オフサイド
2018年06月28日
「オフサイドはなぜ反則か」を読んで その2
以下、個別の内容について記述する。
● アメフトにおけるオフサイドの適用
ラグビーから変化し発展したアメリカンフットボールでも、ボールがイン・プレーの状態に移される時以外にこのルールが適用されることはなく、これらのボール・ゲームではオフサイド・ルールが無視、あるいは排除されているといってよい。
(注)「これらの」とは、バスケットボールとアメフトを指す。
アメフトはボールがイン・プレーの状態に移されるとき、つまり、プレー開始時点にオフサイドが適用されることが重要なのに、著者はそれを無視している。
著者はバスケットボールとアメフトを同様に考えているが、両者はまったく異なる。バスケットボールは「シュートを打つ」ことに係るゴール周辺での攻防が重要であるが、アメフトは「ボールを前進させる」ことに係るボール周辺での攻防が重要だ。
アメフトは4回の攻撃で10ヤード前進すればさらに4回の攻撃権が与えられる。前進を続けゴールラインを超えれば得点(タッチダウン 6点)となる。
アメフトではプレー開始時のボールの位置がオフサイドラインとなっているので、プレー開始時ボールを中心にして両チームの選手全員が互いに向かい合っている。プレー開始と同時に両チームがぶつかりあい、そこで優位に立たないとボールを前進させることができない。
ランプレーでランニングバックは敵の防御を突破して前進しなければならないし、パスプレーでパスの受け手はプレー開始時点のボールの位置の後方から走っていかなければならないし、クオーターバックは敵が迫ってくる中でパスを投げなければならない。
ラグビー・アメフトでボールの位置がオフサイド・ラインとなっているのは、ボールの周辺に多くの選手を集めて激しいぶつかり合いを起こさせることが目的の一つだからだ。
ようするに、アメフトはプレー開始時点のボールの位置がオフサイド・ラインになっているので、ボールの前進に係る攻防が生み出されるのだ。アメフトのオフサイド・ルールはアメフトの攻防の内容に合致しており、「オフサイド・ルールが無視、あるいは排除されている」わけでは決してない。
● アメフトにおけるオフサイドの位置
図5はスナップ・バックが行われた直後の、これからフォワードパスによる攻めが行われようとするときのプレーヤーの位置を示したものであるが、このとき(少なくともこの図では)7人のフォワードがすでにオフサイドの位置にあり、やがてこのクォーターバック(ボールを持っているプレーヤー)はもっと後方に下がり、ほぼ全員がオフサイドの状態にして前方にボ-ルを投げるのが普通である。前方にボールを投げて味方にキャッチさせるという戦法が許されていること自体がすでにオフサイドルールをまったく無視していることを示しており、このスポーツが母なるラグビーとは異質の精神と風土を背景に発達したものであることを、このようなフォーメーションプレーによる攻めが行われているという事実が示している。
オフサイド・ルールは、適用されるのが「特定の時点における、特定の地点より前方のエリア」というのがすべて共通だ。アメフトでは「プレー開始時点(スナップ・バックが行われる瞬間)における、ボールの位置より前方のエリア」になる。これは特定の時点を過ぎているのだから、「オフサイド・ルールをまったく無視していること」を示していない。
また、ボールを持っているクォーターバックがもっとも後方に下がるというのは、サッカーでゴールキーパーがボールを持ち、フィールドプレーヤー10人が全員前方にいるのと同じ位置関係だ。アメフトがオフサイド・ルールをまったく無視していると言うなら、サッカーもオフサイド・ルールをまったく無視していると言わなければならない。重要なのは、プレー開始時点にすべての選手がボールの位置より後方にいなければならないことであって、プレー開始後のことではない。
適用されるのが「特定の時点における、特定の地点より前方のエリア」というのは、特定の時点を過ぎれば前方のエリアでのプレーは可能だということだ。このことは、「あらかじめ前方にいてボールが来るのを待つ行為を禁止するもので、後方から走って行ってボールを獲得するプレーを禁止するものではない」ということになる。
アメフトの前方へのパスは、後方から走って行ってボールを獲得するものなのだから、オフサイド・ルールを無視しているわけではない。
