October 20, 2009

唯「ギコギコギコギコギコ」 第四部~エピローグ

ニュー速VIPより 唯「ギコギコギコギコギコ」

294 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/19(月) 23:59:04.35 ID:yQlSaSRh0


憂「…お姉ちゃん!お姉ちゃん!?」

浴槽の中で忘我状態だった私を現実に引き戻したのは、憂の声だった。

憂「お姉ちゃん…どうしたの?大丈夫?」

憂は心配そうに、風呂のマットに膝をつきながら、私の顔を覗き込んでいる。
その真っ直ぐな目は、塞ぐ姉を心配する妹のそれでしかなく、私は先程まで友達と結託して腹を探っていた自分を恥じた。


―ああ、そうだ。今日はクリスマス。ここは私の家の風呂場。
夏の夜でもなければ、お嬢様の別荘でもない。
その証拠に、風呂場の小さい窓からは、星も朝日も見えない。

唯「えへへ…ぼーっとしてた」

憂「のぼせてない?」

唯「うん。大丈夫」

憂「…梓ちゃんの事思い出してたの…?」



第一部~第三部





296 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:00:49.37 ID:gXrQNFyw0

私は精一杯笑顔を取り繕ったつもりだったが、この聡明な妹には見透かされたようだ。

唯「うん…」

頷いて顔を落とす私を、憂は自分の服が濡れるのも意に介さず、抱きしめた。

憂「大丈夫…。大丈夫だから…」

憂は小さく、そう繰り返した。

憂の髪から、あの時の匂いがした。
あのシャンプーの。

憂はあずにゃんと同じシャンプーを使っていた。
合宿の少し前にあずにゃんから教えてもらったらしく、憂はそれをとても気に入っていた。

柑橘系のその匂いを肺いっぱいに吸い込んだ私は、憂を私の身体からゆっくり引き離した。



298 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:03:40.34 ID:gXrQNFyw0

唯「ごめん、ごめん。もうあがるね。憂も早く入りなよ」

私は浴槽を出ると、座ったままの憂の横を通り、脱衣所のバスタオルで身体を拭いた。

憂「…」

立ち去る私を、憂は無言で見つめていた。

私はあの日以来、あのシャンプーの匂いを畏れるようになっていた。
また私は理性を失うかもしれない。そう思うと、汗腺が刺激されるような、焦燥感に駆られてしまうのだ。
実際、あの時みたいな事はもうなかったが、匂いと記憶は密接にリンクしていて、あの匂いを嗅ぐだけで、全ての記憶が荒波の様に押し寄せてくるのだ。
それが堪らなく気持ち悪かった。

にも関わらず、私の本能はその匂いを求めた。
精神的な依存に近かった。いまだに私はあずにゃんの身体を欲していたのだろう。
憂に隠れて、私は風呂場で何度もその匂いを嗅いでいた。

しかし、私はその依存を断ち切るべく、先週、憂が買ってきたシャンプーの買い置きを全て捨てた。



299 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:05:21.07 ID:gXrQNFyw0

ちょうど私がパジャマに着替え終わる頃、憂は服を脱いで風呂場のドアを閉めていた。

さらさらとシャワーの音が聞こえてくる。

その水音もあの日の記憶を蘇えらせるため、私はなるべくそれが聞こえないよう、居間のテレビをつけた。

あの特番は終わったのか、今はアイドルグループが理想のクリスマスを語る番組が放映されていた。

それを見るともなく見ていると、風呂場から憂の声がした。

憂「お姉ちゃーん、シャンプーきれちゃったから、詰め替え用のとってくれる?」



301 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:06:52.48 ID:gXrQNFyw0

私は洗面所でシャンプーの替えを探すフリをした後、

唯「憂~、ないよー」

と白々しく言った。

憂「え?こないだ買ってきたはずなんだけど…」

唯「でも見当たらないよー?」

憂「…え~…?」

唯「コンビニ行って買ってこようか?…って私お金ないかも…」

憂「うーん…じゃあ、居間のテーブルの上に私の財布があるから、買ってきてくれる?」

唯「わかったー」

憂「ありがとうお姉ちゃん。あ、出来れば同じの買ってきて欲しいな」

唯「うん。あったらそれ買ってくるよ」



303 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 00:07:06.43 ID:uAigaPFcO

うい死んだな



305 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:10:03.79 ID:gXrQNFyw0

風呂場のガラス越しに、互いの顔を見る事なく会話を終えた私は居間に向かった。
テレビを消し、憂の牛皮の財布をパジャマのポケットに入れ、パジャマの上からコートを羽織ると、サンダルを履いて私は家を出た。

勿論、憂には別のシャンプーを買っていくつもりだった。

唯「う…さぶい…はぁ~…」

頬を刺す寒さの中、私は手袋をはめた両手を擦り合わせながら、コンビニへ向かった。

私が吐いた白い息は、ゆっくりと昇っていった。
私はそれを目で追っていく。
白いモヤはあっという間に、消えてなくなり、私はそれが広がっていくのに吊られて、空を見上げる格好になっていた。

そこにあの露天風呂から見た星空はなく、雲なのか排気ガスなのかよくわからないものに夜空が覆われているだけだった。

私は雲間(ガス間かもしれないが)から星が見えないか目を凝らした。

――合宿の帰りもこんな具合の曇りだった事を、私は思い出した。



306 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:12:30.45 ID:gXrQNFyw0

律「…いや~な空だな」

合宿の帰りは夕方だった。
昨夜までは晴れていたはずの空は、そこに浮かんでいるのが不思議なほど重く見える雲群に覆われていた。


その日、きちがいじみたあの夜を越え、朝を迎えた私達は、早速隠蔽工作に着手した。
澪ちゃんとムギちゃんは半日かけて、ケータイを使ってネットで必死にエンバーミング…いわゆる防腐処理について調べた。

私とりっちゃんは、風呂場を徹底的に洗い直した後、再び入浴した。
これは風呂場が綺麗すぎるのは逆に怪しいという澪ちゃんの指摘に従っての事だった。

すでに垢など残っていない身体をボディソープで洗い流すのは、妙な気分だった。
垢は落とせても、罪を流す事はできない。むしろこれによって、さらに私達の身体は汚れていく気がした。
何かのドラマで、「長いこと人間やってると、洗っても落ちない汚れがつくもんだ」というセリフがあったが、まさか18年ぽっちの人生でこんな大きい汚れがこびりつくとは、私もりっちゃんも思わなかった。



309 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:15:39.51 ID:gXrQNFyw0

それから私達はあずにゃんをギターケースに詰め、あずにゃんの荷物を持ってバスに乗った。

それから電車を二回乗り継ぎ、私達は桜ヶ丘に帰ってきた。

りっちゃんはあずにゃんの家に荷物を届け、私と澪ちゃんとムギちゃんは、澪ちゃんの家でアルコールや小難しい名前の薬品を使い、あずにゃんにとりあえずの防腐処理を施した。
みんな医学の素人ではあったが、何もしないよりはマシだった。
実際、ある程度の効果はあったらしく、その後腐臭立ち込める自室で数学の宿題をするハメになる…なんて事はなかった。

加えて、全員の部屋でアロマオイルを焚き続ける事にした。少しでもニオイを掻き消すためである。



311 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:18:01.16 ID:gXrQNFyw0

防腐処理を終えた私達はりっちゃんの帰りを待った。
程なくしてりっちゃんは澪ちゃんの家に来て、万事上手くいった旨を私達に伝えた。

とりあえず私達は解散し、明日また集まる事にした。

私達は担当部位をギターケースに隠し、各自の家へ持ち帰った。ムギちゃんとりっちゃんのぶんは、別荘から持ってきたケースで補った。


唯「ただいま」

憂「あ、お姉ちゃんおかえり!合宿どうだった?」

家に着いた私は、出迎えてくれた憂を一瞥しただけで、問い掛けには答えないまま、階段を上がって自分の部屋に入った。
ギターケースを二つ抱えている私の姿は、憂の目にどう映っただろう。



314 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:21:20.28 ID:gXrQNFyw0

クローゼットにあずにゃんの頭部と上半身が入ったギターケースを押し込めて、澪ちゃんの家の帰りに百貨店で購入したアロマオイルを炊き、私はベッドに俯せになった。
そして枕に顔を埋めた後、ふうっと息を吐いた。
甘ったるいラベンダーの香りが部屋に充満した。

