「日本の科学を考える」へ投稿された多数の類似画像の話について書こうと思ったが、いくつかの疑問が残されているのでSTAP騒動についてもう一度書くことにする。

 

 「謎が多い」氏が日経サイエンスの記事を指摘してくれたが、私の推理どおり(110日付記事「NHKは小保方氏の「捏造」を示すために「捏造」をしたのではないのか」)、小保方氏のフリーザーから出てきたFES1細胞(acrosin-GFPを持つES細胞)はシニアスタッフ(大田浩氏)が作製し、留学生とはまったく関係なかった(http://www.nikkei-science.com/201503_034.html)。小保方氏のフリーザーから出てきたES細胞は3種類で、残りは129B6F1GOF-ESである。そして129B6F1は若山氏が作製したわけであるから、GOF-ES細胞が元留学生が作製したものであることに疑いの余地はない。やはりNHKは若山会見と元留学生の話に矛盾があるにもかかわらず、若山氏の話を無視して元留学生の話だけを放送した。

 

 NHKスペシャルのストーリーの組み方は実に功名であった。この動画(http://www.at-douga.com/?p=11686)の19分くらいから再度見ていただきたい。STAP細胞はacrosin-GFPを持つES細胞ではないかという疑念を視聴者に強く印象付けた後で、小保方氏のフリーザーで発見されたES細胞のボックスを見せた。この時にはどのES細胞かを述べていないが、視聴者は前の話の続きなので「acrosin-GFPを持つES細胞」とばかり思っている。そして、「ES細胞は若山研から譲与された」という小保方氏のコメントを紹介した後に、元留学生がインタビューでそれを完全否定する。ほとんどの視聴者が「小保方氏はacrosin-GFPを持つES細胞を元留学生の知らないうちに彼から盗んで使った」と思ったことだろう。実際、DORAのブログ」でもそういった誤った理解が述べられている(http://blogs.yahoo.co.jp/nx3262p0yz057j/12839151.html)。

 

<小保方さんの冷凍庫で見つかったアクロシンES細胞について、NHKスペシャルは「若山研究室の留学生がつくったもの」だとし、「若山研空室が山梨大学に移った際、持って行くことになっていた」と放送した>

 

 若山氏は、acrosin-GFPを持つES細胞は大田氏がすべて持っていったと思っていたわけであるから、「山梨大学に移った際、持って行くことになっていた」ということはありえないわけであり、上に述べたように、これはGOF-ES細胞に間違いない。

 

 この「DORAのブログ」であるが、年末からずっと桂不正調査委員会の結論に疑問を呈している。いわゆる「小保方擁護派」と思われるが、二つの指摘は妥当である。

 

 第一は、これはNekogu氏(1228日付記事「桂不正調査委員会の調査で判明したこと」のコメント373)や多くの人が指摘しているが、丹羽氏はFI幹細胞の培地でES細胞は全滅する」と証言していた。これが本当だとすると、小保方氏から受け取った細胞をFI幹細胞用培地で培養して幹細胞を樹立できたのは奇妙ということになる。ES細胞がFI幹細胞用培地で培養できるかどうかは若山氏が確認する必要があるだろう。FI幹細胞を樹立したのは若山氏なのであるから。もし若山氏が行わず他の人が実験をし、丹羽氏が述べたように、ES細胞が死滅することが判明したら、それこそ「若山氏真犯人説」が信憑性を帯びて来てしまう。

 

 第二に、これは遠藤氏にコメントをいただきたいが、遠藤氏はRNA-seqのデータから「STAP細胞は、129/B6マウス由来のトリソミーES細胞であり、129側の8番染色体が重複している」と結論した。しかしながら、保存してあった細胞でトリソミーだったのは、B6マウス由来のGLS細胞であり、129/B6マウス由来のトリソミーES細胞は存在しなかった。これについては2つの可能性が考えられるだろう。一つは小保方氏が129/B6マウス由来のトリソミーES細胞を廃棄したということであり、もう一つは遠藤氏の解析には誤りがあったという可能性だ。


 「Doraのブログ」では、「実は遠藤高帆論文も嘘だった」として、この問題を指摘しているhttp://blogs.yahoo.co.jp/nx3262p0yz057j/12752526.htmlのだが、さらに続けて以下の記載がある。

 

<それから、もっと変なのは、FI幹細胞の方です。遠藤高帆が解析したのはOct4-GFPの入ったB6由来のFI幹細胞です。ところが、今回の調査委の報告では、アクロシンの入った129B6由来のFI幹細胞は見つかったものの、遠藤高帆が解析したB6由来のFI幹細胞は見つからなかった、というのです。?!?!‥‥んなアホな」> 

 