● バスケットボールの速攻(P29)
バスケットボールにはオフサイド・ルールがなく、むしろ先の図2に示したようなロングパスによる攻撃法は速攻と呼ばれてもっとも有効な攻撃法の一つだとされている。
バスケットボールはなぜ速攻が可能なのか。速攻が起こるのは、相手側が攻撃に出て守備が手薄になった状態で、相手ボールを奪ったときだ。バスケットボールはコートが狭く1チームの人数が少ない。5人全員で攻撃し5人全員で守備を行う。一方が攻撃しているとき、両チームの選手10人全員が片方のゾーンに集まり、反対側のゾーンは無人となる。そのとき相手のボールを奪えば速攻が可能となる。
サッカーはグラウンドが広く1チームの人数も多い。チームが攻めているとき攻撃に参加しない選手や、チームが守っているとき守備に参加しない選手がいる可能性が高い。サッカーは攻撃に入ったとき攻撃側のディフェンダーはラインを押し上げていく。そうするのはオフサイド・ルールがあるためだ。そのとき守備側のフォワードは、前方に残っているとパスを受けてもオフサイドとなるので、後方に下がらざるをえない。その結果、攻撃側のディフェンダーの最後尾とゴールキーパーとの間に大きなスペース生まれる。つまり、オフサイドがないと攻撃側のディフェンダーは後方に残っている可能性が高いが、オフサイドがあるとラインを押し上げるため守備が手薄となるのだ。そのようなとき相手ボールを奪えば速攻が生まれる。ドリブル突破してもいいし相手の背後に大きく蹴って走って行ってもよいので、オフサイドがあっても速攻は可能だ。
ようするに、バスケットボールの速攻はコートが狭く人数が少ないため、サッカーの速攻はむしろオフサイド・ルールがあるために生まれるのだ。
● 著者の考え
著者は「オフサイドは、得点を入りにくくするためのルールだ。得点の多さを競いあうゲームなのに得点を入りにくくするルールがあるのは不自然・不合理だ」と考えた。
そう考えると、「どの団体球技もオフサイドは必要ない」こととなり、各団体球技ごとにオフサイドの必要性を検討しなかった。
かわりに考え出したのが、次のような歴史的経緯だ。
かつてイギリスで行われていたフットボールは、1点をとれば試合終了であったので、長時間楽しめるようにするため、得点を入りにくくする目的でオフサイド・ルールを設定した。
イギリスと異なる独自の発展を遂げたアメリカ生まれの球技は、オフサイドが緩やかだ。
しかし、時間制になってから100年以上経過しているのに、オフサイド・ルールが存続していることを検討していない。
また、各球技におけるオフサイドの必要性の検討が不十分となったため、アメフトのオフサイドのとらえ方が不正確になってしまった。
ようするに、一番最初の「オフサイドは得点を入りにくくするためのルールだ」が正しくなかったので、その後の議論全体がおかしくなってしまったのだ。
2018年06月13日
「オフサイドはなぜ反則か」を読んで その1
最近読んだ2冊の本「ラグビーを最高に面白く見る方法」(博学こだわり倶楽部編 kawade夢文庫)、「スポーツ国家アメリカ」(鈴木透著 中公新書)で「(増補)オフサイドはなぜ反則か」(中村敏雄著 平凡社)に触れているので、10年前に一度読んだが、今回再読した。
著者の主張は要約すると次のようなものだ。
オフサイドは得点を入りにくくするためのルールだ。得点の多さを競い合うゲームなのにオフサイドはそれを制約するもので、不合理・不自然なルールだ。それなのにオフサイドがあるのは、次の理由からだ。
かつてイギリスで行われていたフットボールは、どちらかが1点をとれば試合終了というルールがあった。早く点を取ってしまうと試合が早く終わってしまい、長時間試合を楽しむことができない。そこで、オフサイド・ルールを設定して、得点を入りにくくし、試合を長時間楽しめるようにしたのだ。
また、アメリカ生まれの競技はイギリスと異なる独自の発展を遂げ、イギリス生まれの競技と比較しオフサイドが緩やかとなった。
オフサイドは、「得点を入りにくくするためのルール」でもなければ「得点の多さを競い合うゲームなのにそれを制約するもので、不合理・不自然なルールだ」でもない。オフサイドは、「簡単にボールを前進させることができるプレーを制限し、ボールの前進に関し攻防を生み出す」ことを第一の目的としている。このように考えればオフサイドは、不合理・不自然なルールではない。