コンコン

部屋のドアをノックする音がした。

憂「お姉ちゃん、入るよ」

憂「あれ?いい匂いがするね?」

唯「…」

憂「お姉ちゃん、何かあったの…?軽音部の人と喧嘩しちゃった…?」

私は枕に顔を埋めたまましばらく黙っていたが、憂が立ち去る気配もなかったため、顔を上げて話しはじめた。

唯「あずにゃんと喧嘩しちゃった…」

憂「梓ちゃんと…?」



317 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:23:26.08 ID:gXrQNFyw0

唯「うん。私が練習しないから、怒って帰っちゃったんだ…」

事前に用意したセリフ通りに私は話した。
私は精神的に参っていたが、私達にとって憂は最も警戒すべき相手だ。
ここで私が心身疲労を理由に下手を打つわけにはいない。

憂「そうなんだ…。ちゃんと梓ちゃんに謝った?」

唯「うん…謝ったよ。何回も謝った」

これは本当だった。
私は謝った。
何回も、何回も。
これからも私は、心の中で謝り続けるだろう。謝り続けなければならない。



318 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:24:56.31 ID:gXrQNFyw0

憂「そう…。じゃあ梓ちゃんもきっと許してくれるよ。私からも言っておくから…」

唯「うん。ありがとう…」

憂「ご飯、何時にする?」

唯「ごめん…今日はいらない。私、疲れたから寝てるね」

憂「うん…。何かあったら呼んでね?」

そう言って憂は私の部屋を出ていった。



319 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:26:14.89 ID:gXrQNFyw0

私はベッドに寝そべりながら机の上の時計に目をやった。19時過ぎだ。

みんなに、憂にはうまく伝えたとメールを送り、ケータイを放り投げると、私はまた枕に顔を埋めた。

唯「…っ……っぅ……!」

憂に気付かれないよう、私は声を殺して泣いた。



326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:35:47.78 ID:gXrQNFyw0

泣きつかれた私は、そのまま眠りに落ちた。
が、30分もしないうちに目を覚ましてしまい、身体は疲労を訴えていたが、精神が眠る事を許さなかった。

枕の端をぎゅっと握りながら、私は何度か思い出した様に泣いた。

それを繰り返しているうちに、カーテンの隙間から朝日が射し込んできた。

部屋を出て階段を降り、居間に入ると、憂が掃除機のコンセントを収納していた、
どうやら朝から掃除をしていて、今しがた終えたらしい。

憂「あ、お姉ちゃんおはよう。ご飯テーブルに置いてあるよ」

唯「うん。ありがとう」

憂「…ねえ、梓ちゃんの事なんだけどさ」

その言葉を聞いて、私の全身の神経がぴんと張り詰めた。



327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:36:19.12 ID:t/kb93FRO

ほんま憂ちゃんの気遣いは五臓六腑に染み渡るでぇ



328 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:37:29.33 ID:W8j8FEwi0

なんか面白くなってきたな



329 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:39:40.81 ID:gXrQNFyw0

唯「あずにゃんがどうかしたの…?」

憂「うん。昨日お姉ちゃんの話を聞いてからメールしたんだけど、返事がないんだ」

憂「それで電話してみたんだけど、梓ちゃんのお母さんが出てね、まだお家に帰ってないんだって…」

唯「…どういう事?」

私は愚鈍な姉を演じた。

憂「わかんないけど…家出すような子じゃないし…心配だよ…」

唯「うん…。確かにそれは心配だね…どうしちゃったんだろう?」



334 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:46:16.21 ID:gXrQNFyw0

憂「お姉ちゃんと喧嘩して紬さんの別荘を飛び出しちゃったんでしょ?」

憂「ちゃんと桜ヶ丘まで帰って来れてないのかな…?」

唯「…どうしよう…あずにゃん、迷子になっちゃったのかな?」

憂「…ねえ、もし明日になっても連絡つかなかったら、警察の人に相談したほうがいいと思う…」

憂「女の子が一人で歩いてたら危ないし…もしかしたら何かあったのかも…」

警察という単語を聞いて、私の心臓が大きく鳴った。
ここで私が通報を止めるのはおかしい。
いつもの私なら、間違いなく憂に同意しているはずだ。
私は逡巡した後、答えた。

唯「うん。そうだね。あずにゃんに何かあったら、私も嫌だもん…」



339 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:54:46.48 ID:gXrQNFyw0

憂「…本当に何もなければいいけど…大丈夫だよね?」

唯「うん…。きっと迷子になっちゃったんだね…。猫さんみたい」

憂「ふふ…もう、お姉ちゃんったら」

まだ失踪1日目だ。
さしもの憂も、まだ重大な事態になっているなんていうのは、万に一つくらいにしか思ってないだろう。
憂は時代錯誤な三角巾を外すと、掃除機を階段下の物置に仕舞いに行った。

その日、りっちゃんの家に集まり、話し合いをしたが、まだこれといった動きはなかった。

私達は家族に何も気づかれていない事を確認し合い、解散した。



342 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:57:06.59 ID:gXrQNFyw0

三日後。
夏休み最後の週の水曜日に、あずにゃんの母親が私の家を訪ねてきた。

あずにゃんが合宿の日から家に帰って来ないため、私に話を伺いに来たようだ。

他の三人から、あずにゃんの母親が来たという話をまだ聞いていなかったので、察するに、軽音部の中で私を最初に訪ねたようだ。

梓母「梓から、唯ちゃんの話は良く聞いていました。梓をとても可愛がってくれていたみたいで…」

私は前置きを遮るように言った。

唯「あずにゃ…梓ちゃんはまだ帰ってないんですか?」

梓母「…はい。唯ちゃんは何か知ってる?」

敬語とタメ口を混ぜて喋る人だった。
私のほうが20歳近く年下だが、娘の先輩であるため、何となく扱いにくいのだろう。



343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 00:58:00.40 ID:gXrQNFyw0

唯「わかんないです…。合宿で別れてから、何の連絡も来てませんし…」

梓母「…そう…ですか…」

その後、私達は互いにぽつぽつと言葉を交わし、私あずにゃんの母親は私から丁寧に何の手がかりも得られそうもない事を悟り、丁寧に挨拶をしてから、私の家を去った。

私は自分の部屋に戻ると、急いで三人にメールを送った。私が話した内容を出来るだけ詳しく。
後で食い違いが生じないように、これは全員に義務づけられた行動だった。



345 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:01:26.56 ID:gXrQNFyw0

あれ?焼くと灰が飛んで、そこから足がつく可能性があるってビビリの澪が言った場面書かなかったっけ…?

書いてなかったらそーゆー事でお願いします。
実際はそんな所からバレないのかも知れないけど、慎重派の澪は極端に警察を警戒したって事でここは一つ…



350 名前:誤字多いので修正[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:07:52.64 ID:gXrQNFyw0

唯「わかんないです…。合宿で別れてから、何の連絡も来てませんし…」

梓母「…そう…ですか…」

その後、私達は互いにぽつぽつと言葉を交わしたが、あずにゃんの母親は私から何の手がかりも得られそうもない事を悟り、丁寧に挨拶をしてから、私の家を去った。

私は自分の部屋に戻ると、急いで三人にメールを送った。
私が話した内容を出来るだけ詳しく書いて。
後で食い違いが生じないように、これは全員に義務づけられた行動だった。



352 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:08:54.66 ID:hin+Lao/0

焼いている現場を目撃される恐れがあるし、焼いた痕跡を隠すのも難しいからな
穴掘って埋めるのもそう簡単じゃないし…



353 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:11:33.38 ID:gXrQNFyw0

埋めると手元を離れる事になるため、何がきっかけで見つかるかわからない
澪と紬は知恵を絞って管理を徹底させたほうが安心できると踏んだ
とにかく、自分達の手元に梓を置いておきたかった

という事でw



360 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:20:53.20 ID:gXrQNFyw0

夏休み最後の日、警察の人が来た。
あずにゃんの両親が通報したらしい。
警察の訪問は、私が4人の中では最後だったため、事前に澪ちゃんから会話の内容とその対応を徹底的に指導されていたので、この日は難なく切り抜ける事ができた。

翌日、始業式を終えた私達は、いつものように音楽室に集まった。

私が音楽室に入った時、みんなの前にはムギちゃんが淹れた紅茶が置かれていたが、量が減っていないところを見ると、誰も口をつけていないようだ。
あずにゃんが座っていた席の前には、猫のイラストが描かれたカップが置いてあり、それも紅茶で満たされていた。

紬「はい。どうぞ唯ちゃん」

唯「ありがとう」

私はムギちゃんからカップを受け取り、席についた。

私のカップの中で揺れる紅茶から、湯気がゆらゆらと立ち昇った。



362 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:29:48.09 ID:gXrQNFyw0

律「…とりあえず、今の所は大丈夫そうだな」

りっちゃんが最初に口を開いた。
今日の議題は、バンドの事ではない。
宿題の事でもないし、試験の事でもない。
お菓子の事でもなければ、最近始まったドラマの事でもなかった。
私達は、これから毎日あずにゃんの話だけをして、放課後を過ごす事になるのだろう。
私達が守ろうとした以前の軽音部はもうどこにも存在しておらず、これは澪ちゃんとムギちゃんも誤算だったようだ。
音楽室と楽器とお茶があれば何とかなるほど、私達はシンプルに出来ていなかった。

澪「大丈夫?何が?」

澪ちゃんが不機嫌そうに尋ねた。

律「いや、今のところバレてなさそうじゃん」

澪「そんなのわかんないだろ。私達が気づいてないだけで、警察は既に証拠を掴んでいる可能性だってある」

紬「そうね。うまくいっている時こそ、油断したら命取りになるわ」



366 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:35:33.84 ID:gXrQNFyw0

律「うーん…そうかもなぁ…。でも石橋も叩き過ぎると壊れるぜ?」

紬「石橋は叩いて壊して、自分達で作って渡るくらいで丁度いいのよ。特にこういう時は」

律「…」

ムギちゃんに言い負かされて、りっちゃんは黙ってしまった。

紬「ごめんなさい。でも用心するに越した事はないから…」

律「いや、いいよ。ムギの言う通りだ。油断はご法度だな」

まだ誰も紅茶に口をつけていなかった。

澪「始業式でも、ホームルームでも、梓の話は出なかったな」

次に話を切り出したのは澪ちゃんだった。



371 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:43:36.91 ID:gXrQNFyw0

紬「生徒を不安にさせないため…ってところだろうね」

澪「多分ね。でも、先生達はそのうち私達に話を聞きにくると思うよ」

唯「その時は、今までと同じ対応で大丈夫かな?」

澪「ああ。それでいいよ。今までもなるべく嘘をつかないよう、「知らない」「わからない」で通してきたんだ」

紬「今は対応を変える意味がないわ。それに、先生方の質問も、警察のとほとんど変わらないと思う。少なくとも警察以上って事はないわ」

澪「あ…先生と言えば、さわ子先生なんだけどさ、今日学校に来てなかったのって何でだと思う?」

私とりっちゃんには皆目見当もつかなかったので、押し黙っていた。
するとムギちゃんがそれに答えた。

紬「十中八九、梓ちゃんの事で何かあったのね。警察に話を聞かれているか、監督不行届きで謹慎とか…」

澪「…だろうな」



376 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 01:54:15.49 ID:gXrQNFyw0

