岡山大学で起こっている問題については昨年の922日、127日、110日で取り上げた。

 

 医学部の論文に改ざんの疑いがあるとして薬学部の森山、榎本教授が内部告発を行ったが、それは認められず、逆に教員へのハラスメントを行ったとして、一昨年の925日付で停職8ヶ月の懲戒処分を受けた。この懲戒処分は、医学部出身の森田学長による報復処分である疑いが指摘されている。懲戒処分は昨年の525日に終了したが、その直前の520日に森田学長から「別の非違行為の疑いがあるので自宅待機」という命令を受け、その後ずっと自宅待機処分が続いたあげく、昨年末に「教員としての適性を欠く」という理由で教育研究評議会によって解雇が決定された。

 

 両氏は仮地位の確認と賃金相当の仮払いを求めて岡山地方裁判所に仮処分の提訴をしていたが、その判決が66日に言い渡された。仮地位の確認は認められなかったが、「解雇は解雇権の濫用であり無効」との判決が下され、賃金の仮払いは認められた。森山氏に対する判決文がネット上に示されているのでhttp://warbler.hatenablog.com/entry/2016/06/06/234958、森山氏について岡山大学教育研究評議会と森田学長がいかにデタラメな審議を行ったかを検証したい。

 

 岡山大学は森山氏の解雇理由として以下の9項目を挙げていた。

(1)森田学長と許理事を被告とする告訴状を岡山地方検察庁に提出した。
(2)(1)の刑事告訴に係る記者会見をした。
(3)フリーライターに論文不正に関する情報を提供した。
(4)A准教授を被告とする告訴状を岡山地方検察庁に提出した。
(5)B准教授を被告とする告訴状を岡山地方検察庁に提出した。
(6)森田学長に対する訴訟提起に係る記者会見を行った。
(7)森田学長とX理事を被告とする告訴状を岡山地方検察庁に提出した。
(8)停職中に学内にメールを発信した。
(9)調査及び人事審査委員会への出席命令に違反した。

 

 森山氏は「(1)、(4)、(5)、(7)については告訴状を岡山地方検察庁に提出していないのであるから、明らかに事実誤認」と主張していたが、判決は森山氏の主張を完全に認め、「当該告訴状を岡山地方検察庁に提出しておらず、解雇事由の(1)、(4)、(5)、(7)の事実は、いずれも不存在である」と結論している。

 

 (2)の刑事告訴に係る記者会見についても、記者会見を行った事実は認めるが、解雇事由(1)の告訴についての会見ではなく、解雇事由(2)も不存在と結論されている。これは少し事情が複雑なので説明を加えると、森山氏が告訴したのは「森田学長や許理事」ではなく、「森山氏の研究論文にねつ造・改ざんがあるとする旨が記載された文書を岡山市内の新聞各社に送付した人間」である。差出人が不明なので、森山氏は「被告訴人不詳」として名誉棄損で告訴し、その会見を開催したということである。

 

 フリーライターへの情報提供(解雇事由(3))については認めるが、そのこと自体が「教授としての適性に欠ける」という解雇事由に該当しないと裁判所は判断した。森田学長らが森山氏らに論文不正の隠蔽を要求するなどのパワーハラスメントを行ったとして起こした森田学長らへの訴訟提起に係る記者会見(解雇事由(6))については、「言論・表現の事由として保護されるべき正当な行為」であると認定されている(この訴訟は岡山地方裁判所で棄却されている)。

 

 解雇事由(8)のメール送信は、森山氏が停職中に学内に向けて送信したものである。この停職処分は、森山氏が教員へハラスメントを行ったということで受けたものであるが、これについても仮処分で「懲戒権の濫用」が認められ給与の仮払いが命じられている。森山氏は「この停職処分は、不正論文の告発に端を発している」などと記載したメールや他のメールを薬学系教職員等に送信している。これについて裁判所は「停職処分中もメールを送信することは禁止されておらず、メール内容も相当なものであった」として解雇事由に該当しないと結論している。

 