 これについての合理的な説明は、小保方氏がFI幹細胞のRNA-seq分析の時に用いたのは、CTS1細胞(FI幹細胞とされているが、実際はFES1細胞)ではなく、B6マウス由来のGOF-ES細胞であったということだろう。要するに、小保方氏はサンプルを混同した(誤った)ということだ。ここからも伺えることは、小保方氏の行動は「捏造」よりも「杜撰」が上回っているということだ。捏造していたならば、当然、FI幹細胞としたCTS1細胞を使うはずである。こう書くと、小保方氏を敵視する人は必ず、「その時に使えたES細胞を場当たり的に使っただけ」と主張するのだが、いずれにしても「捏造者」としてはあまりに杜撰な行動である。

 

 第三の疑問は「Doraのブログ」にはないが、私自身の疑問である。それは捏造と認定され、小保方氏自身も捏造と認めたDNAのメチル化のデータについてである。STAP幹細胞がES細胞であったとしたら、データを改ざんする必要はなかったはずなのだ。ES細胞様のパターンを示さなかったということは、この時はES細胞を使わなかったということになる。なぜ?これも「ES細胞を使い忘れた」というのなら、彼女の杜撰さは普通の人間には到底理解できない。

 

 蛇足であるが、捏造とされたもう一つの実験、すなわち「STAP幹細胞増殖曲線」についても私見を述べたい。彼女の記憶している時期の出勤記録からは「3日に1度の細胞数測定は不可能」として、実験を行っていない可能性を指摘されているが、私は彼女はこの実験を行っていたのではないかと思うのだ。勿論、時期の記憶は誤り。そして、細胞がFLSacrosinGFPを持つFES1細胞由来)だったという記憶も誤り。使ったのはGLSOct4-GFPを持つ GOF-ES細胞由来)であり、長期間培養したためにこの幹細胞はすべてトリソミーとなってしまったのではないだろうか。通常は長期間培養した細胞をストックすることはないのだが、彼女ならやりかねない。他のSTAP幹細胞、FI幹細胞、それらの大元のES細胞はトリソミー化していないので、このトリソミー化しているGLSだけ何か特別な培養をしたと考える方が合理的なのだ。

 

 最後に、私の712日付の記事を振り返りたい。私は以下のように述べた。

 

8「再現実験を停止して、論文作成において生じた研究不正の実態解明を最初にすべき」という主張について

 「言うは易し、行うは難し」。実態解明を主張する人はその難しさを理解しているのだろうか?若山教授の記者発表で、小保方さんの捏造の疑いはほぼ確定したかの印象を与えたが、新事実が見つかればすぐに解釈は変わってる。(途中略)このブログの議論を見てもわかるが、小保方さんが捏造したと最初から思っている人は、どのような話があってもまったく耳を貸そうともしないし、その逆も真だろう。互いの「変えない主張」をぶつけ合っているだけだ。STAP騒動の逸話を養老先生が書いたら、200冊くらい「バカの壁」が書けるのではないか。

 

「実態解明が先」と主張される方は、「両者の言い分が食い違って結論は出ず、また実験ノートからは十分なフォローができなかったので結局不明でした」という結論が出ても納得されるのだろうか?そして再現実験に同意するのか?

 

(途中略)再現実験とサンプル解析を並行して進めることが現実的な道だ。>


 やはり「サンプル解析」だけからでは「小保方氏が酸処理した細胞をES細胞にすり替えた」という明確な結論は出なかったではないか。未だに「若山氏捏造説」を唱える人がいるのは、幹細胞化においては若山氏も関与していたからである。また、保存してあったサンプルの解析からも上に述べたような疑問は残っているのだ。現在、「小保方氏捏造説」を強く示唆する客観的根拠は、彼女の再現実験の失敗だけであろう。彼女は「細胞の初期化(Oct4-GFPの蛍光発光)を行うことができていなかったのでES細胞を使って捏造する必要性(動機)があった」ということなのだ。 一方、若山氏にはその動機はない。

 

<1月24日:記事の追加>


 昨日の記事に対していくつかのコメントがあり、またフライデーの記事の内容もだいたい分かったので、それを踏まえて記事を追加したい。フライデーの記事については以下のサイトを参照(http://roppongi-cafe.com/obokata1)。

 

 まず第一に、「元留学生」の件。記事によるとこれは李(Li Chong)氏であるとのこと。

 

 1228日付の記事「桂不正調査委員会の調査で判明したこと」のコメント欄で、「謎が多い」氏に対して私が行った返答は、

 

NHKスペシャルのインタビューでは、「(小保方氏を知っているが、)小保方氏にES細胞は渡していない」といニュアンスの答えでしたので、その留学生は小保方氏といっしょにラボに在籍していた(つまり、2011年以降にも若山研究室にいた)と考える方が自然

 

「元留学生」といのは、2008年にjunior research assistant(注:正確には2007年から在籍。またassistant”ではなく、associate”)2010年にresearch scientistとなり、2012年まで在籍した人と思われます。この人がGLS細胞の元となったGOF-ES2011年に作製し、小保方氏に培養皿ごと細胞を渡したのでしょ