唯「先生、クビになっちゃうのかな…」

澪「わからない…。出来れば巻き込みたくなかったけど…」

律「…あのさ、私は部長だから、さっき学年主任の先生から聞かされたんだ」

律「さわちゃんは、軽音部の顧問から外されたよ。でも事情が事情だから、今年度いっぱいは廃部にはならないってさ」

音楽室に重い沈黙が訪れた。
カップの中の紅茶は、すでに冷めていたのか、湯気を出す事もなく揺れていた。

律「最悪、私達4人だけでも守らないとな…」

りっちゃんの言葉に誰も反論せず、私達はただ黙っていた。
この時、私達は満場一致の暗黙の了解で、さわちゃんを切った。
もっとも、私達が自首したところで、さわちゃんの処分は重くなるだけだ。
私達に、さわちゃんを救う手立てはなかった。

それよりも、私達にとって脅威になったかも知れないさわちゃんの退場に、誰もが内心ほっとしていた。



379 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:02:30.35 ID:gXrQNFyw0

唯「でもさ、さわちゃんから私達に不利な話が伝わっちゃうかも知れないよ?」

紬「それはありえないよ唯ちゃん」

紬「先生はあの日の事を何も知らないし…」

澪「そもそもあれは事故なんだ。それ以前の私達に兆候なんてないだろ」

唯「…でも、私、去年の合宿であずにゃんと…その…」

私は語尾を濁してから、話を続けた。

唯「そこから何か気づかれたりしないかな…」

紬「大丈夫よ。唯ちゃんが梓ちゃんに抱き着くの日常茶飯事だったし、万が一先生がそれを知っていて証言したとしても、そこから繋がる事はないわ」

唯「…そっか。そうだね」



382 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:09:22.25 ID:gXrQNFyw0

とりあえず今日の話し合いはこれで終わり…誰もがそう思っていた時、音楽室の壁のスピーカーから校内放送が流れた。

『生徒の呼び出しをします。軽音楽部の4年生は、今すぐ職員室に来てください。繰り返します。軽音楽部の生徒は…』

律「早速か」

澪「基本的には私とムギが質問に答える。律と唯は梓を心配するフリをしててくれ」

唯「うん。…あ、対応はこないだの澪ちゃんのメールと同じ感じでいいんでしょ?」

私がケータイを取り出して澪ちゃんに見せると、澪ちゃんはそれを何秒か眺めた後に言った。
その言葉は私にとって予想外のものだった。

澪「唯、それとみんな。今すぐメールは全部消せ」



387 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:17:16.43 ID:gXrQNFyw0

唯「え?何で…?」

紬「あ、もし誰かにケータイを見られたら、お終いだもんね」

律「でもそれならヤバいメールだけでいいじゃん。全部消す必要はなくない?」

澪「メールの保存件数上限があるだろ」

紬「あ、そうね…」

唯「え?え?どういう事?」

紬「普通、保存上限いっぱいまでメールが溜まると、古いものから消されていくでしょ?」

紬「特に私達女子高生は、すぐに上限に達しちゃうでしょ。だから例えば500件まで保存可なら、常に500件埋まってる状態が自然なの」

律「部分的に消すと500分の499ってなって、メールを消した事がバレるって事か」

唯「でも、全部消したらそれも結局メールをわざわざ消してるって思われない?」



388 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:18:02.06 ID:gXrQNFyw0

みすったwwwww4年生は俺だwwwwwwwwwwww



389 名前:修正[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:19:04.60 ID:gXrQNFyw0

とりあえず今日の話し合いはこれで終わり…誰もがそう思っていた時、音楽室の壁のスピーカーから校内放送が流れた。

『生徒の呼び出しをします。軽音楽部の3年生は、今すぐ職員室に来てください。繰り返します。軽音楽部の3年生は…』

律「早速か」

澪「基本的には私とムギが質問に答える。律と唯は梓を心配するフリをしててくれ」

唯「うん。…あ、対応はこないだの澪ちゃんのメールと同じ感じでいいんでしょ?」

私がケータイを取り出して澪ちゃんに見せると、澪ちゃんはそれを何秒か眺めた後に言った。
その言葉は私にとって予想外のものだった。

澪「唯、それとみんな。今すぐメールは全部消せ」



390 名前:修正[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:20:59.78 ID:gXrQNFyw0

唯「え?何で…?」

紬「あ、もし誰かにケータイを見られたら、お終いだもんね」

律「でもそれならヤバいメールだけでいいじゃん。全部消す必要はなくない?」

澪「メールの保存件数上限があるだろ」

紬「あ、そうね…」

唯「え?え?どういう事?」

紬「普通、保存上限いっぱいまでメールが溜まると、古いものから消されていくでしょ?」

紬「特に私達女子高生は、すぐに上限に達しちゃうでしょ。だから例えば500件まで保存可なら、常に500件埋まってる状態が自然なの」

律「部分的に消すと500分の499になって、メールを消したのがバレるって事か」

唯「でも、全部消したらそれも結局メールをわざわざ消してるって思われない?」



392 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:23:06.01 ID:01YFRxpm0

大学生の俺も「4年生」違和感無く読んでたw



398 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:31:14.86 ID:gXrQNFyw0

澪「いや、読んだメールと送信したメールを消す習慣があるって事にすればいい。実際そーゆー人いるし」

紬「でも全員にその習慣があるのも変ね。ここは、りっちゃんが以前に勝手にケータイを覗いた事があって、それからみんな警戒して消すようになったって事にしよう」

律「えぇ?何か私そんな役ばっかじゃね?」

澪「仕方ないだろ。律が一番それっぽいんだから」

律「…いいけどさー」

唯「ねえ、もしかして携帯会社にデータが残ってたりしないのかな…?」

澪「その可能性もある。でもよほど私達が疑わしくない限り、そこまで調べないと思う」

紬「第一、まだ死体も出てないんだから」

澪「…でも用心するに越した事はない。これからはヤバい内容を話す時は会って直接…だな」



403 名前:当初の構想段階ではマジで古畑出そうかと思ってたw[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:41:07.57 ID:gXrQNFyw0

澪「と言っても、緊急の時に会う事が出来ない場合もある。そういう時は…そうだな、暗号みたいな感じでメールしてくれ」

唯「暗号…?覚えられるかな…」

澪「出来る出来ないじゃなくてやれよ…」

唯「ご、ごめん。そうだよね…」

紬「でも私達以外に理解不能なメールだと、それが暗号だとバレるわ。万が一他の人が見ても、別の意味で通じるようにしないと」

律「…どゆこと?」

澪「なるほど。例えば「死体の防腐処理」は「ドラムのメンテナンス」に言い換える…こういう事だろムギ?」

紬「うん。そういう事。隠語に関しては、みんなで相談して決めましょう」

唯「うん、わかった。…さ、早く職員室に行こう。もたもたしてたら怪しまれるよ」

澪「そうだな、行こう。大丈夫。今のところ私達にぬかりはない」



406 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 02:51:48.48 ID:gXrQNFyw0

「今のところ」と言うあたりが、慎重な澪ちゃんらしかった。
澪ちゃんにとっては、自分の頭脳ですら、疑う対象なのだ。
それがかえって、私達は客観的だという事を感じさせ、安心できた。

事実、私達は先生達の梓ちゃんに関する質問を難なく切り抜ける事ができた。

その後何度か警察の人が話を聞きに来る事もあったが、私達は後輩の失踪を悲しむ女子高生を演じ続け、危機を感じる事もなかった。

そのまま一ヶ月が過ぎた。
睡眠不足は相変わらずで、みんな見る見る痩せていったが、周囲の目には、はあずにゃんを心配しているがため…と映っていたようだ。
このまま上手く行く…慎重な澪ちゃんですら、そう確信し始めていた10月のある日、最初の危機が訪れた。



413 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 03:07:01.38 ID:gXrQNFyw0

あずにゃんの不在を理由に文化祭ライブを辞退した私達は、部活を引退した。
元々軽音部を守るという目的で、私達は自首をしないと決めたが、結局ロクなバンド活動は合宿以来出来ていなかった。
それでも私達は、バンドを守るためという名目を掲げ、隠語を駆使してまで嘘をつき続けた。
目的のための手段が、手段のための目的にすりかわり、みんなそれに気づかないフリをした。
私達は自分自身と、守りたかった軽音部にまで嘘をついていた事になる。
それでも、もう後には引けなかった。
部活を引退してからは、下校後に4人のうち誰かの家を日替わりで、「ティータイム」をする事になっていた。
バンド名に冠された「ティータイム」という単語は、今や私達のどす黒い会合を表す隠語となっていた。

今日もこれと言った報告はないな…そう思いながら、私はその日、和ちゃんと下校していた。

唯「…」

私達は特に会話をするでもなく、歩きなれた下校ルートで家路についていた。

和「…気持ちはわかるけどさ、そろそろ元気出したら?」



417 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 03:13:15.26 ID:gXrQNFyw0

唯「うん…。そうだよね…」

私は後輩を失って悲しむ女の子の顔をして答えた。

和「…」

和ちゃんは答えない。

唯「…」

私もそのまま黙り込み、私達は互いの家への分かれ道に差し掛かった。
そこで和ちゃんが口を開いた。

和「唯、あ…あのさ…もし違ってたらごめんね?…あ、あの…」

唯「…?なあに和ちゃん?」

一呼吸置いてから、和ちゃんは恐る恐る私に尋ねた。

和「…本当は梓がどこにいるのか、知ってるんじゃないの…?」



430 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 03:43:29.30 ID:gXrQNFyw0

私の脳細胞の全てが、和ちゃんの言葉の意味を分析し始めた。
和ちゃんは今、「本当は梓がどこにいるか、知ってるんじゃないの?」と言った。
「本当は」と言ったのだ。

和ちゃんは私が、あずにゃんの居場所を知ってて隠していると思っている。

私はすぐにでも澪ちゃんかムギちゃんに助けを求めたかった。
しかし、ここは私一人で乗り切らなきゃいけない。
沈黙するわけにもいかないので、私は和ちゃんに聞き返した。

