ノーベル賞を受賞された山中教授は「ファクターXを探せ!」と題して、「これまで(日本の)感染拡大が遅かった理由に関して、6つの可能性をあげている(https://www.covid19-yamanaka.com/cont11/main.html)。その中には「マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識」、「日本人の遺伝的要因」、「BCG仮説」等が含まれるが、さらに「20201月までの、何らかのウイルス感染の影響」も指摘されている。

 

このブログでは、「マスクの着用」については、無症状感染者が感染を広めなかった理由の一つの可能性としてあげたが、「BCG仮説」については、ヨーロッパ諸国でBCG接種を止めた時期や、亡くなっている主な世代(80代以降)における死亡率は日本とイタリア等の間に非常に大きな差がないことを考慮すれば、この仮説はおそらく当たらないことを述べてきた。「遺伝的要因」については、米国では白人とアジア系アメリカ人の間の死亡率には差がないことが判明し(https://www.apmresearchlab.org/covid/deaths-by-race)、イギリスでは、アジア系の方が白人よりも死亡率が高いということが報告されているので(https://www.nature.com/articles/d41586-020-01470-x)、「遺伝的要因」も除外してよいと思われる。

 

前回のブログ記事では、「感染によって季節性コロナウイルスに対する抗体を有しており、それが新型コロナウイルスに対する防御となっているのかもしれない」という仮説を提唱した。この仮説は、Grifoni らのCellに発表された「Targets of T cell responses to SARS-CoV-2 coronavirus in humans with COVID-19 disease and unexposed individuals」という論文に基づいている。その論文では、アメリカ人の4060%が、新型コロナウイルス由来のペプチドによって反応する免疫系を既に持っていることが示されている。つまり、おそらく季節性のコロナウイルスの感染によって抗体が産生され、それが新型コロナウイルスに反応するということだと考えられる。この可能性は多くの人が可能性としては認識していたと思うが、Grifoni らの論文によって実際に証明された点に注目すべきである。


この仮説を支持するいくつかのデータを見つけたので紹介したい(この記事の内容の一部は516日の記事のコメント欄でも述べられている)。

 

 Grifoniらの結果は、新型コロナウイルス発生前のアメリカ人の保存血液を用いた解析であったが、日本人も新型コロナウイルス感染前に既に抗体を持っていた可能性を示唆する結果が、東大の児玉氏らによる抗体検査から判明している(https://news.yahoo.co.jp/byline/kimuramasato/20200520-00179344/)。

 

 感染が起こって、最初に作られる抗体はIgMと呼ばれる分子種である。この抗体は反応性が弱いものが多く、「クラススイッチ」という現象によってIgG(これが通常の抗体)へと変わっていく。児玉氏らは、新型コロナウイルスに感染した人では、本来は後から産生されるはずのIgGIgMよりも先に作られている場合があることを見い出した。これは、それらの人が既に新型コロナウイルスに類似したウイルスに感染してIgMIgGへと変わり(一次応答)、それを記憶している免疫細胞が、新型コロナウイルスの感染に伴って活性化した(二次応答)と解釈できる。通常のIgMIgGというパターンの人は重症化する傾向があるが、IgGが先にできる人は症状が軽くてすむという。これも「一度その病気に感染すると抗体ができて、その病気には二度とかからなくなる(かかっても症状が軽い)」という免疫の概念に合致する。児玉氏らは、「SARS(重症急性呼吸器症候群)の抗体が新型コロナウイルスにも反応することが知られており、SARSの流行以来、実際にはさまざまなコロナウイルス(SARS-X)が東アジアに流行していた可能性があるのではないか」と推測している。


 「SARS-X」とは何なのか?もしSARSのように致死率の高いウイルスならば、当然、注目を浴びたはずであるが、アジアにもアメリカにもそのような例は見当たらない。そうなれば季節性のコロナウイルスと考えるのが自然であろう。

 

 William Gallaher氏(おそらくルイジアナ州立大学の感染学の研究者と思われる)はVirological.orgのサイトでRemarkable Age Distribution of OC43 vs. SARS-CoV-2 in China」と題して、中国広東省の季節性コロナウイルスのOC43と新型コロナウイルス(SARS-CoV2)の感染世代の際立った違いを指摘している(http://virological.org/t/remarkable-age-distribution-of-oc43-vs-sars-cov-2-in-china/399)。

