捏造+村山明子+筑波大学%27)という認定がされるようになり、STAP事件でそれが完全に確立された。

 

 誤解を受けないために述べておくが、私は図の極端な加工をすることをよしとするわけではない。勿論、不適切で行ってはいけない行為だ。しかしながら、改ざんが意図されたか、そうでないかを見分けることは難しい場合も多々ある。例えば、片瀬氏は先の論考の中で、「ウエスタンブロットやRT-PCRアクチンコントロールの写真を他の写真と差し替える事が頻繁に行われてきました」と述べているが、コントロール実験の結果がきれいでなかったために、別の実験のコントロールデータに意図的に、あるいはでき心で差し換えることはあり得る。当然、不正と認定されるべき操作であるが、それが発覚した時には、「間違って別のゲルを図に掲載してしまいました。実際のデータはちゃんとあります」と、きれいでない本当のデータを示せば不正とは認定されない。 あるいは、バックの高いゲルの画像を調整している時に、マイナーなバンドを消してしまうこともあるだろう。本人はメインバンドにしか興味がなかったので(「マイナーバンドは抗体の非特異的なバンド」との認識)、あまり気にしなかったということもあり得るのだ。

 

 再度述べるが、研究不正の摘発は「誠実な研究者が損をしない」ためではない。いみじくも(「皮肉なことに」と言った方が正しい表現だろう)、今回の不正調査結果の公表で、東大の福田副学長が述べたように「学術への信頼を揺るがす事態」を防ぐことが一義的な目的なのだ。そのような観点からすれば、医学部教授5名の不正が認定されなかった事で、「学術への信頼」はいまだに揺るがされているのだ。東大はそれを十分認識しなければならない。

 

 研究不正摘発の本来の趣旨、そして「研究者のあいだでは、再現性について以前より疑問が呈されていた」というOrdinary Researchersの告発の趣旨に鑑みて以下の提言をしたい。

 

提言:東大は、不正認定されなかった医学部教授に再現実験を求める。あるいは実験の再現性について問題がないというのなら、誓約書を作らせ、もし後日、他の研究者の実験によって再現性が否定されるようなことがあれば、その時点で研究論文を不正と認定することに異議を唱えないことに同意をさせる。

 渡邉氏の研究不正にウエスタンブロッティングのデータが含まれていたが、これをめぐって片瀬久美子氏と若手研究者の間で「場外乱闘」が起こっていた。

 

 正確にはわからないが、おそらく事の発端は「Reseaercherwatch」氏83日に以下のツイートをしたことに始まると思われる(85日のブログ記事では「Reseaercherwatch」と片瀬氏のツイートの順が誤っていたようなのでここで訂正したい)。

 

 見えてるバンドが見えなくなるのがダメとい件、exposure timeを短くしてバンドを消すのと本質的に何が違のか?自分には答えられない。

 

これに対して片瀬氏が4日に以下のようにツイートした。

 

 これについて、露光時間が短ければ見えないバンドはOKでは?とい反論が良くありますが、長時間露光してもどしても見えないのではなく、見える事が分かっているバンドを消したらアトです。存在するのが分かっているのですから。

 

 そして今度は、Reseaercherwatch」氏が以下のようにツイートした。

 

 結合してないならバンドはいくら露光しても出ないはず、ノンスペも許しませんとい考え方こそ、捏造を促す潜在的な理由になると思んですけどね。

 

 その後、Stock&Science」氏、「pkm」氏、「念波」氏等が加わったようだ。「念波」氏は以下のように述べているが、これは私の85日の記事の内容と同じである。

 

 長時間露光だとか、あるいは染色時間の延長だとかやるとなにが起きるかというと(当たり前だが)特異的結合の強いシグナルはじきに飽和してしまう。いっぽうその周囲でささやかな非特異的結合のシグナルが次第に強くなり、いずれどちらも見かけ上同じようにはっきりしたシグナルになる、かもしれない。

 

 SN(シグナルとノイズ)比という科学にとって重要な問題なので少し説明を加えたい。図はThermoFisher社の「CCDデジタルイメージングを用いた改良ウェスタンブロット検出」からの抜粋である(https://www.thermofisher.com/jp/ja/home/life-science/protein-biology/protein-biology-learning-center/protein-biology-resource-library/protein-biology-application-notes/western-blot-detection-using-ccd-digital-imaging.html)A右は、8つの標準参照光を発する物体を同社の検出器(CCDカメラ)で撮影した結果である(300秒の露光でもスポットは7つしか見えないが、説明には8つのスポットとある)。10秒および30秒の露光では、左から7番目のスポットがわからない(30秒の露光では極めてかすかに見える)が、300秒では明らかにスポットとして認識できる。今、注目しているドットは左から5番目としよう。このスポットは10秒でも十分認識できるし、30秒ならば明瞭にスポットとして検出される。そうなるとこのスポットが目的のものならば、30秒の露光で済ますのが普通だろう。そうなると7番目のスポットはほとんどないことになる。一方、フィルム(図A左)を使って検出すると、左から5番目のスポットは300秒でもやや不鮮明であるが、7番目はおろか6番目のスポットもほとんど見えない。この生データをそのまま論文に掲載すれば問題はないはずである。「300秒露光すれば7番目のスポットも見えるのを知っていながら、30秒の露光データを示したのは不正」とは言われないだろう。