唯「え?どういう事?」

和「…そのままの意味よ。私に何か隠してない?」

これまで、警察に似たような質問をされた事はあった。
だがそれは、「心当たりはない?」という程度のもので、今の和ちゃんほど直接的ではなかった。
ムギちゃん曰く、警察が私達を疑っていると私達に気づかれたら、私達が口を閉ざす可能性があるから…との事だ。
私達は警察に疑われている事を前提に会話内容を予め決めていたので、ボロを出す事はなかった。
それだけに、素人の和ちゃんの問いは、予測のしようがなく、警察のそれより遥かに恐ろしく感じられた。



431 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 03:53:06.34 ID:gXrQNFyw0

唯「何も隠してないよ…。何でそう思うの…?」

私は演技を続けながら、和ちゃんに探りを入れた。

和「…だってあなた達、自分の後輩なのに、全然梓を探そうとしないじゃない…」

和「私の知ってる唯は、こういう時、常識も何もかも放り出して梓を探す…そういう子よ」

和「…私には唯が、どうしてそんなに大人しくしていられるかわからないの…」

今まで、私はムギちゃんと澪ちゃんに指示された通りに動いてきた。
二人が今までの私から想定した、「能天気な平沢唯」を演じてきた。
だが、それは本来の平沢唯ではなかった。
それを想定した澪ちゃんっぽさ、ムギちゃんっぽさが、「能天気な平沢唯」から、水銀が滲む様に漏れ出ていたのだろう。
和ちゃんが「大人しい」と感じた原因はまさにこれだった。



433 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 04:02:54.48 ID:gXrQNFyw0

唯「そんな事ないよ…。今でも私はあずにゃんを心配してるよ…」

和「…唯…お願い…。本当の事を言って…」

唯「さっきから言ってるじゃん…」

和「…」

和「…変な事言ってごめんなさい。もう忘れて…?」

和ちゃんは引いたが、このままではうまくない事が、私の足りない頭でも容易に理解できた。
疑念を持たれたままでいいはずがない。何としても、和ちゃんを納得させなければいけない。

和「じゃあ、また明日学校でね。今度久々に二人で遊ぼう。あなたには気晴らしが必要だと思うから」

唯「うん…。わかったよ。じゃあね和ちゃん」

和ちゃんはそのまま振り返り、歩き去って行った。
私は和ちゃんの背中を、角を曲がって見えなくなるまで見つめていた。



439 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 04:12:31.59 ID:gXrQNFyw0

私は家に帰ると、すぐさま3人にメールを送った。

唯[和ちゃんが音楽に興味あるんだって]

存在するのかも定かでない、電話会社のデータバンクに注意を払いながら送信された文章の意味は、「和ちゃんが私達を疑っている」だった。

すぐに澪ちゃんからメールが返ってきた。
宛先にはりっちゃんとムギちゃんの名前もあった。

澪[みんな今すぐ私の家に来て]

私は制服を着替えずに、ばたばたと玄関に向かった。

この時、背後から憂の「お姉ちゃんどこに行くの?」と言う声が聞こえてきたが、私はそれを無視して家を飛び出した。
今は憂の事を考える余裕なんてなかった。



442 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 04:20:22.62 ID:gXrQNFyw0

私が澪ちゃんの部屋に入った時、既にりっちゃんもムギちゃんも揃っていた。
みんな一様に、ライブ前の澪ちゃんのように顔を強張らせていた。

紬「唯ちゃん、とりあえず何があったか説明してくれる?」

私は和ちゃんとの会話を、出来るだけ詳細に説明した。

唯「あの…私、あれで大丈夫だった?」

私は和ちゃんへの自分の対応に、自信がなかった。

澪「ああ。とりあえずは大丈夫だと思う。頑張ったな、唯」

そう言われて私は安堵した。

紬「でも、確実にまだ私達を疑っているわ」

澪「うん。今度遊ぼうって誘ってきたのも、そこから唯を探ろうとしてるんだと思う」



447 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 04:29:58.82 ID:gXrQNFyw0

律「どうすんだ?」

澪「…和の言葉から察するに、和は唯を疑っている事に罪悪感を感じているフシがあるな」

紬「そこをうまく利用しましょう」

相変わらず、「ティータイム」は澪ちゃんとムギちゃん主導で進んでいる。
かつてのティータイムは、私とりっちゃんが幅をきかせていた。
この事が、もうティータイムが全く別の「ティータイム」と入れ替わってしまっているのだと痛感させた。

和ちゃんの私に対する情につけ込むという提案も、もはや私達の良心を痛めるような事ではなかった。
私達に良心が残っていればの話だが。

唯「どうすればいいの?」



448 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 04:40:38.68 ID:gXrQNFyw0

澪「まず、唯が大人しく見えたってところから解決しないとな」

紬「うん。やっぱり私達が考えた言葉と行動だと、唯ちゃんらしさを出し切れないみたいね」

澪「そうだな。幹も葉っぱも私達が決めたんじゃ、どうしても私とムギの味みたいなのが出てしまう」

紬「…ここは唯ちゃんに対策を考えてもらいましょう。私達はそれに肉付けをする程度に留めるわ」

思いも寄らぬ二人の提案に、私は狼狽した。

唯「そんな…対策なんて私にはとても…」

紬「唯ちゃん。私達の考えた「唯ちゃん」だと、隙が無さ過ぎて不自然になっちゃうの。難しいかも知れないけど、考えてみて?」

澪「うん。和の事も、唯自身の事も、この中で一番良く知っているのは唯なんだ」

私は二人に促され、思考を巡らせた。
今まで和ちゃんと喧嘩をした事がないわけではない。その時どうやって仲直りしたか。
和ちゃんは私のどこが好きなのか。

私は言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。



452 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 04:48:36.49 ID:gXrQNFyw0

唯「私があずにゃんを探さなかった理由は…私があずにゃんと喧嘩したから…って事にすればいいと思う」

唯「私がいつまでも練習しないでだらけて…バカなままだから…あずにゃんは帰って来ない…」

唯「だから私は、もっとしっかりしなきゃと思って、冷静な行動をとるようにした…。いつあずにゃんが帰って来てもいいように」

唯「和ちゃんは、私のそういう所を気に入ってくれてるんだと思う…」

唯「これを和ちゃんにくっつきながら…泣きながら話せば…和ちゃんは信じるんじゃないかな…」

話し終えた私は、みんなの顔を見渡してから、最後に尋ねた。

唯「…こんな感じでどうかな?」



453 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 04:58:37.22 ID:gXrQNFyw0

ムギちゃんが感心したような顔で答えた。

紬「すごいわ唯ちゃん。それで完璧だと思う」

澪「うん。私達が肉付けするまでもないな。それで行こう」

律「唯ってさ、ほんと愛され上手だよな」

りっちゃんは褒めるつもりで言ったのだろうが、その言葉が私の胸に鋭い槍の一投のように深く突き刺さった。
あずにゃんに欲情し、死なせてしまい、嘘に嘘を重ねて来た私に愛される資格なんて無い…。

しかし、私が心の中で、「軽音部を守るため」と呪文のように唱えると、胸に刺さった槍はいとも簡単に抜けた。
私達の全員が、そうやって自分を誤魔化しながら、何とかここまでやってきた。

律「あ、そうだ。私もみんなに話しておきたい事がある」



456 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:04:06.05 ID:gXrQNFyw0

澪「珍しいな。何?」

律「えっと…ギターケースの事なんだけど…」

どうやらりっちゃんの話とは、あずにゃんの棺になったギターケース、又はその中身についてのようだ。

律「みんなはさ…あれからギターケース開けた事ある?」

あるわけがない。
私達は、ギターケースの重いチャックを閉じる時、自分達の罪をそこに押し込めたのだ。
それを好き好んで開けるわけがない。

澪「ないよ…。当たり前だろ…」

澪ちゃんは、「一体何を言い出すんだお前は」とでも言いたげに、りっちゃんの顔を見た。

唯「私もないよ…」

紬「私も…」



458 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:13:16.38 ID:gXrQNFyw0

律「いや、実はさ…昨日ちょっと…変な匂いがしたから、まさかと思って…」

紬「…開けたの?」

律「…うん」

澪ちゃんが青ざめた顔をしながら、両手を口で覆った。
それを横目で見ながら、りっちゃんは話を続けた。

律「そしたら…まぁ…あー…く、腐っててさ…」

澪ちゃんは嘔吐するのを肩を震わせながら必死で堪え、涙ぐんでいた。

律「やっぱ素人の防腐処理じゃ、すぐダメになるんだよ…。だからみんなのももう一回処理し直したほうがいいと思う」



461 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:15:21.85 ID:oRFf8zYyO

やっぱ律は 肝が座ってんなw



466 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:24:49.88 ID:gXrQNFyw0

紬「そう…。でも、もしかしたらりっちゃんのだけかも知れないよ…?」

律「う、うん。だからさ、今この部屋にあるやつも調べてみようぜ…」

やりたくなかった。
でもやらないと、後々取り返しのつかない事になるかもしれない。
やるしかないのだ。

律「澪、お前のはどこにあんの?このクローゼット?」

澪ちゃんは両手で口を押さえ、大粒の涙を流しながら、頷いた。

りっちゃんがそのクローゼットのドアを開けた。
が、そこにギターケースは見当たらない。

律「…あれ?無いよ…?」

澪ちゃんは同じ姿勢のまま、クローゼットのほうを指差した。

よく見ると、クローゼットの奥に、周りと同じ色のアクリル板で仕切りが施されていた。
りっちゃんがそのアクリル板を外すと、黒いギターケースが顔を覗かせた。

慎重な澪ちゃんらしい隠し方だった。



471 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:34:03.27 ID:gXrQNFyw0

りっちゃんがギターケースを取り出し、ごってりとしたチャックを外した。

ジィーッという音が部屋の全員を不快にした。

その中に4つ、茶色いしわしわのソレはあった。

かつてあずにゃんの左腕と左脚だったソレ。

澪ちゃんの部屋に、すえた臭いが充満する。

胃の奥からこみ上げてくるものを感じた。

紬「も、もういいわ…。わかったから仕舞いましょう…」

ムギちゃんは平時より明らかに白い顔をして、ソレから目を逸らした。

りっちゃんはギターケースを閉じて、クローゼットに押し込み、アクリル板を元の場所に戻した。



472 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:34:25.98 ID:CwApxiyz0

もう最初から軽く狂ってるだろ
もう…見てて苦しいのに先が気になる…



486 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:44:44.09 ID:gXrQNFyw0

まるで魔物の檻のように、澪ちゃんは厳重にギターケースを管理、隠匿していたため、これまで腐臭が外に漏れる事がなかったようだ。
恐らくムギちゃんのも、そして私のも、同様に防腐の限界を越えてしまっているのだろう。
私達は再度防腐処理をする事にした。
が、その日は全員精根尽き果てていたため、処理は翌日に持ち越された。
澪ちゃんは、あまりの恐怖からか、腰を抜かしてしまっていたので、りっちゃんがそのまま残って泊まる事になった。