 事由(9)の調査及び人事審査委員会への出席命令違反については、調査委員会の了承を得て書面で応じているので、出席命令違反ではないと認定された。この委員会は、上記の(1)~(8)に対する行為に対する処分を検討する委員会であり、森山氏が求められた出席は「弁明の機会」であり、その機会を単に放棄したに過ぎないと結論されている。ちなみに、この調査委員会の報告書に基づいて開催された教員懲戒等審査委員会は「停職6ヶ月が妥当」と判断する報告書を昨年の911日に森田学長に提出している。前の停職が525日で終了しているので、この処分が行われたとしても1124日で終了していたはずである。それより20日遅れた1214日付けで、森山氏は「教員としての適性を欠く」という理由で、教育研究評議会において「普通解雇」が決定されている。

 

 訴訟合戦となり、泥仕合的な感は否めないが、それにしても岡山大学の解雇理由のデタラメさは尋常ではない。「訴訟の事実が無いものを訴訟が有った」と認定し、「言論・表現の事由として保護されるべき正当な行為」ですら解雇事由にしてしまうのだ。北朝鮮のことを批判できないほどの人権無視である。教育研究評議会には法学部出身者が3名(理事・副学長の荒木勝氏、大学院法務研究科長の神例康博氏、法学部長の波多野敏氏)いるが、彼らはいったい何をしていたのだろうか?このようなことが法治国家とされる我が国で行われていることは驚愕に値する。

 

 この岡山大学問題に対しては、研究者コミュニティは極めて冷淡である。小保方氏の研究不正に対しては嬉々として粗捜しをするのとは極めて対照的である。

 

 我々は科学者である前に一市民であることを自覚すべきだろう。岡山大学が行った行為は「事実のねつ造」であり、私たちは「研究のねつ造」への怒りを持つのと同様に、一人の市民として「事実のねつ造」に怒りを持つべきなのだ。文科省も少しは何とかしたらどうなのか。このような「ねつ造」をする人たちがトップにいて「教育」ができると思っているのだろうか。

 

 心配なのは地位保全がされていないので、森山、榎本両氏の研究室の後任教授人事が進められているということである。薬学部の教授は、森山・榎本氏らは「ねつ造」によって解雇されたことを十分に認識し、人事の停止を求めるべきだろう。そして、教授選に応募した研究者も辞退すべきだろう。今回の仮処分の結論の明白さからすれば、本裁判も同様の結果となることはほぼ間違いない。教授になりたいと思う気持ちは理解できるが、まず人間としての矜持を持つべきだ。

 ハーバード大学の山形方人氏のツィッターに「お酒に強い遺伝子持つ人は痛風リスク2倍以上」という記事が紹介されていた。元記事のサイトはhttp://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2016/05/20160518_01.html


 記事によると、痛風の男性患者1,048人と痛風ではない男性1,334人の2グループを対象に、「ALDH2」遺伝子の変異の有無と痛風との関係を調べところ、遺伝子変異がない人は、変異がある人より痛風を2.27倍発症しやすいことが明らかになったということである。論文は、前の記事でも話題となったScientific Reportsに発表されている。


 ALDHとはアルデヒドデヒドロゲナーゼという酵素で、毒性のあるアセトアルデヒドを酸化して無毒な酢酸に変換する酵素。体内に入ったアルコールはADH(アルコールデヒドロゲナーゼ)で酸化されてアセトアルデヒドとなるので、これを分解するALDH活性が高ければ、すなわち「お酒に強い」ということになる。この酵素は2種類存在し、一つはサイトゾル(細胞内の液体成分)に存在するALDH1、もう一つはミトコンドリアに存在するALDH2である。アジア人の多くは、ALDH2504番目のグルタミン酸(Glu)がリシン(Lys)に変わっており、変異酵素の活性は極めて低いので、これがアジア人が白人と比べてお酒に弱い理由とされている。