 2018年に報告された中国広東省の過去5年間の統計によると、15未満の世代で多くのOC43の感染者がおり、また感染は数年に渡って繰り返されたので、子供達の免疫系は何度も強化されてきたと考えられる。他の季節性コロナウイル(HXU15229ENL63)の感染はそれほど顕著ではない。15歳以上の世代ではOC43の感染率は非常に低い。一方、新型コロナウイルスの感染は15歳未満ではほとんどみられず、感染は50歳より高齢者の比率が極めて高い。Gallaher氏は「The contrast between the two age distributions could not be more stark, almost to the point of being mutually exclusive. 」と述べている。

 

 

 OC43とはどのようなコロナウイルスなのか?コロナウイルスは大きくαとβウイルスに分類され、OC43HKU1はβ、229ENL63はαに分類される。重篤な肺炎を引き起こすSARSMERSはβに分類される。すなわちOC43の仲間である。通常はOC43NL63が広く感染しており、HKU1229Eは比較的少ない。興味深い点は、βまたはαウイルスに感染すると、別のβやαウイルスには感染しなくなるという点である(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1386653211004732?via%3Dihub)。つまり、OC43に感染すると、HKU1には感染しなくなり、NL63に感染すると229Eには感染しなくなる。一方、βウイルスに感染してもαに感染し、またその逆の場合も起こり得る。これは、それぞれの型内で免疫の交差性があることを意味していると考えられる。SARSはβであり、その近縁の新型コロナウイルスSARS-CoV2SARSの名が付くようにβ型のウイルスである。OC43に対する抗体を持っている人が、HKU1に感染しなくなるように、新型コロナウイルスが感染しにくくなる、あるいは感染しても症状が軽いということは十分考えられる可能性だろう。

 

 実際、SARSOC43に対する抗体に相関があることが報告されている。2004年広東省でSARS感染者の疑いのある女性と男性が一人ずつ見つかった(http://idsc.nih.go.jp/disease/sars/update107-WPRO.html)。広州の女性は、SARSコロナウイルスを中和することのできる高いレベルの抗体を持っており、病状の進行とともにその抗体価が4倍上昇したので、SARSに感染していると考えられたが、OC43に対する抗体価も同様に上昇していた。同様に男性もSARSに対する中和抗体とOC43に対する抗体を有していた。それゆえ、これら二人はSARS感染を強く疑われたが、OC43抗体価も上昇していたので完全にはSARS感染とは判定されなかったようである。


 2003年にカナダの老人ホームでOC43の突発感染(outbreak)が起こった(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18382647/)。当時はSARSウイルス感染が報告された直後だったので、SARSが疑われたが、詳細な検査の結果、OC43による感染であることが判明した。しかし、その過程で患者の中にSARSウイルスに反応する血清を持つものが認められ、詳細な解析の結果、OC43のヌクレオキャプシッドタンパク質に対する抗体が、SARS-CoVのタンパク質と反応することが見い出されている。

 

 私の仮説が正しいなら、アジアでOC43の感染が主に蔓延し、一方、欧州ではNL63の感染が広がっていたことになる。これに関しては、完全ではないが、そうであることを示唆する結果が報告されている。前述したように、2010年代の中頃には中国の広東省でOC43が広まり、他の種はあまり検出されていない。2006年の報告ではあるが、香港ではOC4363%)、HKU115%)、NL6319%)、229E5%)である(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1489438/)。2010年のイギリスにおける過去3年のデータはOC4339%)、HKU122%)、NL6327%)、229E12%)とOC43がトップであるがその割合はやや少ないhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2916580/)(複数ウイルス感染を含む)。

 

 我が国のデータを見ると、例えば三重県の2013年〜2018年では、OC4368%)、HKU116%)、NL638%)、229E8%)とOC43が最も多い(http://www.daido-life-welfare.or.jp/research_papers/2020/welfare_16.pdf#search=%27OC43+%E6%84%9F%E6%9F%93+229e%27)

2015年〜2016年の山形においてもOC43の感染が多かった(https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/71/2/71_JJID.2017.263/_article/-char/en)。

2010年〜2011年の新潟ではOC4359%)、NL6341%)とOC43がやや多い

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22627314/)。

一方、福井では2013年〜2016年にかけてはOC43よりNL63の感染が広まっていた(http://www.erc.pref.fukui.jp/center/publish/report/2017/3-2-1.pdf#search=%27%E7%A6%8F%E4%BA%95%E7%9C%8C+%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E6%84%9F%E6%9F%93+OC43%27)。

 