私はムギちゃんと別れると、寄り道をせずに自宅へ向かった。

辺りはすっかり暗くなっていたが、私の家の玄関の照明はこうこうと点いていた。

憂が私のために点けてくれているのかな…と考えながら、私は家の門を開けた。


私は玄関のドアの前に立っていたその人を見た瞬間、息が止まった。



和「あ、唯。おかえり」



490 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 05:54:54.80 ID:gXrQNFyw0

唯「和ちゃん。どうしたの…?」

私は狼狽している事を気づかれないよう、精一杯の演技をしながら和ちゃんに話しかけた。

和「うん。さっき私、唯に酷い事言っちゃったし、ちょっと会って話したいなって思って…」

和「あがっていい?」

駄目だ。部屋に入れたくない。
でも断る理由がない。
混乱しきっている私の頭で、都合のいい言い訳なんて思いつくわけがない。

唯「うん。いいよ。…でも憂がいるでしょ?何で玄関の前なんかで…」

和「勝手に部屋にあがるのも悪いじゃない。それに、唯を待ってたかったから、ここでいいって憂に言ったの。そしたら電気つけてくれてね。相変わらず出来た子よね」

そう言って和ちゃんは笑った。
その笑顔が作り物には見えなかったが、私はこの幼馴染がまるで命を刈り取りに来た死神の様に思えた。



493 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 06:01:35.99 ID:gVmohvX/0

まさか料理の肉は…



494 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:02:33.74 ID:gXrQNFyw0

私と和ちゃんは私の部屋にあがると、どちらともなく話し始めた。
いつも通りの他愛ない会話。
その間も、私は全神経を以って、和ちゃんの一挙手一投足を観察していた。
こうして笑いあっている間も、和ちゃんは虎視眈々と私の隙を伺っているのだろうか。
いや、それは私のほうだ。嘘をつく人間というのは、他の人間も嘘をついている様に思えてしまうものだ。

しばらくして、会話の種は尽きた。

そこで私は意を決して、和ちゃんにさっきの話を切り出した。

唯「…何で和ちゃんは、あんな事言ったの?」

和「…ごめんなさい。唯の事が心配で…でも唯がわからなくなって…」

――あの作戦を実行するなら今しかない。



498 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:11:00.02 ID:gXrQNFyw0

唯「私ね…あずにゃんが帰ってこないのは、私がいつまでもバカでだらしないからだと思うんだ…」

和「そんな…自分で自分をバカなんて言うのは良くないわ…」

唯「…だからね…私はもっとお利口にならなきゃって思ったの」

唯「そうしたら…あ…あずにゃんも…帰ってきてくれる…って…」

私は目に涙を溜めながらゆっくりと、一つ一つの言葉を噛み締めるように話した。

和「唯…私…ごめんなさい…」

和ちゃんの声が震えているのがわかった。
私は和ちゃんに抱きついて、声を上げて泣いた。
その私を和ちゃんはきつく抱きしめた。

もう何が本当で何が嘘なのか自分でもわからなくなっていた。

でも、私の作戦が上手く行った事だけは事実だった。
私はそれで満足できた。



499 名前:眠い[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:18:11.46 ID:gXrQNFyw0

仲直りをした私達は、またいつもの様に談笑し始めた。
和ちゃんという障害を乗り越えたせいか、安心していた私は、勘ぐる事なく話す事ができた。



和「ていうか唯、部屋散らかりすぎじゃない?」

唯「でへへ…すいやせん…」

和「ほら、服も脱ぎっぱなしじゃない」

唯「大丈夫!明日それ着るから!…多分」

和「はぁ…。相変わらずね…。このカーディガン片付けとくわよ?」

和ちゃんはカーディガンを持って立ち上がり、クローゼットのドアに手をかけた。

私の身体中からべっとりとした汗が噴出すのがわかった。



500 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:18:43.34 ID:5k8hb9sw0

やべえええええええ

のどかあああああああ



504 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:26:55.36 ID:gXrQNFyw0

私が声を出す前に、和ちゃんはクローゼットを開けた。

私はあの日以来、ギターケースどころか、クローゼットも開けていない。
もしかしたら、りっちゃんのみたいに、腐臭がそこに充満しているかもしれない。

私は全てが終わるのを覚悟した。

和「…?あれ?唯ってギター二本持ってるの?」

和ちゃんはギターケースを見ると、私に尋ねた。

唯「う、うん。そっちは全然使ってないけどね」

鼻をつく臭いがした。やはり腐敗していたのだろうか?

和「そうなんだ。ふふ、唯もすっかりミュージシャンね」

和ちゃんはそう言うと、カーディガンをクローゼットのハンガーにかけ、ドアを閉めた。

あまりの緊張で、口の中が干乾びた様な気がした。
ああ、そうか。今の異臭は私の口の中からしたのだ。



507 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:28:13.55 ID:gXrQNFyw0

あ、「ドアを閉めた」ってのはクローゼットのドアね



509 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:36:53.25 ID:gXrQNFyw0

結局和ちゃんは、ギターケースの中身に気づく事なく、22時を回った辺りで、帰って行った。
和ちゃんは私の部屋にあったラベンダーのアロマオイルに興味を示し、後日同じものを一緒に買いに行く約束をした。


私はベッドに身を放り出すと、今日あった事を思い返した。

――このまま、4人の部屋で管理していて本当に大丈夫なのだろうか。

あの時私は、盲目的に澪ちゃんとムギちゃんに従ったが、私達は安心感を優先して、確実性を放棄していたのではないだろうか。

誰にもバレない場所を考えて、そこにまとめて置いたほうが確実なのではないか。

私の頭の中を、色々な考えが彷徨した。

その時、部屋のドアを、コンコンと2回ノックする音がした。

憂「お姉ちゃん、ご飯できたよー?」



511 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:42:53.77 ID:gXrQNFyw0

唯「うーん…食欲ないからいらない…ごめんね」

澪ちゃんの部屋でアレを見てしまったのだ。
この期に及んで食欲があったら、もう私の精神は人間のそれではない。

憂「そう…。何か悩み事?」

憂が残念そうに答えた後、私に尋ねた。

唯「悩み事ってほどでもないんだけど…」

憂「うん…?」

私は逡巡した後、憂に尋ねてみた。

唯「大切なものをしまいたい時ってさー、憂ならどこにしまう?」

憂「大切なもの?」

唯「うん。友達と一緒に共有してるような」



513 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:48:57.41 ID:gXrQNFyw0

憂「それなら、友達といつも集まる場所かなぁ」

唯「集まる場所…」

憂「お姉ちゃんだったら、音楽室とか」

唯「音楽室…音楽室かぁ…」

音楽室?
あそこは駄目だ。
授業中は他の生徒も使うし、それこそ何がきっかけで見つかるかわからない。
私達だけが使うような場所じゃないと、隠し場所として不適切だ。

…私達だけが使う場所…?

何だ。
あるじゃないか。
音楽室に。

唯「そっか!ありがとう憂!」

憂「うん。よくわかんないけど…力になれたみたいで良かったよ」



515 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 06:56:01.52 ID:gXrQNFyw0

澪「食器棚の中?」

翌日、澪ちゃんの家で防腐処理を終えた後、私はみんなに昨日私が憂に貰ったヒントから出したアイディアを話してみた。
音楽室にある食器棚。
その下部にある大きな引き出しの中。
あそこなら私達以外は使わないし、カギをかけたとしても不自然じゃない。
少なくとも、卒業するまではあそこに保管するのが最も確実で安全だ。

紬「なるほど…確かにそうね。うん。いいと思う。」

律「え?でも私達もう引退したし…」

澪「いや、部自体は私達が卒業するまで残してもらえるんだろ?」

律「あぁ、そういやそうだったな。でも引退した私らが音楽室にいるのって不自然じゃない?」



520 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 07:08:49.66 ID:gXrQNFyw0

唯「そっかぁ…そうだよね…」

私が肩を落とすと、ムギちゃんが目を輝かせながら言った。

紬「ライブ…ライブよ!卒業ライブをするっていうのは!?」

澪「…卒業ライブをするから、音楽室を使わせてもらえるように頼むのか…。うん…いい!それいい!」

律「なーるほど。それなら音楽室にいても不自然じゃないな。おまけに放課後ティータイムも復活だ!」

満場一致の喝采の中、保管場所は決まった。
いや、それよりも私達は、バンドが復活出来るかもしれないという事に大きな希望を抱いた。
事態は殆ど好転していない。だがそれでも、あの日の朝に消えた希望が再び生まれた事を考えると、これは私達にとって前進だった。
閉塞しきった私達の精神を解き放つ、唯一の術をようやく見つけたのだ。

それに、いまや私達の前に障害はなかった。
警察も、さわちゃんも、和ちゃんも、私達は知恵を出し合う事で切り抜けてきた。
許されざる罪を犯した私達の、洋々たる前途を阻む人間は存在しなかった。

ただ一人、憂を除いては。

第4部  完



522 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 07:11:54.46 ID:gXrQNFyw0

もう限界…
意外と長くなってしまい、完結できんかった…
第5部で終わりです。

前言撤回するようで申し訳ないけど、一旦寝てから再開します…
1時か2時頃を予定。
ごめんなさい



525 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 07:19:17.98 ID:gXrQNFyw0

さすがに次で終わりです

おやすみ
ごめんよ



526 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 07:23:09.90 ID:GQFDr5tH0

お疲れ  舞ってる



583 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 13:52:59.76 ID:gXrQNFyw0

今起きた。保守ありがとう。
最後は第5部+エピローグって形でいきます



584 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 14:04:17.95 ID:mzQQltlf0

待ってました!



