やっと本を購入できた。まだ8章「ハシゴは外された」までしか読めていないが、とりあえず現時点での簡単な見解を述べたい。なお、私は小学校の頃から「読書感想文」というものが大嫌いで、夏休みの宿題などに出ると何を書いてよいのかわからずいつも困っていた。なぜ「面白かった」または「つまらなかった」だけではいけないのか。いつもそのように思いながら、指定された字数に見あうだけの感想を適当に書いていた。あれは「捏造」だったのだろうか?

多くの人が指摘しているが、確かに文章は非常にうまく書かれている。講談社の担当者によると「誤字以外は直さず、本人がすべて執筆」とのことであるが、にわかには信じがたいほどだ。

22ページには、細胞培養について以下の記述がある。

>フィーダー細胞上に播かれた口腔粘膜上皮細胞は最初コロニーと呼ばれる円形の細胞集団を作り出す。培地の海の中に小さな島々が点在しているように見えるコロニーの周りには、フィーダー細胞が、海のさざ波のように散在して観察される。日が経つにつれて、この島状のコロニーはだんだんと大きくなり、島の間のさざ波はだんだんと数が減っていく。こうしてコロニーが大きくなっていくと、いつの間にか離れこじまだったコロニー同士がくっつき、----ヨーロッパの道の石畳のような、敷石状に敷き詰められた美しい口腔粘膜上皮細胞シートが観察される

私はフィーダー細胞の上での細胞培養の経験は無いが、この記述でその情景が目に浮かぶようだ。2015215日の記事でも述べたが、やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れない」、「生き別れた息子を捜しに行きたい」、「魂の限界まで取り組み」と、彼女の言葉使いは文学的だ。

理解できないことは、これほど観察力もあり、また文章がうまい人間が、なぜ「陽性かくにん!よかった」などという稚拙な実験ノートを書くのかということである。

述べるべき事は多々あるのだが、とりあえず後2点述べておく。

この本の最初に彼女が高校入試に失敗したことが書いてある。

>中学校での成績は、全国模試での成績を見ても首都圏で最難関の国立大学付属高校等への合格は確実だと思われていた。ところが周囲の人々の期待を裏切り、たまたま滑り止め に受けた高校以外合格することができず、強い挫折を経験した。

 「周囲の人々の期待を裏切り」という感覚は、小保方氏の中にずっとある気持ちなのだろう。「はじめに」においても「私は誰の期待にも応えられない自分に失望ばかりの人生を歩んできました」と述べている。根底にこの気持ちがあるため、彼女は無意識のうちに人に、特に年上の男性研究者に好かれようと行動しているのかもしれない。何度か述べたが、彼女の行動には「受け身」的なところがある。不正が認定された後の会見においても、自ら「再現実験をしたい」とは主張せず、「誰かが再現実験を行うならば行ってアドバイスしたい」などと頓珍漢な答えをしている。「受け身」ということは、裏を返せば「相手に合わせたい」「相手の期待に応えたい」ということだろう。

 第二点目は、小保方氏がバカンティ研究室のポスドクでありながら、なぜ実質的には若山研究室で研究をしていたかがわかったということだ。小保方氏は、博士号取得後にバカンティ研へ行くことになっていたが、就労ビザの発給が遅れたために一時的に若山研究室で実験をすることになる。そこで若山氏から、若山研究室の研究員の誘いを受ける。これから行う実験を考えた場合、バカンティ研よりも若山研の方がずっと環境がよいことから、小保方氏は若山氏の誘いを受けることにする。バカンティ氏からすると、若山氏の下へ行かれてしまうと、バカンティ研でのアイデアに基づく研究の成果を取られてしまうおそれがあった。それを防ぐために、バカンティ氏は「研究は若山研、所属はバカンティ研」と提案した。

