岡山大学薬学部の元学部長である森山氏および元副学部長榎本氏は、教員へのハラスメントを行ったとして、昨年の925日付で停職9カ月(実際は8ヶ月)の懲戒処分を受けた。懲戒処分の期限は今年の525日に終了しているが、その直前の520日に学長から「別の非違行為の疑いがあるので自宅待機」という命令を受け、現在もその状態が続いているとのことである(https://sites.google.com/site/investigationofokayamau/

 

 これは明らかに異常な事態だ。自宅待機は、同大学の就業規則68条の2「学長は,職員が懲戒処分に該当する行為を行った場合は,当該懲戒処分が決定するまでの間,当該職員に自宅待機を命ずることができる」に元づいているとのことであるが、「自宅待機命令」が出てもう4ヶ月近くなる。これだけの長い「自宅待機」は通常では考えられない。しかも、どのような「非違行為の疑い」なのかすら、当該者に未だに通知されていないようである。たとえ両氏に「非違行為」があったとしても、それを速やかに調査し、処分をする責任は大学側にある。何もせずにただ「自宅待機」を続けさせる行為は、「人権侵害」と批判されても仕方ないだろう。

 

 この問題を複雑化させているのは、これらの処分が「研究不正の告発を大学側がもみけそうとした」という両氏の主張に対する報復行為ではないかと疑われている点である。大学側は「研究不正はなかった」という結論を326日に発表しているが(http://www.okayama-u.ac.jp/tp/news/news_id4424.html)、サイエンスライターの片瀬氏は、大学側から資料を取り寄せ、調査に問題があることを指摘している(http://d.hatena.ne.jp/warbler/)。全部の点についてはチェックしていないが、最初に指摘されている論文1Fig.1の図は「切り貼り」されている可能性が極めて高い(図を拡大すると、Fig. 1Bの右側2レーンのゲルの方がわずかながら大きいように思われる)。小保方氏の図の切り貼りについてはさんざん議論があり、私としては、「ゲルを切り貼りしたからすぐに不正」とまで結論すべきではないと思うが、オリジナルデータの提示や再現実験の必要性はあるだろう。Fig. 2についても疑義が指摘されているが、これもオリジナルデータの提示や再現実験の必要性がある。

 

 森山・榎本氏の「仮処分命令申立書」から、両氏のどのような行為がハラスメントと認定されたかが推測できる

http://seesaawiki.jp/rebirth_okayama/d/%C4%E4%BF%A6%BD%E8%CA%AC%C4%E4%BB%DF%B2%BE%BD%E8%CA%AC%BF%BD%CE%A9%A4%CB%A4%C4%A4%A4%A4%C6)。

両氏が扱っていた問題は、(1)元学部長やプロジェクト責任者による恣意的運営の是正、(2)教員の移動(研究主体の研究室(講座)から教育主体のセンター(小講座)への移動)、(3)学生へのハラスメントに対する対応。これらの問題は、多かれ少なかれどこの大学も抱えている問題であろう。国立大学の経常経費は削られており、削られた予算はプロジェクト経費へと回されている。それゆえ、プロジェクトの責任者は予算権や機器使用において大きな権限をもち得るようになっている。教員の移動については、薬学部6年制の移行に伴う教育を主務とする教員の増加が求められていたという事情があるのだろう。ある面では薬学部固有の問題であるが、「大学改革」の名の下、教育の量および質的変換を求められている状況では、他の学部も同様な問題を抱えている。ハラスメントについては、その対応は難しく、対応自身がハラスメントになる可能性は常に含まれている。

 

 文科省は学長の権限を強化すれば、大学教育の質の向上につながると思っている。しかしながら、問題は、強化された学長権限に見合う見識のある大学人がこの日本にいるかどうかだろう。国立大学の中でも比較的上位校といわれる岡山大学ですら、コンプライアンスやガバナンスが保たれていないということをこの事件は示している。

 

 私が学生の頃は、文科省は「学生運動とそれに加担した若手教員はけしからん」として、教授会の権限を強めた。そして、今度は教授会が大学改革の妨げになるとして、教授会権限を削り学長権限を強め、配分金を「餌」に大学改革を強いている。後何年か、何十年かすると、文科省は「学長が大学改革を妨げている」と言い出すかもしれない。