久しぶりに時間が取れたので、国家資格の取れる大学学部での規制緩和がどのような状況を生み出しているのかを調べてみることにした。

 

 以前も述べたが、2002年の小泉内閣における規制緩和(オリックスの宮内義彦氏を長とする規制改革会議(https://ja.wikipedia.org/wiki/規制改革会議)によって推進)によって少子化対応のために抑制してきた大学新設と定員増を撤廃させられた(http://hb8.seikyou.ne.jp/home/sakuragaoka/n10-21.htm)。

その結果、私立薬科大学・薬学部は2003年度から増加し、29校から倍の57校となった。以下のサイト(http://www3.plala.or.jp/atropine/6gironn3.html)には設立年度が記載さているが、2008年に開学予定だった「つくば薬科大学」は経営困難の可能性から開学中止となり(https://ja.wikipedia.org/wiki/つくば薬科大学)、また酒井法子が入学していて話題となった創造学園大学は廃校となっている(https://ja.wikipedia.org/wiki/創造学園大学)。

 

 加計学園の千葉科学大学薬学部の開学は2004年と、新設の薬学部としては比較的早く開学したようだ。今治市と同様に銚子市より補助金を受け、その額は92億円で、これは今治市の金額よりも多い。銚子市の場合、その補助金は借金で賄ったらしく、そのせいもあって市の市債残高(借金)は300億円にもふくれあがり、今年には夕張市に次いで財政破綻となると予測されている(https://dot.asahi.com/wa/2017032600017.html)。

 

 下の表は、千葉科学大学が公開している情報を基にして算出した数値である(http://www.cis.ac.jp/information/disclosure/index.html)。開学直後は定員充足率が高かったが、2008年度に定員割れを起こし、2009年と2010年に連続して学科定員を30名ずつ減らしている。それでも2011年には充足率が64.2%となった。しかしながら、ここ数年は入学者の確保はできているようである。2006年に205人の定員が一挙に120名となったのは6年制移行(この年度から4年制から6年制へ変更)のためかもしれないが、その前年に148.8%も学生を取ってしまったので文科省に怒られたため定員を減らしたと推測する方が正しいだろう。実際、2007年度にはすぐに定員を200名に戻している。2016年には定員割れをしているが、これも2015年度に149.2%も取ってしまったので、減らしたのだろう。これほど定員過となると文科省から補助金をまったくもらえない。


 国家試験も開学当初は78%と、そこそこの合格率だったようだ。「見かけの合格率」というのは、合格者数を受験者数で割った値である。2009年度から厚労省は受験者数に加えて、出願者数も表示するようになっていた。この出願者数と受験者数の差は、6年生なので出願はしたが、卒業試験を受けて不合格となった人(つまり卒業延期者(留年者))の数を示すのだろう。それも考慮すると6年生の半分強しか国家試験に合格できていない(2009年度入学の国家試験(受験はその6年後の2015年)は難しかったようで他大学の合格率も低い)。6年生の合格率は、2011年度入学者(今年の春受験)で73.5%であり、全国平均よりも約20%低い。最短修業年(2005年までは4年、それ以降は6年)で国家試験に合格できた者は、2007年度までは約半分であったが、それ以降は30%前半に落ち込んでいる。つまり入学者の3人に1名しかストレートで卒業して薬剤師になれない。このような状況でも、偏差値はこのサイト(http://daigakujyuken2.boy.jp/zenkokuyakugakuburanking.html)によると45と、まだ下に15校くらいある。ちなみにこの表で一番偏差値の低い青森大学薬学部でも6年間で薬剤師となれる人は30%前後のようである(http://www.aomori-u.ac.jp/wp-content/uploads/2015/08/pharm_promotion.pdf)。青森大学薬学部の入学定員の充足率は60%程度と、大きな定員割れを起こしている。

 

 週刊朝日の記事には以下の話が出ている(https://dot.asahi.com/wa/2017060600036.html?page=3)。

 

「歴史のある岡山理科大は教授会組織の力が強く、好き勝手はできない。理事長からすれば新設の千葉科学大は自分の思いを実現できる場なんでしょう。ただ、どんどん学科やコースを新設するので現場は大変。『どうして定員が集まらないんだ』とテレビ会議で怒られるけど、こちらからすると理事長の思いつきに翻弄されている感覚もある」

 

 ただしそれもやむを得ない状況にあり、6年制の開始に伴って設置した4年制の薬科学科は設置3年目で充足率が30%程度となり2010年募集停止、獣医学とも関連する動物生命薬科学科はたった2年で募集停止となった。それらの学科の代わりに設置した4年制の生命薬科学科も2016年には定員充足率が20%である。トータルとしての充足率も50%であり、これも募集停止は近い。しかしながら、これ以上学科名を変えても学生が入学することは期待できないだろう。そうなると教員はしばらくの間、薬学科に配属させておかざるを得ない。そうなると「無駄飯食い」となってしまうので、経営者としては当然それらの教員を学園の他の大学・学部へ移動させたいということになる。今治市の獣医学部は「定年退職した65歳以上の教授と、大学を卒業したばかりの若手が多い」とのことであるが、もし千葉で人が余ったら、6年後(大学設置後に最初の卒業生を出すと、文科省へ届け出ずに教員を採用することができる)にはそれらの人たちを今治へ移動させることを加計氏は視野に入れているのかもしれない。


名称未設定

 朝日新聞によると、「加計文書は「省内で共有」されていた」と文科省の現役職員が証言したとのことである

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170606-00000042-asahi-pol)。

 