1499003507097

 

 X線のフィルムの性質を示す指標には特性曲線というものがある。詳しい説明は以下のサイトに書かれているので参照されたい(http://rad-base.com/?p=3243)。簡単に説明すると、横軸に相対X線強度または露光量、縦軸に写真濃度をプロットしたものである。このプロットにおいてフィルムが直線性を示すのはある一定の強度であり、強度が弱い場合と強すぎる場合には直線性は損なわれるということである。強い場合についての説明は、上の「念波」氏の説明どおりで、傾きは非常に小さくなり、X線の強度を反映しない。一方、弱い場合も傾きは非常に小さくやはり強度を反映しないのである。つまり、X線フィルムを用いた場合、ある一定の強度以下のものは検出されない。それゆえウエスタンブロッティングにおいても、薄いバンドの濃さはX線フィルムでは過少に見積もられている可能性がある。これを解消するためには、露光の前にフラッシュをほんの少しの間たいて、わざとフィルムを露光させ、その状態のフィルムにブロットをあてて露光させる。一瞬の露光によってフィルムが少し感光するので、それによってベースラインの強度が特性曲線の直線性のある範囲に入ってくる。勿論、このような操作を行ってからフィルムを 使ってブロッティングを行っていた人はほとんどいないだろう。そして、それによって「研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠った」(文科省の新ガイドラインによる不正の定義)として「不正」と認定されることはない。

 

 ThermoFisher社の図Bを見ればわかるように、特性曲線の話はX線フィルムだけに限らない。光が〜20相対光度単位(RLU)程度では露光時間によらず濃さが一定、すなわちこの数値以下ではいくら露光時間をかけてもサンプルの検出はできないようである。

 

 片瀬氏は議論の後、不正の例として示されたJ. Cell Biol.誌のウエスタンブロッティングの図の輝度とコントラストを調整した図をネット上に示し「例題1」と称して「露光時間を短くして得た画像でも、本来は見えているバンドを見えないと誤認させるデータの提示は不正」との論を展開している。


 片瀬氏が示した例は、上の議論の例としてはあまり適切ではなく、しかも「わら人形」論法を用いている。示された図はあくまでも画像ソフト上で輝度とコントラストを調整したものであり、露光時間を調節したものではない。まったくバンドの見えない①を、画像ソフト上で再度輝度とコントラストを調整すれば見えなかったバンドが出てくるが、露光時間が短くてバンドが検出されていない場合は、上の議論からして輝度とコントラストを調整しても明確なバンドの検出は難しいと考えられる。


 また、この例題で片瀬氏が行っていることは、露光時間を短くして得たデータの『輝度とコントラストを変えている』わけであり、上の議論の話とは異なっている。「Reseaercherwatch」氏が述べたのは「見えてるバンドが見えなくなるのがダメとい件、exposure timeを短くしてバンドを消すのと本質的に何が違のか」と、あくまで露光時間による調節であって、その後に「輝度とコントラストを調整」という話は基本的には入っていない。それを片瀬氏は、「輝度とコントラストを調整」するのを前提に勝手に議論を展開している。これが「わら人形」論法である。5日の記事でも書いたが、Reseaercherwatch」のツイートに対して、Stock&Science」氏は「これまったくその通り。 露光時間や染色時間をものすごく長くすれば、検出されるバンドなんて無数に出てくる。質量分析などでも、ゲイン(感度)をあげれば、たくさんピークがでてくる。「ゲインを下げてピークをなくした!」とかいつもりだろ」と答えているのを見れば、ここでの議論はゲル撮影装置(化学発光撮影装置)あるいは検出用のX線フィルムの物理的特性(感度)について議論しており、そのデータを画像解析ソフトで調整することを前提に議論していないことは明らかである。

 

 ツイートは短いために意図が十分伝わらず、しばしば誤解を招く場合があるが、片瀬氏はときどき他人の「琴線」に触れる発言をして揉めている。この場合でも、「露光時間の調節だけ」の話をしているのに、勝手に「画像ソフトでの調整」も入れて相手を批判している。批判されている方としてはかなり不快だろう。STAP事件においても、実際の実験はまったく行わず画像の捏造で不正論文を産出していたヘンドリック・シェーンと、それが不正かどうかはさておき多くの実験を行っていた小保方氏に多くの共通点があるなどという議論を展開していたので私は強く批判した。科学に関わる者ならば、言葉は厳密に使うべきであるし、相手の論点を正確に把握して受け答えをすべきであろう。

↑このページのトップヘ