得点の多さを競い合うゲームで攻撃側に制約を課すルールはいくらでもある。サッカーで手を使えない、ラグビーでボールを前に投げられない、バスケットボールでボールを持ったまま3歩以上歩けない、アメフトで連続してプレーできず1プレーごとに攻撃を中断しなければならないなどだ。オフサイドもこれらと同様のルールだ。攻撃側も守備側も有利になりすぎないように攻守のバランスをとる必要があるので何もおかしくない。
インターネットで調べると、日本サッカー協会のホームページに「1871年にFAカップの規則として『競技時間を1時間半とする』」とある。また本書の中にも、ウインチェスター校のルール(1863年)に「アンパイアーの一人は、タイム・キーパーをつとめ、競技の開始、サイドの交代、競技の終了を告げる」とあり、19世紀後半にすでに1点先取方式ではなく時間制で行われていたものと思われる。
少なくとも100年以上前に1点先取方式から時間制に変わったと思われるのに、オフサイドは廃止になっていない。もし長時間楽しむため得点を入りにくくする目的のルールなら、時間制になった時点で廃止になっているはずだ。本来なら時間制になって長期間経過しているのにオフサイドは廃止にならない理由を検討しなければならないが、それに関する検討が皆無だ。本書の記述はラグビー校など19世紀ごろの学校のルールに関するものばかりで、それ以降の記述はない。
10年前、インターネット掲示板(2ちゃんねる等)で「サッカーのオフサイドは必要かどうか」について議論があった。そこで議論された主な内容は、「オフサイドがあるのとないのとでは、どちらが面白くなるのか」ということであった。現在でもオフサイドがあるのは、オフサイドがある方が面白いと考える人が多数を占めているからで、議論の方向として妥当だ。
その後、この本を読んだ。この本では、オフサイドは必要ないのに存在しているかのような考え方をしているので違和感を持った。2ちゃんねらーたちの方が、学者よりまともな議論をしているように思われた。
団体球技の中にはオフサイド・ルールがあるものもないものもある。なぜそのような違いがあるかは、各競技が持つ特徴の違いにあると考えるのが普通だ。
両チームが向かい合い互いに相手の陣地を攻めあう団体球技は多数あり、その内容は多様だ。行われる場所(陸上・氷上・水中)、グラウンドの広さ、1チームの選手数、ボールの材質や形状(硬さ・大きさ・形(真円球・楕円球・平べったい円柱))、ボールを扱うもの(手・足・手と足の両方・スティック)などの違いがある。
それ以外の特徴として、①ラグビーはラック・モールのような密集プレーがある、②アメフトはすべてのプレーがセットプレーで連続プレーがない、③アイスホッケーはリンクのまわりをボードで囲んでいるなどがある。これらの特徴がオフサイド・ルールの有無に影響を与えていないか検討する必要がある。
ところが、著者は各競技の特徴がオフサイド・ルールの有無にどう影響しているかの検討をまったく行わず、歴史的な経緯など外部の理由によってのみで説明しようとしている。
この本の中で唯一オフサイドを肯定的にとらえているのは、サッカーでオフサイドラインをめぐる攻撃側と守備側の駆け引きの面白さについてだ。この部分をもっと深めていくべきではなかったか。
2018年05月29日
「スポーツ国家アメリカ」を読んで その3
● オフサイドを導入した理由
近代フットボールが制限時間内に得点を競うという発想に転換したはずなのに、なぜわざわざ点を入れにくくするルールも同時に導入されたのか。
~中村は、そこには中世のマスフットボールの伝統の痕跡が刻み込まれているのではないかと指摘する。
~簡単に得点が入らないようにするためのオフサイドの導入は、すぐに決着をつけたくないという中世の祝祭フットボールの発想に通じると中村は見る。
(注)中村とは「オフサイドはなぜ反則か」の著者中村敏雄氏のこと。
著者(及び中村敏雄氏)は、オフサイドを点を入れにくくするルールだと考えている。そう考えたため、オフサイドの必要性をみつけられなくなった。どちらかが1点を取れば試合終了となるわけではなく、時間制競技となったので、試合を長引かせるために点を入りにくくする理由はない。点がたくさん入るバスケットボールにオフサイドがなく、点があまり入らないサッカーやラグビーにオフサイドがあることも説明がつかない。