現役職員が証言した文書は、「藤原内閣府審議官との打合せ概要(獣医学部新設)」という題名で、昨年926日の日付と時間が記載されている。出席者として内閣府の藤原豊審議官と参事官、文科省専門教育課長、同課長補佐の4人の名前が書かれ、内閣府側が文科省に対し、「平成302018)年4月開学を大前提に、逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい」「これは官邸の最高レベルが言っていること」などと言ったと書かれている。

 

 昨年926日に藤原審議官がこのようなことを発言した理由は、その直前に開催された「今治市分科会」の第1回議事録を読むとだいたいわかってくる(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/hiroshimaken_imabarishi/imabari.html)。この分科会というのは、内閣府地方創生事務局(局長・佐々木基)に属し、特区として指定された「今治市の固有のさまざまな問題、具体的事業について、必要に応じて制度改革、実行をスピーディーに進める」ための打ち合わせ会であり、事務局担当者は藤原豊審議官である。昨年921日に行われた1回の会議には菅良二・今治市長や前川氏の文科省の先輩に当たる加戸守行・今治商工会議所特別顧問が参加し、獣医学部の件が議論された。それについて、この会議にオブザーバーとして参加した文科省専門教育課長の浅野敦行氏が以下の発言をした。

 

>文部科学省としましては、日本再興戦略改訂2015、先ほど藤原審議官から参考資料2に基づいて御説明いただいた要件について、きちんと満たされるということを確認することが重要だと考えております。 今後とも、農水省や厚労省とも連携をしていきたいと思っております。

 

 「日本再興戦略改訂2015」では、獣医学部の設置に関しては以下の要件を満たすことが必要とされている。

 

『獣医師養成系大学・学部の新設に関する検討

・現在の提案主体による既存の獣医師養成でない構想が具体化し、ライフサ

イエンスなどの獣医師が新たに対応すべき分野における具体的な需要が明らかになり、かつ、既存の大学・学部では対応が困難な場合には、近年の獣医師の需要の動向も考慮しつつ、全国的見地から本年度内に検討を行う』

 

 農林水産省の林政彦氏は、浅野氏の発言を受けて以下のように述べた。

 

>農水省としましては、獣医学部の新設は、皆さん御承知のとおりでございますけれども、学校教育法に基づく文科省の告示により規制されているという中で、引き続き獣医師の需給に関する情報等を収集・整理して、必要に応じて文科省等に提供させていただきながら対応してまいりたいと考えております。

 

 要約すると、農水省としては獣医師需要の情報を提供し、後は文科省の判断に任せるということだ。そして、その文科省は「条件がきちんと満たされなければ認可しない」という方針。

 

 この会議で文科省の態度を知った藤原審議官は、多いに焦ったに違いない。それで文科省と急遽打ち合わせをして「平成302018)年4月開学を大前提に、逆算して最短のスケジュールを作成し、共有いただきたい」「これは官邸の最高レベルが言っていること」と圧力をかけたということだろう。

 

 これが安倍総理と話してのことだったのか、それとも話さずに「忖度」した結果だったのか?

 62日の記事で法科大学院について言及したら、弁護士の郷原信郎氏が「獣医学部新設は本当に必要なのか:法科大学院の失敗を繰返すな」という論考を62日に掲載されていた(https://nobuogohara.wordpress.com/)。氏の主張は、基本的には私の記事の主張と同じである。論考の中で郷原氏は以下のように述べている。

 

>一般的に、「岩盤規制の撤廃」は「善」であり、それに抵抗して既得権益を守るのが「悪」であるかのように決めつける見方がある。しかし、少なくとも、専門職の資格取得を目的とする大学等の設置認可や定員の問題は、そのような単純な問題ではない。

>本来、憲法が保障する「学問の自由」(23条)の観点からは、大学等の設置は、自由であるべきだ。しかし、それが、何らかの職業の国家資格の取得を直接の目的とする大学、大学院の設置となると、国家資格取得者が就く職業の需給関係等についての見通しに基づいて、大学、大学院等の設置認可の判断が行われる必要がある。その見通しを誤ると、大きな社会的損失を生じさせることになりかねない。

 前川氏の「行政がゆがめられた」という主張の一つは「獣医師の需要に見通し」の件であろう。これに関して64日に毎日新聞が興味深い記事を出している(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170604-00000066-mai-soci)。この記事によると「産業動物獣医や公務員獣医は多くの地域で不足しているが、ペット獣医は余り気味」とのこと。また記事では、「新設の可否を審査する文科省大学設置・学校法人審議会の委員から「定年退職した65歳以上の教授と、大学を卒業したばかりの若手が多い」と年齢の偏りを指摘する声がある」と、開校のための専任教員集めがずさんであることを伝えている。

 

 新大学は「世界に冠たる先端ライフサイエンス研究を行う国際教育拠点」や

「家畜・食料等を通じた感染症に関する「危機管理(水際対策)人材」の育成拠点」を目指すというが、教員がそのような構成では最初からできないことを表明しているのと同じである。また、この目的の遂行には必ずしも獣医師である必要はないように思われる。

 

 もし「産業動物獣医や公務員獣医は多くの地域で不足している」というのなら、法律を変えて、今治市に設置する獣医学部の卒業生は、例えば10年間はペット獣医師としての開業はできないようにするなどの措置を加えてもよかったのではないだろうか。特区で特別枠なのだから、国民にとってプラスとなるような要素を入れることが必要だったと思われる。

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