585 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:04:25.90 ID:eMPe2BtKO

きたぁぁぁあああ



587 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:07:38.41 ID:gXrQNFyw0

クリスマスと言えど、住宅街に人通りは殆ど無かった。
恐らくもっと栄えた場所(例えば駅前とか)に繰り出すか、家の中でパーティーをする等して、思い思いのクリスマスを過ごしているのだろう。

唯「さむい…」

パジャマに上着に手袋。12月末の寒さに、私は無防備すぎた。
私は足早にコンビニへと向かった。

少し広い通りに出ると、ようやく街行く人々を見る事が出来た。

コンビニの灯りは、ツリーの電飾よりもぎらぎらしていて、私は夏の虫の様にその光に吸い寄せられていった。

店内に入ると、暖房のおかげで、先程までの刺す様な寒さは柔らいだ。
店員が売れ残ったクリスマスケーキの叩き売りをしている。飽食の国らしい光景だ。
ホールケーキが千円という破格の値段で売られていたが、憂の料理で満腹感を得ていたので、誘惑に負ける事なく、シャンプーを探す事にした。



590 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:16:33.13 ID:gXrQNFyw0

店内に人はまばらだった。
ドリンクコーナーで何か嬉しそうに喋っているカップル、漫画を立ち読みしている若い男の人。
後はサラリーマンらしき人が何人かいる。

商品棚には、憂に頼まれたシャンプーが置いてあった。

甘ったるそうなピンクのパッケージとは裏腹に、柑橘系のさっぱりした匂いのするシャンプー。
私はそれではなく、その横に置いてある白いパッケージに青い文字が書かれたシャンプーを手にとった。

唯「これでいいや…」

私はそれを持ってレジに向かった。

サンタクロースの格好をした店員が、シャンプーを受け取り、「493円になります」と言った。
私は「クリスマスイブは昨日なのに、サンタの格好をしてるのはおかしい」と思いながら、ポケットから憂の財布を取り出した。



592 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:22:35.58 ID:gXrQNFyw0

他人の財布というのは、使い慣れていないせいか、勝手がわからない。
手袋をはめていた事もあり、私は小銭を取り出すのにえらく手間取った。

私が財布をごそごそ探っていると、後ろに人の列が出来ていった。

早くしなきゃ。

私が焦りながら小銭を取り出そうとすると、手元から財布は落ち、中身がレジ前にぶちまけられた。

唯「あっ…す、すいません…」

サンタの格好をした男の店員が、「大丈夫ですか?」と尋ねてくる。

唯「大丈夫です、すいません…」

私は床に散らばったレシートを急いでポケットに突っ込み、カード類を財布にしまって、会計を済ませた。



595 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:31:55.74 ID:gXrQNFyw0

さっきのカップルがじろじろと私を見ている。

その恥ずかしさから、私はシャンプーの入った袋を右手に携えながら、さっさと店から出る事にした。

店員「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

全く有難そうに聞こえない店員の言葉に、軽く会釈をしてから自動ドアへ向かった。

ドアが開くと、外は相変わらずの寒さだった。

私はサンダルをぺたぺた鳴らしながら、憂が待つ家へと急いだ。

ふと、民家の庭先にあるクリスマスツリーの電飾に私は目を奪われた。
ちかちか光るそれを眺めながら、私は思いを馳せた。

結局、憂はどこまで気づいていたんだろう。

私は憂を疑い始めた時の事を、改めて考えてみる事にした。



600 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:41:32.72 ID:gXrQNFyw0

卒業ライブを建前に音楽室を使わせてもらえる事になった私達は、早速あずにゃんを食器棚の下部に移した。
カギを取り付け、これで誰かに開けられる心配もない。

私の頭の中では相変わらず、ノコギリの骨を削る音が響いていて、あずにゃんに対する罪悪感も消えたわけではなかった。

それでも、「バンドを復活させる」という目標が、私達を都合よく正当化させてくれた。

音楽室で卒業ライブに向けて私達は練習を再開した。
澪ちゃんもムギちゃんも、進路は二の次にして、練習に精を出した。

私達が青春を取り戻し始め、練習を終えた後に、澪ちゃんがりっちゃんをたしなめた。

澪「律?ドラムに勢いがなくない?ジョン・ボーナムが目標とは思えないんだけど…。また風邪か?」



602 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:46:25.18 ID:gXrQNFyw0

りっちゃんは少し黙ってから口を開いた。

律「…あの事でちょっと話しておきたい事があるんだけど」

あの事とは間違いなくあずにゃんの事だ。
今更何があるのだろうと訝りながら、私はりっちゃんの言葉を待った。

律「話していい?」

澪「いいよ。私も丁度それについて話したい事があったし」

紬「うん。私も言わなきゃいけない事があるの」

何だろう。
私には話すべき事などなかったが、みんなは違ったようだ。

練習後の「ティータイム」が始まった。



603 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:51:43.81 ID:gXrQNFyw0

律「実はさ、昨日憂ちゃんがウチに来たんだ。梓の事を聞きに」

思いがけない名前がりっちゃんの口から飛び出した。

澪「え?私の家にも来たぞ…?私もそれを話そうと思ってたんだけど…」

紬「わ…私の家にも来たわ…」

憂からそんな話は聞いていない。
だが、そう言えば昨日は珍しく憂の帰りが遅かったような気がする。

律「マジかよ。て事は私達全員の家を回ったって事か?」

澪「…これは、あまり良くなさそうだな」

紬「もしかして、梓ちゃんの事で私達を疑っているのかしら?」



606 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 14:58:06.31 ID:gXrQNFyw0

律「でも、昨日はそんなに突っ込んだ事は聞かれなかったぜ?梓を心配してるだけに見えたし。演技かも知れないけどさ」

澪「私達全員の家を回るのは明らかにおかしい。憂ちゃんはきっと何か感付いたんだ」

紬「迂闊だったね…。和ちゃんが唯ちゃんの様子がおかしいって気づいたんだもの。憂ちゃんがそう思ったっておかしくないわ」

暫しの沈黙が訪れた後、澪ちゃんが話し始めた。

澪「どうする?早めに手を打たないとまずいかもしれない」

律「て言っても梓はあそこなんだし…」

そう言いながらりっちゃんは食器棚のほうに視線を向けた。

律「確かに憂ちゃんに怪しまれてるかも知れないけど、バレる事はないんじゃないの?」



609 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:05:31.75 ID:gXrQNFyw0

紬「駄目よ。疑われている以上、早めに何とかしないと、何がきっかけでバレるかわからないわ」

澪「うん。危険の種は芽吹く前に取り除くべきだ。用心するに越した事はないんだから」

律「…わかった。で、どうすんの?」

紬「全員の家を回るっていう行動に出たくらいだし、憂ちゃんの疑念はほぼ確信に近いのかも…」

澪「そうだな。憂ちゃんは去年のライブの時に唯に変装してくるような子だ。行動力は人一倍ある。…もっと早くから警戒しておくべきだった」

紬「唯ちゃん。家の中での憂ちゃんの様子はどう?」

唯「うーん…特にいつもと変わった感じはしなかったけど…」



611 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:11:53.04 ID:gXrQNFyw0

律「まぁ、あの子はボロを出さないだろうな…」

澪「うん…。どうしたものか…」

紬「…」

重い沈黙。

いつの間にか、私は拳をぎゅっと握っていた。
手のひらは汗でぐっしょりしている。
嫌な予感がした。
憂はかなりのところまで気づいている。
その憂への対処に、今みんなが何を考えているのか想像した私は恐ろしくなった。