 私の仮説が正しければ、季節性コロナウイルスOC43は、いわば「天然のワクチン」(弱毒化SARS-CoV2)ということになる。現在、ワクチンが世界中で開発されつつあるが、ワクチンは症状を抑制するどころか、返って増強する可能性があることも指摘されていおり、リスクのあるワクチンを使う必要がなくなる(https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/03/30/06749/)。

 

 この仮説は、新型コロナウイルスがインフルエンザとは異なり、幼児にはほとんど感染しないことを説明できる。なぜなら幼児の季節性コロナウイルス感染率は大人に比べて非常に高いからである(新生児には母親から抗体が受け継がれるらしい)。また、多くの感染者が他者に感染させないことも説明できるかもしれない。感染者の多くは抗体を持っているので感染は受けるが(それによってPCR陽性とはなるが)、他者に感染させるだけのウイルスが感染者の中で産生されないのかもしれない。注意すべき点は、これはインフルエンザでも起こっているかもしれないということである。感染の実行再生産数は、通常、「症状のある人が症状を引き起こさせる感染をどれだけ広げるか」という数値であるが、新型コロナウイルスの場合は、PCR検査によって症状の無い人もカウントしてしまうので、この場合の実行再生産数は、「PCR陽性の人がどれだけPCR陽性の人を生み出すか」となっている。もしインフルエンザ感染においてもPCR検査を実施すれば、「(抗体を持つ)多くの感染者(PCR陽性者)は他者に感染させない」という結論が導かれるかもしれない。


 

 もし新型コロナウイルスに感染しても症状が出ないあるいは軽症である人が季節性のコロナウイルスの免疫を持っており、一方、重篤となる人はその免疫を持っていないという相関が完全にわかれば、このウイルスと戦うための様々な方策が考えられる。例えば、「コロナウイルスOC43の抗体を持っている医師・看護師が患者の治療に対応する」、「抗体を持っていない人はホームワークを増やし、持っている人が多く出勤する」などである。それゆえ、518日のブログ記事に書いたように、 季節性コロナウイルス(OC43)に対する抗体をもっているかどうか、そして新型コロナウイルス感染との相関を調べることは極めて重要なのである。

 新型コロナウイルスの感染および重症化の低さとBCG接種との相関については、より厳密にデータを吟味すればあまり相関がないことはこのブログで何回か説明をしてきた(いまだに信じている人は、データを読めないか、読もうとしない人であろう)。実際、イスラエルにおける研究において、少なくとも若い世代においてはBCG接種者と非接種者の間に感染率の差がないことが報告されている(「新型コロナBCGワクチン予防効果なしイスラエル研究G 」:
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200514/k10012430111000.html
)。

 

 それではなぜアジア諸国では感染率も致死率も低いのか?これは私にとっても長い疑問であったが、それを解くカギとなる可能性のある論文がCell誌に発表された(Grifoni et al. (2020) Targets of T cell responses to SARS-CoV-2 coronavirus in humans with COVID-19 disease and unexposed individuals. Cell in press)。この論文は、AASJの代表理事でCDB特別顧問の西川伸一氏が解説しているので詳しくはそれを参照されたい(https://aasj.jp/news/watch/13125)。ここではポイントとなる点だけを説明する。

 

 そもそもコロナウイルスは季節性の風邪の1030%を占めるといわれている。このウイルスは、常時ヒトからヒトへと感染するウイルスである。今回の新型コロナウイルスは本来コウモリに存在していたウイルスが「種の壁」を破ってヒトへ感染し、さらにヒトからヒトへと感染することで急速に伝播したと考えられている。新型とはいえコロナウイルスである以上は、新型コロナウイルスは季節性のコロナウイルスとかなりの点で似通っている。例えば、ウイルスのRNAゲノムが作り出すタンパク質はアミノ酸の配列に違いはあるが、同じようなタンパク質が作られており、感染に必要なスパイク(S)タンパク質(宿主のACE2に結合して細胞内に侵入に関与)以外にも、膜(M)タンパク質や、ウイルス内部に存在するヌクレオ(N)タンパク質を持っており、これら3つのタンパク質はウイルスにおいて高度に発現している(作られている)。Grifoniらは新型コロナウイルスの作り出すタンパク質の一部の構造(ペプチド)を網羅的に作り、抗体の産生を促進するT細胞(CD4細胞)をどのタンパク質由来のペプチドが活性化するかを調べた。当然のことながら、新型コロナウイルスに感染したヒトのT細胞は新型コロナウイルスのペプチドで活性化されたが、それはSタンパク質由来ばかりでなく、NMタンパク質由来のペプチドも同様に活性化した。これはSARSの場合とかなり異なっているとのことで、SARSでは2/3Sタンパク質のペプチドによって活性化が起こる。つまり、新型コロナウイルスの場合は、多様なタンパク質に対する抗体が作られるということである。