 この説明だと、「小保方氏は若山研のポスドクであった」ということにおそらく間違いはないだろう。


追記:212

 「あの日」の中に、2015627日「早稲田大学が明らかにすべき事」で「不明」と述べた、「スフェア細胞からキメラができたかどうか」についての記載があった。これについては、CDBの自己点検検証委員会報告書には、「20105月:東京女子医大から細胞持参で若山研究室に数回訪問。キメラ作製は失敗」とあるが、早稲大学の博士論文調査報告書の記述から推測すると、「キメラ作製は成功」したと考えられたので疑問であった。


>(66ページ)胎児がキメラになっていれば、注入されたスフェア細胞由来のGFPが観察されるはずだった。若山研の研究員の方が丁寧に観察と写真の撮影をしてくださり、「他の胎児と比べるとわずかながらGFPが光っているように見えると教えていただいた胎児を中心に50匹を選別し、女子医大に持ち帰って更なる解析を行うことになった。


 ----GFP陽性の細胞はキメラマウスに存在していたが、組織を反映しているというよりも、組織内に散在しているという表現のほうが正しいと思われた。キメラマウスの遺伝子を解析すると、割合は少ないがスフェア由来の遺伝子が存在するキメラマウスも確認された。----既存の多能性幹細胞からできてくるキメラマウスとは見た目の特徴が大きく異なっていた。多能性という既存の定義に当てはめて、このスフェア細胞を見ていいものなのかは大きな疑問であり、新たな解釈が必要であると考えられた。


 この記述は、遺伝子解析データが欠落していることを除けば、小保方氏の博士論文の図と合致する(http://stapcells.up.seesaa.net/image/Figures.pdf)。つまり、通常のキメラとは異なっていたので、自己点検検証委員会は「キメラ作製は失敗」と報告書に記載したのだろう。


 ところで、「スフェア細胞」に関して私は誤解をしていた。スフェア細胞の研究が発展して「STAP細胞」の発見につながるので、両者は共にストレスによって体細胞から生じ、単に「機械的ストレス」(スフェア細胞)か、「酸ストレス」(STAP細胞)の違いだと私は思っていた。しかしながら、両者はまったく性質が違っていた。「あの日」の記載によると、スフェア細胞は通常の細胞よりも増殖力が強く、浮遊培養で増殖して細胞塊を作れる細胞であるのに対し、STAP細胞は増殖をしない。浮遊培養ができる細胞は、がん細胞のように増殖力が強い細胞であり、一方、通常の細胞は培養皿に接着した状態でしか培養ができない(専門用語では「足場依存性」という)。「がん細胞」に似た増殖力の強い細胞ならば、細胞は未分化の状態、すなわち何らかの「幹細胞」あるいは「初期化されている細胞」である可能性はあり得る話だ。


 ということは、小保方氏のTissue論文、つまり博士論文で述べられた、スフェア細胞が「三胚葉由来組織に共通した万能性体性幹細胞」という主張は、あながち「捏造」ではなかった可能性があるように思われる。


 博士号の取り消しについては、20151118日の記事で推測したとおり、早稲田の学位は再審査だったようだ。「あの日」には以下の記載がある。


>(245ページ)この説明には総長の決定と大きな理解の乖離があった。総長から指示されたのは「訂正と再度の論文指導」だったが、学科の先生たちは「再審査」を行うとしていた。


 また4回の論文指導は、(1)「今回は前回提出した博士論文からは章立てを変えて、日本語で書く選択肢もある」、(2)「英語の方がいい」、「論文のフォントの大きさを訂正するように」(3)「とにかく審査にかけられるように、図表の順番などの論文の体裁を整えて」、(4)「修正なのだから、やっぱり章立ては変えないほうがいいと判断した」とのこと。


 小保方氏のこれらの供述が真実かどうかはわからないが、「小保方氏のTissue論文は「不正」の疑いがある」と主張していた「早稲田有志」の先生方は、小保方氏の博士号取り消しが決まると論文の告発を止めてしまったようだ。これからすると、「早稲田有志」の方々の「不正疑惑指摘」は単に「学位取り消し」がねらいだった事は事実なのだろう。