私の心中を察したのか、ムギちゃんが私の肩に手を置いて優しく言った。

紬「大丈夫よ唯ちゃん。憂ちゃんを手にかけたりなんてしないから」



613 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:21:32.19 ID:gXrQNFyw0

澪「うん。それは絶対駄目だ。そんな事をしたら、もう隠し切れない」

律「梓一人でもこれだからな…。さすがにそれはないわな」

唯「う、うん…。良かった…」

澪「それに、仮に憂ちゃんが全部知っていたとしても、口封じの方法はいくらでも…」

そこで澪ちゃんは言葉を濁らせた。
みんな、澪ちゃんが何を言わんとしているか理解していた。

私達は4人で、憂は一人。
おまけに私達は殺人者だ。

最悪、4人で憂を脅す事もできる。

良心の呵責はあったはずだが、それは少し浮かんだだけで、すぐに無意識の澱の中へ沈んでいった。
私達は、来るところまで来てしまったのだ。



616 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:31:29.63 ID:gXrQNFyw0

澪「でも、まずは憂ちゃんがどこまで知っているか、確かめておく必要があるな。それと、何から私達を疑い始めたかも考えないと」

紬「うん。…和ちゃんの時みたいに、唯ちゃんの泣き落としは憂ちゃんには効かなさそうね」

澪「憂ちゃんは既に確信めいたものを持っている。和は疑念の域を出ていなかったから何とかなっただけだ」

唯「…私にはあれ以上の策なんて思いつかないよ…」

紬「ここは様子見するしかなさそうね…」

澪「うん。多分憂ちゃんは、今後また何か行動を起こすはずだ。それまでみんなでじっくり策を考えておこう」

律「そうだね。わかった」

唯「わかったよ」

澪「…今は私達に出来る精一杯の事をやろう」

澪ちゃんのその言葉がシメとなり、その日私達は解散した。



618 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:40:15.10 ID:gXrQNFyw0

しかし、それから憂が目立った行動を起こす事はなかった。
アテが外れた澪ちゃんとムギちゃんも、それには頭を悩ませていた。
りっちゃんは、

律「私達一人一人に話を聞いて疑いは晴れたんじゃないの?」

と言っていたが、澪ちゃんとムギちゃんの警戒が解かれる事はなかった。

私は憂すらも疑いの対象になってしまった事で、家にいても全く落ち着くことができなくなっていた。

一向に動きを見せない憂に、私達は神経をすり減らしていった。

そのまま何事もなく時は流れていった。


――それは私がいつもの様に、鳴り止まないノコギリの音に耐えながら、ベッドの上で目を閉じた時の事だった。



622 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:46:24.55 ID:gXrQNFyw0

私の頭の中で、ギコギコというノコギリの音が鳴り続けている。

私は必死にそれに耐えて目を閉じた。
今までは何とかそれで眠りにつく事ができた。

しかしその日は、ノコギリの音がどんどん大きくなっていき、恐れをなした睡魔も退散していった。

ギコギコギコギコ

どんどん大きくなるノコギリの音。

ギコギコギコギコ

それはまるで管弦楽団の奏でる壮大なオーケストラの様に、私の鼓膜を揺らしている。

ギコギコギコギコ

唯「嫌…やめて…お願い…」

私は懇願した。



627 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:52:12.61 ID:gXrQNFyw0

ギコギコギコギコ

いつもよりいっそう大きく、現実感を伴ってノコギリの音は聞こえてくる。

唯「やめて…やめて…!」


恐怖が臨界に達した私は、とうとう音に抗う事を諦めた。

音に身を委ね、同化する事で、このどうにもならない恐怖から逃れる事にした。

唯「ギコギコギコギコ」

私は鳴り響く音に合わせて、歌でも歌うように声を出した。

唯「ギコギコギコギコ」

私の声とノコギリの音は重なり、そのユニゾンが恐怖をやわらげた。
私は繰り返し、声を出し続けた。

唯「ギコギコギコギコギコ」



633 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:55:27.27 ID:+s5p364KO

えっ
なにこれマジに怖くなってきた



634 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 15:56:45.79 ID:WrdIn/ZJO

スレタイ来た…



637 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:00:19.85 ID:gXrQNFyw0

私は一晩中、声を出し続けた。

朝になり、制服に着替え、部屋を出て、階段を降りた。
段の一つ一つを、踏み外さないようにゆっくりと。
私はとっくに道を踏み外していたが。

憂「あ、お姉ちゃんおはよう」

唯「おはよう」

憂「ご飯食べる?」

唯「いらない…」

憂「そう…。あんまりムリしないでね?」

私は憂の労いの言葉に答えず、通学バッグを肩にかけて玄関へ向かった。

唯「憂、私先に行くね」

靴を履きながらそう言うと、憂が答えた。

憂「あ…うん。でもその前に…あの…お姉ちゃん、ちょっといい?」



644 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:08:20.46 ID:gXrQNFyw0

警戒しながら、私は振り向いて、憂に尋ねた。

唯「何?」

憂「今年のクリスマス、どうする?」

クリスマス?
あぁ、そう言えばもうそんな時期か。

憂「あのね、最近お姉ちゃんも軽音部のみなさんも元気ないから…」

私はじっと憂を見つめたまま話を聞いていた。

憂「準備とか全部私がするから、ウチでパーティーしよう?私、落ち込んでるお姉ちゃんなんて見ていられないよ…」

私はその提案の意味を考えた。
ついに憂は行動を始めたのだろうか?
一睡もしていない、私のぼやけた頭の中を泳ぐ鈍った思考では、とても理解できそうにない。
私はみんなに相談してから決める事にした。

唯「うん。考えておくね。ありがとう。行って来ます」



646 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:15:43.97 ID:gXrQNFyw0

放課後、私はみんなに今朝の事を話した。

唯「どう思う…?」

澪「わからない。…けど、憂ちゃんが動き出した可能性は高いな」

紬「うん。でも…今の段階では憂ちゃんの意図は読めないね…」

律「…断るか?クリスマスの話」

しばらく目を閉じて考えてから、澪ちゃんが答えた。

澪「いや、行こう。憂ちゃんの出方を見る最後のチャンスかもしれない」

紬「ここを乗り切れば、もう全て終わりよ。頭を抱えながら過ごす事もなくなるわ。大丈夫…私達なら…」

律「…わかった。これで最後だ。頑張ろうぜ」

唯「うん」



652 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:25:15.37 ID:gXrQNFyw0

私達は、クリスマスパーティーに向けて、作戦を練った。

当日はメールで相談しながら憂を探る。
私は憂とみんなを気遣うフリをする。

結局これだけの作戦だったが、憂の真意が全く読めない以上、その場で臨機応変に対応するしかなかった。

私とりっちゃんはボロを出さないよう、あまり大胆には動かない事にした。


クリスマス当日まで、私は毎晩、あのノコギリの音に合わせて声をあげていた。
精神はとっくに限界を越えていたが、私はなんとか人間らしさを失わずにいる事ができた。

何度も「ティータイム」を繰り返し、打ち合わせをして、とうとう私達は12月25日を迎えた。



654 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:32:25.36 ID:gXrQNFyw0

・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・

他人の家の庭先にあるクリスマスツリーを眺めていた私は、はぁっ息を吐いた。
先程と同じように拡散する吐息を目で追って、私は曇天を見上げた。

結局、今日は憂の考えがわからなかった。

明日も「ティータイム」は開かれるだろう。そこで今後について、また話し合わなければいけない。

唯「あ、そうだ…」

私はポケットからケータイを取り出した。
澪ちゃんとムギちゃんの、80件以上に及ぶ、メールでの話し合いを削除しなくては。
私はそれらを消す前に、二人のメールを読んでみる事にした。



656 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:38:15.61 ID:gXrQNFyw0

ムギちゃん
澪ちゃん
ムギちゃん
澪ちゃん
ムギちゃん

メール一覧に、交互に二人の名前が並んでいた。

私は最初からそれらを読み返した。

メールの文章は、「音楽」「ギター」「新曲」「ライブ」といった音楽用語で構成されていた。
何も知らない人には、音楽が好きな女子高生二人が、熱心に語り合っているだけのメールに見えるだろう。
だが私には、それがどれほど残酷な文章であるかが、容易にわかった。

全く、二人の頭の回転の速さには恐れ入る。

私はメールを読み進めた。



659 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:42:37.46 ID:gXrQNFyw0

どうやら、二人も憂には攻めあぐねていたらしく、メールの内容はどうどう巡りだった。

澪ちゃん
ムギちゃん
澪ちゃん
ムギちゃん

私はメールを読み進める。

30件目あたりまで読み進めたあたりで、画面をスクロールさせるためにケータイのキーを押していた、私の指が止まった。
画面に表示されたその文字を、私は凝視した。

ムギちゃん
澪ちゃん
ムギちゃん
澪ちゃん
ムギちゃん



660 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 16:43:22.68 ID:goRE/tYk0

ひいいいいいいいいいい



661 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:43:30.07 ID:Y+uIpVmV0

ごくり…



676 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 16:50:32.66 ID:gXrQNFyw0

ケータイを持つ手が震えた。

憂は、パーティーの最中に私にメールをしていたのだ。

私達は、憂の挙動に細心の注意を払っていた。
だが、憂がメールを打つ様子などなかった。

憂はこっそりとメールを打ったのだ。
私達のように。
こたつの中で。

なぜ憂はそんな事を?

決まっている。
憂は私達の動きに気づいていたのだ。

膝ががくがくと震え始める。
憂からのメールを開く事なく、私はケータイを閉じた。

落ち着かなきゃ。落ち着かなきゃ。
私は咄嗟に、さっきコンビニで落としてポケットにしまったレシートを取り出した。
その無感情な文字を読んで、私は気持ちを落ち着かせる事にした。



693 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:02:07.24 ID:gXrQNFyw0

くしゃくしゃに丸められたレシートは4枚。
レシートを財布の中にしまっていたのは、几帳面な憂らしかった。

1枚目。
書店のレシートだ。漫画本を2冊買ったようだ。計720円。今度私にも読ませてもらおう。

2枚目。
スーパーのレシート。スピリタスウォッカ96%500ml。計1490円。恐らくお酒だろう。料理にでも使ったのだろうか。

3枚目。
コンビニ。薬用シャンプー。493円。あのシャンプーだ。これは私が捨てた。

4枚目。
ホームセンター。鋸(八寸目)。1710円。

私は右手に持っていたコンビニの袋をどさっとコンクリートの地面に落とした。

何で憂はこんなものを買ったのだろう。

全身ががたがたと震えた。私の頭の中で様々な記憶が交錯する。



704 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:10:04.59 ID:gXrQNFyw0

私は寒空の下、落とした袋も拾わずに、憂の待つ自宅へ駆けていった。
もう冬の寒さなど感じなかった。それよりも遥かに底冷えのする不気味な…圧倒的な寒さが、私の内側からじわじわと全身に広がっていった。

家に着き、照明が点いたままの玄関を通る。

私は廊下を進み、恐る恐る浴室の気配を探った。
どうやら憂はまだお風呂に浸かっているらしい。

私は台所に向かった。
流し台には、下げられた食器が乱雑に置かれている。

流し台の下の、鍋やフライパンを入れるスペース…その戸には憂が愛用しているキッチンミトンがかけられている。



713 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:16:38.10 ID:gXrQNFyw0

私はごくりと唾を飲んだ。
いや、口の中は乾ききっていたので、唾など口内にはない。
私は喉を鳴らしただけだった。

私は憂のキッチンミトンを戸から除け、ゆっくりと引いた。


あった。

それはそこにあった。

刃が磨り減ったノコギリ。

私は全身の力が抜けていくのを感じた。
手も足も腰も背中も、骨格を持たない軟体動物のようになり、私はぺたんとその場に座り込んでしまった。

目を大きく見開き、口をだらしなく半開きにした私は、今日起こった事、今まで起こった事の全てを理解していた。



721 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:24:01.98 ID:gXrQNFyw0

食卓に並んだ料理。
風呂場の髪の毛。
私を悩ませた深夜のノコギリ音。

馬鹿な。憂はあずにゃんの居場所を知らない。
あれは音楽室の食器棚に保管したはずだ。

いや、違う。
音楽室に置く事を提案したのは、他でもない、憂だ。

もはや、この常軌を逸した現実を否定する言い訳が、私には思い浮かばなかった。

恐らく憂は、私の部屋の掃除でもしようと思ったのだ。
その時にクローゼットを開けた憂は、見慣れないギターケースを見つけた。
不審に思った憂は、その無骨なチャックに手かけた。
そしてあずにゃんを見つけたのだ。