そこで、オフサイドが必要がないのにオフサイドがあるのは、中世の祝祭フットボール(どちらかが1点をとれば試合終了となるので、試合を長引かせるために点を入りにくくした)の影響が残っていると考えたのだ。
しかし、オフサイドは点を入りにくくするルールではない。
両チームが互いに向かい合い相手陣地を攻めあう団体球技は、「ボールを奪う」「ボールを前進させる」「シュートを打つ」の3要素からなっている。相手側は、「ボールを奪われまい」「ボールを前進させまい」「シュートを打たれまい」とするので、両チーム間で攻防(戦い)が生まれる。この攻防こそ競技の醍醐味だ。オフサイドとは、3要素の一つである「ボールを前進させる」部分に関し、「簡単にボールを前進させることのできるプレーを制限することにより、攻防を生み出すこと」を主な目的とする。
一方がボールを前進させようとし他方が阻止しようとして戦っているのに、あらかじめ前方に味方の選手を置きその選手にパスを送ることを認めたら、簡単にボールが前進できてしまい、ボールの前進に係る攻防が失われてしまうからだ。
ボールの前進させる攻防の重要度の高い競技はオフサイドの必要性が高く、反対に重要度の低い競技はオフサイドの必要性が低い。
競技によって3要素の重要度は異なる。ラグビー・アメフト・サッカー・バスケットボールの4競技の3要素の重要度は次表のとおりだ。
競技別3要素の重要度
競技名 | ボールを奪う | ボールを前進させる | シュートを打つ |
ラグビー | 〇 | ◎ | × |
アメフト | × | ◎ | × |
サッカー | 〇 | 〇 | 〇 |
バスケットボール | × | × | ◎ |
ボールを前進させる攻防の重要度の高い順に、オフサイドの必要度もラグビー・アメフト>サッカー>バスケットボールとなる。ラグビー・アメフトでボールの位置がオフサイドラインになっているのは、ボールの位置で両チームがぶつかり合い、そこで勝利しないとボールを前進できないようにすることにより、激しい攻防を生み出すためだ。
点の入りにくいサッカーやラグビーにオフサイドがあり、点がたくさん入るバスケットボールにオフサイドがない点にも矛盾はない。
サッカーやラグビーは広いグラウンドを使用する。ゴールに簡単に近づけないので点が入りにくい。中盤でも攻防(戦い)が行われることが必要だ。中盤は通過するだけで攻防がなければ、広い中盤の移動の際とても退屈だ。そこで、中盤でも攻防を生み出すために簡単にボールを前進させることができるプレーを制限する必要があり、オフサイドが必要となる。
一方、バスケットボールはコートが狭い。ゴールに簡単に接近できるので点が入りやすい。同競技は中盤での攻防がなくても差し支えない。中盤は通過するだけでもコートが狭いので退屈することはない。簡単にボールを前進させることができるプレーを制限する必要はないので、オフサイドは必要ない。
アメフトも、点の入り方はラグビーとあまり変わらず、広いグラウンドを使用し、オフサイドもあるので、明らかにラグビーの仲間だ。
● オフサイドは待ち伏せ行為か
バスケットボールに至っては、オフサイドという概念自体が消えている。ボールを奪ってゴールの近くにいる味方にパスをして得点すれば、それは決して卑怯な手段ではなく、むしろ見事な速攻なのだ。
「ボールを奪ってゴールの近くにいる味方にパスをして得点すれば、それは決して卑怯な手段ではなく~」と言っているのは、「オフサイドは待ち伏せ行為だ。待ち伏せは卑怯だから反則だ」という意見がありそれを踏まえて言っているものと思われる。
ここで「待ち伏せ」とは、「あらかじめ前方にいてボールが来るのを待つ」行為を指す。しかし、これは待ち伏せと言うだろうか。待ち伏せとは「敵がやって来るのを物陰に隠れて待っていて、近くに来たら急に姿を現して襲撃する」ことを言うのではないか。しかし、これはやって来るのは敵ではなく味方からのパスだ。待ち伏せというか疑問だ。
しかし、どっちにしろオフサイドは卑怯だから反則ではなくつまらないから反則なのだ。
2018年05月16日
「スポーツ国家アメリカ」を読んで その2
● アメフトの前方へのパス
今回の重要な改正点は、前方へのパスを解禁したことだった。
~前方へのパスの解禁は、サッカーやラグビーのような攻撃側のオフサイドを重視する発想とこの競技が一線を画し、効率的に得点を競う競技としての性格をより鮮明にしたことを意味していた。