 論文の結論には誤りは無いと思われるのだが、問題は直接的か間接的かという点である。ALDH2の野生型の人はお酒に強いのだから、当然弱い人よりも多くのお酒を飲んでいる可能性がある。酒量が増えれば、当然、尿酸値が上がる傾向となるので、痛風となるリスクが上昇するのは当たり前の話。その逆に、お酒に弱い人はあまり飲まないので、お酒に依存する尿酸値の上昇は無く痛風とはなりにくい(ちなみに「尿酸値の高い人は尿酸を多く含むビール等を控えるように」とよく言われるが、ネットで調べてみると、ビール等に含まれる尿酸量は以外にそれほど多くなく、飲酒による尿酸値の上昇は尿酸の直接の摂取というよりは他の要因のようである)。


 つまり、「お酒に強い遺伝子持つ人は痛風リスク2倍以上」という事実は、直接的、すなわち遺伝子自身の機能(ALDH高活性)に由来するのか、あるいは間接的、すなわちALDHが高活性なのでお酒に強く、飲み過ぎて尿酸値が上昇して痛風となるのかということは不明ということ。「お酒に強い遺伝子持つ人は痛風リスク2倍以上」という結論を導くためには、野生型と変異型の人の酒量を一定にして、痛風の有無を比較する必要があるだろう。著者たちもアルコール飲酒と痛風には部分的には関連があることを認めている。


 ALDH2の変異は、City of Hopeの吉田昭博士が1980年代に活発に研究し、アジア人がお酒に弱い理由として見い出した。私も学生だった頃、吉田氏の論文を読んで興味を抱いたことを覚えている。遺伝子のクローニングも吉田氏が1985年に成功しているが、実はそのクローニングによって同氏の前年度に発表した論文が誤っていたことが判明した。1984年に吉田氏らは、亡くなったヒトの肝臓のサンプルからALDH2を精製し、アミノ酸配列解析で野生型と変異型の配列を比較した。その結果は、野生型の配列は-グリシン-ロイシン-グルタミン-アラニン-アスパラギン-バリン-グルタミン-バリン-リシンで、7番目のグルタミンがリシンへ変異していると結論した。ところが遺伝子から決定された正しい配列は-グリシン-ロイシン-グルタミン-アラニン-チロシン*-スレオニン*-グルタミン酸*-バリン-リシン-(*は誤っていたアミノ酸)。誤ったアミノ酸はアミノ酸列決定法(Edman法)ではしばしばミスが起こり易い箇所であり、注意深ければ防げたかもしれない。しかしながらそれは結果論であって、同氏の業績はそれによって揺るぐものではないだろう。

 

 

 1日遅れの「エイプリルフール」。

 

尿からクローンマウス....山梨大・若山教授ら(Yomiuri Online201641日:http://www.yomiuri.co.jp/science/20160401-OYT1T50147.html

 

 山梨大学は1日、尿に含まれる細胞を使ったクローンマウスの作製に成功したと発表した。野生動物は押さえつけただけでも死ぬリスクがあるため、体を傷つけずに細胞を採取する必要がある。今回の研究では、より自然に近い状態で採取した少量の尿からクローンを誕生させており、絶滅危惧種の繁殖につながることが期待されている。

 実験に成功したのは、同大の若山照彦教授(繁殖生物学)らの研究グループ。同日、英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ(電子版)」に掲載された。尿には尿管の細胞などが含まれている。研究グループは、多数のマウスの尿に含まれていた細胞からDNAを採取し、4匹のクローンを誕生させた。4匹の外見は正常で、繁殖能力も持っていた。

 サイエンスライターの粥川準二氏は、若山氏の論文が「サイエンティフィック・リポーツ(電子版)」に発表されることを事前に察知し、その結果は「ごく予備的」と批判した(http://synodos.jp/science/16617)。

 

『サイエンティフィック・リポーツ』は、確かに査読のある学術ジャーナルではあるのだが、査読の基準は「技術的妥当性」のみで、「個別論文の重要性につい ては、出版後、読者の判断にゆだねます」と明言されている電子ジャーナルである。いわば、ごく予備的な実験結果を示して、読者の意見を求めることを目的に して書いたものも掲載される媒体なのだ。したがって読者はその分を割り引いて解釈することが前提になっている。

注:
「サイエンティフィック・リポーツ(電子版)」の評価については2015年12月17日の「マスコミやサイエンスライターは情報を正しくつたえるべきだ」と1118日の記事のコメント欄(1215日記載)をご覧ください。

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