 

 上の経歴の人物は李氏であり、小保方氏と同時期に若山研に滞在していた。それゆえ、「小保方氏を知っている」というニュアンスとなるのは当然。

 

 小保方氏のフリーザーから見つかった「ntES BOX Li」と書かれた78本のES細胞」(これは2つ見つかった容器のうちの“Box1”と思われる)には20117月の記載があったとのことである。GOF-ES細胞は「核移植」(nuclear transfer)して作製したのでntであり、そして樹立されたのは2011年の5月~10月(桂不正調査委員会報告書3ページ)。まさに一致。

 

 残る疑問は、GOF-ES細胞は「小保方氏から、当該メンバーに対し、STAP細胞の研究でコントロールとして使用したい、との依頼があり、培養皿ごとES細胞GOF-ESが小保方氏に手渡された」(桂不正調査委員会報告書7ページ)にもかかわらず、なぜ李氏は「(ES細胞があって)びっくりしました」「それを直接私が渡したことはないです」と明確に答えたのか?その疑問を解くために、再度李氏へのインタビューの場面を見てみた

 

 動画(http://www.at-douga.com/?p=11686)の21.5分頃からの画像を見られたい。小保方研のフリーザーから見つかったとされるES細胞の入った容器が大写しにされた後で、「(これは)別の研究で解析中のもので去年若山研究室が山梨大学に移った際、持って行くことになっていたからだ」とナレーションが入る(背景音はまさにミステリーを思わせるもの)。そして李氏の「びっくりしました」と、それに続く「それを直接私が渡したことはないです」という返答。この時、インタビューしているNHKのスタッフと思われる「眼鏡のお兄さん」の李氏への質問内容は放送されていない。

 

 私は、李氏が「記憶違い」をしていると思っていたのだが、おそらくそうではないのだろう。スタッフはたぶんこう質問した。「あなたは、小保方研のフリーザーで見つかった山梨大学へ持って行くことになっていた容器を小保方氏に渡しましたか?」。そう聞かれれば、李氏は当然「それを直接私が渡したことはないです」と答えることになる。つまり、「それ」が問題なのだ。「それ」は「李氏が作製したES細胞一般」ではなく、「山梨大学へ持って行くことになっていた容器(この中に李氏が作製したES細胞が入っている)」を指すのだろう。

 

 「眼鏡のお兄さん」、もしあなたに良心があるのなら、李氏にどのように質問をしたのかを開示すべきだ。直接的か間接的な影響かは誰にもわからないが、NHKスペシャルが「不正の深層」の中心人物とした人が直後に自殺しているのはまぎれも無い事実なのだから。

 

 私のNHK批判に対して的外れな文句を述べている人がいるが、私の真意は、「公共放送であるNHKが「捏造まがい」の放送をして世の中を煽動し、人を追い込んで行くようなことを再度起こさせない」ようにするための発言だ。

 

 さて、フライデーに報道された理研の研究員である石川智久氏が小保方氏を「ES細胞の窃盗」で刑事告発するという話であるが、告発が受理されないどころか、「有志の調査委員会」メンバーが逮捕されるおそれがあるだろう。

 

 「有志の調査委員会」が行った「小保方氏が細胞サンプルを自由に処分できないように実験室の鍵を付け変えた」という行為は、「建造物侵入」と「威力業務妨害」に当たるだろう。「建造物侵入」というのは不思議に思うかもしれないが、19歳の「つまようじ混入少年」の容疑が「建造物侵入」であることを考えれば理解できるだろう。スーパーのように誰でも入れる場所であっても、購入とは別の目的で入ればこの罪に問われる可能性がある。また、小保方氏が管理している部屋の鍵を付け替えれば、「威力」によって小保方氏の正常な「業務」を妨害しているので「威力業務妨害」だ。

 

 上のような行為ができるのは、CDBのセンター長である竹市氏や理研理事長の野依氏だけだ。彼らにしても正当な理由無しに小保方氏の管理下にある研究室を勝手に捜索したり、鍵を付けかえることは違法行為となる。警察であっても捜査令状が必要であり、そして捜査令状の対象外の場所を勝手に捜査したり封鎖したりすることはできないのだ。

 

 最後に私のもう一つの疑問を追加する。

 

 小保方氏は「DNAのメチル化の実験」については捏造を認めている。この罪は重く、もし懲戒委員会にかかれば懲戒免職処分となることは十分あり得る。それほど重い罪を認めながら、その一方で「STAP細胞の作製」については捏造を認めていない。片方だけの捏造でも懲戒免職ならば、両方認める、あるいは両方とも認めないということはありえるだろう。しかし、「DNAのメチル化の実験」についてだけ認めるという感覚は、私には理解できない。理解は不能であるが、桂不正調査員会の聞き取り時点では、小保方氏はSTAP細胞のことを「生き別れた息子」であると確信していたことに間違はない。