725 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:26:22.03 ID:74a+PORKO

防腐処理した親友を食べさせるなんて



730 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 17:29:03.35 ID:98KNSQWF0

いやまて、中身は初期の段階ですでにすり替えていて冷凍保存していたとか



731 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:29:12.68 ID:NHnzcQiCO

おぇっ…



734 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:31:33.95 ID:gXrQNFyw0

その時憂は、私達が結託してそれを隠しているのだと気づいた。

和ちゃんがクローゼットを開けた時、腐臭はしなかった。
恐らくあれは、憂がアルコール度の高い酒を使って、簡易消毒をしていたからだ。

私達は隠し場所に困っていた。そこで憂は音楽室を勧めた。

そして憂は全員の家を訪ねた。私達がグルである事の確証を得るために。

いや、しかし、ギターケースの中身は、あの時既に音楽室の食器棚の中だ。
憂がみんなの目を盗んで部屋の中を物色しても、あれが見つかる事はない。

にも関わらず、憂は私達が一蓮托生の誓いを立てた事を確信した。

なぜ?

そうだ。私達の部屋には、ギターケースの中身以外にも、共有している物がある。

ラベンダーのアロマオイルが。



737 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:40:18.55 ID:gXrQNFyw0

消臭用のそれだと気づいた憂は、私達がグルである事を確信した。

音楽室の食器棚。
あそこに隠すのも、私達が高校を卒業するまでの間だ。
その後の事は考えていなかった。ライブが私達を盲目にさせた。

だから憂は、最も確実な隠し場所を考えた。

そして私達をクリスマスパーティーに誘った。

音楽室の食器棚のカギを壊し、あずにゃんを取り出した憂は、それをこの家へ持ち帰った。

ここ最近、私を苦しめていたノコギリの音。
あれは幻聴ではなかった。

憂は風呂場で、夜な夜なクリスマスの準備をしていたのだ。

私がさっき風呂場で見た髪の毛は、私と憂のではない。お母さんやお父さんのものでもなかったのだ。



743 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:47:19.66 ID:gXrQNFyw0

そして今日、食卓にソレは並べられた。

憂はソレを私達が全て平らげたのを確認すると、こたつの中で私にメールを送ったのだ。


私は風呂場の音に耳を澄ませた。
シャワーの流れる音がする。
今、憂は念入りに、晩餐の後片付けをしているのだ。

私の手は、骨も筋肉も失ったようだった。
それでも私は、なんとかポケットからケータイを取り出し、澪ちゃんとムギちゃんの名前に挟まれた、憂のメールを開いた。

そこには、こう書かれていた。



憂[お姉ちゃん、もう大丈夫だよ]

第5部  完



744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:47:56.99 ID:pCiCRlex0

うわあああああああああああああああああ



745 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:48:29.00 ID:xIBUoUGv0

殺したのが8月としてクリスマスは12月
4~5ヶ月くらいの時間が経ってることを考えると
いくら処理したとはいえ腐敗具合は相当だろうな・・・

それにもかかわらず,美味しいあずにゃんフルコースを作るとは憂おそるべし・・・



749 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:49:20.91 ID:H6nvWyNR0

もはや原作を超えている



753 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:49:49.40 ID:9l+jKU1D0

伏線の張り方がすごいなぁ……



761 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:52:55.61 ID:gXrQNFyw0

エピローグ

私は、親友の唯に会うべく受付を済ませると、無機質な部屋に案内され、そこに置かれたパイプ椅子に腰掛けた。

程なくして、分厚いガラスの向こう側に唯が現れた。
食事が全く喉を通らないのだろう。
目は大きく窪み、頬骨は突き出し、丸かった顎も今では尖っている。

和「…唯、久しぶり」

横におかれたマイクを通して、私は唯に月並みな言葉をかけた。

唯「…」

唯は何も答えずに、椅子に座った。
怯えた猫のような目で、唯は私を見つめた。



763 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 17:54:54.75 ID:xIBUoUGv0

自首したのか・・・



777 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:05:22.80 ID:gXrQNFyw0

12月27日、唯達軽音部は自首した。
梓を殺害したと自供したのだ。

報道がほとんど無かった事から察するに、社会的な影響を考慮して、事件の内容は殆ど伏せられたのだろう。
私も詳しい話は聞けなかったが、それほど凄惨な事を彼女達は梓にしたのだという事は容易にわかった。

自首をする前日、私は唯に呼び出され、梓を殺したと告白された。
唯はただ、

唯「私はあずにゃんを殺した。だから自首する」

としか言わなかったので、今までどうやって事実を隠していたのかは、私にはわからなかったし、私もそれを問いただす事はしなかった。

出頭する直前、唯は私に言った。

唯「私は人間でいたい…。でももうその資格はない…。このままだと、私はもっとおかしくなる…」

心身共に衰弱しきった唯達は、これから暗く閉ざされる自分の将来や世間体よりも、自分達自身を恐れているようだった。
そのために彼女達は、自分達自身を、まるでギターケースの様に閉ざされた世界に閉じ込める事にしたように私には思えた。



782 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:09:48.74 ID:gXrQNFyw0

和「これ、差し入れよ」

私は言葉を発しない唯に、綺麗に包装された、菓子の入った箱を見せた。

唯「…」

唯は何も答えなかった。
菓子の箱に目を向ける事もなく、唯はじっと私を見据えている。

和「…じゃあ、今日はもう帰るね。また来るから」

私は席を立ち、菓子の箱を持ってその無機質な部屋を出た。



798 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:20:12.18 ID:gXrQNFyw0

外に出ると、2月の澄んだ空気と共に、意地悪く寒さを運ぶ風が吹いた。

私は身体を震わせ、バス亭のベンチに座り、イヤホンを耳にはめると、志望大学の赤本を開いた。

唯の衰弱ぶりは明らかに異常だった。
このまま何も食べなければ、私が高校を卒業する前に、もう二度と彼女に会う事はできなくなるだろう。
恐らく律も澪も紬も、同じ状態なのだろう。それが彼女達の選択だった。
平穏無事な世界で生きる私には、彼女達の心が理解できない。
その私に、彼女達の選択を咎める事はできなかった。生きていればこそ…などと甘ったれた事は言えなかった。

しばらくして、市営のバスが到着した。
私はそれに乗り込み、イヤホンから流れる音楽に耳を傾ける一方で、気持ちを落ち着かせるために、赤本の数式を解く事に意識を集中させた。





801 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:21:14.39 ID:PG50eSTc0



802 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 18:21:50.53 ID:ZM1wuqxm0


おもしろかったぜー



803 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:21:56.44 ID:IQRPzP6N0

乙!

面白かった



804 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:22:28.60 ID:c1q+zGLY0

おつかれさまあああああああああああああ


面白かった!乙!



805 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[sage] 投稿日:2009/10/20(火) 18:22:33.20 ID:C8lK1sOn0

超乙



806 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:22:39.32 ID:DLKC1HjV0



わちゃんが聞いてる曲はふわふわ時間



807 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:22:43.18 ID:zZCvrRfMO

超乙!面白かった



808 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:22:56.16 ID:gXrQNFyw0

これで終わりです。
長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。

もうマジキチ系はしんどいので、今後はほのぼのギャグでスレ立てする事にするわw

保守&支援サンクス



810 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします[] 投稿日:2009/10/20(火) 18:23:14.07 ID:t1Cjg7q6O

改めて>>1乙
文章力に凄まじく嫉妬しちまうぜ、きしょう!




第一部~第三部


quiet_blog at 23:18│Comments(13) ○○「」 | 怖い

この記事へのコメント

1. Posted by 管理人がんばれ   November 17, 2009 21:45
更新しようぜ
2. Posted by 寝不足な人   July 25, 2010 01:51
最後はまじびっくりでした


…あれ?憂は捕まらないの?
3. Posted by あ   August 21, 2010 04:35
怖かったけど面白かった
4. Posted by 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。   October 08, 2010 08:42
5 やばい…やばい…
来たの初めてだけど…
これ…鳥肌もんだよな?


あと少し興ざめかも試練が、
憂は良かれ悪しかれ協力的だったのだから
憂も秘密共有者に入れればよかたのでは?
四人がこれ以上耐え切れなかったのもわかるが…
5. Posted by     January 08, 2011 07:17
1&まとめ乙

展開は読めんしさり気なさすぎる伏線で最後まで気付かなかったな…
6. Posted by 金儲け   August 04, 2011 20:57
アナタは大金持ちになれるか!?あなたの行動から心理、果ては金運まであらゆる金儲けのための資質を調べます!意外と金儲けは簡単に出来る!?
7. Posted by 在宅ライター   September 26, 2011 15:04
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8. Posted by フェイスブック   October 22, 2011 03:02
話題のフェイスブックで出会える10の方法!フェイスブックを使いこなして恋人を作る方法を紹介!
9. Posted by モバゲー   November 15, 2011 23:52
この時期になると恋人がいない男女はソワソワしだす頃じゃないかしら?Wwわかるよ。だって私もおんなじだから。
10. Posted by フェイスブック   November 29, 2011 23:32
フェイスブックが一番SNSサイトでは最強だってことを切々と語ってるサイトがあるんだけど。。なんかもう自演乙って感じ
11. Posted by フェイス ブック   December 05, 2011 17:50
今や世界一。そんなコツを伝授!
12. Posted by フェイス ブック   December 05, 2011 17:50
今や世界一。そんなコツを伝授!
13. Posted by 「谷口賢次」で検索しろ!   August 31, 2018 11:43
アッー!

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