2014年09月02日

玄怪録将棋(4)

日中の研究者のほとんどは、玄怪録将棋の「六甲」について、「寅(虎)」と解釈できず、「象」と解釈する。現行の中国象棋(シャンチー)が象であること、玄怪録の二つの軍隊の名称の一つが「金象軍」であること等を根拠にあげる。

しかし、中国の研究者である周家森氏が著書「象棋源流考」で「唐の時代には、中国に象がいたという話は聞きません」と述べているように、当時の中国の世相からみて「象」と解釈することは不自然である。

また、天那軍と金象軍は各々軍の名称であり、盤上の駒という観点から外して考えるのが自然であり、軍隊の名称の一部を駒の名称に類推適用することは適切ではない。一方、

天馬斜飛度三止 上将横行系四方 輜車直入无回翔 六甲次第不乖行
 「天馬は斜めに三つを飛び越えて止まれ。上将は四方に進め。輜車はまっすぐ突入して引き返すな。六甲の順序は乱れるな」(伊藤倫厚氏訳(将棋探源(20)将棋ジャーナル)

と軍師が名指しした「六甲」は、他の「天馬(=馬)」、「上将(=将)」、「輜車(=車)」とともに、盤上の駒である可能性が高いと考えられる。

しかし、日中の研究家共々、「六甲」について曖昧な解釈に終始している。確信がもてないから、真っ当に取り扱うことができず、合理的な解釈に辿り着けない。

今回の清水氏の論文「将棋伝来再考」においても、玄怪録に記された将棋を日本の将棋のルーツと位置付けるが、伊藤氏の「六甲(六軍の意か?)」という原文を紹介するに留め、正面切って「六甲」の解釈を行うことはしていない。できないというのが正直なところだろう。

いずれにせよ、単に「玄怪録」の資料的価値を全否定して、批評を済ませた気になるのではなく、「二中歴将棋から二中歴大将棋への改良過程において、銀将の祖先が「虎」であると特定したこと」等に対する論評を期待している。もちろん、「六甲」に対する論評も歓迎する。
(つづく)



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この記事へのコメント
「天馬は斜めに三つを飛び越えて止まれ。上将は四方に進め。輜車はまっすぐ突入して引き返すな。六甲の順序は乱れるな。」と軍師が命令し、王が答えています。
シャトランジであったと仮定すると、
シャー:「王」
フィルズまたはワズィール:「臣」
フィール:「象」
ファラス:「馬」
ルフ:「車」
バイダク:「兵」
の6種の駒があったと思われます。
「王」と「臣」は1枚駒、「象」と「馬」と「車」は2枚駒です。
「兵」は8枚と思われます。
この3レベルに当てはめて、私は『玄怪録』に出てくる駒名を
将軍(=金象将軍=王):シャー →将
軍師:フィルズまたはワズィール →師→士
上将:フィール →象
天馬:ファラス →馬
輜車:ルフ →車
歩卒:バイダク →卒
に比定しました。(→象棋の駒)
「上将」「天馬」「輜車」は2枚ずつなので、全体に対して六甲(6つの部隊)とよんでいる。つまり六甲は駒の名ではないと考えます。
実際の戦闘では同時に動くのですが将棋ですから交代で一手一手指します。それが順序は乱れるなの意味だと思います。
Posted by mizo at 2014年09月03日 00:22
溝口さん、こんにちは。

 誠実にコメントしようとする気持ちが失せる内容ですね。
 こちらの説に対して的確に反論するのではなく、というよりもこちらの説を無視して、単に自説のみを展開しているに過ぎないからです。
 こちらが中国に伝来した玄怪録将棋の話をしているときに、突然、シャトランジの話を持ち出して撹乱し、例えば、上将=将と解釈したことに対して、「将」は間違いで「象」と解釈すべきだと言いはじめる。
 独りよがりな自説をまき散らして、相手が納得すると思いますか?