(注)今回とは1905年の改正を指す。
ラグビーは前方へパス(ボールを投げること)はできないが、アメフトは可能だ。しかし、ラグビーは前方へキック(ボールを蹴ること)が可能でほとんど制限がない(いつどこで蹴ってもよい)のに、アメフトのキックは大幅に制限されている。
アメフトのキックは、①前後半の開始、得点が入った後の再スタート、タッチダウン後のトライフォーポイント等決められた場面、②3回の攻撃で10ヤード前進できなかったとき、4回目の攻撃で、敵陣まで攻め込んでいたときフィールドゴールで3点を取り、自陣にいるとき攻撃権を放棄するかわりに陣地を得る場合にしかできない。つまり、キックを使用しながら攻撃を継続することはできないのだ。
アメフトは前方へのパスが可能になったかわりにキックが制限されるようになったはずなのに、前方へのパスが可能になったことはよく言われるが、キックが制限されるようになったことは言われないのはどうしてなのか。
つまり、攻撃手段としてラグビーはボールを前に蹴ることを選択したのに、アメフトはボールを前に投げることを選択しただけの違いだ。これは、両方認めると攻撃側が有利になりすぎて攻守のバランスが崩れてしまうからではないだろうか。
アメフトのキックはサッカーの手の使用と同様非常に限定的だ。「サッカーは手が使えない」というのに「アメフトはキックができない」となぜ言わないのだろうか。
● 前方へボールを移動させるプレーのオフサイドの比較
ラグビー・アメフトにサッカーを加えた3競技について、前方へボールを移動させるプレーに関するオフサイドを比較すると、次表のとおりとなる。ラグビーは前方へのキック、アメフトは前方へのパスだ。
前方へボールを移動させるプレーのオフサイドの比較
競 技 | 適用される時点 | 適用される場所 |
サッカー | 蹴ったとき | 相手側の後方から二番目の選手の位置 |
ラグビー | 蹴ったとき | ボールの位置 |
アメフト | プレーが開始されたとき | ボールの位置 |
3競技とも特定の時点に特定の場所より前方で選手がプレーすることを禁じている。いずれも、「あらかじめ前方にいてボールが来るのを待つ行為は反則となるが、後方から走って行ってボールを獲得する行為は反則とならない」という点で共通している。つまり、サッカーやラグビーのオフサイドと、アメフトのオフサイドは基本的な在り方は同じなのだ。
アメフトの前方へのパスは、1回の攻撃で1回だけ可能で、プレー開始時のボールの位置より後方から投げなければならず、パスを受ける選手はプレー開始時点のボールの位置より後方から走って行ってボールをキャッチしなければならない。がちがちにオフサイドが適用されているとしか言いようがない。
「アメフトのオフサイドはプレー開始時に適用されるので、パスを受ける人もプレー開始からパスが投げられるまで前方へ移動可能で緩和されている」という意見がある。
3競技の中で適用される時点でアメフトが一番緩やかで、適用される場所ではサッカーが一番緩やかだ。それでは、アメフトはラグビーより緩やかと言えるだろうか。それは適用される場所は同じで適用される時点はアメフトの方が緩やかなのでそう言えなくもない。
しかし、ラグビーは、キックしたボールが地面にころがっているところを拾っても有効であるが、アメフトは投げられたボールをノーバウンドでキャッチしなければ有効とならない。アメフトでは投げられたボールとパスの受け手の位置をピンポイントであわせなければならない。それを考慮すると、アメフトの方が緩和されているとまでは言い切れない。
2018年05月04日
「スポーツ国家アメリカ」を読んで その1
「スポーツ国家アメリカ」(鈴木透著 中公文庫)にはオフサイドについて書かれているが、その内容の「アメフトのオフサイドはラグビー・サッカーのオフサイドとまったく異なる」「オフサイドは得点を入れにくくするためのルール」の2点に疑問を感じた。(以下、太字は著書からの引用)
● アメフトのオフサイド
アメリカ型競技は、成果の最大化のために別の方法も導入した。それは、オフサイドの簡素化や撤廃である。アメリカンフットボールにもオフサイドという反則は一応あるのだが、それは守備側の反則で、得点を入れにくくするために攻撃側に適用されるラグビーやサッカーのオフサイドとはまったく異なる。
