横浜市金沢区の画家、柴山静穂さんは3年前の2月10日、胃の全摘手術を受けた。噴門部に病巣が見つかり、65回目の誕生日(2月20日)は病院のベッドで迎えた。ほどなく退院したものの胃袋のない体での通院は、こたえた。

 そのとき、自宅近くの公園で2分咲き程度の桜の木をみかけた。寒さに身構えるような薄紅色のつぼみはけなげで美しく、通院のたびに見上げた。枝ぶりは励ますように華やいでいき、やがて、満開。「桜とは、これほど美しいものだったか」。柴山さんは感動とともに当時の中田宏・横浜市長あてに手紙を書いた。「JR桜木町の駅周辺を桜で埋めましょう」

 明治5年、日本最初の鉄道路線となった品川-横浜間の終着駅は「横浜停車場」と称した今の桜木町駅である。東海道線の拡張などに伴い横浜の駅名は譲り、大正4年から「桜木町」となった。駅名は鉄道敷設前の整備により埋め立てられた桜木川に由来する。駅舎に沿った川筋には桜並木が続き、人々の目を楽しませたという。

 そんな、鉄道史を飾る筋目正しき駅なのだが、今、駅周辺に桜並木は見あたらない。海側はランドマークタワーなどが並ぶみなとみらい地区の玄関口になり、駅舎も平成元年に、白い、ツルンとした細長い筒のような形状に建て替えられた。旧駅舎をスケッチしてきた柴山さんには、新しい駅舎も桜並木のない周辺も物足りなかった。駅舎はともかく、せめて桜並木を-。病気が背中を押した。

 「前向きに検討します」。市から届いた便りを額面通りに受け取って待つこと2年。何の動きもないので再び手紙を送ると、最初と同じ内容の返事が届いた。

 1年に及ぶ市役所通いと談判とで柴山さんは駅前に2本の桜の木を植える許可を得て、3月24日に植樹を行う。苗木100本を寄贈する当初の構想には遠く及ばないと柴山さんは頭をかくが、岩盤のように固い役所をよくぞ動かしたと周囲の支援者は驚いているという。日本人に愛される桜も役所にとっては、毛虫が出やすく枝が低く広がって管理の大変な「街路樹としては実に困った存在」(横浜市道路局施設課)だそうだ。

 病を機に世の役に立とうと動いた柴山さんの姿は、黒澤明監督の名作「生きる」を連想させる。胃がん宣告を機に児童公園づくりに邁進(まいしん)する名優・志村喬演じる市民課長は、役所の内側にいたからこそ思いを遂げられたのである。横浜市に“志村課長”は、まだいない。(横浜総局長 風間正人)

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