 

 ワクチン作製のターゲットは専らSタンパク質である。なぜなら、Sタンパク質はウイルスの表面にあり、このタンパク質がACE2に結合して感染するわけであるから、ワクチンによってSタンパク質に結合する抗体を作らせることができれば、抗体はSタンパク質に結合してACE2との結合を妨げるので(中和抗体)、感染を防げるというわけである。ところが話はそう簡単ではない。

 

2009年に流行した新型インフルエンザ(いわゆる豚インフルエンザ)を覚えておられるだろうか。新型インフルエンザは若い世代に感染者が多く、中年以降の世代は感染しなかったが、それは中年以降の世代は感染経験があって抗体を持っているという話であった。Srindharらは、イギリスにおけるウイルス感染者を調べ、ウイルス表面のタンパク質に対するペプチドではなく、内部のコアタンパク質に対するペプチドによって活性化されるT細胞を持っているヒトが感染しても症状が軽いという事実を見い出している(Srindhar et al. (2013). Cellular immune correlates of protection against symptomatic pandemic influenza.Nat Med 19, 1305-1312.)。この理由はよくはわからないが、ともかくウイルス表面のタンパク質に対する抗体だけでなく、内部のタンパク質に対する抗体も感染を防ぐ、あるいは症状を悪化させない可能性があるということは確かである。

 

 話をGrifoniらの論文に戻すが、彼らは新型コロナウイルスには感染していないアメリカ人の4060%が、新型コロナウイルス由来のペプチドによって活性化されるT細胞を持っていることを明らかにした。抗体は厳密にペプチドの配列を認識して反応するが、実際には少し違っていても反応し、これを交差反応(cross-reactivity)という。つまり、アメリカ人の4060%は過去に季節性のコロナウイルスに感染したことによって、新型コロナウイルスと交差反応しうる抗体を持っていたということである。

 

アジアは季節性インフレンザの発症地となることが多いが、もしかするとコロナウイルスもヨーロッパやアメリカと比べて多く蔓延していたのかもしれない。もしそうだとすると、季節性コロナウイルスに感染してきたヒトたちは、季節性コロナウイルスに対する抗体を有しており、それが新型コロナウイルスに対する防御となっているのかもしれない。

 

 季節性コロナウイルスに対する抗体を持っているかは、新型コロナウイルスに対する抗体検査をいくらやってもわからない。なぜなら、新型コロナウイルスに対する抗体検査は季節性コロナウイルスの抗体とは反応しない抗原が用いられているからである(もし反応してしまえば、季節性か新型かを区別できない!)。それゆえ、季節性コロナウイルスに対する抗体検査も同時に実施すべきである。PCRで新型コロナウイルスに感染していても症状が出なかったヒトが、季節性コロナウイルスに対する抗体を持っていたことが示されれば、これは「免疫パスポート」となりうるだろう。季節性コロナウイルスの感染は過去なので、抗体はほとどなくなって記憶T細胞だけが残っているかもしれないが、PCRで新型コロナウイルス感染が確認されていれば、新たに抗体が多く作られているはずである。

 日本人の6070%が季節性のコロナウイルスに対する抗体を持っていれば、「集団免疫」は既に確立していることになる。419日のブログで京都大学の上久保らの「S型ウイルスがL型よりも早く中国から播し、S型感染によって集団免疫が獲得されてL型に対して抵抗力を持った」との仮説を紹介したが、「S型ウイルス」ではなく、「季節性コロナウイルス」の感染によって集団免疫ができていたのかもしれない。

 424日付のブログ記事は「(新型コロナウイルス感染症対策)専門家会議は誤った情報に基づいて「クラスター潰し戦略」を採用したのではないだろうか」と題して、東北大学の押谷氏が322日の「NHKスペシャル」で「実はこのウイルスでは80%の人が誰にも感染させていません。 つまり、すべての感染者を見つけなきゃいけないというウイルスではないんですね。 クラスターさえ見つけられていれば、ある程度、制御ができる。」と、誤った認識の基に「クラスター潰し戦略」を採用したのではないかと疑問を投げかけた。そしてPCRの徹底がないために院内感染が相次いでいることを指摘し、「専門家会議はデータと根拠を公表して、その見解を社会に問うべきである」と意見した。

 