アメフトは、プレー開始前ボールを中心にして両チームの選手が向かい合い、スナップ(攻撃側の選手が後方の選手にボールを渡すこと)によってプレーが開始される。オフサイドは、「守備側の選手が、スナップ前にボールの位置より前方に侵入する反則」で、著者の言う通り、守備側の反則とされている。それに対し攻撃側にはフォルススタートという反則がある。フォルススタートは、「攻撃側の選手が、あたかもプレーが始まったかのように虚偽の動きをしたときの反則」だ。ようするに、アメフトのオフサイドは陸上や水泳のフライングのようなもので、フォルススタートはフライングを誘発させようとするプレーだ。
しかし、著者は、「サッカーやラグビーのオフサイドは攻撃側に課せられた制限で、アメフトにはそのようなものはない」と主張しているのだ。アメフトではフライングのようなものをオフサイドと表現しているにしても、サッカーやラグビーのオフサイドと比較するなら、アメフトについても攻撃側に課せられた同様のルールが存在するかどうかみなければならない。
そのようなルールは存在している。アメフトでは、プレーの開始時点の、ボールの位置がオフサイドラインで、すべての選手はボールより前にいることはできない。それは著書の51ページの図のとおりだ。図をみると、ボールを中心にして両チームの選手は向かい合っているが、アメフトでは、ボールのあるところはスクリメージラインと呼ばれている。これはサッカーやラグビーにおけるオフサイドラインと同様だ。
● ラグビーとアメフトのオフサイドの比較
ラグビーとアメフトは同一の競技が枝分かれしたものであるが、両競技のオフサイドは基本的に同じだ。両競技とも、ボールの位置がオフサイドラインで、すべての選手はボールより前方にいてはならない又はボールより前方でプレーに関与してはならない。
プレー開始時には両競技ともオフサイドが適用され、すべての選手はボールより前方にいてはならない点は同様だ。異なるのは、ラグビーはプレー中もオフサイドが適用されるが、アメフトは適用されない点だ。
ラグビーでは、ボールを持っている選手がタックルを受けて動きが止まったとき、そこでラックやモールが発生してボールの奪い合いとなるが、ラックやモールが発生するとオフサイドが適用され、すべての選手はボールのあるラックやモールの位置より後方に下がらなければならない。ラグビーは、プレー中に何度もプレー開始時点と同じ陣形(ボールを中心にして両チームが向かい合う)になるのだ。
アメフトでは、ボールを持っている選手がタックルを受けて動きが止まったとき、プレーは中断し止まった場所から再開されるが、再開するときオフサイドが適用され、すべての選手はボールより前方にいてはならない。
つまり、ラグビーでは連続プレーの中でオフサイドの発生及び解消が繰り返されるが、アメフトはプレーの再開及び中断によりオフサイドの発生及び解消が繰り返されるのだ。
アメフトのオフサイドはプレー開始時点のみでプレー中には適用されないのだからオフサイドは緩和されているという意見がある。
もしアメフトがプレーが連続しなおかつオフサイドがプレー開始時点に限定されていればオフサイドが緩和されたことになるが、連続プレーが存在しないのだから緩和されたことにならない。
アメフトでフライングのようなものをオフサイドというのは、プレー開始時にはボールより前方にいてはならないのに開始前にボールより前方に出てしまうからだ。「プレー開始時点にはボールより前方にいてはならない」というのがオフサイドの本来の意味で、フライングはそれから派生したものだ。また、守備側の反則となるのは、攻撃側のスナップからプレーが開始されるからにすぎない。
ラグビーの選手はオフサイドを理解しないとプレーできない。自分のいる位置がオフサイドかどうか判断し、もしオフサイドだとプレーに関与してはならない又は後方に下がってオフサイドでない位置まで移動しなければならないからだ。
しかし、アメフトはオフサイドを理解しなくてもプレーは可能だ。パスを受けようとして前方へ行った選手は、パスが失敗したとき次の攻撃のとき後方まで下がらなければならないが、下がるのはプレー中断中だ。「オフサイドが適用されるので、下がらなければならない」ということを選手たちは理解していないだろう。アメフトでオフサイドが緩和されていると錯覚するのは、オフサイドを理解していなくてもプレー可能だからではないだろうか。