 様々な将棋史研究家がいて、様々な説がある。百家争鳴、それ自体はいいことだと思っています。
 ただし、こちらとしては、互いに敬意を払いつつ、簡明かつ合理的な根拠にもとづいて、明快な議論がしたいものです。

小沼 諒

Posted by 小沼 諒 at 2014年09月03日 21:06
言葉が足りませんでした。お詫びします。
小沼先生の、
『「六甲」は、他の「天馬(=馬)」、「上将(=将)」、「輜車(=車)」とともに、盤上の駒である可能性が高いと考えられる。』
というお考えに対して、「天馬」「上将」「輜車」は同格で3つで一組と考えるべきで、「六甲」はそれら全体を指すのではないかという意見です。
「六甲(六軍の意か?)」という伊藤先生の解釈と同じです。3種の部隊が2つずつ合計6個部隊に対する命令だとの考えです。

「上将」が「将」だとすると、象棋の一枚駒「将」か、後の「士」を指すことになり、「馬」「車」と同格ではありません。「軍師」の指示対象として違和感があります。

「銀将」の祖先が「虎」であるというお考えは、小沼先生のブログタイトルであり、絶対に譲れないものであるということは理解できます。
ただ、六甲=甲寅=虎という解釈は、他に用例がないと思います。
「二中歴大将棋」の「猛虎」は、先祖がえりだという説も根拠に乏しいのではと思います。「飛龍」「猛虎」と、龍虎のセットで付け加えられたという考えの方が整合性があると思います。
Posted by mizo at 2014年09月04日 06:57
溝口さん、こんにちは。
 
 こちらこそ、思慮に欠ける発言で、申し訳ありませんでした。
 
 さて、玄怪録将棋は日本将棋の祖先であり、かつ、シャンチーの祖先と異なる将棋です。もちろん、上将(=将)は、象棋の一枚駒「将」ではありません。溝口さんが「士」と呼ぶ駒と恐らく同じですが、素直に「将」と解釈するのが適切です。将(=上将)と「馬」「車」「寅」が同格か否かについて、いずれも「王」の臣下、家来という意味で同じであり、軍師の指示対象となるのは当然のことと考えます。
 したがって、軍師が名指しした「六甲」は「天馬(=馬)」「上将(=将)」「輜車(=車)」と共に、盤上の駒であると考えます。
 「天馬」「上将」「輜車」は2枚ずつ(計6枚)なので六甲=6つの軍隊であるとする解釈は必然性に乏しく、理解に苦しむところです。

「六甲=甲寅=虎という解釈は、他に用例がないと思います」
 他の凡庸な研究家と違うというのは、私にとって最高の褒め言葉です。

「二中歴大将棋」の「猛虎」は、先祖がえりだという説も根拠に乏しいのではと思います」
 「有猛虎在銀之頂行四角一歩(斜めに1マスずつ動ける)」
 単に銀将の頂に置かれたから先祖だといっている訳ではありません。
 銀将から直進する性能を省いたのが猛虎である、というより、猛虎に直進する性能を追加したのが銀将です。
 同じく、「将」、「上将横行系四方(縦に1マスずつ動ける)」は金将の祖先です。将に、斜め前方に動ける性能を追加したものが金将です。
 そして、上将:横行系四方(縦に1マスずつ動ける)と猛虎:行四角一歩(斜めに1マスずつ動ける)は性能において対をなしています。後世の金将と銀将も、共に前方への性能が強化され、対をなす性能が維持されています。
 「「飛龍」「猛虎」と、龍虎のセット」は文字面だけみるともっともらしい理屈ですが、本質論から外れていますね。
(つづく)

Posted by 小沼 諒 at 2014年09月04日 21:51
(つづき)
 前回、溝口さんはインドのシャトランジを仮定していますが、シャトランジはチェスの影響を受けて改良されており、中国に伝来した原型とみなすことはできません。
 また、「オアシスの道」というインドから中国に至る内陸部の長い道程を経るうちに変容する可能性があり、シャトランジから類推適用することは適切ではありません。このブログでも、玄怪録将棋(=日本に伝来した将棋)において、「オアシスの道」を経由する途上で象が寅(虎)に変化したと推定しています。
将軍(=金象将軍=王)→将
 まず、天那軍と金象軍と二つの軍隊があるにもかかわらず、解釈上、「金象軍」だけ偏重するは不自然です。シャンチーに象が存在するから玄怪録将棋にも存在したにちがいないという固定観念のせいだと思われます。「将」「士」についても同様です。
 また、「王」と「将」は混同することなく、きちんと分けて把握する必要があります。
 そもそも、王将は将棋以外で用いられることがない特殊な単語で、何らかの理由で「王」と「将」が合体したと捉えることが将棋の改良過程を考察する上で必要となります。
上将→象
 王を将と解釈したため、玉突きで上将を象と解釈したのかもしれませんが、上将=将の解釈に比べて不自然です。
軍師→師→士
 発音が同じだからといいたいのかもしれませんが、積極的に盤上の駒(軍隊の一員)と解釈される立場に置かれていないと考えられます。

小沼 諒

Posted by 小沼 諒 at 2014年09月04日 21:59