 これとまったく同じ意見を、医療ガバナンス研究所理事長の上昌広氏も、新潮社のForesightの「「医系技官」が狂わせた日本の「新型コロナ」対策(上)」において以下のように述べている。


 322日に放映された『NHKスペシャル:パンデミックとの闘い~感染拡大は封じ込められるか~』に出演した押谷教授は、「すべての感染者を見つけなければいけないというウイルスではないんですね。クラスターさえ見つけていれば、ある程度の制御ができる」PCRの検査を抑えているということが、日本がこういう状態で踏みとどまっている」 と述べている。その後、私の知る限り、押谷教授は、自らの学説が間違いであったとは認めていない。


 ここまでならば、押谷氏は自らの誤った学説の流布を「ほっかぶり」しているというだけであるが、実は根はもっと深い。

 

一般財団法人カセイケン(これは、研究不正問題に詳しい 榎木英介氏(最初の稿ではお名前を誤り、科学誌印刷業者氏にご指摘を受けた。お詫びしたい) 氏が設立した法人である)理事の春日匠氏は「新型コロナ、安倍政権と専門家会議の「いびつな関係」」https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72501)で、押谷氏が虚偽の説明を行ったことを紹介している(この文章は、日本における科学と政治の関係について興味深い指摘をしているのでぜひ一読されたい)。

 

「実はこのウイルスでは、80%の人は誰にも感染させていません。つまりすべての感染者を見つけなければいけない、というわけではないんです。クラスターさえ見つけられていれば、ある程度制御ができる。むしろすべての人がPCR検査を受けることになると、医療機関に多くの人が殺到して、そこで感染が広がってしまうという懸念があって、PCR検査を抑えていることが日本が踏みとどまっている大きな理由なんだ、というふうに考えられます。」

 

ここまでが322日のNHKスペシャルでの発言である。春日氏は以下のように続ける。

 

  ところが、411()に放送されたNHK スペシャルでは、次のような議論になっている(カギカッコ内が押谷教授の発言であることに注意する必要があるが、基本的に前段も押谷氏の認識を説明していると考えて良いだろう)。  

 見えないまま感染を広げるウイルスに、どう対応すればいいのか。中国が行った戦略は都市を丸ごと封鎖し、人の外出・接触を制限すること。しかし日本では強制的に実行する法律上の仕組みはない。もう一つ考えられる戦略はPCR検査の徹底。しかし日本では検査体制は十分に整備されておらず、直ちにPCR検査の数を増やすことは困難だった。さらに盤石とは言えない医療体制への不安。  

 

「日本の選択肢を考えた時に、中国のようにできないし、シンガポールのようにできないし。そうすると、このウイルスのどこかにある弱点をついて対策を考えざるを得ない」(押谷さん)

 

 つまり、322日の回では「手段として必要十分だから」PCR検査件数を抑えたクラスター対策が必要だと述べているのに対して、411日の回では「他国と同等の、より良い手段をとるためには(PCR検査は徹底されるべきだったが)日本の能力が足らないため、仕方なくクラスター対策に集中したのだ、という議論になっている。これは、誠実な、透明性と公開性のある議論とは言い難い。その原因は、独立性の問題だろう。

 

 専門家会議そしてその上部組織の「新型インフルエンザ等対策有識者会議 基本的対処方針等諮問委員会」のメンバーはほとんどが医療の専門家であり(昨日になって経済の専門家が4名加わった)、PCRの検査を増やすような行政的な影響力を発揮することができずに苦労されたことは理解できる。しかしながら、政治的状況に合わせるために自らの学説を捻じ曲げることは、科学者としては「捏造」に値するのではないだろうか。これでは科学者の意見が信頼を失ってしまう。

 

押谷氏は科学者の信頼を保つために本当のことを説明すべきだと思う。


 

<追記>北海道大学の西浦氏にも「対策がなければ40万人死亡」の根拠となるデータをぜひ示していただきたいと思う。理由は不明であるが(BCGの接種の効果が主因でないことはこのブログで何回も説明をしてきた)、アジア系は新型コロナウイルスに感染しても死亡率は低い。シンガポールを例にとると、513日現在、感染者総数は24671人で死者は21名、つまり致死率は0.1%にもみたない。シンガポールの人口は約564万人と少なく、PCR検査もかなり徹底的に行われているので、確認された感染者の数字は実際の感染者の数字とかなり近いと推測してよいだろう(それでも実際の感染者は、確認された感染者の数倍はいるかもしれないが)。この致死率を日本に当てはめれば、40万人死亡するためには日本の人口は4億人を超えていないといけない計算になる。


 

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