2014年05月
2014年05月09日
はじめに
三極真空管OTLアンプは音が良いと言われているが、大きな欠点として消費電力の大きさにある。
いかに消費電力を下げかつ三極真空管のもつ特性を生かすことが出来ないか検討している。
三極真空管とトランジスタを使用した以下の様な球リントン回路として知られている。
なお、球リントン回路の発案者は手作りアンプの会会員である 田中安彦氏とのこと。
三極管特性ハイブリッド出力回路
この出力回路の特性をシミュレーションした結果は以下のような特性になる。
三極管特性ハイブリッド出力回路
出力トランスを使用しないOTL出力回路では、接続されるスピーカーのインピーダンスが4~16オームと低い値なので、上図のままの回路ではトランジスタの消費電力が膨大になってしまう。
消費電力を下げるために、トランジスタの供給電源電圧をスピーカーの負荷抵抗に合わせて下げれば良いので、以下のような回路構成の出力回路を使用することにした。
この出力回路の特性をシミュレーションした結果は以下のような特性になる。
この回路をベースに、出力トランジスタにNPN、PNPのコンプリメンタリエミッタフォロア接続にして三極真空管のSEPP回路構成として以下のような出力回路にした。
この出力回路における真空管の直流バイアスを-5.8V、U1 とU2のG1には位相反転した交流入力電圧±4.3VP-Pを与えた時のスピーカーへの出力電圧をシミュレーションした結果は以下のグラフのようになった。
ブリーダー抵抗によるバランス改善回路(回路2)
シミュレーションによる機能性評価
この出力回路では、三極真空管が電圧増幅を行い、コンプリメンタリエミッタフォロアのトランジスタが電流増幅を行っていることになる。
この回路を安定に動作させるためにQ1、Q2に流れる電流をバランスさせる必要があるが、実際の回路では、温度、電源電圧の変動、使用する真空管やトランジスタの特性のばらつき及び経時変化に対して対策をしておかなければならない。
動作バイアス安定性の改善回路 動作バイアス安定化回路によるバランス改善回路(回路1)
Q3、Q4のP-MOS FETによる差動増幅回路でトランジスタの電源V5の中点電位と接地電位との電位差を検出して、その電位差がゼロになるようにブリーダー抵抗R19に流れる電流をトランジスタQ5で制御する。
動作バイアス安定性の改善回路
Q3、Q4のP-MOS FETによる差動増幅回路でトランジスタの電源V5の中点電位と接地電位との電位差を検出して、その電位差がゼロになるようにブリーダー抵抗R19に流れる電流をトランジスタQ5で制御する。
ブリーダー抵抗R15 とR19に流れる電流の差分の電流が三極管12BH7Aのプレート電流に重畳され出力トランジスタQ1、Q2に流れる直流バイアス電流が同じ値になるように制御される。
何らかの要因でQ2のコレクタ電流が増加するとR1、R2の接続点の電位がマイナス側に変位する。
Q3、Q4の差動増幅回路によりQ5のベース電流が減少するのでブリーダー抵抗R19の電流が減る。
R15 とU2のプレート電流の和とR19 とU1のプレート電流はほぼバランスするのでR19の電流が減った分U1のプレート電流が増加してQ1のコレクター電流が増加する。
上記のプロセスを経てR1、R2の接続点の電位がゼロになると平衡状態になる。
ブリーダー抵抗によるバランス改善回路(回路2)
トランジスタ電源V5のブリーダー抵抗としてR1、R2を用いることによりQ1、Q2のコレクター電流のアンバランスをある程度吸収することが出来る。
同様に、真空管の電源V1のブリーダー抵抗としてR15、R19を用いることによりU1、U2のプレート電流のアンバランスをある程度吸収することが出来る。
シミュレーションによる機能性評価
この二つの回路の安定性について、定量的に評価する目的で品質工学の機能性評価という手法を用いた。
実際の回路で、電源電圧、真空管、トランジスタなどのばらつきの要因を組み合わせて評価することは大変なことであるが、シミュレーションを用いることで数値実験を行い安定性についての評価を行うことが出来る。
出力回路のバランスの安定性に影響を与えそうな要因として、トランジスタ電源V5の電圧変動、真空管電源V1の電圧変動、真空管12AX7のGm、真空管12BH7AのGm、トランジスタQ1,Q2のHfeを取り上げて評価することにした。
上記の安定性に影響を与えそうな要因をL18の直交表に割り付けて評価するための水準表は以下のとおりである。
表中のGLは真空管の定格のGmの-30%、Gは定格のGm、GHは定格のGmの+30%のGmを表す。
表中のGLは真空管の定格のGmの-30%、Gは定格のGm、GHは定格のGmの+30%のGmを表す。